オシリスのユメ   作:新人先生

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自分のスマホの容量がカツカツだったので、死んだ父親の使ってたスマホでブルアカをプレイしてたら最近サイコパス扱いされるようになったんですよ。極めて不当。ちゃんと家族に使い道を話した上で受け取ってるわ!

話は変わりますが、「独自設定」タグを追加しました。
あと投稿期間空いちゃったので、1万5000字の大ボリュームかつオマケの裏話コーナー(第2回目)を後書きにつけました。よければご一読ください。


第13話 【前編】筋書き通り

風紀委員会の一件から三日ほど経ち、ホシノは病院を退院した。しかし決して怪我が完治したという訳ではない。

建物を半壊させるほどの爆発に巻き込まれたうえ、ようやく目覚めたかと思えば風紀委員会とそのまま乱戦。ホシノの身体に残されたダメージは深刻で、本来ならばまだまだ安静にしておくべき状態だった。

そのため病院の担当医も、そして先生もまた、しばらく入院を続けることを勧めてはいた。しかし、ホシノは「大丈夫だから」「もう何ともないから」と言い張り、制止を頑として聞き入れなかった。

 

『またこういうことがあったとき、その場にいなくて何も出来ないなんて嫌だ』

 

こういう時のホシノは頑固で絶対に譲らないと先生は知っていた。

とはいえ、病院の脱走の件といい、市街地での狂気的な戦いぶりといい、最近のホシノは明らかにおかしい。まるで少しでも目を離すともう二度と追いつけなくなりそうな、そんな危うさを感じさせる。

 

出席停止にして強引にでも休息をとらせるべきか――いや、しかし、もしもここで無理やり病院に押し込めておいたとして、また何かの拍子にホシノが無茶をするということもあり得る。今回と同じようにホシノが病院を強引に向けだそうとした場合、病院の人間だけでそれを阻止できるだろうか?

 

……むしろ、目の届く範囲に置いておいた方がいいのではないか?

 

「……わかった。病院の先生に何とかお願いしてみるよ」

「ほ、ほんと?」

「でもね、条件がある。いくつか私と約束をしてほしい」

 

そうして先生は「朝、昼、晩の三回きちんと欠かさず連絡を入れること」「通院を欠かさないこと」などといった数点の条件を課すことで、ホシノを退院させることに同意した。これが数日前の話である。

そして今朝。ここからが問題なのだが――

 

なんと、アビドスの土地がほとんどカイザーコンストラクションのものになっているという衝撃の事実が判明した。

 

きっかけは爆破事件に巻き込まれた紫関ラーメンの大将の証言だった。

 

今日の朝、対策委員会は大将のお見舞い目的で病院を訪れた。大将は幸いにも軽く擦りむいただけで大事には至らなかったらしく、和気あいあいとした雰囲気のまま雑談が始まった。しかし、話題が紫関ラーメンの再建をどうするかということに及んだとき、大将から意外な発言が出たのである。

 

『実はもうすぐお店も畳む予定だったからな。予定がちょっと早くなっただけだ』

『え? お店を……?』

『ああ、ちょっと前から退去通知を受け取っていてね』

『た、退去通知って、何の話ですか? アビドス自治区の建物の所有者は、アビドス高校で……』

 

アヤネのその反応は至極当然のものだった。自治区内の土地や建物はすべて、管理運営をしている当該の学校が所有権を保持する。よほどの事情がない限り、例外はありえない。

 

『……そうか、君たちは知らなかったんだな。移った先がどこだったかはっきり覚えてないけど、何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有権が移ったんだ』

 

しかし、事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、その“よほどの事情”がここには存在していた。

 

ならば現在の所有者は一体誰なのか? 当然、その疑問が湧き上がる。

そしてその疑問への回答を入手すべく、この日の午前中、セリカとアヤネはアビドス自治区の関係書類をかき集め、地籍図に目を通したのだが――その結果、自治区の大部分の土地がカイザーコンストラクションに買われているということが発覚したのである。所有権がまだ渡っていないのは、現在使用している校舎とその周辺の一部の地域のみ。

 

もちろん不正や隠蔽工作なども警戒していた。万が一、資料が偽造されていたり、重要な箇所を削除されていたら……という想定もしていた。だから念入りに調べたのだが、どうやら違法性は皆無らしい。少なくとも表向きには。

 

“違法性は皆無”――それは、取引の主体が学校の資産の議決権を持つアビドス生徒会だったということを意味していた。

 

なぜ自らの土地を手放したのか。その理由について確定的なことはわからない。

 

しかし、これまでの経緯を鑑みるに、借金返済のためという推測が自然ではあった。

 

最初の内は、荒廃した土地や必要ない砂漠地帯を少しずつ売りに出すことで金に換えていたのだろう。とはいえ、砂漠化が進んで廃れていることに加え、石油などの地下資源すら残っていないアビドスの土地に高値がつくはずもなく、多少の利益にはなったとしても焼け石に水。

 

貧乏人が生活費のために身体を売るようなものだ。望まれてもいないだろうし、喜んで売るような人もなかなかいない。根本的な解決には到底なり得ず、少しずつ身ぐるみを剥がしていく一方に過ぎない。

それでも他に売れるものもないから、徐々に手を付ける範囲を拡大していったのだろう。

 

――そして、ついに自治区の多くをカイザーに明け渡すまでに至ってしまった。

 

そして先生は、もう一つの懸念にも思い至ってしまった。

この事態が、カイザーによって仕組まれたものであるという可能性だ。

 

アビドスに貸し付けを行っているのはカイザーローン。アビドスの土地を買い取っているのはカイザーコーポレーション。同じカイザーグループの企業なのである。

つまりこういう事態が進行していたと考えられはしないだろうか。

 

まずは砂漠化で困窮したアビドスにカイザーローンが高利で貸付を行う。こんな見るからに不良債権確定の借り手に大金を融資する銀行などそうあるはずもなく、いくら暴利であろうと藁にも縋る思いでアビドス側は金を借りるしかない。そうしてアビドスの返済が滞ったところで、カイザーコンストラクションが土地を売ることを提案する。

 

金額が安値であろうと、切羽詰まっている以上、アビドス側はもう提示された条件を拒否することは難しいだろう。そして、何らかの瑕疵もなく正当な契約に基づく売却である以上、第三者が介入する術もなく、アビドスの自治区はカイザーの思うがままに徐々に奪われていき――ゆっくりと、全ての土地がカイザーのものになっていく。

 

つまりは、最初からアビドスの土地を手に入れる目的でカイザーグループが共謀し、このシナリオを作り上げていたのであれば?

 

考えたくない可能性だったが、それならばある程度腑に落ちてしまう。

しかしこの場合、ひとつ気になる点が残る。

 

こんな価値のない土地を手に入れてカイザーは一体何をしたいのか?ということだ。

 

『アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでる』

 

ふと、昨夜ヒナに伝えられた警告を思い出した。

砂漠でカイザーが何かを企んでいる――ならば、そこに行けばこの事態を打開する手掛かりが見つけられるかもしれない。そう考えた先生は早速全メンバーを集め、アビドス砂漠へ調査に行くことに決めた。

 

本来、先生としては“全メンバー”と言ってもホシノに関しては怪我のことを考えて学校に残っていてほしかったのだが、アビドスがカイザーに貶められているかもしれないということや、その手掛かりが得られるかもしれないとあっては彼女もただ座していられるはずもなかった。そういう訳で、結局はいつも通り五人と先生の六人パーティで探索に向かうことにした。

 

そうして先生が出発に向けて準備を整えているときのことだった。

廊下の向こうから、足音が一つだけ近づいてくる。振り向くと、シロコが立っていた。

 

「先生。……少し、いい?」

「どうしたの、シロコ。みんなは?」

「……みんなは、調査の準備を進めてる。私は……」

 

言葉が途中で止まる。普段の無表情が崩れるほどではない。けれど、その目だけが落ち着かない。

シロコは、制服の内側から折り目のついた紙をそっと差し出した。

 

「私、悪いことした」

「悪いこと?」

「ホシノの鞄。勝手に……見た」

 

「――!!」

 

先生の喉が、わずかに鳴った。

シロコは視線を逸らしたまま、続ける。声は小さい。けれど逃げてはいなかった。

 

「……最近のホシノ、変だったから。確かめたくて。自分でも、やっちゃいけないって分かってた。でも……」

「……それで、何を見つけたの?」

「これ」

 

先生は受け取る。紙は軽い。なのに、掌の上で重く感じた。

形式ばった書式。提出先の欄。記入欄。日付。署名。――そして、そこにある筆跡。

 

一目で、どういう種類の書類かは分かった。分かってしまった。

胸の奥が、すうっと冷えていく。

 

「……シロコ。これを、私に見せるって決めたんだね」

「……うん。怒られても、いい」

「怒るよ。あとで、きちんと」

「……」

「でも今は、土地の件とホシノのことが先」

 

シロコは小さく息を吐いた。安心したというより、覚悟が確かになった顔だった。

先生はその紙を丁寧に折り直し、いったん自分の手元にしまった。

 

……この場で結論を出せる話ではない。

今は、まず目の前のことだ。

胸の奥にやけに生々しく残る感触を振り払うようにして、先生は意識的に思考を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

アビドス砂漠。

 

一面の砂と岩、枯れた植物で構成される過酷な大地。元々アビドスの中心地もこのあたりにあったのだが、度重なる干ばつと地下水脈の枯渇により人口は減少の一途を辿り、とうとう人は住めなくなった。それ以降、放棄された区域となり、無人の砂漠が延々と続く場所だ。

 

対策委員会の一同は、そんな不毛な大地の真っただ中を調査のために突き進んでいた。目印になるようなものすらろくに存在しないので、アヤネが遠隔でこちらの位置情報を追跡しつつ、時折ドローンを使って案内や支援をしてくれている。

そう、ここは本来そのレベルで何もないはずの砂漠なのだ。しかし、進むにつれて不思議なことにドローンがどんどんと増えていった。

 

「ん、なんでこんなところにドローンがいるの……?」

アビドス(うち)で使っているやつとは型が違うように見えるけど……ってうわっ! 撃ってきた!!」

 

セリカが目を凝らしてドローンを観察しようとした瞬間、一斉にアビドスチーム目掛けて砲火を浴びせ始めた。一同は咄嗟に岩陰に隠れ、相手からの攻撃をやり過ごす。

 

「なんなのよいったい……!?」

「……本当にこの先に何かがあるっぽいね。突破しよう。ノノミ、お願い!」

「はい、先生! こういう細かいのがたくさんいるときは私にお任せください! 全弾発射~」

 

ノノミは愛用のリトルマシンガンVを両手に複数の小型ドローンをまとめて蜂の巣にする。ドローン群は制御システムを破壊され、プシューと煙を吹き出して墜落した。その隙を逃さず、一同は先生の指示で一斉に駆け出す。

 

その後も次から次へとどこからともなく湧いて出てくる新手に対処しつつ、休む暇もなく突き進む。

それらを何とか乗り越え、潜り抜けていきながらさらに歩を進めると、やがて――

 

 

「――あれは……いったい……?」

 

 

一同は目の前に広がる光景に言葉を失った。

そこには、巨大な施設があった。

 

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩、アレが何かわかりますか……? 何かを採掘しているようにも見えますが」

「分からない。でも、施設に描いてあるマークを見る限り、カイザーPMCの施設だと思う」

 

高い壁で囲まれた敷地内には、掘削装置のようなものや戦車をはじめとする大型兵器群が並び、周りの砂漠の中に溶け込むかのようにそびえ立っている。基地入口は鉄格子で覆われ、有刺鉄線やセンサー等の障害物が設置され、非常に堅牢に見えた。

さらに不気味なことに、その設備は稼働していたのだ。砂を掻き分けながら地中に潜っていく装置が所狭しと配置されている。カイザーのマークが記載されているそれらは、現在進行形で砂漠の中を掘り進めているようだった。

 

「……ごめん、“ぴーえむしー”ってなんだったっけ? PTAみたいなやつ?」

「ん、これを見てPTAの仲間だと思える発想は正直すごいと思う。さすがセリカ、肝が据わってるね」

「絶対褒めてないよね!? ちゃんとわかるように言って!」

 

この圧倒的な威容を前にしてなお、二人が仲良く喧嘩できているという時点で確かに肝が据わっていると言って間違いはないと思うのだが、とにかくそれを横目にホシノが簡潔に説明を始める。

 

「PMCっていうのは、要するに民間軍事企業のことだよ。簡単に言えば、お金を払えば軍事サービスを提供してくれる人たちっていう感じかな」

「その軍事サービスっていうのは? 具体的にどんなものなの?」

「ざっくりいうと、傭兵の派遣だね。まあ傭兵といっても、個人で請け負う奴ではなくて、企業単位で派遣するといった感じだけど」

「へぇ……詳しいのね、先輩」

「おじさんも昔は傭兵のバイトをしてたからね~。カイザー(ここ)とは別のところだけど。いや~、私の頃は大変だったんだよお~?」

「うわ、昔の苦労をアピールするタイプのおじさんになってる……」

 

おじさん節をきかせて語るホシノ。シロコはそんなホシノをじっと見つめていた。やがてその目線に気づいたホシノが訊ねる。

 

「ん? どうかした? シロコちゃん」

「……先輩が、自分のことを“おじさん”って言うの、すごく久しぶりに聞いた気がする」

「うへっ!? そ、そうかなあ……?」

「ちょっと嬉しい。そういうホシノ先輩を見るの、私は好き」

「あ、あはは……そう? ていうか、なんだか今日は積極的だねシロコちゃん……」

 

シロコにジッと見つめられたホシノが頬をぽりぽりと掻き、視線を外した。

 

『しかし、ここにいるのがPMCだとすると疑問が残ります』

 

そんな中、通信越しにアヤネが疑問を投げかけた。

 

『見る限り大規模な発掘をしているように見えますが、アビドスの砂漠には特に貴重な資源が眠っているという話は聞きません。ずっと前にそういう調査結果が出ているんです。プロの傭兵を雇ったり掘削したりする費用の方が高くつきかねないはずです。……なのに、どうして?』

 

アヤネの困惑は最もだ。

もはやアビドスにお金になるような資源はなにもない。だからこそ借りた金で学校運営をどうにか維持していた――これがアビドスの歴史だ。本来ならそんな場所の土地を買っても仕方がないはずなのに、カイザーは徹底的に投資を行い、巨大施設の建設やドローンやオートマタを展開させた。

それは、本来ここにあるはずのない設備だ。

彼らは一体ここで何を行っているというのだろうか――?

 

 

 

「我々は、アビドスに眠っているというお宝を探しているのだよ」

 

「――!?」

 

 

「初めまして、で良いのかな。アビドスの諸君。私はジェネラル、カイザーで主に軍事関連の指揮を執っている。ただ、いろいろあって今ではカイザーPMCやらカイザーローンの理事も務めていてね。早い話が君たちが借金をしている張本人だ」

 

先生たちの疑問に答えるようにして、“ジェネラル”と名乗る一人の男が突如として現れた。

 

「あんたは、あの時の……!」

「おや、“暁のホルス”も来ていたとは。怪我の方はもういいのかね?」

 

何故か彼はホシノのことを“暁のホルス”と呼んでいた。お互いに知り合いのようだが、少なくともホシノはあまり快く思っていないように見えた。二人の間に何か確執があるのは間違いなさそうだった。

 

「……ということは、ここにはアビドスの全生徒が集まっているということか。ならちょうどいい。世代を超えて続く、この借金についてぜひ話し合おうじゃないか。色々と積もる話もあるだろうからね」

 

借金の話と言われて、一同の間に緊張が走った。シロコが警戒しつつ応答する。

 

「借金云々のことは自分たちで調べて大体のことはわかってる。前生徒会とカイザーコンストラクションが取引の主体になって、アビドスの土地を切り売りしていたってことも」

「ほう? ならその取引が至極合法的なものだったということもわかっているかな?」

 

「違法でなくても、ここまで計画的に学校の土地を奪おうとするなんて許されることじゃないわ!」

 

セリカが勢い込んで反論するが、ジェネラルは全く意に介した様子を見せなかった。

 

「“計画的”……? はて、何を言っているのか……?」

「……しらじらしっ!」

「ともかく、我々が正義に反することをやっているかのような言い分はやめてもらおうか。そもそもこの自治区の法を決めているのは君たちアビドス高校――我々はその法に従って取引をしていただけのこと。君たちが何を言おうと事実は変わらない」

 

「……! でも――!」

「セリカ、 ここでその点を言い争っても埒があかない。どうせ答えはわかりきってる」

 

シロコは手を振ってセリカを宥めると、改めてジェネラルに向き直った。

 

「借金云々以前に聞きたいんだけど、こんな大規模な設備と軍備を揃えて何をするつもり?」

「さっき言ったじゃないか。お宝探しだよ」

「信じられない。そんなものがあるって調査は聞いてないし、宝探しにしては明らかに武装が過剰。本当はこの設備は私たちの自治区を制圧するために用意したもの――違う?」

「軍事専門家兼経営者の身として言わせてもらうがね、君たち5人のためだけにここまで手間暇かけて準備するというのは非効率的すぎる。正真正銘お宝探しの邪魔に備えて用意しているものだよ」

「将軍と経営両方やっているってところから胡散臭い。創設したてのゲリラ部隊じゃあるまいし、わざわざその二つを兼業させるメリットがない。立場から言っている内容から何もかも信用ならない」

「以前はそういう体制だったのだが、前任者がいなくなってしまってね。人材不足で企業としては苦しい立場なのだよ」

「人材不足? 大企業の癖に?」

 

「……元はといえば一体どこの人間のせいでこうなっていると思って――おっと、いや、なんでもない」

 

ジェネラルは少し慌てた様子で咳払いするとそのまま続けた。

 

「そもそも君たちはそんな口を叩ける立場かね? アビドスくらいどうとでもできるのだよ……たとえば、こんな風に」

 

ジェネラルは胸元のマイクに口を近づけて小声で何かぼそぼそとつぶやいた。そのまま幾らかのやり取りを交わすと、「さて、アビドスの諸君。残念なお知らせだ」と終了して一同に向きなおる。

 

「どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったようだよ。金利が3000パーセント上昇してしまったそうだ」

 

「さっ、さんぜ……!?」

「それで、来月君たちが払うべき金額は91,304,025円ということだ」

 

 

 

――やられた!!!

 

おそらく、カイザーローンに働きかけて、利子を跳ね上げるように指示したのだろう。あまりにも露骨な嫌がらせ。学校に一切の抵抗権がないことを突きつけるためだけに、ここまで卑劣な行為を平然と行うことができる。あまりに冷酷で、人間性の欠如した行動だった。

 

「それと、一週間以内に3億円を保証金として預託してもらおうか。この金利でも借金返済を続けていけるということを示してもらいたいのでね」

『そ、そんな急に金利を跳ねあげるなんて……法外すぎて認められません……!』

 

アヤネも憤慨してスピーカー越しに抗議する。しかしこれは全く聞く耳をもってくれなかった。そしてさらに続けてこう告げる。

 

「ならば、アビドスを去ればいい」

 

「……!?!?」

 

一同はその言葉に瞠目した。ざわめきが波紋のように広がる。

 

「この学校に対する責任を放棄し、出ていけばいい。そもそも個人の借金ではないのだから、それで解決する。私からすれば君たちは些か不合理に付き纏われているだけの若人で、ここがなければ別に死ぬわけでもない。ここで粘るよりも、別の場所で生きていった方が有意義な人生を送れるとは思わないか?」

 

「……そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか!」

「そうよ! 私たちの学校なんだから!! 見捨てられるわけないでしょ!」

 

ノノミとセリカは同時に叫んだ。他の仲間たちも同様の思いを抱いているのか、激しく抗弁する。

そんな彼女たちの様子を見て、ジェネラルは鼻白んだように「フン」と笑った。

 

「君たち、まさか自分の置かれている状況を忘れたわけではないだろう? それとも何か? 他に何か良い案でもあるのかね?」

 

「くっ……!」

「……っ!」

 

ノノミとセリカは悔しそうな表情を浮かべながら黙り込んだ。他の者達も何も言葉を発することができずに俯く。

 

 

「……」

 

 

ただ一人を除いて。

 

 

 

「……みんな、帰ろう」

 

 

 

ホシノだった。

その静かな一言に驚いて全員が振り返る。

 

「これ以上ここで言い争っても意味がない、弄ばれるだけ」

 

ジェネラルは満足げに「いい判断だ」と告げた。その愉悦を滲ませた微笑みに一同は改めて敵意を向けるが、今はどうすることもできない。

 

「まあせいぜい悩むといい。期限は1週間後。それまでに保証金が支払えなければ――君たちの学校がどうなるかはわからないが、いずれにせよ君たちには期待している」

 

ジェネラルは護衛らしき周囲の兵士に、軍人らしいよく通る声で指示を出した。

 

「さあ、お客様のお帰りだ。お前たち、案内して差し上げろ」

 

 

 

 

 

 

満月が綺麗な夜だった。

先生は校舎の中、一人の生徒を待っていた。ほとんどの生徒は既に帰宅しており、校舎の中は静まり返っている。外から月の光が差し込み、廊下を仄かに照らしている。

 

窓から覗く空を見れば、いくらかの星を見ることができた。数多の学園で構成されるキヴォトスはその多くの地域が既に開発されており、都市から放たれる光で大抵は星を見ることは出来ない。だがここアビドスでは、いくらかの住宅街やビル群があるとはいえ、学校からでも3、4等星くらいまでなら視認できる。綺麗ではあるが、それは寂れたアビドスという土地の象徴でもあった。

 

「ふう」

 

先生は待ち人を待ちながら、これまでに起こった怒涛の出来事の数々を思い返していた。様々なトラブルが立て続けに起きていて、その都度できる限り適切に対応してきたつもりではあるが―――果たして、どれだけのことが上手くいっただろう。冷静に己の成果を分析しながら、先生は自嘲した。

 

そして先生は考える。今回の事件は一体どうやって解決したらよいのだろう。あの場ではジェネラルは3億円という数字を要求したが、一週間でそれだけの大金を用意する手段などない。それに、もし仮に保証金を渡せたとしても、金利が異常に上昇した以上は今後の返済に大幅な支障が出るのも明白だ。

 

どうすればいい? どうすればカイザーとの問題に突破口を見いだせる?

 

先生の頭の中で様々な意見が飛び交う。どれを取るべきか。どれが正しいのか。

 

――せめて、あのとき大人らしく導けたならよかったのに。

 

カイザーPMCの基地から帰ってきた後、対策委員会の間で今後の方針をめぐって激しい口論が繰り広げられた。当然と言えば当然の話で、どうすればあの額の資金が集められるのか。そもそも本当に保証金を支払うことこそが正しい選択なのか。

 

全員が必死で考えを巡らせ、様々な方向性を模索した結果意見は大きく割れ、それぞれが自分にとって正しいと思う道筋を主張した。そして、それらがぶつかり合うのは必然と言えるだろう。

先生はその場で議論をまとめることができず、いったん生徒たちを解散させた。

 

……自分がもっとしっかりしていれば。

こういう時、どうにか仲裁できてみんなの意志統一を促せたり、あるいは自分で正しいと思った方向を掲げたりできていたら。

 

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そんな悔恨が先生の心の中にはある。

これから自分は何をすべきか。答えが出せないまま時間が流れていく。ただ、刻一刻とタイムリミットが迫る中、迷いながら立ち尽くすことしかできない自分が情けない。

 

先生が自らの非力を呪っていた、その時だった。

 

「――先生、来たよ」

 

背後から声がかかった。先生が振り向くと、そこにはホシノが立っていた。月光に照らされた教室に佇む彼女の姿は幻想的であったが、どこか儚げに見えた。

 

「来てくれてありがとう、ホシノ。こんな遅くにまで残ってもらってごめんね」

「大丈夫だよ。それで先生、私に用事って? こんな夜の学校で生徒と先生の二人っきり……なんかこう、秘密の話って感じだねぇ〜」

 

冗談めかした口調で話すホシノの声音には覇気がない。疲弊が蓄積しているからか、それとも何か別の理由があってのことなのか、今の彼女の印象を一言で表現するとすれば“弱々しさ”ということになるだろう。

 

「そうだね、ある意味では秘密の話かな。ほら、こっち来て」

 

先生は苦笑しながら、椅子を引っ張ってきてそこに腰掛ける。そしてホシノを呼ぶと、机を挟んで向かい合わせになるように座らせた。

 

ホシノは素直に従ったものの、内心では戸惑っていたようで、落ち着かない様子だ。

だがそれも無理のないことだ。そもそもここに呼び出された理由もわからないのだから当然と言えるかもしれない。

ただ、呼び出しを断らなかったということは、ホシノ自身もこのままではいけないと思っていたのか、あるいは単純に興味本位だったのか――あるいは、何かを求めていたのか。

 

いずれにせよ、今は先生の話を聞こうと考えているようだ。だからこそこうして正面から向き合っているということだろう。

 

そんなホシノの態度を確認してから、先生は一枚の紙をホシノの前に差し出した。

 

「……! それって……」

「覚えてる? ――“退部届”だよ」

 

先生が取り出したのは、シロコから見せられたアビドス高等学校対策委員会の退部届だった。署名欄には「小鳥遊ホシノ」の名が、ホシノ自身の筆跡でしっかりと刻まれている。

先生が目配せすると、ホシノは観念したように机に肘をついて身を屈めた。そしてそのまま両手で顔を覆い、深い溜息を漏らす。

 

「うへ~、いつの間に……! これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね? 先輩の鞄をあさるだなんて……あの子も大胆になってきたね~。先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ~?」

「うん、でもそれは後でね。今はこの退部届について話をしよう」

「……うーん、逃がしてくれそうには……ないよね~?」

「聞かせてくれる?」

「…………」

 

ホシノはしばらく黙っていた。目線を下げ、机の面を見つめている。そうやって何秒間か沈黙していただろうか。やがて、やがて諦めたように話し出した。

 

 

 

「……先生は、死人が生き返ったとしたら、どう思う?」

 

「ん……?」

 

唐突かつ抽象的な問い掛けだった。予想だにしなかった質問に戸惑う先生を見て、ホシノは小さく笑う。

 

「ごめんね、いきなりすぎたかも。でも、自分自身でもまだ整理しきれていなくて、何があったのか、何から言えばいいのか全然わからなくて……。とにかく、そういう“奇跡”みたいなことがあったとしたらの話」

「何か比喩? 何があったかはわからないけど、あまりポジティブなものではなさそうだね」

「う~ん……このままじゃ絶対伝わらないよねえ。もう少し別の言い方をするとすれば……」

 

その声音に含まれるのは、悲壮感というよりも困惑の色が濃い。何かを自問し続けているような感覚。頭のなかでうまく捉えられず、理解できない概念を他人に話そうとする困難。

そして、その戸惑いから生まれる葛藤が、自らの感情さえも曖昧にしてしまっているかのようだった。

 

「たとえば、もう会えないと思っていた人に不意に出会うことができたとするでしょ? それは多分、とっても嬉しくて幸せなことだよね。だけど……その人が自分の知っている姿とすっかり変わってしまっていたらどう?」

 

先生はしばらくの間考えこんだ。

なぞなぞか何かなのだろうか? いや、その割には妙にリアルだ。もしかしたら実際にそういう体験をしたことがあるのかもしれない。

 

いずれにせよ、この問いが今のホシノにとってとても大切なものであることは、その雰囲気から容易に読み取れた。どう答えたものかと思案し、やがて先生は意を決して口を開いた。

 

 

 

 

 

「……びっくり、すると思う」

 

 

 

 

 

「……ぷっ」

 

あははははは!! とホシノは大きな声で笑い出した。

悩んだはいいものの、結局こんな答えしか出てこなかったことを恥じる先生。対するホシノは、ひとしきり笑いきると、満足気に息を吐いた。

 

「そうだよね、びっくりするよね~。うんうん、私もそう思うよ。やっぱり先生は面白い人だなぁ」

「ひ、酷い……。もっと先生らしく高尚なことが言えてたら……!」

「あはは、うそうそごめんね。先生が真面目に答えてくれたのはわかってるよ。ありがとう、先生。おかげで気持ちが楽になったかも。…………正直に話すよ」

 

ホシノは深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。

 

「……私は2年前からカイザーから提案を受けてた。病院を抜け出した日もその話をしててさ」

「――!!」

「アビドスに入学した直後からずっと、変な男から『アビドス高校を退学し、こちらの企業に所属してもらえれば、アビドスの借金を半額近く立て替えましょう』って申し出を受けてて。破格の条件でしょ? あいつらPMCで使える人材を集めてるみたい」

「じゃあ、この退部届は――」

 

向こうの提案を受けるつもりで書いたものなのか?

先生の心中での問いかけに答えるかのように、ホシノは首を横に振った。

 

「いや、ずっと断ってる。私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するかもしれないって思ってたってのもあるし、そもそも怪しいでしょ?」

「その提案をしてきている人は一体何者?」

「私も正体は知らない。ただ、私は“黒服”って呼んでる」

「“黒服”……?」

「黒いスーツを着てるから、そのまんま“黒服”。怪しいけど、ただただ私を勧誘してくるだけで特段問題を起こしたりはしなかった。ジェネラルとも対等に話せる立場の人みたいで、会う時は大体偉そうな奴と一緒にいることが多いから、カイザーの幹部クラスのやつなんじゃないかなって思ってる。」

 

その人物が只者ではないだろうことは、さっきの会話の流れからして想像ができる。組織内部でも相当高い地位にいる者――と見てまず間違いないだろう。しかし、それでもまだ何か釈然としない。

 

「……まだ何か引っかかってる、って顔してるね」

「流石にね。生徒一人のためにここまで固執する理由がわからなくて」

「私もそう思う。にわかには信じられないレベルの条件だし、絶対裏に何かがあるとしか思えないよね~。…………だから、さ」

 

ホシノはそう言うと机の上の退部届を手に取った。

そしてそれをビリビリと引き裂く。真ん中の部分を中心として、紙が二枚、四枚と段階的にちぎられていく。最後には小さな紙片となって床に落ちた。

パラパラと宙を舞う白い粉雪のようなかけらを見下ろしながら、ホシノは力が抜けたように椅子の背にもたれかかった。

 

「うへ~、スッキリしたぁ。これでようやく吹っ切れたかなぁ」

「……」

「余計な誤解を招いてごめんね。あいつらの提案に一ミリも惹かれていなかったって言ったら嘘だし、悩みもしたけど、やっぱ大事な時期に私が抜けちゃダメでしょ?」

「……」

「明日、みんなにもちゃんと自分で話すよ。聞かされたところで困っちゃうかもしれないけど、少なくともシロコちゃんには気づかれちゃってるわけだし、説明しないとわだかまりが残るだろうし。やっぱりかわいい後輩に隠し事をするのは良くないからね」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

――()()

 

 

 

 

 

 

 

そう思った瞬間、先生は咄嵯に口を開いていた。

 

「……ホシノ」

「ん? なぁに、先生?」

「もしかして、だけどさ……。何か、まだ話していないことがあるんじゃない?」

「…………」

 

以前から怪しい提案を受けていたというだけの話なら、なぜこのタイミングで病院から脱走してまで“黒服”とやらに会う必要があったというのか。

 

ホシノは、返事をしなかった。

 

机の上に散った退部届の紙片に視線を落としたまま、まばたきだけがやけにゆっくりと繰り返される。ふざけた口調も、だらしない笑いも、いまは見当たらない。月光に照らされた横顔は、年相応の少女というより、長い間ひとりで何かを抱えてきた人間のそれだった。

 

先生は、何も言わずに待っていた。

 

追及すれば、ホシノはもっと奥へ引っ込んでしまう。そういう直感があった。だから、ほんの少しだけ声の温度を落とした。

 

「責めたいわけじゃないんだ。ただ……何かがあるなら、一人で背負わないでほしい」

 

その瞬間、ホシノの肩がぴくりと跳ねた。

 

顔を上げる。口を開く。――けれど、言葉が出ない。

 

一度、喉の奥で詰まったものを飲み込むように、ホシノはごくりと唾を飲んだ。言いかけて、止める。視線が宙をさまよい、先生の顔を見て、また逸れる。ほんの数秒の間に、彼女の中で何かが行ったり来たりしているのが分かった。

 

やがてホシノは、ふっと息を吐いた。

 

「……先生ってさ、ほんと鋭いよね~」

 

力の抜けた笑い。いつも通りの軽口のはずなのに、どこか間がぎこちない。先生は理由を言葉にできないまま、その違和感を胸の奥に留めた。

 

「実はさ、黒服から、変なショットガンを受け取った」

「……ショットガン?」

 

先生が思わず聞き返すと、ホシノは「うへ~」と肩をすくめる。軽く流そうとしているのか、本当に軽い話のつもりなのか、先生には判じきれない。ただ、口に出した途端、彼女の顔からほんの少しだけ緊張が抜けたようにも見えた。

 

「なんかゴツいやつ。ほら、爆破事件があったって聞いて病院を急いで向けだしたはいいんだけど、いかんせん急いでたから丸腰でさ。困ってたら黒服の部下の人が通りがかって、黒服と取り次いでくれたの。そしたら、そういうことなら武器をくれるって言うからついていって……って感じで」

「怪しすぎない!? ……っていうか、抜け出した理由ってそういうことだったの?」

 

先生の声が、思っていたより大きく教室に響いた。静まり返った空間のせいで余計にそう感じる。ホシノは肩をすくめ、誤魔化すように笑った。

 

「うん、怪しい。めちゃくちゃ怪しい。だから先生に言いづらかったんだよ~」

 

 

……なるほど。確かに、話の筋は通る。

 

先生の中で、宙ぶらりんだった部分が一つ埋まった感覚があった。

少なくとも、「病院を抜け出すほどの焦り」の理由として、“爆破事件を聞いた”という動機は分かりやすい。丸腰で向かうのを避けて武器を得た、という流れも無理はない。

 

「……でも、隠してたのはごめんなさい。怒られると思って。あと、先生に心配かけたくなかったし」

「……隠したくなる気持ちは分かるよ。分かるけど」

 

先生は言いかけて、やめた。怒鳴りたいわけじゃない。責めたいわけでもない。しかし、いったん確認すべきことがある。

 

「その“変なショットガン”ってやつ、まだ持ってる?」

「……持ってるよ」

「どこに?」

「ロッカーの中に入れてる。持ち歩くのは何となく気味が悪くて」

「危険かもしれないから確認したいんだけど」

 

ホシノは「まあ、そうなるよね」といった様子で素直に席を立つと、教室の隅にあるロッカーへ歩いて行った。先生の視線を感じながら、彼女は自分のネームプレートがかかった扉を開ける。

金属の擦れる音とともに、乾いた埃が微かに舞った。

 

中から黒い布に包まれた細長い塊が取り出される。布の端はきっちり巻かれていて、雑に放り込んだわけではないのが分かる。ホシノはそれを抱えるようにして戻り、机の上に置いた。

 

「……これ」

 

布を解くと、月光を鈍く反射する金属の塊が現れた。表面に企業を示す類の刻印やロゴマークは一切なく、ただ黒曜石のように光を吸い込む艶を帯びた表面は、どこか異質な印象を与える。少なくとも先生の脳内に、これと合致する製品情報は存在しなかった。

 

無骨で、どこか試作品じみたデザインだ。実用性というより、何か特殊な目的を感じさせるような。

 

先生は慎重に触れず、目だけを寄せる。

構造自体には特別な機構があるようには見えない。

 

「風紀委員会との戦闘で使ったんだよね?」

「……うん。流石に体術だけだと無理があったし。何か企んでるかも……とは思ったんだけど、なりふり構っていられなかった」

「何ともなかった? 大丈夫?」

 

先生は思わず眉をひそめた。その表情を見たホシノはすぐに話を付け加える。

 

「ちょっと心配だったけど、結局何事もなかったよ。特殊な口径の銃弾を使うから装填やら取り回しにクセがあったりしたけど、本当にそれだけ」

 

そう言って、ホシノは両手をひらひらと振る。大したことじゃない、という仕草。

先生は、その仕草をじっと見つめながら、ひとまずホッとした。

 

少なくとも、致命的な事態は起きていない。

不可逆な何かが起きた様子も、今のところは見えない。

 

「……でも、そうだね。もうこんな怪しいものを持っている必要もないよね」

 

ホシノはそう言うと、どこか吹っ切れたように机の上のショットガンを拾い上げた。まるで、今まで握りしめていたものを離すかのように、軽やかに。

 

「――よし、壊しちゃおっか」

「え?」

 

先生が反応するよりも早く、ホシノは銃の両端を持つとバット折りの要領で膝の上に叩きつけた。刹那、乾いた破裂音とともに金属の塊が衝撃で歪む。

ベキン、と鈍い音を立てて、銃身はあっけなく真っ二つに折れた。

 

「――!!」

「何を企んでるか知らないけど、こうしちゃえばもう大丈夫でしょ。うんうん」

 

ホシノは壊れた銃を布で包みなおし、ロッカーへ戻して扉を閉めた。カチャリ、と金属が噛み合う音がする。まるで一つの話題に蓋をするかのようでもあった。

 

「……さーてと、この話はこれでおしまい。だいぶ遅くなっちゃったし、もう帰ったほうがいいんじゃない? おじさんもう眠くなってきちゃったよぉ~」

 

ホシノが立ち上がり、伸びをする。

 

「また明日ね、先生」

 

ドアに向かって歩き出す背中は、いつも通りだった。何も変わっていないように見える。でも――。何かを押し込めて、強引に終わらせた。そんな気がして、先生の胸に棘が残る。

無理に踏み込むべきかどうか、先生はその場から動けずにいた。

 

しかし、やがて――。

 

 

 

 

 

「ホシノ!」

 

 

 

 

 

「……!? な、なに?」

 

ホシノが振り向く。

 

「私が大人として、どうにかする! だから、黒服の提案に乗ろうとか、そういうことは……!」

 

ホシノは目を丸くして、それから「うへへ」と笑った。

 

「……私、そんなに元気なさそうだったかな?」

 

月明かりがホシノの横顔に少しだけ影を落とす。窓の隙間から、澄んだ夜の空気と共に、アビドスの静寂が忍び込むように入ってくる。

 

「うん。ありがとう、先生。今度こそ、また明日ね」

 

ホシノはそう言って教室を後にした。先生は遠ざかっていく背中をただ見つめていた。

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

対策委員会の部室で、ホシノの退部届が見つかった。




黒服から渡された気味の悪いショットガンは壊しておいたぜ!(クロム並感)



使い道の無くなったかんたんシロコをここで供養します。これを使用する予定の話があったんですが、全部書き直した結果使用予定シーンが消滅しまして……。はよ壊れたペンタブ買い替えてえ。

【挿絵表示】

↓裏話コーナー
https://notes.underxheaven.com/preview/7022ec9a68c3c1acd51fda7421903a46
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