花よ水よ   作:テケテケ

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今回キリの良い所まで書いてたらこんなに長くなってしまった……
次やっと出したい技が出せる気がします。


最終選別へ

 

 

 

槇寿郎さんから最終選別への参加許可をいただいてから、瞬く間に一ヶ月が過ぎた。

 

あれから俺は特に気合いを入れて鍛錬を……ということは無く、いつも通りの毎日を過ごしている。

 

同じ時間に起床し、父から教えられた鍛錬を行い、それが終わると槇寿郎さんに与えられた課題を熟す……それが終わるとまた父の鍛錬を……それを体力が尽きるまで繰り返す。それが俺の日課である。

 

お陰で全集中の呼吸も大分強化出来たと思う。初めて全集中の呼吸を試した際は、身体にかかる負担の大きさに驚かされたし、ましてやそれを四六時中行う、全集中の常中の話を聞いた時は思わず正気かと口に出してしまった。

 

しかし、人間努力すればどうにかなる様で、父との対人稽古を思い出させる槇寿郎さんからの厳しい指導のおかげで、気がつけば俺は全集中の常中を会得することが出来た。

 

本当に寝る間も惜しんで協力してくれた槇寿郎さんには感謝である。しかし就寝中に常中が途切れた際に受けた竹刀の一撃は中々に痛かったことを此処に記しておく。

 

「おはようございます蒼翔殿!!」

 

いつもの様に日課の素振りを行なっていると、煉獄邸に元気な声が響く。

 

「ああ、おはよう杏寿郎。今日も元気が良いな。」

 

声の主は煉獄杏寿郎。俺の師範である槇寿郎さんの一人息子だ。

 

「ありがとうございます!!蒼翔殿!!今日も鍛錬に付き合ってもよろしいでしょうか!!」

 

「良いだろう。だが無理はするなよ。」

 

「はい!!よろしくお願いします!!」

 

俺が声を掛けると、杏寿郎は隣にやって来て素振りを始めた。

 

この様に、一年程前から杏寿郎は俺と共に鍛錬を行なっている。

 

きっかけは愼寿郎さんから、杏寿郎へ剣術を教えてあげて欲しいとのお願いがきっかけで、初めの頃は家で交流があるとはいえ、世話になっている槇寿郎さんのご子息……それにまだ六歳ということもあり、下手な指導は出来ないと心配していたのだが、その悩みは日に日に上達して行く杏寿郎の姿を見て、全て払拭された。

 

おそらく杏寿郎は要領が良いのだろう。俺が教えた事を凄まじい勢いで吸収して行った。

 

成る程、六歳ながらに槇寿郎さんが鍛錬をお願いするだけはある。

 

どれだけ疲れても俺の鍛錬に喰らい付こうとする根性、どれだけ上達しようとも満足せずに鍛錬を重ねる向上心もある。

 

この子は将来、素晴らしい剣士に成長するのだろう。

 

鍛錬の途中、「今のはどうだったでしょうか!!」と嬉しそうに聞く杏寿郎を見て、俺は自身の頰が緩むのを感じた。

 

嗚呼、きっと俺を指導していた際の両親も、こんな気持ちだったのだろうか。

 

師匠……というには俺は半端者だが、自分に教えを求める杏寿郎の成長は嬉しいものだと、そう思いながら俺は再び自身の鍛錬へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏寿郎との鍛錬を終え、一人休憩を取っていると、俺の手元にお茶を淹れた器がコトリと置かれた。

 

「蒼翔、お疲れ様です。今日も杏寿郎の鍛錬に付き合って貰いありがとうございます。」

 

そう声を掛けて来たのは煉獄瑠火さん、槇寿郎さんの奥方である。

 

「瑠火さん……いえ、感謝するのは此方です。杏寿郎は要領が良いので俺も助かってます。」

 

俺がそう言うと、喜びを表すように瑠火さんの頰が緩む。初めて瑠火さんと出会った頃、感情が薄そうな人だと思っていたが、煉獄家でお世話になり毎日を過ごしている内に、その考えは誤りであったことに気がついた。

 

瑠火さんは表情の変化こそ少ないが、実際はこの様に息子が褒められれば自分のことの様に喜び、悪さをすればちゃんと叱る。夫である槇寿郎さんを支え、息子である杏寿郎をしっかりと育てる姿は、間違い無く母親そのものだ。

 

以前、槇寿郎さんが隠していた春画が見つかったことがあったのだが、あの時は恐ろしかった。次期「柱」候補と呼ばれ、日頃から俺を指導してくれている槇寿郎さんの背中が、その時ばかりは酷く小さく見えたし、瑠火さんの背後から滲み出す圧が半端では無かったことを此処に記しておく。

 

この様に、瑠火さんは意外にも感情豊かであり、そして強い女性である。槇寿郎さんも良い奥方に恵まれたと言われていたし。

 

「杏寿郎が褒められて私も嬉しいですが、それは蒼翔の教え方が良いのもあるのでしょう……貴方の謙虚さは美徳ですが、感謝は素直に受け取っておきなさい。」

 

瑠火さんは頰を緩ませながら、俺に話し掛ける。

 

「そうですね……そう言っていただけると俺も助かります。」

 

そう言って俺は手元に置かれたお茶で喉を潤し、ほっと一息付く。

 

そんな俺を見て、瑠火さんは懐かしむ様に目を細めながら口を開いた。

 

「貴方を此処で引き取って、二年が経つのですね……」

 

その言葉を聞き、俺は空を仰ぎ見た。

 

「そうですね……」

 

思えばこの二年、本当に色々とあった。

 

両親の死という絶望から始まり、槇寿郎さんと出会い、煉獄家に引き取られ、鍛錬の末に全集中の呼吸を習得した……

 

全ては鬼殺隊へ入隊し、己の信念を貫く為に。

 

「二年前、貴方が此処で引き取ることになった時、私は心配してました。鬼に両親を奪われ、まだ時間も経っていない貴方の精神状態を……しかし、貴方の姿を初めて目にした時、私の心配は杞憂であったことを知り、そして恥じました……蒼翔、それは何故か分かりますか?」

 

瑠火さんからの問いに、俺は小さく首を横に振った。

 

「貴方が強い目をしていたからです。真っ直ぐ、澱みの無い目をしていたからです。」

 

そう答えながら、瑠火さんは真剣な表情で、俺を真っ直ぐと見つめている。それを見て、俺は少し吹き出した。

 

本当に、親子というのは良く似るものだ。

 

「やはり、杏寿郎は瑠火さんの息子ですね……目が良く似ている。」

 

俺の言葉に瑠火さんは一瞬目を見開くと、直ぐに再び真剣な表情で俺に話し掛けた。

 

「当然です。そして蒼翔、貴方のことも私は息子の様に思っています。」

 

「っ……!?」

 

「何を驚いているのです。確かに貴方と私は血の繋がりはありません。本当の両親にはどうしても敵わないでしょう……ですが、貴方が此処に引き取られてから、少なくとも私はそう思いながら貴方に接していましたよ。」

 

瑠火さんから話される内容に、俺は驚きを隠せなかった。いつも一歩引いていた。血の繋がりという強固な絆で結ばれた本物の家族……それは家族を失った俺にとって、あまりにも眩しい物だったから。

 

しかし、そんな俺を瑠火さんは息子と呼んでくれた……それがどれだけありがたいことか。

 

「ありがとう……ございます。」

 

そう答えた俺の声は、情けなくも震えていた。

 

瑠火さんは、そんな俺の背中に手を置くと、優しく摩り始めた。

 

「感謝される程のことでは有りません……ですが、これだけは言わせて下さい。」

 

「貴方は昔言いましたね。理不尽に奪われる人の為に剣を振るうと……どうかその信念を貫きなさい。貴方は強い。弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさねばならない使命です……決して忘れることのなきように。」

 

弱き人を助けることは強く生まれた者の責務……その言葉が胸にストンと落ちる。

 

「はい。心得ました瑠火さん……いえ、母さん。」

 

俺はそう言って再び空を仰いだ。

 

俺に再び帰る場所が出来た。もう大丈夫、きっと帰って来よう……その時は鬼殺隊の一員として胸を張って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽が沈み始めた。俺は支度を済ませ玄関へと向かう。そこには槇寿郎さんを含めた煉獄一家全員が立っていた。

 

「出迎えていただきありがとうございます。」

 

「何を言う。手塩に掛けて育てた弟子が最終選別へ向かうのだ。出迎えるのは当然のこと。」

 

槇寿郎さんが微笑みながら俺に声を掛ける。その表情から一切の不安も感じられない。

 

俺の帰りを信じて疑っていないのだろう。その期待に応えねばと気合いが入るのを感じる。

 

「蒼翔、どうか無事に帰って来なさい。」

 

「はい瑠火さん、その時は鬼殺隊の一員として、胸を張って帰って来ます。」

 

「そうですか。では、私達も楽しみに待ってますよ。」

 

瑠火さんからも言葉を貰う。こちらは昼に聞いた静かで強い声では無い不安を帯びた声だった。

 

俺はその不安を拭おうと、頰を緩め安心させるように声を掛ける。

 

どうやら効果はあった様で、瑠火さんの表情から不安が和らいだ様に見えた。

 

……さて、最後は

 

「杏寿郎。」

 

「……はい!!」

 

俺の呼び掛けに、杏寿郎は一拍遅れて返事を返す。

 

明らかに元気の無い杏寿郎の頭に、俺はそっと手を置いた。

 

「俺が留守の間、家を守ってやってくれ。これは杏寿郎にしか頼めないことだ……出来るな?」

 

俺が杏寿郎に話し掛けると、杏寿郎の目に段々と力が戻る。

 

「はい!!お任せください!!」

 

どうやらいつもの元気も戻った様だ。これならもう大丈夫だろう。

 

杏寿郎の頭から手を離すと、俺は再び槇寿郎さんへと向き直った。

 

「ああ、瑠火も言っていたが、無事に帰って来い。」

 

「はい、勿論です。それでは……」

 

そこでふと、瑠火さんへと視線が行く。

 

瑠火さんは何かに期待しているかの様な眼差しを俺に向けていた。

 

成る程、そう言うことか。

 

「行って参ります……父さん。」

 

俺の言葉に、槇寿郎さんは目を見開いた。しかしそれは一瞬のことで、少しの間を置いて槇寿郎さんの頰が緩む。

 

「ああ、行って来い……息子よ。」

 

槇寿郎さんからの言葉に、今度は俺の頰が緩む。

 

父上、母上、あれから俺、家族が出来たよ。

 

帰る場所がある……これ程心強く嬉しいことは無い。

 

また此処に帰って来よう。

 

そう思いながら、俺は最終選別が行われる藤襲山へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に季節でも無いのに藤の花が咲いているのだな……どんな原理なんだ。」

 

ぼんやりと辺りを見渡しながら山の中を歩く。

 

此処は藤襲山、一年中藤の花が咲いており、その中に十数人の鬼が閉じ込められている。

 

俺はこれから七日間、この場所で最終選別を行う。突破条件は生き残ること……そうするで漸く、鬼殺隊の隊士として認められる。

 

暫く歩いているとひらけた場所に行き着いた。其処には着物を着た少年が一人と、俺の他に選別を受けるであろう人達が目に入る。

 

これから行われる選別に怯える者、絶対に生き延びてやると気合いに満ち溢れている者……少し見渡すだけで反応は様々だ。

 

その中でも一人、他の者と違う空気を纏った少女がいた。

 

見たところ俺よりも歳下だろうか。何と言えば良いのか、静かというかぼんやりしているというか、とにかく他の参加者とは違った雰囲気を纏っているのが印象的だった。

 

すると、俺の視線に気が付いたのだろう。少女は流れる様な足取りで俺の元にやって来た。

 

「ねえ君、さっきから私のこと見てるけど、どうかしたの?」

 

少女は笑顔を浮かべながら俺に問い掛ける。

 

「不快にさせたのならすまなかった。参加者の中で一人纏った雰囲気が違うので、つい気になってしまった。近付く際の足取りを見るに、君は相当に腕が立つようだ。」

 

俺がそう答えると、少女はポカンとした表情で俺を見た後、クスクスと肩を小さく弾ませ笑い始めた。

 

「謝らなくていいよ。でもちょっと歩いただけで褒められたの初めてかも。君、変わってるね。」

 

「変わってるかは分からんが、師が優秀な方々でな。観察眼には自信がある。」

 

「そうなんだ。でも師匠の優秀さなら私も負けてないよ。」

 

「それを言うなら俺も負けられんな。」

 

いつの間にか話の話題が自分の師匠が如何に凄いのかの自慢になってしまい、空気がほんわかしている。だがまあ仕方がないだろう。選別が始まると、そんなことも言えなくなるのだ。その前にお互いの緊張を解くのは悪くない。

 

「ふふ、話し相手になってくれてありがとね。お陰で最終選別への緊張も何処かに行っちゃった。」

 

「緊張している様には見えなかったが、それなら良かったよ。」

 

和やかな空気のまま俺達の会話が続く。しかし、そろそろ最終選別も始まるだろう。少し惜しい気もするが、俺は会話を切り上げようとした。

 

少女も同じことを考えていたのか、最後に一つだけ、と俺を見上げながら問い掛ける。

 

「そういえば、自己紹介して無かったね。私の名前は真菰。君の名前は?」

 

「四乃森蒼翔だ。真菰、お前との会話は楽しかった。お陰で緊張も解れた……無事を祈る。」

 

「緊張なんて嘘ばっかり……でも、そうだね。私も楽しかった。これから七日間よろしくね……蒼翔。」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。」

 

その言葉を最後に、俺と真菰の会話は終わった。そしてその視線はお互い同じ人物……着物を着た少年へと移る。

 

少年の名は産屋敷耀哉。鬼殺隊最高責任者「お館様」の一人息子である。

 

まさか此処にお館様の息子が来るとはという俺の驚きを他所に、耀哉様は最終選別の説明を始めた。

 

説明が終わると、いってらっしゃいませとの挨拶を合図に最終選別が始まる。その合図と同時に、俺は森の中へと静かに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森に入ると直ぐに鬼が見つかった。

 

「久方振りの人肉だあっ!!」

 

発達した犬歯、頭から突き出た角、瞳孔が開き血走った眼……成る程、鬼というのはこの様な容姿なのか。確かに見る人が見れば恐怖を覚えそうだ。

 

鬼は俺を見つけるなり、涎を撒き散らしながら走り出した。

 

確かに人間離れした脚力だ……しかしこれなら。

 

不思議と俺に恐怖は無く、自然と腰に差した刀を引き抜き、そのまま刀をゆったりと降ろすと、腰を軸に身体を捻り刀を振り上げた。

 

「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」

 

刀が鬼の首を捉えると、意図も容易く鬼の胴から首が離れる。刀を鞘に戻し振り返ると、首を斬った鬼の身体がボロボロと崩れて行く姿が目に入った。

 

これが鬼にされた者の末路か……理性を消され、人を喰らう事でしか飢えを満たせず、結果人を襲わざる得ない……そして最後は骨の一つも残せずに死んでゆく。

 

この鬼がそうだったかは分からないが、生前は善人だった人間も居ただろう。無垢な子供だって居たかもしれない。

 

そうだとすれば、何て哀れで残酷な仕打ちだ。握り締めた拳の中で、爪が皮膚を突き破り、流れ出た血が指を伝いポタポタと地面に染みを作る。

 

「俺を許せとは言わん。だが、せめて安らかに眠ってくれ。」

 

既に身体の大半が崩れている鬼に向かい、静かに手を合わせる。来世があれば、その時は鬼の居ない世にしてみせるという決意を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」

 

身体を捻り横薙ぎに剣を振るい、周りにいた鬼達の首を刎ねる。

 

あっという間に時間が流れ、ついに最終選別も最終日を迎えた。

 

「た、助かった!!ありがとうっ!!本当にありがとうっ!!」

 

「気にするな。怪我を負っているなら其処で休んでいると良い。おそらくこの山に殆ど鬼は残って居ない様だからな。」

 

あれからというもの、俺は鬼を狩り続け、怪我を負った試験者の手当てを行っている。

 

今斬った鬼で十三人目、山中走り回って様子を確認したが、おそらく此処に残った鬼はこれで最後だろう。俺は刀を納めながらそう考えていた……しかし。

 

ゾワリ……

 

「っ……!?」

 

全身が総毛立つ……いや、まだ居る。それもこれまで斬った鬼とはまるで違う禍々しい殺気を纏った鬼が。

 

気が付けば、俺の脚はその存在を感じる方向へと駆け出していた。

 

殺気の原因に近付くにつれ、その存在を徐々五感で感じ取れる様になった。木が薙ぎ倒されているであろう衝撃音、近付くにつれ強くなる血の匂い……そして、悲鳴にも似た叫び声。

 

「これは……」

 

走り続け森を抜けた俺の目に飛び込んで来たのは、正に異形という言葉が当て嵌まるであろう巨大な体躯に太い腕が何本も巻き付いた鬼と、泣き叫びながら刀を振るう狐面を付けた少女……真菰の姿だった。

 

「すばしっこい小狐だなぁ。鱗滝も鼻が高いだろうなぁ。嬉しいなあっ!!お前が死ねば鱗滝はもっと悲しむだろうなぁっ!!」

 

「黙れっ!!黙れぇっ!!お前がっ!!お前が鱗滝さんを悲しませたんだっ!!絶対に許さないっ!!絶対に私がこれまでお前に殺された人達の仇を取ってやるっ!!」

 

涙を流し刀を振るう真菰に視線が釘付けになる。

 

速い……だが正気を失っている。

 

真菰の剣を見たのは初めてだ。だがおそらく、あれは真菰本来の動きでは無い。話を聞く限り、あの鬼は真菰にとって絶対に許せない存在なのだろう。それほどまでに、今の真菰の動きは繊細さを欠いている。

 

その証拠に、徐々に真菰の動きが鈍くなり、肩で息をするようになっていた。

 

「段々動きが鈍くなって来たなぁ?そろそろ限界じゃないのかぁ?」

 

「黙れっ!!お前の首は私が斬るんだっ!!たとえ脚が引き千切れてもっ!!」

 

「だったら、望み通りにしてやるよっ!!」

 

異形の鬼の手が真菰に伸びる。先程までの真菰であれば避けれたかもしれない。しかし、正気を失い体力が尽きた真菰は、その攻撃を避ける術を失っていた……

 

「しまっ……!?」

 

此処に居るのが、真菰一人で無ければ。

 

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」

 

真菰に向かい伸ばされた腕が斬り飛ばされ、異形の鬼の視界から真菰の姿が消える。一瞬の内に起こった出来事に、異形の鬼も真菰も何が起こったのか理解出来ていなかった。

 

「この娘に手を出すのはやめて貰おうか。」

 

そう語り掛ける俺の片腕には、青白い顔で息を切らした真菰の姿があった。

 

「あ、蒼翔……」

 

「すまない真菰、お前とあの鬼の会話は聞いていた。聞いて尚、横槍を入れてしまった。」

 

「ううん……助けてくれてありがとう。」

 

そう俺に感謝する真菰の表情から悔しさが滲み出る。

 

「何だぁお前はぁ?俺の小狐を獲りやがって……」

 

「その口を閉じろ。この娘は断じてお前の様な下衆の物では無い。」

 

鬼の言葉に反論すると、俺は腕に抱えた真菰を静かに地面へ置き、刀を抜いて鬼と向かい合う。

 

そして鬼に向かい歩き出そうとした時、俺の服に小さな抵抗を感じ振り返った。

 

其処には俺の服の摘みながら涙を流す真菰の姿があった。

 

「お願い……蒼翔。どうか、あの鬼は、あの鬼だけは、私に斬らせてっ……!!お願い……お願いっ!!」

 

その姿を見て、俺は目を見開く。

 

静かな少女だった。一度しか話したことが無いが、それでもここまで取り乱す様なことは無さそうだと思っていた。

 

そんな少女が、俺よりも歳下の少女が、ここまで押し潰されそうな悲しみを背負っている。

 

俺は一瞬悩んだ後、真菰に対して問い掛ける。

 

「その刀でどうやって首を斬るつもりだ。」

 

真菰の持つ刀は所々に刃こぼれがあり、今にも折れそうになっていた……それでは真菰であっても、あの鬼の首を斬るのは難しいだろう。

 

「そ、それは……」

 

俺からの問い掛けに真菰は言い淀む。

 

俺は一つ溜息を溢すと、手に持った刀を納め鞘ごと刀を腰から抜くと、その刀を真菰へと渡した。

 

「これを使え。」

 

「…………え?」

 

何を言っているのか理解出来なかったのか、真菰は唖然とした表情を浮かべ俺を見る。

 

「で、でも、そんなことしたら蒼翔は……」

 

真菰からの問いに対し、俺は腰に差したもう一振りの刀を軽く叩いて応えた。

 

「安心しろ。俺にはもう一振りある。」

 

その言葉に、真菰は焦った様に声を上げた。

 

「そんな小さな刀でどうにかなる相手じゃないっ!!」

 

心配してくれているのだろう。真菰の表情から悲しみの色が強くなる。

 

確かに俺が持つもう一振りの刀というのは、先程まで使っていた刀と違い、刀身が短い刀……所謂小太刀というものだ……心配するのも、まあうなづけはする。

 

しかし、それは杞憂というもの。

 

「安心しろ真菰……どちらかと言うと、俺は此方の刀の扱いの方が慣れている。」

 

俺は腰に差した小太刀を抜くと、再び異形の鬼に向かい振り返る。

 

「いいか真菰、お前は今から俺の背中に着いて来い。安心しろ……とは言わないが信じてくれ。絶対にお前に、あの鬼の首を斬らせてやる。」

 

そう真菰に話し掛けた後、俺は小太刀を逆手に構える。俺の持つ刀を見た鬼は両手で口を押さえクスクスと笑い始めた。

 

「そんな情けない刀で何が出来るって言うんだぁ?自分の刀を他人に渡すなんて馬鹿なやつだぁ。」

 

「馬鹿がどちらかこれから分かるだろう……その時は、お前の首が落ちた時だと思うがな。」

 

俺は鬼に話し掛けると、小太刀を持った手を自身の胸の前に持って来る。

 

「御庭番衆最後の御頭、四乃森蒼紫の息子、四乃森蒼翔……参る。」

 

その言葉を最後に、俺は鬼へと駆け出した。

 

 

 

 




次回は真菰視点から始める予定です。

真菰の年齢は公式でも明らかになっていない為、今回は十二歳として設定しています。

義勇が過去を語った際に真菰のことを知らなかったことから、少なくとも義勇と錆兎の修行中には真菰は居なかった……つまり義勇と錆兎より先に最終選別を受けたか、義勇が去ってから鱗滝さんの所に来たということなんですねえ……(古畑任三郎風)

ということで、この話の真菰は義勇と錆兎よりも歳上で設定しております。


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