オシリスのユメ   作:新人先生

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今回ですが、たぶん過去一セリフの比率が高いです。
読みにくかったら申し訳ないです。



前話の警告に関連してもう少し補足します。
警告の内容は事実ですが、筆者は王道とハッピーエンドが好きですし、ことブルアカにおいては曇らせモノであろうとそういう方向性を大事にしたいとも思っています。ですから過程はどうあれ、無駄に鬱っぽいエンドにはしないつもりです。

理屈上ハッピーエンドを採用する妥当性が乏しく、個人的な願望のみに基づいてハッピーエンドにするとストーリーが荒唐無稽になる、みたいなケースに限りそれ以外のエンドへと分岐します。


第15話 黙っておけば

「――というわけだ。生徒会のメンバーだった小鳥遊ホシノと違って、君たち対策委員会はしょせん非公認の存在で、学園都市の学校として自立・存続できる法的根拠を持っていない。したがってアビドスの土地を所有している我々カイザーコーポレーションが、仕方なく自治区の運営を引き継がせてもらおう」

 

「……!」

 

ジェネラルは、わざとらしい仕草で肩をすくめた。

どうにか反論しようと、アヤネは脳内を必死に稼働させ言葉を探るが、出てこない。

ジェネラルの言っていることは事実として正しい。対策委員会が発足したときには、既に生徒会は機能しておらず、公式な許可を得られる手段など無かったからだ。

唯一残っていた最後の生徒会メンバーだったホシノが退学したことによって、アビドス高校には公的な組織が一切存在しなくなってしまった。

 

「――残念だったな。今まで頑張ってきたのだろう? それが報われないというのは、実に残念なことだ。しかし同時に、これは君たちが借金から解放される絶好の機会でもある。あの莫大な額を返済しようなどと努力するだけ無駄なのだから、これを機に潔く諦めることにしたほうがいい」

 

「なによそれ……! アンタたちが原因なんじゃない!」

 

「勘違いしてもらっては困る、我々が原因ではない。合法的に、両者の合意をもって結ばれた契約の行きついた先なのだから、アビドスの自己責任だ」

 

「っ……!! よくもぬけぬけと……!」

「それ以上言ったら、撃つよ」

「で、ですが……」

 

シロコがいつでも撃てる構えで銃口をジェネラルに向けようとするが、ノノミは逡巡する様子を見せた。アヤネにはノノミのその気持ちがよく理解できた。

 

「……今ここで戦ったとして、何かが変わるんでしょうか?」

 

「アヤネちゃん!?」

 

「今も、すごい数の兵力がこちらに向かってきています……。たとえ勝ったとしても、土地が戻ってくるわけじゃありませんし、借金だって残ったままで……。公的な意味で学校が存在しなくなってしまったのも事実ですし、学校が無いのなら、もう戦う意味すら……」

 

――それに何より、ホシノ先輩だっていない。

 

そんな状況で、戦う理由が、意義が果たしてどこにあるというのだろう?

 

アヤネは俯いた。

悔しさよりも、疲労のような感覚の方がずっと重かった。

ここまで来て、まだ諦めたくないという気持ちも確かにあるのに――具体的な道筋も、確信も、何一つとして見えない。

 

「そうだろう? つまり、もはや君たちの戦場はここじゃない。別の場所で青春を存分にやりなおせば――」

 

ジェネラルが雄弁に語りかけようとするが、彼はその言葉の続きを飲み込むことになった。

突如として爆発音が鳴り響いたからだ。

 

「――!? なんだ!?」

 

「き、北の方で大きな爆発を確認!! 合流予定だったブラボー小隊が巻き込まれて――!」

 

「何!?」

 

再び轟音が鳴り響き、今度は東側に配置されていた部隊から緊急の報告が飛ぶ。

 

「こちらも同じく攻撃を受けました! 何者かが奇襲を仕掛けてきていて……!」

「チッ……! 敵の規模は一体どの程度なんだ!? さっさと詳細を確認しろ!!」

「は、はいっ!!」

 

ジェネラルは大声で叱咤すると、すぐさま他の部隊への指示を送り始める。

対する対策委員会たちは、各方向からの絶え間なく続く爆発音と緊迫した無線の声に、目を丸くしていた。

 

 

「――『私たちの戦場はここじゃない』? 『やり直せる』? 笑わせるわ。仲間が危機に瀕していているとわかっていて、黙って指を咥えて見ていろとでも?」

 

そのとき、聞き覚えのある凛とした声とともに、コツコツとハイヒール特有の鋭い足音が響く。

対策委員会たちが振り向くと、そこにはもはや見慣れてしまった姿の少女たちがいた。

 

 

「なに俯いてるの。むしろこれ以上に戦うべき戦場があると思って? 青春はやり直しがきくようなものじゃないわ。私たちにとっても、あなたたちにとっても、学生には“今ここ”しかないのよ」

 

「アル!! それに――」

 

「『便利屋68』、救援に来たわよ!」

 

 

 

 

 

 

「貴様ら……! 雇われの分際で雇用主に向かって……!」

「うるさいわね、そんなの知ったこっちゃないわ! 雇い主を裏切るなんて悪党としては当然のことよ! そんなことも予想できなかったのかしら?」

「悪党にも悪党なりの仁義があるとばかり思っていたがな……!」

「金銭で結ばれただけの一時の関係でしょう? あなたたちに向けるべき“仁”も“義”もないわよ」

 

 

 

「べ、便利屋の皆さん……! どうしてここに……?」

 

ジェネラルとアルが怒号を交わしている横で、突如として現れた便利屋たちに驚きを隠せないアヤネが尋ねた。

 

「ラーメンを食べに来たら、たまたまってだけ。はあ、どうしていつもいつも……」

「くふふ、これで助けるの三回目だよ~? 銀行、風紀委員会、そして今回。ね? 前にお互いやり合ったのを含めたとしても、そろそろお釣りが来るくらいでしょ?」

「ま、前に仕掛けた爆弾がまだ残っていてラッキーでした……」

 

カヨコ、ムツキ、ハルカが順に答える。特にムツキは嬉しそうに口角を吊り上げてニヤついていた。

 

「あはっ。もしかしてメガネっ子ちゃん、泣いてる?」

「なっ……! な、泣いてません!」

 

アヤネはそう言いつつも目元を拭い、制服の袖で抑えた。知らず知らずのうちに流れてしまっていたらしい。

 

「もー、カワイソウに。私の可愛いメガネっ子ちゃんを泣かした罪は重いよ? だからもうこれは……」

 

そんなアヤネにムツキはクスクスと笑った。

 

 

 

「ぶっ殺すしかないよねっ!!!」

 

 

 

かと思えば、突如豹変して吼えた。

 

「…………え?」

 

「ね? ハルカちゃんもそう思うでしょ? アイツらぶっ殺すの手伝ってくれるよね?」

「は、はい……! やります、ぶっ殺します……!」

「もっと気持ち込めて?」

「はい!!! 真心こめて殺します!!! 殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺します殺しま」

 

 

 

 

 

 

(え、怖……)

 

アヤネは内心戦慄を禁じ得なかったが、何か口に出すようなことはしなかった。空気を読んだとかではなく、普通に怖いからだ。

 

「ムツキ、あんまりやるとハルカが本当に殺戮人形になっちゃうからその辺にして」

「んー、いい感じで楽しくなってきたとこだったんだけど……まあいっか」

「ん。前から思ってたけど、あの人イカれてるよね」

「銀行強盗犯は人のこと言えないでしょ」

「……確かに。私たちの方がイカれてるかも」

「なんでちょっと誇らしげなの……?」

 

延々と続きそうだったハルカの殺害宣言はとりあえず中断され、何故か耳をぴょこぴょこさせるシロコにカヨコがツッコミを入れた。

 

「――何はともあれ、今こそ協業の時よ!」

 

いつの間にかジェネラルとの応酬を中断していたアルが、先生に向けて堂々と言った。

 

「先生。あなたは私たちにとって、ビジネスパートナーとしてカイザーよりずっと魅力的よ。だから関係を構築するための先行投資をしてあげる」

「――ありがとう! アル!!!」

「ふふっ。合わせられるわよね?」

「もちろん!」

 

先生の返事に満足そうな笑みを浮かべるアルに対し、先生は自信満々に応えた。

 

「便利屋のみなさん、ありがとうございます……!」

「言っとくけど、紫関ラーメンの件は忘れたわけじゃないんだからね!! でもそれはそれとして、アイツらをぶちのめしてやらないと気が済まないわ!!!」

 

ノノミの感謝の言葉に続いて、セリカが啖呵を切る。そんなセリカに続き、先生は便利屋と対策委員会双方の生徒たち全員が見える位置に移動すると、声を張り上げて呼びかけた。

 

「――よし! それじゃあ、やるよ!! みんな!!」

 

そうして先生の号令と共に、便利屋を加えた対策委員会の猛攻が始まった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……先生。その前に、ちょっとだけいいかしら?」

「……? どうしたの? アル?」

 

――はずだったのだが、ちょんちょんと先生の肩をつついてきたアルにより、開始が少し先送りになっていた。

 

「あの、その……。この空気だとちょっと言いにくいことがあるんだけど、先生に指揮してもらう以上、伝えておかないといけないと思って……」

「へ? う、うん。大丈夫。聞いておくよ」

「……ごめんなさい! 実は、私たち色々あってあんまり弾薬の残りが無いの」

「え!? ……まあ、でも少しくらい何とかするよ。ちなみにアルはどのくらい残ってる?」

 

アルはおずおずと指を三本立てた。

 

「……30発?」

「いや、あの、3発……

「さ、さん!?!?!?!?!?!?」

 

先生は思わず聞き返してしまった。

便利屋がまさかここまでの貧乏性を披露してくれるとは思っていなかったのだ。

 

「し、仕方ないでしょう!? 最近収入に対して戦闘が多すぎるのよ! 弾薬買うのにもお金が必要なの!!」

「いや、でもそれにしたって、3発ってのは……」

 

「あははは! 『じゃあなんで来たんだよ』とか『何もできないじゃん』とか思うでしょ? それでもやっちゃうのがアルちゃんなんだよね〜」

「ご、ごめんなさいごめんなさい……! 私が無駄遣いしたり、暴走していくらかダメにしたせいです……! 死んでいいですか? 責任取って死んだほうがいいですよね?」

「ハルカ、落ち着いて! あなたのせいじゃないから!! 確かにそれもちょっとはあるけど、私たちが根本的にお金が無さすぎるのが原因だから!!」

「…………」

「カヨコ!? 無視しないでよ! 呆れてないで何か言ってくれてもいいんじゃない!?」

 

先生は半ば置いていかれていた。急展開に頭が追い付いていないのである。

 

「でも先生! 私以外はもうちょっとあるから! 安心していいわよ!」

 

「おい、貴様ら!!! さっきから何をゴチャゴチャと話し合っている! そっちから来ないならこっちから行くぞ!」

 

「ん。ジェネラルも割り込んできた。どうするの? 先生」

 

「あ~もう! なんでいつもこう最後が締まらないの!! せっかくいい感じだったのに~!!」

「社長がいつも身の丈以上に格好つけるからだよ」

 

「どうした!? 今更怖気づいたのだとしても、もう遅いぞ!」

「はいはい、今やるよ〜♪ オジサンは我慢が効かないんだから」

 

 

 

そして、今度こそ戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

意外というべきか、それともやはりというべきか、便利屋と対策委員会たちはカイザー側の予想をはるかに超える奮戦を続けていた。

彼女たちによって身を隠すのに使われたであろうガードレールやコンクリートブロックには弾痕が刻まれ、粉塵が舞い上がるなか、戦況は激しく入れ替わる。

カイザーの兵士たちは次々と狙いを定め、引き金を引くが、それらが命中するのはほんの一握りに過ぎなかった。

 

しかし、状況は決して対策委員会と便利屋側にとって有利なものとは言えなかった。

 

「くっ……!」

「カヨコさん!! 大丈夫ですか!?」

「……っ! 大丈夫。ちょっと掠っただけ」

「どう見てもモロに食らってますよ! 無理しないでください!!」

 

爆風で吹き飛ばされ、その拍子にカヨコはガシャンッと派手な音を立てて路肩に放置されたトラックの荷台に背中を打ち付けた。

それでもカヨコは痛みを押し殺したような声で強がってみせると、慌てて隣の建物の影から駆け寄ろうとするノノミを手で制止し、すぐに銃を構え直した。

 

「相手は完全に統率されてる……。プロなだけあるよ。そこらへんの傭兵なんかよりずっと個々の兵士のレベルが高いし、指揮官(ジェネラル)も優秀ときた」

「マズいですね……。先生も最善を尽くしてくれているのは分かるんですけど、防衛ラインが徐々に圧されているのがわかります」

 

アヤネのオペレートも先生の指揮もほぼ完璧と言ってよいレベルの出来栄えだった。

しかし、如何せん兵力の差が大きすぎる。訓練と実戦で鍛え抜かれた軍隊の猛攻の前では、いかに個々の戦闘能力が高かろうと消耗を避けられない。

 

その上ジェネラルは戦場の全体を見極める統率力を遺憾なく発揮していた。

絶えず指示を飛ばして編成を整え、連携の隙を作らないように徹底する。さらに攻勢が鈍ってきた箇所には新たに増援を送り込んで、常にプレッシャーを与え続けた。

その結果として、戦闘開始時点では均衡していた戦線は徐々に、しかし確実に後退し始めていた――

 

 

 

 

 

ジェネラルは有利に傾きつつある状況を見てなお、一切の油断も驕りもなく冷静に分析を続けていた。

 

「……さすがは先生、見事な采配だ。お前たちもしっかり見ておけ。勉強になるぞ」

「――! ジェネラルがそこまでおっしゃるとは……」

 

ジェネラルは傍に控えていた部下の一人に告げる。

そのとき無線で別部隊から報告が入った。

 

『こちらマイク小隊、敵左翼側を大きく迂回中です。成功すれば2分後に挟撃可能!』

「なに? セオリーと違うだろう。何故そんなことをしている?」

『セオリーとは違いますが、だからこそ意表をつけるかと。責任は私が負います!』

「……まあ、裁量権の範囲内ではあるか。了解だ。タイミングを見計らって突破しろ。奴らを分断して孤立させることができれば、この戦いは我らの勝利だ」

 

できるものならな、と誰にも聞こえない音量で呟き、通信を切る。

 

先生が優秀であること自体は当初から認識していたが、その評価は実際の戦闘を見たことでさらに強固なものとなっていた。

戦場のあらゆる情報を瞬時に把握し、適切な判断を下せる才覚。並の司令官では到底不可能な芸当であり、この状況でここまで粘られているという事実に、彼は確かな畏敬の念さえ抱いている。

 

「――だが、こうして戦ってみてわかったこともある。我々にとっては好都合だ」

「……? と申されますと?」

「あいつは天才ではなく、()()()()()()だ。私も同じタイプだからよく理解できる」

 

確かに戦況を見極める速度と指示の精度は高い。生徒個人の特性も把握しており、それを活かした配置・運用も無駄がない。

 

しかし、そこまでだ。

 

よくよく個々の戦況を分解して分析してみれば、先生の指揮には必ずしも斬新かつ非凡な要素が含まれているわけではないことがわかる。

良くも悪くも教本に載っているような基本の組み合わせだ。その引き出しの多さと、取り出し、組み合わせるスピードが他と段違いなのである。

それは無論称賛に値する才能であり、凡人が十年を費やしても到達できるかどうか分からない領域の境地ではあるものの、要するに“優れた模範解答”の域を出ていない。

 

「ああいうタイプは、非常識な変化球を自分から投げることは決して無い。枠組みから逸脱する勇気を持たないからこそ、平均以上の力を安定して発揮できるとも言えるがな」

「では……我々がその変化球となれば、教本通りの対応しかできない先生は対処できないと?」

()()。変に搦め手を使って無駄な弱点をさらせば、向こうは基本の組み合わせで一番妥当な対応をしてくる。想定外であろうと、その狙いを解釈・把握する奴の速度は恐ろしく早い。それが相手の一番の武器だ。今に見ていろ、おそらくもうすぐ――」

 

ジェネラルがそこまで話したとき、再びマイク小隊から通信が入った。

 

『こちらマイク小隊! 分断されることを察知したのか、敵が迅速にこちらへと火力を集中させてきました! 非常にまずい状況です!!』

「……いったん戻れ。分断作戦は捨てろ」

『了解……!』

 

ジェネラルは部下の方へ「ほらな?」と言わんばかりの眼差しを投げかけた。

 

「――ということだ。こちらが意表を突こうとすればするほど、そのスキが逆に利用される」

「しかし……それなら、どうすれば?」

「重要なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。こちらの奇策には対応できても、奴が自分からその土俵に乗りこんでくることは決してない。過去の戦闘――たとえば、対風紀委員会の戦闘でも突飛なことは一つもしていなかった。だろう?」

「ええ、仰る通りです」

「本来ならば、あの戦いは風紀委員会側の勝ちだった。“暁のホルス”というイレギュラーが割り込んできたことでうやむやになってしまったが、あのまま風紀委員会側が真正面から堅実に押し切る戦略を貫いていれば、物量差で風紀委員会が勝利を収めていたはずだ。ならば我々もじっくり焦らず戦えばいい。長期戦になれば、いずれ必ず向こうの物資は枯渇する。なんなら、既に限界が近づいているかもしれないぞ? その場合、この場は一旦退却して補給を目指す……というのが最もありえる選択肢だろうな」

 

相手がどれだけ卓越していても、型の中で戦う限り、型通りの応じ方さえ心がけていれば不利になるということはない。

問題となるのは、対風紀委員会戦における“暁のホルス”のような何かしらのイレギュラーが介入してくるケースだが、彼女は今や黒服が掌握している。ここには来られない。

また、連邦生徒会もアビドスの再三にわたる救援要請を無視している有様で、とても介入してくるとは考えにくい。

 

ゆえに、不必要な弱点を作らないことを最優先に、秀才の流儀に合わせて“模範的な戦い”を反復し続ける。それが最も合理的な勝利の道だと、ジェネラルは確信していた。

 

 

 

――やがて、その時はすぐに訪れた。

 

 

 

「……――!! 敵、撤退を開始しました! かなり急いでいます!!」

「――やなりな。すぐに追撃しろ。補給されたり、ゲリラ戦に持ち込まれると厄介だ。この場で仕留め切るぞ!!」

「はっ!!」

 

ジェネラルの号令一下、カイザーPMCの兵士たちは先を争うように動き出した。

 

「私が乗る装甲車両も準備できているか?」

「えっ。ジェネラルも彼女たちを追うのですか? 前線からの報告を元に、この場で指揮し続ければいいのでは……?」

「馬鹿を言うな、立体的に入り組んだ市街地での戦闘だぞ。この場にとどまっていては、詳細な地形の把握すらろくにできん。ここが勝負どころなのだから、現場に赴いて直接指示を出すのは当然のことだ」

「し、しかし……危険ではありませんか?」

「最低限の距離は取る。いいから準備を急げ!」

「は、はい!」

 

部下を怒鳴りつけ、車両を準備させる。1分もしないうちに、準備完了の報が入った。

ジェネラルは部下に随伴させ、すぐにでも車両に乗り込むべく歩き出した。

 

そしてジェネラルが建物の影から出た瞬間――

 

 

 

突如として、彼の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

「――みんな、聞こえる?」

 

戦闘開始直後、先生は指揮の合間を縫い、便利屋と対策委員会全員に向けて通信回線を開いた。

 

『聞こえています。先生』

『こっちは聞こえてるよ』

 

「今のうちに作戦の概要を伝えるね。戦闘が激しくなったら、細かいことを伝えてる暇もなくなるから」

 

アヤネとカヨコの返事を皮切りに、皆がこちらの話を聞く体制を整えたと見た先生は、作戦を述べ始めた。

 

「作戦はいたってシンプル。敵の頭を潰す。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』なんて言葉もあるけど、今回はそんな悠長なことは言ってられないからね。ジェネラルだけをピンポイントで排除する」

『ジェネラルを……? いえ、でも先生……。難しいことを仰るんですね』

「そうだね。正面から行ったら成功率は0%と言っても過言じゃないと思う。いくらなんでも物量差的にあの人たち全員相手にするのは無理があるから」

 

先生はノノミの疑問に同意を示しつつ、続ける。

 

「だけど、“直接”戦わなければ何とかなる可能性がある。まずはある程度防衛戦を行いながら時間を稼ぐ。そして、十分に消耗したところで、『一度撤退して補給したい』っていうフリをする」

『あ~! 私わかっちゃたかも、先生! 偽装撤退して有利な地形に誘い込んでから、反転攻勢を仕掛けるってことでしょ!』

「いや、ごめん、セリカ。違う」

『あ、あれ……?』

「多少の地形有利だけでどうこうできる差じゃないからね。最初にも言った通り、私たちの狙いは『ジェネラルをピンポイントで排除する』ことだよ」

 

『ん。まったく、セリカは早とちり』

『うっさい!』

『それで先生、具体的にどうやってジェネラルを倒すんですか?』

 

シロコとセリカがやいのやいのと言い合う様子を背景に、アヤネが問いかけた。

 

()()()()。もうちょっと言うと、まず狙撃手をその辺のビルの一室かどこかに隠して伏せておく。そして、偽装撤退に相手が食い付いてくれたら、建物の陰から出てくるところを狙撃するんだ。そして、その狙撃はアルにやってもらう」

 

『え!? 私!?』

『くふふ、ちょうどいいんじゃない? スナイパーはこの中にアルちゃんしかいないし、そもそも3発しか残弾が無い状態で通常の戦闘には参加できないでしょ?』

『で、でもそれって……もし私の居場所がバレたり、狙撃を外したりしたら……』

『……作戦は全部瓦解するね』

『責任重大じゃない!!』

 

カヨコの残酷な事実の指摘に、アルは悲鳴にも似た声をあげた。

 

『――私は反対です、先生』

 

そんな中、アヤネは静かに意見を表明した。

 

『相手は組織化されたプロです。指揮官を一人倒したところで、別の誰かがすぐに代役を務めることができるはずです。わざわざそのようなリスクを冒してまでジェネラルだけ倒しても、あまり戦局を変えるような要因にはならないと思います』

 

アヤネの懸念はもっともであった。戦術的には正しい判断である。彼女が提案しなかったとしても、先生自身もその懸念に関しては十分認識していた。

 

「普通ならね。でも今回に限ってはそうじゃないと思う」

『なぜです?』

「PMCの基地でシロコとジェネラルが言い合いをしたときの内容、ちょっと思い出せる?」

『……? ええっと、あのときは確か――』

 

 

 

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『軍事専門家兼経営者の身として言わせてもらうがね、君たち5人のためだけにここまで手間暇かけて準備するというのは非効率的すぎる。正真正銘お宝探しの邪魔に備えて用意しているものだよ』

『将軍と経営両方やっているってところから胡散臭い。創設したてのゲリラ部隊じゃあるまいし、わざわざその二つを兼業させるメリットがない。立場から言っている内容から何もかも信用ならない』

『以前はそういう体制だったのだが、前任者がいなくなってしまってね。人材不足で企業としては苦しい立場なのだよ』

『人材不足? 大企業の癖に?』

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『……あっ! “人材不足”!!!』

 

アヤネは思い出したのか、小さく声を上げた。

 

「そう。だからジェネラルは、指揮官レベルにおける現在の人事的余裕がゼロだってことをうっかり自分から暴露してる。なんでそうなってしまったのか、ということはわからないけどね。しかも以前と同じようなシステムに戻せないほど人材が不足しているらしい」

『そうですね、思い出しました。普通、このような大規模な戦力を持つ集団であれば、指揮系統のバックアップは不可欠なのに……』

「だから、たぶんジェネラルさえ潰してしまえば、後は指揮を執れる人間はいなくなるはず」

『なるほど……! 確かに、それなら私たちでも勝機はありますね』

 

「そういうこと。それじゃあ、作戦開始! まずは正面の敵相手に時間を稼ぐよ!」

『わかりました……! それでは先生、いつもどおり指揮をお願いします!』

 

先生がそう呼びかけると、対策委員会は迅速に行動を開始した。

 

『えっ、先生? 私まだ覚悟が固まり切ってないんだけど――』

『社長、もう諦めて。自分から首を突っ込んだことでしょ』

『くふふ、ハルカちゃんもアルちゃんならできるって信じてるよね?』

『もちろんです! アル様ならきっとやれますよ! 絶対に外しません、絶対に失敗しません、絶対に――』

『だ、だから落ち着きなさいってば!! わかったわよ、やればいいんでしょうやれば……!』

 

一方、便利屋たちはワンテンポ遅れて動き出した。

 

 

 

 

 

 

「ううぅ……緊張するわ……」

 

戦場を一望できる、とあるビルの一室。

住んでいたはずの人間は退避済みだったが、床には書類や乱雑に置かれた雑誌などが無造作に広がっている。慌てて避難したのだろう。

 

その一角でアルは膝をつき、窓際に陣取ってスナイパーライフルを構えていた。

 

(ゆ、指の震えが止まらない……)

 

スコープ越しの景色は、地震でも起きているのかと見紛うほどに揺れていた。

何度も呼吸を深く吐いて落ち着かせようと試みているのだが、一向に収まる気配はなかった。

 

無理もないことだった。

 

自分のこの指先に、戦局が全て掛かっているというプレッシャー。

地上では他のメンバーたちが先生の指揮の下に奮戦を繰り広げているが、自分が失敗すればその努力も水泡に帰してしまう。

 

そして自分自身や仲間たちでなく、この街の人々の生活や未来までも、すべての選択がこの一瞬に凝縮されているという自覚が、アルの全身を強張らせていた。

 

背筋をつうっと冷たい汗が流れていくのを感じる。

 

(大丈夫……私ならできる……! 気張りなさい、陸八魔アル!!)

 

そう心の中で自分を鼓舞する。

しかし次の瞬間、窓の外から聞こえてくる爆発音がさらに鼓膜を揺らした。

 

(ひぇ……っ!)

 

無意識に身体に緊張が走り、息が詰まる。

打つ瞬間にこれが起こっていたとしたら、狙いを外していたかもしれない。

 

――本当に、できるのか?

 

そんな疑念が再びアルを侵食しようとしていた、そのときだった。

 

『――アル、聞こえてる? 今大丈夫かな?』

 

若干ノイズが混じった声がイヤホン越しに聞こえた。

 

「あっ、先生? 大丈夫、聞こえてるわ。どうかしたの?」

『よかった。こっちは予定通り戦況を進められてる。後もう少ししたら偽装撤退に入るから、それまでもうちょっと待機でお願い』

「――! 了解よ、任せてちょうだい。期待には応えて見せるわ」

 

アルは精いっぱい強がって答えた。

そうしないと、不安に負けてしまいそうな気がした。だが先生はそれを見透かしたように続ける。

 

『――アル。怖い?』

「えっ?」

『ごめんね。こんなに重要な役割をいきなり任せちゃって』

「そ、そんなことないわ! 私が自分から首を突っ込んだことだもの。今更文句なんて言わないわよ」

『……うん。アルがそう言ってくれるのは、わかってた。でもね――正直に言う。私は……怖い』

「え……? も、もしかして私……信用されてない? 失敗しそうって思われてる?」

 

アルは思いっきり動揺しながら言葉を返した。

先生も慌てて否定する。

 

『あ、違うよ!? アルのことじゃなくて、私自身が怖がってるってこと』

「……先生が?」

『うん。正直、こんな賭けみたいなことするの初めてでさ。アルのことは信頼してるし、絶対大丈夫だと思ってるけど、それと怖いって気持ちは別なんだ』

 

戦場の雑音に紛れてしまいそうな、そんな声で先生はアルに語り掛ける。

 

『本当に初めてなんだよ。一個間違っただけで全部崩れてしまうような、そんな作戦を選ぶことなんて今まで無かった。でも今回は違う。アルですべてが決まる。それしかないのはわかってるし、アルのことも信じてるけど、それでもやっぱり怖い』

 

アルは無意識に唾を飲み込んだ。

 

『さっきアルが「任せて」って言った時、すごく嬉しかった。でも怖いって気持ちを、隠したまま任せるのはちょっとズルいでしょ? アルは強いし、格好つけるし、たぶん思っててもここで弱音は吐かない。だからこそ、いま、アルにだけは自分を正直に見せようと思ったんだ』

 

「…………」

 

アルは、返事を忘れた。

 

胸の奥が、じん、と熱くなる。

同時に、耳の裏の皮膚がぞわっとした。熱と冷たさがいっぺんに来たみたいな、変な感覚。

 

(……アルにだけは)

 

その言葉が、何度も頭の中で反芻される。

 

(……私だけが、知ってる先生?)

 

口元が、勝手に緩みそうになるのを必死で堪える。

そんな場合じゃない。でも――嬉しい。

胸が高鳴って、指先の震えとは別の場所が、ふわふわする。

 

「……先生」

 

声が、思ったより掠れていた。

慌てて咳払いをする。格好悪い。

 

「そ、それは……ずるいわよ」

『え?』

「そんなふうに言われたら……。応えないわけ、ないじゃない……!」

 

たぶん、先生は今の“ずるい”を誤解している。

だけどアルは、わざわざ言い直さない。言い直したらさらに恥ずかしいし、何より今は時間がない。戦況は待ってくれないのだから。

 

「――ありがとう、先生。私も期待に応えるわ。絶対に外さない。全力でやるから、見てて」

 

腹の底が、静かに固まっていく感覚があった。

 

「任せなさい。3発もいらないわ。私は――」

 

アルはもう一度、スナイパーライフルを構え直した。

呼吸を整える。視線を細くして、スコープを覗く。

 

「――陸八魔アルよ」

 

スコープ越しの景色は、もはや揺れてなどいなかった。

 

 

 

 

 

 

「ジェネラルがやられた! 退却だ、退却!」

「くそっ……! 覚えてろ! 次はこうはいかないからな!」

 

「うわ、本当に三流悪党っぽい捨て台詞吐いて行った……」

 

セリカは全速力で退却していくカイザー兵士たちの情けない姿を眺めながら呟いた。

ノノミも安堵のため息をつく。

 

「ふう……。ひとまず、一件落着……ってことでいいんですよね?」

「そうですね。しばらくの間は、相手方も戦力を立て直すことになるでしょうから。ただ……」

「ん。問題は、これから」

「そうですね。それはそれとして、ホシノ先輩を助ける方法を探さないといけません。きっとこの次は……今までで一番大きな戦いになると思います」

 

アヤネが言及したとおり、これからもまだやらなければならないことは沢山ある。

ホシノを助ける方法を探し、カイザーコーポレーションおよび黒服など大人相手にも決着をつけないといけない。それは紛れもなく、これまで以上の困難が待ち受けていることに間違いはなかった。

アヤネがこれからの話題について触れようとした矢先――

 

「――せ~い! 先生!! 私、やったわよ! みんな見てたわよね!?」

 

アルがドタバタと騒々しい足音を立てながら、便利屋の面子と共に駆け寄ってくる。

その後ろを、苦笑しつつカヨコとムツキが付いてきていた。ハルカはというと、なぜか体の前面だけが埃まみれになっていた。たぶん転んだのだろう。

アルは先生の前まで辿り着くと、両腕を目一杯広げながら興奮した調子で喋り始めた。

 

「それで、先生はどうだったかしら? ちゃんと見ててくれた? ジェネラルに! バッチリ! 一発! 決めたのよ!! スコーン!! ってね!!」

「見てた見てた! アルすごいね! 本当によくやってくれた! ありがとね、アルのおかげで作戦がうまくいったんだよ!」

「ん。すごかった」

「ホントですよ~! パァンッ!って、とってもカッコ良かったです!」

 

皆からの賞賛の言葉を受け、アルはさらに鼻を高くしていた。

ふふん、と得意げに微笑むその顔からは、先程までの緊張の色は全く見られない。

 

全員が揃ったことを確認した先生は、パンッと両手を打ち鳴らして注目を集めると、改めて口を開いた。

 

「――よし! みんな、今日はありがとう! いろいろまだやらなきゃならないことはあるけど、ひとまず学校に帰ろうか。そこで状況の整理も兼ねて、今後の動きについて考えよう」

 

「はい、私もそれがいいと思います」

 

アヤネが同意するように頷く。それに続いて皆も一様に首肯した。

それから一行は戦闘終了による気怠い空気に包まれながらも、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――その日の夜。

 

対策委員会のメンバーによる作戦会議の後、先生はとある場所へと向かった。

目当てのビルの前に辿り着くと、迷うことなくエレベーターに乗り込み、階数ボタンを押す。

 

ピンポン、と軽快な音を立てて扉が開く。

エレベーターを降りるとそのまま真っすぐ進み、目的の部屋を見つけると先生は躊躇することなくドアをノックした。

 

しばらくして、ガチャリとドアが開かれる。

 

「……お待ちしておりました、先生」

 

黒いスーツに身を包んだ男がそこにいた。

 

「あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ」




ささいな会話から突破の糸口を掴む展開すきすきだいすき

第12話で先生について「おそらく先生は完全にアドリブで戦況を組み立てているのではない」、「多数のプランを考えておいて即座に選択・発動できるようになっているのだろう」とジェネラルのそれと近い評価をできていたアコは、それなりにちゃんと実力者だったってことです。アコの方が若干高めに評価していますが。



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裏社会のクロ○コヤ○トを目指す便利屋の話を書きました。本作とは別世界線です。本作の執筆が滞ったときの息抜きで書いていこうと思います。

https://syosetu.org/novel/387135/
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