ズレるリスポーン   作:庫磨鳥

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十二話

 『勇者パーティ』。

 元は帝国が初めた、軍から独立した少数精鋭による遊撃部隊。

 プロパカンダが得意な帝国が出している公的説明では、彼らは帝国権威の下、人種を守り、魔族を打ち倒す、高潔で気高き者たちである、

 

 しかし、その実態は軍隊に組み込む事すらできなかったはみ出し者の元傭兵や元冒険者たちであり、英雄譚に出てくるような勇者とは、とうてい比べ物にならない“俗物”であると言う。

 

 帝国の従属国領内では自由奔放に振る舞い、家に押しかけ民の財産を強奪する、気に入らないものに暴力を振るう。

 抵抗した場合、斬って捨てても敵を倒しただけだと帝国法律上、無罪になる。

 時には西大陸へと渡り、魔族を倒してくるが、持ち帰る証拠を見れば、人種で言うところの非戦闘員である平民ではないかという疑惑がある。

 もし、そうであれば余計な火種を増やしていると批判が上がっている。

 

 確かに魔族は倒してくれるが、彼らが起こす蛮行と、どちらがマシなのか分からない。

 これが帝国領で囁かれる、少なくない意見だと言う。

 

 そんな禄でもない勇者パーティであるが、システム自体は便利である。

 『祝福』や立場などの都合で軍隊に組み込みづらい戦力を、少数グループに統一して管理し、遊撃隊として各地に派遣。

 軍隊ではないからこそ自由が効きやすい戦力。創作で多用されたゆえに知名度が高い“勇者”という役職名による人気取りのしやすさ。

 そういったメリットから、勇者パーティ制度を導入する国は後を絶たない。

 

 特に小国からすれば帝国が行なっている亡命推奨のプロパカンダに対抗できる手段として最適であり、ついにバルベール王国も勇者パーティを設立した。

 

「──バルベール王国の勇者パーティ、エルフさんたち自警団みたいな方々ですかね?」

「過大評価だ。私たちは単なる老兵に過ぎない」

「単なる老兵が、歓迎会パーティに招待されるとは思えませんが?」

「それを言うなら、リスタだって同じではないか」

 

 ユキネ様からの招待状をもらい数日後。トゥルベント辺境伯の屋敷のパーティ会場にて、エルフさんと出会った。

 

 いつもはロープ姿であるが、屋敷から貸し出された黒の燕尾服を着ており、年老いてシワが浮かんでもなお、エルフらしい麗容(れいよう)な顔付きに、よく似合っている。

 背筋をピンと伸ばすエルフさんは、小説に出てくるような優秀な執事長といった感じだ。

 

 対して、同じく貸し出された燕尾服を着ている僕は、着慣れていない事もあってか何だか執事見習いみたいであった。

 

「……そういえば他の皆さんは?」

「全員辞退した。私も身分不相応だと断ったのだが、貴方だけでもと説得されてな」

「なんで当主の誘いを断ってるんですか……」

「主従関係が友好な証、とでも思っていてくれ……あまり堅苦しい態度を取ると気に病むのだ」

 

 誰のことを言っているのか直ぐに分かった。

 ユキネ様は『砦』のみんなを家族だと思っている。特に先代当主が存命のときから付き合いがある『自警団』の面々は特別であるはずだ。

 そんな彼らに当主として敬われているのは、彼女からしたら辛いものであるのは想像難くなかった。

 

 ユキネ様に対するエルフさんの態度は、あえてやっているんだろうな。

 望まぬ未来にしか歩めなかった彼女に、少しでも変わらないものがある事を示すために。

 

「私が言うべきではないのかもしれないが、気にかけてやってはくれないか?」

「はい、なんにしても元々放って置けない人だと思うので」

 

 あの夜の事もあるけども、目を離すと直ぐに居なくなってしまうような……。

 よくよく考えたら、本人のしでかしで危険な目にあうような。目を離しては駄目な人だった。

 〈僕〉が死んだ事で、心から反省してくれているとは思うけど……してなかったら、ちょっと嫌だな。

 まあ、これに関してはユキネ様も被害者だ、押し付けるのは違うか。

 

「それに、覚えが良くなれば、後方勤務に移れる可能性が高くなりますしね」

「そうか、それは何よりだ」

 

 僕の冗談に、エルフさんは笑みを浮かべた。

 

 ──やっぱり、貴女はちゃんと想われてますよ、ユキネ様。

 

「さてと、女性たちが会場に入ってきた。私はそろそろ移動しよう。またなリスタ」

「はい、また」

「……リスタ、もし何か困った事があれば、遠慮なく私たちに相談してくれ、必ず力になろう」

 

 エルフさんは背中を向けながら、そう言い残すと、今度こそ立ち去った。

 

 ──気づかれている? いや、まだ勘づかれているぐらいか?

 なんというか、ずっと気を使われていたような、そんな感じがした。

 なら『祝福』の情報が保管されている『教会』の書庫を出入りしているのは……止めよう、本人から答え合わせができない以上、考えるだけ無駄だ。

 

「──リスタ!」

「レティ」

「すぐに見つかって良かったわ」

 

 レティが初めて履くハイヒールによってか、覚束ない歩みで合流する。

 

「それで……どう?」

 

 レティは顔を赤らめながら尋ねてくる。

 

 カーツ村にて作業の邪魔にならないように且つ、年相応におしゃれを気にした折衷案として生まれた、彼女らしいツーサイドアップは、そのままに。

 黒いイブニンググローブと黒タイツ、胸元にバラの装飾品を付けた赤いドレスは、小柄なプティットに合わせたデザインで、可愛らしくも大人びている。

 

「──とても素敵です。レティシアお嬢様」

「うっ! やめてよ、恥ずかしい! ……でも嬉しいわ、ありがとう!」

 

 僕の燕尾服と同じく、トゥルベント家から借りたドレスは、レティにとても似合っていた。

 よく見れば薄く化粧も施しているようで、名家のお嬢様に見える。

 まるで別人のようだ、でもレティだ。そんな感想を抱く。

 

「リスタも、すごく似合ってるわ」

「ありがとう」

 

 だからレティが僕の姿を見て、口にする感想を想像できた。

 

「髪を上げると、全然印象が変わるわね──まるで別人みたい!」

「……そうでしょ? 僕もそう思う」

 

 ──思った以上に心が揺さぶられる。

 

「……レティは、村の時のような〈僕〉らしい僕のほうがいい?」

 

 だからか、口が勝手に、今まで避けていた事を尋ねてしまう。

 四番目になって、僕は変わってしまった。

 その事について、どう思われているのか、考えない日は無い。

 

「そうねぇ」

 

 レティはわざとらしく、人差し指を口当てて考える。

 背中から冷や汗が出た。そんなつもりはないと分かっていても、急かしたくなってしまう。

 でも答えを聞きたくないという脅えが理性を保ってくれている。

 時間にしては十秒ぐらいだが、僕にとって長い長い時間が経って、ようやくレティが口を開いた。

 

「なんだって良いわよ、だって──リスタはリスタだもの」

 

 ──何時だってそうだ、レティはたったひと言で僕を救ってくれる。

 

「……そういえばレティ、よく遠目で僕だと直ぐに分かったね」

「何年一緒に居ると思っているのよ。いくら変わっても、リスタだって直ぐ分かるわ」

「そっか……それは凄いね」

 

 レティは、僕の変化に気づいていないわけじゃない。僕であると信じてくれている。

 だからこそレティは、僕にとってリスタであると証明してくれる“基点”になっている。

 彼女が居る限り、どんなに変化してもリスタはリスタで居られると、そんな気がする。

 

 ……だからこそ、本当の意味で彼女に否定された時、リスタはどうなってしまうのか、皆目検討が付かない。

 

「──トゥルベント辺境伯ご当主。ユキネ=トゥルベントのご入場!」

 

 名乗りと共に現れたのは、極東の着物姿ではなく、白と水色のグラーデーションドレスで着飾ったユキネ様であった。

 化粧と宝石で着飾っている姿は自然体で非常に似合っており、彼女がバルベール王国貴族である事を実感させられる。

 

「すごい綺麗! 、やっぱりお貴族様って凄いのね!」

「そういえばユキネ様の事、レティは見たことないんだっけ?」

「ええ、初めて見たわ。リスタは違うの?」

「あー、兵士だからね。色々と機会は多かったよ」

 

 そういえばレティに、ユキネ様関連の話しは一切してこなかったな。

 なにせ初めて出会ってから暫くは逆恨みしており、その後の事は、まあ言えるはずもなく話題にするのを避けていた。

 

「でも、噂って当てにならないわね。あんな綺麗な人が、ヤバいくらいの叫び声を上げるなんて、そんなのあり得ないわよね」

「いや、事実だよ」

「うそぉ!?」

 

 本当、そうは見えないよなと、ユキネ様の方をなんとなしに見る。

 会場入りしてから彼女の周りには沢山の人が集まっており、ずっと話している。

 あの夜の事について話をしたかったのだが、落ち着いてからのほうがいいだろう。

 

 そう思っていたら、ユキネ様と目が合った。

 ぱあっと花が開くような笑顔になる。

 なんかこっちに近づいてきた……!?

 

「あれ? トゥルベント様、こっちに来てない?」

「気の所為だと思う」

「リスタ!」

「リスタの名前呼んでいるわよ!?」

 

 しかもなんで、そんな大声で呼ぶんだ……。

 他の参加者が僕を見ながら、なにかヒソヒソ話をしているが、耳を傾ける勇気は無い。

 

「リスタ、来てくれたのだな」

「……トゥルベント辺境伯様。今宵、ご招待して頂いて、ありがとうございます」

「ユキネで構わないよ。私と貴女の仲だ」

 

 私と貴女の仲って何ですかね……。

 

「その、どうだ、この服……似合うか?」

「はい、とても良くお似合いです。でも着物じゃなくて驚きました」

「今回は王都からの客人を招いたパーティだからな。バルベール式のドレスを着なければ示しが付かない……できれば母の着物をリスタに見せたかったが、またの機会だ」

「え? え?」

 

 状況について行けてないレティが、呆然とした顔で僕たちを見る。

 同じ顔をして思考を放棄したいが、なんとか耐える。

 

「そちらの方は?」

「彼女はレティシア、以前話したプティットの姉です……レティ、挨拶」

「あ、よ、よろしくお願いします! トゥルベント様!」

「そうか貴女が話に聞いたリスタの家族……よろしく頼む、私の事はユキネでいい、その代わり、私もレティと呼んでも?」

「ど、どうぞどうぞ! どんな呼び方でもいいですよ!」

 

 今でこそ見た目はお嬢様であるが、レティは単なる村人。

 本物の貴族を前にして完全にテンパっている。

 

「そ、それであの! リスタとの仲って、どういう……」

「リスタには助けられてな、それに……いや、すまない、忘れてくれ」

 

 本当にどうしてか、ユキネ様は微笑を浮かべつつ、顔を赤らめる。

 あの夜に関することを言いかけて、咄嗟に隠したのだろうけど、それにしたって表情がおかしい。

 レティが口と目を全開にした、凄い顔で見てくる。僕もその顔したい。

 

「リ、リリリ、リスタ、ご当主様といったいなにを……」

「誤解だ。おそらくレティが思っているような事じゃない」

「じゃあなによ!?」

「……ちょっと相談に乗ったんだ」

 

 どんな風に誤解しているかは分からないが、〈僕〉の遺体を偽装した仲という、事実のほうがやばいため、誤魔化すことしかできない。

 頼むから話を合わせてくれと、ユキネ様に視線で訴えると嬉しそうに頷いた。

 ……なんで嬉しそうなんですか

 

「うん、私が落ち込んでいた時にリスタが元気づけてくれてな。とても助けられた」

「そ、そうだったんですね!」

「今回、パーティに参加してもらいたかったのは、そのお礼がしたかったからだ……もしかして、迷惑だったか?」

「そんな事ありません、楽しませてもらっています」

「はい! こんな素敵なドレスが着られて、本当に嬉しいです!」

「そ、そうか、それなら良かった」

 

 一瞬にしてネガティブになりかけるユキネ様に、フォローを入れる。

 幸いな事にレティも賛同してくれたからか、直ぐに持ち直した。

 やっぱり放っておけない人だ。

 こういうのもある種の上に立つ人の才能と呼べるかもしれないが、心臓に悪い。

 

「それで、ユキネ様、少し話したい事が」

「ああ、私もだ……だが、すまない。そろそろ勇者が会場入りする……落ち着いたら、中庭の噴水で話そう」

 

 ──バルベール王国勇者パーティのご来場!

 

 ユキネ様が元の場所へと戻っていくと同時、バルベール王国初の勇者パーティが会場に入って来た。

 

 

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