TERMINATOR 機械帝国 作:伝説の肥大したデブりし者★
空を舞う鉄の棺桶、とも抵抗軍に評される貨物輸送機械は、実に
機械軍を全地球規模で展開するべくスカイネットは
また、一度に膨大な物資輸送が可能な海上輸送でも、潮流や海嶺がまるきり変わってしまった為に弩級輸送船の運用を行うには文字通り海底を浚うような広範かつ詳細な測量作業が必要とされた事から短期での実現には至らなかった。
次世代の輸送技術として、既に実用段階に入っている
一度環境が整ってしまえば、その暁には想像を絶するような展開力を発揮するのだろうが......当面の間はGPSを始めとした人工衛星の軌道配置に専従するしかない状態だった。
──ごうん、と何かが軋む音がして、仄かな月明かりと異邦の空の大気が巨鳥の腹に入り込んで来る。
効率化を極限まで追求された貨物倉を埋め尽くすように詰め込まれた軍需品コンテナが、床から浮き出た金属のレールに載せられたかと思うと、次の瞬間には大きな音と共に機外へと射出されていった。
製造技術の進歩によって、投下物にパラシュートを装備させて落下制御を行うという手法は廃止されて久しい。物資或いは容器そのものに
レールとの擦過で火花を散らしながらも、ヒト型を模した鉄の巨人が勢い良く大空へと投げ出される。
その鋼鉄塊が緩やかな放物線を描いて滑空染みた落下態勢に入るまで、同時に投下を始めた貨物輸送無人機の編隊から一斉に同型の巨人達が打ち出された事で状況は混沌としていた。
1秒間の間に数十体が虚空に投げ出され、重力に従って加速しながら見る間に地面との距離を縮めて行く様は壮観ですらある。
空挺輸送による戦地投入を想定されたそれらは衝撃吸収装置と姿勢制御推進器を装備され、折り畳まれていた手足を展開しながら最終着地シークエンスに入った。
......逆噴射開始......
地上僅か30メートルという超低空に達した時、自由落下状態にあった空挺部隊は一斉に飛行機動ノズルから強烈な放出を行う。
改良されたプラズマ動力炉から供給される高出力エネルギーはそのまま反作用となり、機体が自壊しかねない速度を急激に0へと近付ける。
刹那の後、柔らかな土の上に接地した巨体の衝撃で捲れた草葉の破片が宙を舞い、森の中に局所的な旋風が巻き起こった。
木々の隙間から様子を伺っていた野鳥たちが驚いて飛び去ってゆくのをまるで意に介さず、巨人たちは駆動音を掻き鳴らし周囲を伺うようにゆっくりと立ち上がる。
......第1波降下終了......集結地点を確保......
......第2波降下開始......先行ユニットは指定グリッドに進軍せよ......
作戦地域に降り立ったのは、全高8メートルを誇る二足歩行機械だった。大木と見紛うような鋼鉄の脚部が一歩踏み出すごとに足跡を残し、装甲に覆われた頭部から発される紅い視覚センサーの光が怪しく輝く姿はまさしく死の軍隊と呼ぶに相応しい様相を呈している。
人体など一瞬で蒸発させてしまう大型フェイズドプラズマ砲に置換された両腕部が鈍く輝き、対戦車誘導弾を収めた発射筒を肩口から覗かせたその姿は異形としか表現出来ない禍々しさを持っていた。
一帯に散らばった500体もの巨兵──
倒木や巌を踏み砕き、泥まみれになった根ごと掘り起こされてゆく度に土壌が激しく攪拌されるがお構いなしだ。
瞬く間に森の原風景は失われていき、周辺の動物の悲鳴じみた鳴き声を聞きながら恐るべき殺戮兵器は猛然と進撃を続けていった。
──中央暦1638年 5月12日 AM01:52
この時、スカイネット擁する機械軍は『異常』発生以来初めてとなる戦闘行動を行った。
それは最早戦いとは駆け離れた一方的な蹂躙であり、そしてこれから始まろうとしている大虐殺の準備運動に過ぎなかった。
息を切らせながら、その少女は走っていた。
いや、正確には逃げていた......当ても無く、燃え盛る炎が舞い上がる竜のように吹き上がる地獄と化した故郷の集落の中を死にもの狂いで逃避していた。
「どうして......何でよ......」
火に包まれた村の通りや焼け落ちていく家屋が今際の際とばかりに激しく炎上し少女の網膜に焼付く。肺腑を満たす空気すらも焦熱に変わり果ててしまったかのように熱く苦しい中で、彼女は今にも消え入りそうに掠れ声を漏らした。
「全部夢ならいいのに......」
そんな儚い願いさえも、灰燼に帰さんとする圧倒的な破壊の前には何の意味も無いことは分かりきっているのに願わずにはいられないのだ。
真夜中の静寂を破ったのは、理解不能な化け物どもの鳴き声にも似た轟音だった。
「ここも駄目......あっちも......」
彼女が身を隠せるような場所はもう残されていないのだろう。
こうしている間にも、逃げ遅れた、というよりはまだ殺されていなかった村民の怒号と断末魔が何処かから響いているというのに自分一人だけ助かろうなどと虫のいい話が通るはずもないのだから。
とっくに煤にまみれた顔は泣き腫らしたように赤くなり、口から漏れる嗚咽と共に鼻水がぽろぽろと流れ落ちる。身体は既に限界を迎えようとしているのか足取りはかなり覚束ないものになっていたが、それでも尚止まることを拒否する少女の心は一体何処に在るのか。
ドズン、と。
「あ......」
一瞬遅れて聞こえた重い音に釣られて視線を上げると、建物の屋根からぬうっと伸びる黒い塊が見えた。炎の照り返しを受けた夜闇に浮かぶその姿は、お伽噺に出てくるような巨人の姿を想起させるようだ。紅い紅い、不気味な一つ目がゆっくりと辺りを見回すようにして動いて、獲物を探しているようだった。
そいつが体を動かすと、金属の軋むような唸り声がいたずらに嫌悪を誘う不快さをもって夜の帳を震わせる。
「は...はは......逃げ、なきゃ」
うわ言めいた呟きを漏らす彼女の瞳にはもはや何も映っていなかった。唯一心にあるのはこの場から逃げたいという強い思いのみ。一歩進む毎に身体中を駆け抜ける痛みに耐えかねて膝を折ってしまいそうになるが必死に堪えて前へ前へと足を繰り出し続ける。
──しかし、殺戮を遂行するまで止まらない
何処をどう逃げていたのか、やがて少女が角を一つ曲がったところでその足が完全に止まる。行き止まりだったのだ。呆然と立ち竦んだ逃亡者を出迎えたのは三方を炎上する家屋に囲まれた絶望という名の袋小路だった。
「そんな......」
後ろを振り返っても、火勢を強めた退路はもう塞がれてしまっていた。
すぐそこまで迫った影法師の姿がゆらゆら揺れるたびに心が押し潰されそうになっていくのが分かる。震える両足に力を入れようとしてみても膝が言うことを聞いてくれないせいで満足に立つことすらできない有様だったが、そんなことさえ気に止める余裕もなくその場にぺたんと座り込んでしまった。
──そうして、最大の脅威たる人類を殺し尽くす。
不意に、パキパキという軽い音を立てて焼け付いた壁が崩れ始めた。
その音を聞いた生き残りの少女の目が見開かれ、自分が助かるかもしれないという希望の光を見出した直後──
──突き出されたのは銀色に輝く特殊チタン合金の腕だった。
今尚激しく燃える家屋の瓦礫を乗り越えるようにして現れた怪物の姿はあまりにも現実感がなく、それでいてどこか合理的な美しさを持っているように思えた。紅蓮に染まる世界の中にあってなお昏さを宿し続ける白銀のボディはまるで死神のようだ。
人間がそうであるように、四肢を備え、道具を扱い、息をするように目的を達する。
火の粉が舞う灼熱の焔から、煌々とした紅い双眸を持った金属の髑髏が覗いたとき、既に決着がついたことを悟ってしまった。
標的を捉えた怪物の金属の指が、携えた指向性エネルギー兵器の引き金に掛かる。
眼前に迫った破滅を前にして立ち尽くすことしかできない哀れな子羊に、殲滅者の冷徹なる判断力は速やかに標的を排除する選択をした。
銃口が鮮烈な閃光を発する直前、少女の脳裏を支配した感情は怒りでもなく悲しみでもない、純粋な疑問だけであった。
『貴方は、何故そんなに怒っているの?』
......
......