TERMINATOR 機械帝国   作:伝説の肥大したデブりし者★

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クワ・トイネ攻勢・1

 

新大陸改めロデニウス島前線基地での脅威接近遭遇及び撃滅の報に接した時、スカイネットは迅速な方針転換を迫られた。

敵勢力は電波無線通信技術を代替する未解明の通信手段を有している事が判明しており、空域内で撃墜などした場合情報共有によって警戒態勢が強化される可能性が高く、ひいては基地建設への介入で秘密侵攻計画が遅滞、頓挫させられるリスクが生じる事を懸念したのだ。

 

新天地への足掛かりとして進められている拠点開発に悪影響は許されず、莫大なリソースとして投じられた中には新造されたばかりの機械軍ユニットも多数稼働状態にあり、全て施設防衛に割り当てられるには過剰気味だった事も決断を早める一助となった。

 

何れ実行する既定事項なのだから順序変更は許容範囲内と見做され、この二ヶ月間潜入させていた偵察部隊の内偵調査も現時点を以て完了、戦闘待機命令を受ける事になる。

 

 

......潜入中の全ユニットに通達......タスク処理変更......

 

......セクター【クワ・トイネ】要衝に機甲部隊を派遣......標的を抹殺せよ......

 

 

 

 

 

AM08:50 クワ・トイネ公国第4飛竜隊基地

 

魔導通信器の備わった監視塔の上階にて、椅子に背を預けていた通信士は鳴り響いた受信音に肩を揺らす事になった。

 

何事も起こらずとも定時報告という形で竜騎士との会話が想定されていたが、それにはまだ尚早といえる時間帯だけに嫌な予感が過る。

準厳戒令の敷かれた軍部は上から下までピリついた空気が充満していて落ち着きが無く、何かあれば上官が駆け込んできてもおかしくない状態だが幸い今日に限ってそういったトラブルの報告は上がっていない。

 

もうじき交代の時間だからさっさと終わらせてくれと思いつつ操作盤に指を滑らせたのだが......

 

《此方第4飛竜哨戒隊長、司令部応答願う!》

 

早撃ちの様に滑り出たのは、焦燥感の滲む怒声だった。平時とは異なる様子から問題発生の火種を察知した通信士だったが、続けられた次の言を耳にして愕然とした声を上げる事となる。

 

「此方司令部。落ち着いて状況を知らせ」

 

《敵襲っ!未確認の敵騎に追い回されて、奇襲を受けている!!》

 

ぐわん、と頭を殴打されたような錯覚が襲ったのは、想定されていたシナリオが悪い意味で実現したからに他ならない。同室で作業を行っていた他の通信士達も硬直した顔を見合わせており、そのうち一人など持っていた羽根ペンを圧し折ってしまいインクを溢したことすら気付かなかった程だった。

 

「......了解した。しょ、詳細な敵騎の情報を教えてくれ」

 

戦慄に震える声を抑えつつ、通信士は努めて冷静に情報を受け取ることに努めようとした。

 

ちらりと横目で見た時計の針が定時報告の時間を指し示している事に気付いている彼は、一刻も早くこの異常事態を上に伝えて対応策を講じる必要を感じていたのである。

 

《敵騎は......》

 

「どうした?」

 

《......速すぎる......ま...で......》

 

「......おい!」

 

《......鉄......生き物......》

 

たった30秒足らずで途絶した通話は、疑う余地もなく最重要事案と言えるだけの混沌を撒き散らす報告だった。緊張が伝播した空間では、誰も動く事が出来ない。

 

 

「......何してる!?総員、各部署に緊急連絡を取れ!敵襲だ......」

 

 

──ストン、という小気味良い金属音。

 

我に返った通信士が言葉に出来たのは、其処までだった。

胸に走る熱い感触と、あっという間に遠くなる音に釣られて視線を下ろせば......臓器を突き破る、鋭利な金属の穂先が見えていた。

 

「あ......」

 

白刃に付着した赤い痕跡に、何が起きたのか理解しないまま、通信士は薄れゆく意識の中でそれを見た。

 

 

 

──驚愕と恐怖に顔を歪ませ、その胸部或いは眼窩から凶刃を生やした仲間が糸の切れた人形のように崩れ落ちる傍に、ぐずぐずとした液体のような......持ち上がる不定形の金属様物質(流体多結晶合金)が形を成していくのを捉えて。

 

 

 

 

 

 

バタン!とやや乱暴に扉を開け放って通信室に入ってきた基地司令官は、入室するなり自身を出迎えた奇妙な空気感を敏感に感じ取って眉を顰めた。

 

「......何があった?」

 

訝しみながら、彼は室内の異様な雰囲気に気圧されたように声を潜めて問い掛ける。その問いに対する返答は、魔導通信器の前に待機していた通信士がゆっくり振り返った事でもたらされた。

 

「何やら騒がしいが、何事であるか?」

 

「誤報です。友軍を敵だと誤認したようで、何も問題は有りません」

 

淡々と告げる部下は、柔和な笑みこそ浮かべてこそいるものの、その瞳は硝子玉のように伽藍堂であるように見える。

言うなれば、表層だけ取り繕った殻のようなものだろうか。実在としてあるのに、熱の籠らない......まるで無機物のような印象を受けるのだ。

 

「そうか、ならばいいが......」

 

釈然としないながらも、彼は部下の言を素直に受け入れることにした。

 

飛竜隊基地は国防の最前線であり、いつ敵襲を受けてもおかしく無い状況下にあるのだから例え誤報でも有事さながらに気を張っていると判断できたからだ。

 

(しかし......)

 

何かがおかしい気がする。漠然とした違和感は拭い切れずに残り続けたものの、それを言葉にして説明出来るだけの情報を持ち得ていない以上、ただ黙って様子を注視する事しか出来なかった。

 

 

機材の陰に積まれた骸を発見していたとしても、未来は変わらなかっただろう。

 

 

「ところで、司令官」

 

 

「──いい服を着ているな」

 

 

◇◇◇

 

 

AM11:05 クワ・トイネ公国首都近郊 とある街

 

クワ・トイネ公国首都圏に含まれるように、中部辺りには比較的大きな都市が幾つか存在している。

北には貿易港によってもたらされる経済的利潤で発展したマイハークがあり、西に進めば公都クワ・トイネという立地が一定の需要を生み出し近隣の振興を促してきた。

 

大通りから少し離れた裏路地の薄暗い隙間で、蹲るように座り込んだ影があった。

 

古ぼけた色合いの外套が全身を覆い隠して、フードの陰に隠れた顔は窺い知れない。

風土特有の恩恵で公国内に乞食や食うに困るような貧民は少数派ではあるものの、それでも貧富の格差は存在する。

傍から見れば恵まれぬ弱者が物乞いをしているのか、或いは何らかの事情で行き場を失ったのか......と勘繰る者も居るだろう。

 

しかし、それは違う。

 

衣服を盛り上げる体格はちょっとした小山のようであるし、裾から垣間見える黒い手袋(穴開きグローブ)を嵌めた太い腕と合成繊維の大きな軍用靴(コンバットブーツ)は顕著に卓越したテクノロジーの産物であることを示し、浮浪者と呼ぶには些かちぐはぐに思えた。

 

遠巻きに因縁を付ける方法を頭のなかで模索していた者も、身動ぎ一つしない様子や、時折聞こえる独り言に不気味さを感じてか、結局誰も声を掛けること無く立ち去っていく。

 

定期的に場所を変えながら、何をするでも無く佇んでいる謎の巨漢は、まるで何かを待っているかのようであった。

 

......タスク更新.....浸透任務終了......

 

......指令......優先標的の抹殺......

 

......T-850......戦闘機能起動_

 

 

「......」

 

 

今まで微動だにしなかった影が、徐に立ち上がる。

見上げんばかりの体躯は2メートル近いものがあり、筋骨逞しい男性という概念が表出すれば丁度こんな風体になるだろうか。

路地からゆっくりと出てきたそれは、街の喧騒に紛れるように雑踏へ溶け込んでいく。

 

 

 

 

大通りの広場では、何時もの市場の盛り上がりとは異なる様相を呈していた。

商品を構えている露店は商人諸共押し退けられて、木造の壇上と飾り付けられた石畳を中心にして人集りが形成されている。

 

金属鎧を纏った兵士が壇上と人々の間に壁を作り、長槍や剣といった武器を握り締める一方で、近隣建造物の屋上から弓兵が矢を番えて眼下の広場へ狙いを定める。

 

「いい気なもんだよな、全く」

 

聴衆の中から、そんな声がする。質の良い仕立ての衣装に身を包んだ小太りの男は、侮蔑と嘲笑が混じったような笑みを浮かべていた。

壇上に並べられた椅子にふんぞり返るのは、この辺りの有力者ばかり。鋭い視線を投げかける監視兵が左右に控えているのもあってか、その余裕は崩れない。

 

「まぁ、いいではありませんか。彼らが居てこそ此の街が繁栄しているのですからな」

 

「ふん、近頃国境もきな臭くなってきているというのに......平民の不安でも和らげたいのかね」

 

身なりの良い老人と小太りの男が言葉の応酬を交わす中、広場に集った民衆達は静かにその時を待っていた。

 

 

 

定期的に行われている演説会。本来であれば、その程度の認識で終わっていただろう。

 

「では、本日の主役に登場して頂きましょう」

 

壇上の司会が告げると、歓声と共に豪奢な格好をした人物が立ち上がって民衆に手を振る。

 

 

 

 

──群衆の中を淀み無い足取りで進んでいた外套の男が、ある一点で視線を止める。

 

フードに隠れた暗闇の奥に潜む視覚(アイ)センサーは、壇上の人間たちへと固定された。

 

 

......主要標的追跡(PRIMARY TARGET TRACKING)......

 

......抹殺実行(TERMINATE RUN)......

 

僅か1秒未満で、その思考は完了した。

 

犇めく人間の波を押しやり、腕で突き飛ばせば悲鳴が上がり、僅かも歩調を緩めずに猛然と前進する。観衆の誰もが、その異様な光景に目を剥く中。

 

「おい、止まれ!」

 

「捕らえろっ」

 

人々を左右に追いやった事で歪な直線を成しながら最前列から飛び出した大男に、狼藉者を捕縛するべく兵士が飛び掛かる。

 

しかし、その刃が振り下ろされる事は無かった。

 

ごしゃっ

 

鈍い音が鳴ったかと思えば、鎧を大きく凹ませた兵士が宙を舞っていた。

抵抗らしい抵抗を何一つ出来ないまま、その兵士は受け身も取れず石畳に叩き付けられて動かなくなってしまう。

 

そのまま突撃してきたもう一人の頭を、掴んだまま力任せに放擲すると、煉瓦の壁面に強かに叩き付けて頸椎を骨折させる。

 

「な、何なんだこいつ!?」

 

「......化け物め!」

 

「逃げろっ」

 

兵士の悲鳴に反応して逃げ惑う民衆を他所に、その巨体が動く。

石畳を踏み割る一歩は重戦車の突進のように強烈で、無駄がない流麗な動作だった。

 

「この野郎!」

 

剣を構えた兵士が、鋭い切っ先を巨漢の脇腹に突き立てた。

その手には柔らかい肉を貫く手応えが伝わってくる......と思っていたが。

 

先端が食い込んだところで、何か硬いものに当たって止まったのだ。

 

半ば慌てたように、兵士は剣を引き戻そうとする。

 

「鎖帷子か!?」

 

そんな声が耳に届いたのかどうなのか。

 

無造作に振るわれた腕が頭を捉え、兜ごと頭蓋を弾けさせた。

砕かれた器から脳漿がどろりと溢れ、引き千切れた頸許から赤い液体が勢いよく噴き出して地面を鮮やかに彩っていく。

 

首を喪った体が崩れ落ちていく様を見た者が居たら、一体どれだけの恐怖を感じただろう。

 

瞬く間に三人が殺されてしまった中で、当初の目的を達するべく侵入者は外套の懐へと手を忍ばせる。

 

「弓隊、放て!」

 

素早く取り出して見せた手には、何とも奇抜な道具があった。

 

それは両手で保持するような、長い金属の筒に取っ手を取り付けたような形状をしている。

速やかに放射状に展開した兵士達が素早く弓を引き、一挙に攻撃に転じようとするも、そんなものに一切目もくれなかった。

 

我先に逃げようとする標的に向けて、躊躇い無くその筒──プラズマミニガンの引き金を引いた。

 

 

 

白昼の広場を断続的な閃光と発射音が支配し、逃げ惑う者を容赦なく貫く。

 

悲鳴と怒号が上がり、分速800発もの無慈悲に撃ち出されるプラズマの嵐は、広場に居た人間全てを平等に殺戮するまで吐き出され続けた。

 

 

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