魔法学校のアレム   作:yumui

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位階魔法

馬車は三日三晩をかけて、雪の積もる北方の山脈を越えた。霧の谷を抜けた先、巨大な黒曜石の塔と水晶の尖塔が交差する荘厳な学舎が姿を現した。

 

ここが、《ノルス=ルグラド魔法学院》。

 

世界中から選ばれた若者たちが集い、魔術・錬金術・召喚・古代語・魔物学などあらゆる魔法の技を学ぶ、名門中の名門。

 

アレムは制服を渡され、入学式の前に寮に案内された。天井の高い石造りの廊下、浮遊する燭台、壁を歩く小動物のような魔導書――何もかもが未知で、幻想的で、少し怖かった。

 

そんな中。

 

「おーい! そこの君、美少女! 君も新入生?」

 

いきなり背後から声がかかった。振り返ると、赤毛を逆立てた陽気な少年が駆け寄ってくる。

 

「なんだよ君、めっちゃ可愛いな! どこの国のお姫様? 君みたいな子がいるなら、オレ、一生学院に残るよ!」

 

アレムは顔を引きつらせた。

 

「……男だよ」

 

「へっ?」

 

「オレは、男だって言ってるの!」

 

額に一撃が入る。アレムの小さな拳が少年の頭を叩いていた。

 

「いってえっ!? ……ま、まじか。うそ、信じらんない……女神みたいな顔なのに……あ、いや、悪口じゃなくて!」

 

少年は頭を押さえてうずくまりながら、慌てて言葉を継いだ。

 

「こ、これも何かの縁だな! オレ、ガイル・ラスティン! 専攻は血の魔術! 顔はうっかり間違えたけど、君みたいな子が相棒になってくれたら心強い! 名前、教えてくれよ!」

 

アレムはしばらく睨みつけたが、あまりに悪意がない様子にため息をついて答える。

 

「……アレム。血じゃなくて、まだ未定だけど」

 

「アレムか! いい名前だな。よし、アレム、これからよろしくな! 今日からお前はオレの親友第一号だ!」

 

「勝手に決めるな」

 

「いいじゃん! 友達、いた方が楽しいって!」

 

――陽気で騒がしくて、でもどこかまっすぐで。

 

アレムは思った。

(こんなの、初めてだな)

 

誰かが、自分を“普通の同級生”として話しかけてくれるなんて。

 

こうして、学院生活の第一歩は、少し騒がしくも温かな出会いで始まった。

屋敷では味わえなかった笑い声が、アレムの胸の奥に、小さな火を灯す。

 

それはまだ弱々しく、風が吹けば消えてしまいそうな灯だった。

けれど――アレムはその火を、大切に守りたいと思った。

 

#

 

入学から数日後、アレムたちは学院講堂で初めての「魔法理論概論」の授業を受けていた。

 

石造りの階段教室。天井には星図が映し出され、宙に浮かぶ本がノート代わりについてくる。教師として登壇したのは、長身で細身の銀髪の魔法使い――クロード講師。冷たくも整った顔立ちで、声は淡々としていた。

 

「では、初回はこの世界で広く使われている魔法の分類について説明する」

 

彼が杖をひと振りすると、空中に六つの魔法円が浮かび上がった。それぞれに番号がついている。

 

「魔法は“位階(ランク)”によって分類され、使い手の能力や精神力によって到達できる段階が変わる。以下、簡単に説明しよう」

 

クロードは一つ目の魔法円を指さす。

 

■第一位階魔法

「魔力を持つ者であれば誰でも扱える、ごく初歩的な魔法だ。火を灯す、水を集める、小さな癒しなど」

 

→例:指先から火花を出す《火の芽》、小傷を癒す《癒指》など

 

■第二位階魔法

「凡人でも訓練すれば扱える。術式も安定しており、魔法士たちの基礎」

 

→例:小型の火球を飛ばす《フレイム・ショット》、物を浮かせる《リフト・スペル》

 

■第三位階魔法

「凡人でも、血の滲むような努力と魔力制御の鍛錬を積めば使える。術式はやや複雑で精神集中を要する」

 

→例:氷の矢を連射する《アイス・フォーカス》、複数対象の治癒《ヒーリング・ウェイブ》

 

■第四位階魔法

「達人の領域。制御力と精神力に加え、“術と一体になる感覚”が必要だ。実戦では一騎当千の力を発揮する」

 

→例:火柱を起こす《インフェルノ・ライジング》、防御結界《ルーン・ウォール》

 

■第五位階魔法

「天才のみが到達する境地。術者の魂と魔法が融合し、周囲の理すら書き換えると言われる」

 

→例:時間の遅延《クロノ・ディレイ》、空間転移《ゲート》

 

■第六位階魔法

「超越者……すなわち“人であって人にあらざる者”の魔法。使用記録はほとんど残っていない」

 

→例:大陸一つを覆う封印術《ミスティック・ヴェイル》、天候を変える《ストーム・エデン》

 

「この学院では、卒業までに第三位階の魔法を安定して使えることが基本条件となる。それ以上を目指す者は……自分の“限界”と戦うことになるだろう」

 

講師が語るその口調は静かだったが、背後にある“重み”は否応なく生徒たちに圧をかけた。

 

生徒たちのあいだから、ざわめきが起きる。

 

「うへえ……オレ、第一位階ですら安定しないのに……」

「第四とか第五って、本当に人間が使えるのか?」

 

そんな中、隣のガイルがアレムに小声でささやいた。

 

「アレムは……何位階までいけると思う?」

 

アレムは小さく肩をすくめた。

 

「わからない。そもそも、第一位階もまともに使ったことないし」

 

「でも……なんとなくだけど、お前、ヤバい才能持ってる気がするんだよな」

 

「……やめてくれ、プレッシャーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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