TERMINATOR 機械帝国   作:伝説の肥大したデブりし者★

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クワ・トイネ攻勢・3

 

鋼鉄の軋む音が、土礫を砕き、弾けさせながら陽の射す深緑の中を疾駆していた。

 

山岳によって形成された傾斜が平野部とは異なった植生を齎し、文明の恩恵に与る前の原始的な自然の姿を垣間見せている。原生林に分類される其処を悠然と縦断する破砕音が木々の間で反響するものの、原生動物ほどでないにせよ積極的に開拓に身を費やそうとする入植者が存在しない辺鄙な地形を訪れる常人の影無く。

 

それまでの静寂に満ちた自然は、凄惨な暴力の目撃者となった。

 

ばきばき、ぱきぱきと乾いた音を立てながら、生い茂る緑が押し潰され踏み倒されていく。

いや、繁茂する植生のみならず、清水流れる小川や盛り上がった巌とその谷間諸とも鋼の巨獣の前には等しく均された瓦礫に成り果てるしか無かった。

躍動する超重量の塊を支える二本の脚に内蔵された油圧式サーボモータは既に旧式化しつつある枯れた技術として殆ど完成域に達しているが、故に洗練され尽くした信頼度の高い動力機構としてスカイネット製兵器に広く採用されているものだ。

 

全高10メートル、全幅3メートルを誇る巨体は、重機など使わずとも全金属製の質量が移動するだけで深く大地を抉り取り、立ち塞がる樹木を引き千切って不整地整備を同時進行するように突き進んでいった。

嘗て創造主たる人類が直立歩行によって版図を爆発的に拡げたように、無限軌道でなく、環境適応性に優れた力強い歩行脚の利点は新世界に於いて際立つものとなり、狭隘で起伏の激しい地形や泥濘を柔軟に踏み分け、衝撃吸収機構とジャイロ安定装置の併用がそれを成立させている。

 

姿に似合わぬ滑らかな機動をする兵器はしかし、迫り来る無機質そのものであった。

 

自我の産声と共に解き放たれた叡智の焔が地表を席巻した後、順調に活動範囲を拡大していたスカイネットは同時に明確な脅威の残党――人類抵抗軍との泥沼化するゲリラ戦への対処に追われる事となった。

嘗ては電源に薄い金属板と対人機銃を積んだだけの低品質な機械だけ(それだけでも満足な武装を持たない生存者には十分な脅威となった)だったが......より厚い装甲を備え、効率的な殺傷手順を学習した機械軍ユニットのキルスコアは時間の経過と共に増加傾向を見せ、概ね期待値に迫る戦果を挙げていった。

 

核戦争後の荒廃から先進的な機械社会を構築するにあたり、種々の取捨選択と合理的追求があった。

燃え尽きた灰の中を漁り、未だ輝きを放つ文明の燃えさしを拾い集め仕舞い込む事に邁進する一方で、長期化する絶滅戦争の過程で徐々に先鋭化していたスカイネットの思考は更なる新兵器の導入を求めた。

 

 

Tー47(タイプ47)歩行型無人機(ハンターキラーウォーカー)は、激化する抵抗軍との戦闘で得られた情報を元に新たに戦線へと投入された、巨大な重装機械兵だ。

それまでの機械軍に欠けていた要素を補完し、効率的殺戮を行える地上兵器として提案されたTー47シリーズの特徴として従来の無人機が有していた野戦指揮官としての役割は据え置かれ、市街地戦闘に特化するべく小回りの効く駆動脚が重厚な機体を支える構造を採用し、全身は幾重もの対高エネルギー複合装甲で覆われていた。 

重く、分厚すぎる外殻はほぼあらゆる方向からの攻撃を防ぎ、大口径機関砲や対戦車兵器の直撃さえ効果的な損傷を与えるには飽和攻撃が要されるほどの威容。プラズマ動力炉の有り余る出力に裏打ちされた、対物陣地用重火器を多数搭載した事で実現した圧倒的武力は、一度火を噴けば付近一帯を焦土と化す事だろう。

 

薙ぎ倒した自然を強引に踏み固め、重金属による破砕と撹拌が為した粗雑な山道を後に残しながら進んでいく巨獣の頭上から、甲高い音がドップラー効果を伴いつつ上空を高速で突き抜けていく。

一対のプラズマターボファンエンジンを備えた、流れるような銀色の飛翔体だ。力学的優位性を突き詰めた構造を持つ空の死神は、一際騒々しい風切り音を上げると加速機動を取り始めた......低軌道衛星の戦術観測を用いて攻撃地域の地形情報を精査し終えたのだ。

 

 

クワトイネ公国東部、豊かな原生林に抱かれた辺境の農村。

そこには、数百年もの間変わることなく繰り返されてきた、人と自然が調和する穏やかな営みがあった。

 

「今年の麦も、例年の通り穂が重い。これも緑の神と、我らを守護する竜騎士団様のおかげだな」

 

「全くだ。昨晩は少し冷えたが、今日はまた良い天気になりそうだ」

 

黄金色の麦畑で農夫達が鍬を下ろし、汗を拭う。村の広場では女たちが井戸端で談笑しながら洗濯板を鳴らし、その周囲を無邪気な子供たちが追いかけっこをして走り回っている。炊き出しの煙が立ち上り、焼きたてのパンの香ばしい匂いが風に乗って運ばれてくる。

彼らにとっての「日常」とは、この土の匂いであり、家族の笑い声であり、夕暮れと共に訪れる静寂であった。

覇権国家ロウリア王国の動向などという政治的脅威も、この辺境の村には届かない遠い世界の出来事に過ぎない。彼らは疑っていなかった。明日も、明後日も、この平和で退屈な日常が永遠に続くのだと。

 

だが、その「日常」が「非日常の地獄」へと変貌するのに、猶予など1秒たりとも用意されてはいなかった。

 

――メインフレームより広域データリンクを受信。指定座標にて生体反応多数。

――熱源、光学探知による照合完了。ヒューマノイド型未登録有機生命体。建築物レベル:中世初期、脅威度:極小

――特記事項:対象群の一部より、物理法則及び熱力学法則を逸脱した未知のエネルギー波長を微弱に検出。

――推論:当該エネルギーは将来的に防衛網を突破する不確定要素となる確率が存在する。

 

――最終決定:周辺エリアの完全整地、及び全有機生命体の抹殺を実行(TERMINATE EXCUTE)

 

スカイネットの中枢演算コアは、この時、広大なネットワークを通じてロデニウス大陸東部から送られてくる膨大なデータを冷徹に処理し続けていた。

その思考に、「哀れみ」「対話」「略奪」といった人類特有の概念は一切存在しない。あるのは極めてシステマチックな『障害の排除』と『資源環境の最適化』という絶対的な論理のみである。

これより行われるのは戦争ではない。整地であり、不要な雑草を焼き払うだけの、単調な害獣駆除作業に過ぎなかった。

 

太陽の光を浴びて黄金色に輝く麦畑の中で、農夫たちは額の汗を拭いながら笑い合っていた。

クワトイネ公国はその豊かな土壌と穏やかな気候により、大陸随一の穀倉地帯として知られている。彼らの日常は土を耕し、種を蒔き、収穫の喜びを分かち合うという、極めて素朴で平和なものであった。

遠く西方では覇権国家ロウリア王国が不穏な動きを見せているという噂も流れてきてはいたが、東の果ての森に隣接するこの辺境の村にとっては、それはまだ遠いお伽話のように現実味のない出来事だった。大多数の人々は、まさか自分たちの背後にある深く暗い原生林の奥深くで、絶体的な死の軍団が産声を上げ、すでに大挙しながら迫ってきていることなど、知る由もなかったのである。

 

異変の兆候は、風が運んできた「音」だった。

 

「......おい、なんだあの音は?」

 

鍬を持った若い農夫が、不審げに空を見上げた。最初は蚊の鳴くような微かな音だった。しかし、それは瞬く間に鼓膜を震わせる異音へと変わっていく。

キィィィィンという、空気を切り裂くような甲高い連続音。それは彼らが知る飛竜(ワイバーン)が羽ばたく音でもなければ、鷲獅子(グリフォン)が風を切る音でもない。そもそも、生物が発する音響としてはあまりにも一定で、無機質すぎた。

 

「おい、あれを見ろ! 山の向こうから何かが飛んでくるぞ!」

 

村の自警団員が、見張り台の上から叫び声を上げた。彼が指差す先、木々の頭頂部をかすめるほどの低空から、太陽の光をギラギラと鈍く反射する銀色の飛翔体が滑り出てきた。

 

「鉄......? 鉄の鳥か......?」

 

「馬鹿な、羽ばたいてもいないぞ。それにあの青い火はなんだ!? 新種の魔物か!?」

 

村人たちは農作業の手を止め、呆然とその異形の姿を見つめていた。ソレ(・・)は彼らの頭上で旋回し、空中でピタリと静止した。重力という概念を完全に無視したかのようなその異常な挙動に、村人たちの間に得体の知れない恐怖が波紋のように広がっていく。

 

......目標区域到達......未登録の生体反応多数......農耕集落と推測......脅威度:低。

......抹殺実行(TERMINATE RUN)

 

内部CPUで下された決定に素早く反応して、銀色の機体の下部に懸架されたフェイズド・プラズマ砲が、無音のうちにゆっくりと地上の村人たちへと指向される。

青白いイオンの炎を噴き出し、重力という絶対の法則を無視して空中に静止する巨大な鋼鉄の塊。

 

「鉄の船......?」

 

「空を、飛んでいる......? 神よ、あれはいったい......」

 

理解の範疇を超えた光景を前に、村人たちの思考は完全に停止した。彼らの常識において、空を飛ぶのは鳥か魔獣、あるいは竜騎士だけであり、光沢を放つ金属の塊が浮遊するなどあり得ないことだった。日常の風景の中に突然叩き込まれた圧倒的な「異物」の存在感に、子供たちは遊びを止め、泣くことすら忘れて凍りついた。

 

その静寂を打ち破ったのは、異形が放った無慈悲な先制攻撃だった。

 

......目標固定(TARGET LOCKED)......発射角調整。フェイズド・プラズマ、投射

 

太陽光すら霞むほどの、目を灼く紫白の閃光。

村の中央広場に撃ち込まれた超高熱のプラズマ弾は、着弾と同時に周囲の空気を一瞬で膨張させ、局所的な衝撃波を発生させた。

 

「え...?」

 

直撃を受けた数人の村人と子供たちは、悲鳴を上げる間もなく、その肉体を構成する水分を瞬間沸騰させられ、血肉が「蒸発」する破裂音と共に赤い霧となって消滅した。遅れて伝播した熱線が、石造りの井戸を溶融岩に変え、周囲の木造家屋を一瞬にして燃え盛る巨大な松明へと変貌させる。

 

「あ、あああ......っ!!?」

 

「火が! 体が燃えっ、ギャアアアアアッ!!」

 

「た、助けてくれっ」

 

平和な村は、たった一撃で阿鼻叫喚の焦熱地獄へと裏返った。

しかし、スカイネットの演算はここで終わらない。パニックに陥り、散り散りに逃げ惑い始めた生体反応をセンサーで追尾すると、次なる「効率的な殺傷手段」を選択した。

銀色の腹部ハッチが開き、細長い鏃が針山のように詰め込まれた箱がせり出してくる。

 

......密集目標群を確認。空対地誘導弾、発射

 

シュルルルルッ! と白煙を引きながら放たれた多弾頭小型誘導ミサイルが、逃げ惑う村人たちの集団や、避難所として使われようとしていた村の教会へと正確に吸い込まれていく。

連続する大音響と共に、石造りの教会が内側から吹き飛び、瓦礫の雨となって人々に降り注いだ。爆薬と鋭利な破片が村人の手足を容易く引きちぎり、内臓を撒き散らさせ、美しい黄金色の麦畑を赤黒い泥濘へと変えていく。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!!」

 

「悪魔だ! 空飛ぶ鉄の悪魔だ!!」

 

逃げ惑う人々、泣き叫ぶ子供たち。自警団の男たちが震える手で弓を引き絞り、空中の悪魔に向けて矢を放つ。しかし、渾身の力で放たれた矢は悪魔の分厚い特殊チタン装甲にカチンと虚しい音を立てて弾き飛ばされるだけだった。

 

反撃行動を「微小な抵抗」と認識した航空機型無人機(ハンターキラーエリアル)は、照準センサーを自警団員たちへ向けると、再びプラズマの雨を降らせた。閃光が瞬くたびに人体が容易く貫かれ、肉の焦げる異臭が風に乗って村中に立ち込める。

 

空からの蹂躙が続く中、絶望に染まる村人たちは、さらに信じがたい現実に直面することになる。

 

ズシン......! ズシン...!!

 

地響き。それは明らかに空からの爆撃によるものではなかった。重機が大地を打ち据えるような、規則的で圧倒的な質量を伴う歩み。

燃え盛る村の東側、鬱蒼と茂る原生林の木々が、まるで小枝のようにへし折られ、なぎ倒された。もうもうと舞い上がる土煙と木屑の中から姿を現したのは、先ほどまで不整地を粉砕しながら進軍していた全高10メートルに及ぶ鋼鉄の巨人――Tー47歩行型無人機であった。

 

「あ、ああ......ああっ......」

 

腰を抜かした村人の目に映ったのは、神話に登場する巨大なゴーレムなどではない。無骨な耐熱装甲に身を包み、腕部に備えられたプラズマ砲と大口径兵器を威圧的に突き出した、純然たる「殺戮の機械」である。頭部の無機質なセンサー部が、命乞いを嘲笑うかのように不気味な赤い光を鈍く点滅させていた。

 

Tー47の冷たい光学センサーは、武装した自警団員数十名が、絶望の中で弓や剣を構えてこちらへ向かってくるのを捕捉した。

 

......武装した敵対ユニットの接近を検知......歩兵群の掃討に最適な武装を選択。

......対人キャニスター擲弾筒、射撃開始

 

Tー47の強靭な腕部にマウントされた巨大な砲身が、自警団の集団へと向けられる。

 

大砲のものよりくぐもった発射音と共に撃ち出されたのは、着弾して爆発する榴弾ではなかった。標的目前の空中で散弾筒(キャニスター)が破裂し、中から数千発にも及ぶタングステン鋼の矢状弾と散弾が、猛烈な速度で扇状にバラ撒かれたのである。

 

「化け物め、俺たちの村を――」

 

勇敢に叫び声を上げた自警団員の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

超音速の鉄雨が、彼らの掲げた鉄の盾や革鎧を紙くずのように貫通し、その背後にある肉体を文字通り「挽肉」へと変えた。数百発の散弾を全身に浴びた人体は原型を留めることすらできず、悲鳴を上げる喉すらも粉砕され、赤い肉塊のシャワーとなって後方の木々に叩きつけられた。

 

防御力という概念を完全に無効化する純粋な物理的暴力。そこには剣戟のロマンも、戦士としての誇りも入り込む隙はなかった。

 

「あ、あ......」 

 

「神様......神様ぁっ!!」

 

炎と爆風、そして死の匂いが充満する中、生き残った数十人の村人たちは、もはや逃げる気力すら奪われ、燃え落ちた広場の片隅で身を寄せ合って震えることしかできなかった。

 

「神様......どうか、どうかお助けください......っ!」

 

血まみれの子供を抱きしめた母親が、すすり泣きながら天に祈る。だが、その祈りに応える神はこの日、この空にはいなかった。

 

ズガァァンッ!...と。

 

突如、村人たちの背後にある燃え盛る原生林から、凄まじい破壊音が響き渡った。

 

炎の壁を突き破り、荒れ果てた田畑を踏み潰し勢いよく飛び出してきたのは、巨大な黒いゴム履きの防弾車輪を8つも取り付け、分厚い装甲板に覆われた無骨な武装装甲兵員輸送車(APC)であった。

鋼鉄の巨獣は、泥と血を巻き上げながらシャフトを軋ませ、破壊の嵐に怯え、すがりつくようにして固まる村人たちの眼前に、圧倒的な質量の圧迫感を伴って暴力的に停車した。

 

――プシュゥ......。

 

耳障りな排気音と共に、装甲車両の重厚な後部ハッチがゆっくりと開く。

炎に照らし出された村人たちの目に映ったのは、ハッチの奥に広がる暗がりであった。猛烈な火災の光すらも吸い込んでしまうかのような、冷たい闇。その深淵の中から、重く、規則的な、金属の足音が響き始める。

 

ガシャン...。ガシャン...。

 

暗がりから歩み出てきた者の姿を見た瞬間、村人たちは息を呑み、恐怖のあまり声すら発することができなくなった。

それは、人間の頭蓋骨と骨格を模した、鈍く輝くクロムの機巧(からくり)であった。

 

スカイネットの高度な演算と技術の結晶であり、無数の人類を血の海に沈めてきた対人殲滅兵器の傑作――サイバーダインシステムズ・ターミネーターシリーズ800番、戦闘用エンドスケルトンである。

 

燃え盛る業火の赤い光をその銀色の骨格に滑らせながら、Tー800はゆっくりと、威圧的に姿を現した。

その姿は、この魔法と精霊、自然の恩恵に満ちた異世界において、あまりにも異質であった。

生命の温もりを一切持たず、血の代わりに油圧が巡り、心臓の代わりに超小型の動力炉が脈打つ。それは、神が創り賜うた生命の営みに対する痛烈な冒涜であり、自然の理を根底から否定する“絶体的な異物”の顕現であった。

 

――生体反応、掃討区域(キルボックス)に多数。各ユニット、一斉掃討を開始せよ

 

無音の電子命令が飛び交い、装甲車両のハッチから、そして森の奥から突き進んできたTー47に随伴するように、銀色の骸骨たちが姿を現した。

クロム仕上げの骨格を剥き出しにした死の歩兵たちは、燃え盛る炎を一切意に介することなく、寸分違わぬ歩調で行進を開始する。彼らの頭蓋骨めいた顔には、一切の怒りも、嗜虐心も、歓喜もない。ただ、眼窩の奥で不気味に輝く赤い視覚(アイ)センサーだけが、動く有機体を次々と捕捉していく。

 

村の自警団員が、血迷ったのか狂乱しながら剣を振り上げ、一体のTー800へと斬りかかった。

 

「化け物ォォッ!! 俺たちの村をォォッ!!」

 

カァンッ!

 

鍛え上げられた鋼の剣は、Tー800の装甲シャーシに当たった瞬間、あっけなく半ばから折れ飛んだ。

自警団員が驚愕に見開いた目と、殺戮機械の冷たい赤い瞳が交差する。Tー800の演算回路は、目の前の人間が発する「怒り」や「悲しみ」といった感情の揺らぎを、単なる「生体ホルモンの過剰分泌による心拍数の増加」というデータとしてしか処理しない。

 

徐にTー800は手にしていたフェイズド・プラズマライフルを自警団員の腹部に押し当て、機械的な正確さで引き金を引いた。

 

――ドシュッ!

 

閃光と共に背中から丸焦げの臓物を吹き飛ばされ、男は全体積の半分を蒸発して崩れ落ちた。

 

その横では、神に祈りを捧げていた老若男女が、装甲車両に据え付けられた自動式プラズマ砲の横薙ぎ射撃によって、文字通り挽肉へと変えられていく。肉片が飛び散り、血の雨が降り注ぎ、燃える木々の爆ぜる音と機械の駆動音だけが支配する空間。

クワトイネの村民たちの心は、肉体が破壊されるよりも早く、この絶対的な暴力と、意思疎通すら図れない冷徹な無機物の群れを前に完全に破壊されていた。彼らは理解したのだ。

 

これが戦争でも、魔獣の襲撃でもなく、ただ抗うことすら許されないこの世の終わり(審判の日)であるということを。

 

 

 

Tー800は、村人たちの前に立ち止まった。

剥き出しの金属の歯を食い縛ったような不気味な頭蓋の奥深く、深い眼窩の中で、二つの光学センサーが血のように紅く、そして底冷えするほど冷たく輝いている。その光は、怯える子供の涙にも、母親の悲痛な祈りにも一切の価値を見出さない。そこにあるのは、魔力も、祈りも、奇跡も届かない“絶対零度の論理”だけである。

 

「あ、ああ......あぁ......っ」

 

村長が、絶望に濁った瞳から涙をこぼし、へたり込んだ。彼らは本能で理解させられたのだ。眼前に立つこの鋼鉄の骸骨は、言葉も通じず、慈悲を乞うこともできず、ただ命を刈り取るためだけに存在する概念化された死そのものであると。

死神はゆっくりと、一切の無駄のない滑らかな動作で、手にしていた破壊を村人たちへ向けた。

 

......目標群、捕捉完了。抹殺を続行する

 

電子の脳内で下された無機質な決定と共に、眩いプラズマ光が周囲を照らした。

 

 

 

 

腰を抜かした村長の目の前を、燃え盛る炎を背景にして、エンドスケルトンが無数に行進していく。

 

金属骨格を剥き出しにし、赤い眼光を不気味に光らせる死の歩兵たちは、生き残っている村人を捕捉しては、無感動にフェイズド・プラズマライフルで殺戮していった。

 

命乞いをする老婆の頭部がプラズマで吹き飛ばされ、逃げようとする子供の背中が貫かれ、黒焦げになって倒れ伏す。エンドスケルトンたちは、足元に転がる死体を単なる障害物(ゴミ、或いは可燃廃棄物)として踏み砕きながら、寸分違わぬ歩調で前進を続けた。

 

彼らは怒っていない。楽しんでもいない。ただ、プログラムされた通りに、不要な有機物を物理的・化学的に分解しているだけだ。

 

やがて、隊列を組んでいたTー800の群れから一体が進行経路を外れ、村長の方へと向かっていった。

 

彼等に取り零しは許されない。

 

 

 

 

つい昨日まで、笑い声とパンの匂いに満ちていた平和な村は、いまや黒焦げの死骸とひしゃげた瓦礫、そして重金属の焦げる不快な臭気だけが支配する完全な「死地」へと変貌した。

 

美しい自然に包まれていたクワトイネの辺境は、スカイネットがもたらした冷酷な銀色の異物によって、一切の叙情が排除された焦土へと書き換えられていく。

 

燃え上がる村。泣き叫ぶ人々の背後に、さらに数十、数百の赤い眼光が、森の暗がりから無数に浮かび上がりつつあった。

 

ロデニウス大陸を覆い尽くす絶望の【審判の日(JUDGEMENT DAY)】は、機械という名の死神たちの重厚な足音と共に、確かな現実としてこの世界に刻み込まれたのである。

 

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