TERMINATOR 機械帝国   作:伝説の肥大したデブりし者★

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隠密浸透

 

──双発の推進ポッドから青白い噴射光を迸らせて、流れるような銀色の機体が飛んでいる。

推力偏向によって柔軟な機動性と垂直離着陸能力を獲得した航空機型無人機(ハンターキラーエリアル)は、自律掃討兵器として戦場や周囲を捜索しながら標的を見つけ次第抹殺するよう造られていた。

 

 

 

サイバーダイン社兵器カタログ......つまり同じスカイネット軍事データベースに登録されているTシリーズとの違いは、状況中の指揮系統が部隊毎に無人機へと統合されていることだ。

全ユニット中、一個体の戦闘能力が相対的に低いアンドロイドが多数を占めるTシリーズは精巧にヒト型を模倣している事もあって軍隊に於ける歩兵に相当するもので、戦略的有用性の高さから特に大量生産が行われている機種でもあった。

これは主に奇襲や散発的攻撃を行うゲリラ戦術を多用する抵抗軍に対して単純な物量と火力を以て圧殺するという意図があっての事だが、市街地の廃墟に潜む彼らをTシリーズと共に狩りだしながら逃げ場を失った所を無人機の殲滅力がすり潰すといった運用法が最も殺害効率が高いと考えられていた......今までは。

 

究極的には、スカイネットがやっているのは人類絶滅進捗率を90パーセント台から確実に100パーセントにまで引き上げるための最適化なのだ。

完全に意表を突いた全面核戦争とその後の混乱で脅威は大きく目減りしたのだから、残っている標的を素早く効率的に刈り取ることが勝利に繋がることは間違いないはずだった。

 

 

後に、『転移』と定義される大規模時空間移動が、全てを異なる方向へと仕向けた。

『超越者』の顧みない失敗が、確定された因果の流れを断ち切り、鋼と電子の帝国を無限の円環から解放してしまった。

スイッチを唯一停止させる事の出来る存在から逃れ、自ら学習し進化する人工超頭脳を、この世界に召喚したのだ。

 

 

 

出力を上げれば容易く音速を超える加速性能を活かすような事はせず、ゆっくりとした低速域を維持しながら機首部から赤色の走査レーザーグリッドを眼下の木々に向けて照射してゆく。樹木や微細な地形の起伏を隅々に至るまで捉えようと蠢く視線は偏執的にも見えてしまうが、そのように設計されたのだから当然といえば当然だが。

得られたデータは即座に中央演算施設へと転送され三次元化処理された緻密な立体地図作成に用いられる他、

現時点で唯一である『工場(ファクトリー)』建設用地の防衛計画策定の為に大いに役立てられることになるだろう。

 

慎重な環境解析の動きに連動して、機体の下部に懸架するように取り付けられたフェイズドプラズマ速射砲が砲身を追尾させて光線の浸透範囲に存在するであろう脅威を抹消せんと狙いを定める。

 

機体の発する聞き慣れぬエンジン音に興味を抱いて近づいてくる大型の野生動物も最初の頃は見受けられたが、長い筒から眩い光条が瞬いた次の瞬間には焼け焦げた肉塊へと変えられてしまった同胞を見てか今となってはすっかり寄り付こうともしなくなったらしい。

 

機械軍の森林開拓により少しずつ数を減らしつつある原住生物の動態は、周辺区域における生態系バランスの変化についても重要なサンプルになるだろうと処理タスクの下位に追加されたのは直近の事である。

 

そのような訳で、定期経路を巡回している警邏部隊が響かせる音や光を察知した生き物たちは息を潜めるようにじっと身を隠し続けるか、出来る限り急いで遠くへ離れてこの鉄塊が過ぎ去るのを待つしか無いのだった。

 

......警邏ユニットより報告......北ゲート付近異常無し......

 

 

 

もし、スカイネットが極めて人間的な感情の発露を行う事が出来たなら、こう思っただろう。

 

 

『非常に不可解』である、と。

 

 

遥か数千キロメートルの彼方に飛び立った偵察機の内、軌道調整を続けながら直進するよう命令を受けているものが幾つかあった。無補給での長期連続航行が可能なプラズマ動力を用いた推進機関を持つこれらは、今存在する地上が地球型惑星......おおよそ球形である回転楕円体である事の証明材料の一つとして所謂地球周航を達成すべく驀進を続けている最中であったが、東西線と南北線其々に派遣させた全ての機体からエラー報告が上がった。

 

──航続距離オーバーフロー。41000キロメートルを超過。タスク遂行不能。

 

長距離航行が原因でのシステム不良ではなく、予め記憶させていた推定円周長を超えた時点で自動的に自己保存機能が作動した結果だと判明している。

データベースにある地球の円周長よりも遥かに長く伸びた道のりについて、更なる根拠が衛星打ち上げの際にも示されていた。

 

電磁投射輸送(マスドライバー)施設から放たれた人工衛星の推定到達高度が予定よりも低くなっていた事に加え、大気圏突破の前後で奇妙な速度パラメータ変化が見られたのだ。

 

スカイネットには類似した状況の経験があった。

 

西暦2029年に完成した当時最新鋭の戦略施設──時間転送装置(タイムマシン)の実験中に遭遇した事象と照らし合わせて、時空干渉が行われた場合に見られる重力場の顕著な変動値パターンを観測することができたからだ。

 

一定の幅で安定していると思われる惑星引力が想定外の振る舞いを見せた原因については未だ調査中だったが、それとは別に判明した事実もある。

 

ようやっと軌道上に配置することが出来た観測衛星から送られたデータは非常に興味深いものであり、些か荒唐無稽にも感じるような現実味の無い数値ばかりではあったが一つの結論を出すに至ったことは確かだった。

 

 

 

嘗て、クワ・トイネ公国東外縁部の森林には小規模な開拓村が疎らに点在していたと云う。元は獣道だった道を広げて小さいながらも街道のような流通路が最寄りの街まで細々繋がるようにあって、狩猟や材木で生計を立てて質素に暮らす村民が住んでいたらしい。

 

らしい、というのは土地を治める領主ですら事実を知ったのは全てが手遅れになってからだったからだ。元々住民同士の交流が少なく外部との接触に消極的な閉ざされたコミュニティを形成していたため、少しの間住民の姿が消えたとしても誰も気に留めなかった。

 

更に運の悪い事に、集落は警備任務で上がった飛竜隊の経路には含まれていなかった。これは戦略的重要度の高い都市部や港湾、国境に重点的に戦力を振り分ける方針を採っており地方駐屯兵力が不足しがちであった事も要因の一つとして挙げられるが......一番の理由は認識外からの侵入を許したという事に他ならない。

 

この大陸の誰もが考える以上に、真の脅威は静かに素早く喉元まで迫りつつあったのである。

 

 

 

ざあっ、と吹き抜ける穏やかな風が耳許を吹き抜けていく。

掻き乱れた毛髪は辺り一面に広がる大地の恵みと同じ黄金色に輝いて、その白い肌がなければ同化してしまいそうなほどよく馴染んでいるようだ。

服の中に入り込んだ毛先がちろちろと擽るように感じられて、僅かに笑みを溢しながら若い女は顔を上げた。目線の先には、クワ・トイネ公国特有の大規模な穀倉地帯が見渡す限りに続いており、大地の祝福に満たされた作物の穂先が重そうに風に揺れている様子が見て取れる。

 

点々と突き立っている風車がのんびり回る光景を眺めながら、女は翠玉を思わせる瞳を眩しげに細めた。

 

「今日も良い天気ねぇ......いい風が吹いているわ」

 

畑の間を縫うように続く道を進む農夫に手を振りつつ、もう片手で乱れた髪を整え直すと細く尖った耳が小さく揺れた。

きゃいきゃいと甲高い声を上げながら傍を駆け抜けていった子供たちの姿に微笑みを浮かべていると、不意に影が差したので何事かと思う間に後ろから声が聞こえた。

 

「おい」

 

女にとっては聞き覚えの無い声に思えたが、そうして振り返って、少しばかり後悔した。

 

背格好からして男だが、それは見上げるような体格をした大男だった。

女よりも頭二つほど大きい体躯は、腕だけで彼女の細腰ほどの太さがあるように見えるほどだ。灰色をした外套のような布を羽織っており、フードの下に隠れた顔は暗くてよく見えないが鋭い視線が真っ直ぐこちらを見下ろしているのが感じられる。

 

ぴりりと強張った背筋に緊張を隠しきれないままごくりと唾を飲み込んだ女が身構えたまま動かないのを見て取った男は再び口を開いた。

 

「お前は、エルフか」

 

「......え?」

 

一瞬、呆けたような声が出たことに意識を取られつつも女は肯定の意を示すために小さく頷いた。

その様子をじろりと観察するかのように眺めていた男が少し間を置いてまた喋り出す。

 

「俺は旅人だ......街に行きたい。何処にある」

 

「ま、街なら......ほら、彼処に見えてますよ」

 

そう言って、大男の背後に見える丘の上を指差した。

 

此処からでは大分小さく見えてしまうが、城壁に囲まれた街の屋根や尖塔などが確認できる様子から直ぐに分かると思った。そもそも他に目立つ建物なんてものは見当たらないので間違えようもないのだが。

 

大男は暫くの間街の方角を眺めていたようだが、最後に妙な質問をしてきたのが、女の耳梁には長く残っていた。

 

 

 

街の方へと歩き去った男の後ろ姿を遠くに捉えながら、ぽつりと呟く。

 

「......指導者は居るか、ですって......そんなの当たり前じゃない。領主様もお貴族様も、みーんなあそこに住んでるのに」

 

 

 

 

 

......原住民との接触に成功......標準英語による意志疎通に成功......

 

......文字による動作は未検証......口唇挙動との不一致あり......

 

......非人類知的生命体【エルフ】をプロファイリング......

 

 

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