オシリスのユメ   作:新人先生

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お久しぶりです(小声)
仕事が思いのほか楽しくてね……つい……。あと新作のアイデア思いついちゃって、そのプロットいじくりまわしてて……。でも時間はかかるかもしれませんけど、約束通りアビドス編、書き切りますから!


第19話 あれは誰?

「……どういうことだ、カヤ」

 

同じ空間にいる人間を押しつぶそうとするかのような重圧が漂う。オシリスは低く唸るように問うた。声には明らかな苛立ちと猜疑心が込められていた。

 

「随分と面白くない冗談を言うようになったものだな?」

「冗談でもなんでもありません。現実を受け止めるべきなのはあなたの方です」

「――はっ。戯言を。わたしの前では、いかなる虚偽も通用しないということは、他ならぬお前自身が一番わかっているはずだ」

「なればこそ、ですよ。あなたも本当はうっすらわかっているのでは? 私の言うことが事実だと」

「……っ。いや、私は信じないぞ。そんなこと、信じられるはずがない。本当に本当のことは、その心臓に聞いてみるまではわからん」

「やったところで変わりませんよ。いい加減、往生際の悪いことはやめてください。無いと言ったら無いんです、今のキヴォトスには」

 

カヤは毅然とした態度で告げる。

 

「だからですね、キヴォトスに何千キロも続くような大河川はありませんし、ましてやあなたの言うところの“ナイル川”なんて――」

「嘘だっっっ!!!! ナイルが無いわけないだろう!?!?!?」

 

世界一のナイルだぞ!!と付け加えながら、オシリスは地団太を踏んだ。

 

 

 

*

 

 

 

「ナイルが無いわけない……ふふっ、くっ……」

「ユキノ小隊長? まさかあなた、そんなしょうもないダジャレで……?」

「も、申し訳ありません、不知火室長。しかし……ぷっ、ぐふっ……」

「おい、ユキノ!! さっきのはダジャレではない!!!!! わたしは真剣な話をしているんだ!!! カヤも真面目に聞け!!」

「もう何回も聞きましたって……」

 

遡ること10分前。

防衛室管轄の秘密訓練室で、ユキノ相手の戦闘訓練を終えたオシリスが汗を拭いながら「久しぶりにナイルで水浴びでもしたい気分だ」とこぼしたのがきっかけだった。とはいえ、ユキノもカヤも、そんな川の名前は聞いたことがない。

 

「あなたの話から推測する限り、それだと川の長さが5000kmはあることになるじゃないですか。物理的に存在し得ないですよ、そんなの」

「あ・っ・た!!!」

 

一文字一文字を強調するようにしてオシリスは抗弁した。

 

「5000kmというのがどれくらいなのかは知らんが、現にハピのやつに管理を任せていたんだ!! 暴れ川のティグリスと塩害まみれのユーフラテスなんかとは訳が違う、世界最高の川だ*1!!!! ハピめ、あれだけ言っていたのに、また仕事を投げ出したか!? ――はっ!? でもここにはファラオがいないだろう……? となると誰に顔射をせがみにいったんだ!? まさかとは思うが、あいつなら禁断症状を起こして、どこの馬の骨とも知れない輩の種で代用しないとも限らん……!*2」

 

「……? “がんしゃ”……?」

「ちょっと!!! ストップ、ストップ!」

「んあ?」

 

おい、こいつ今……! 絶対聞き間違いじゃなかったぞ……!

カヤは額の血管が弾ける音を聞いた気がした。もうやだこいつ、まじで帰って欲しい。アホほど遠いところに。

一方ユキノはきょとんとしている。前から片鱗は感じていたが、このクソ真面目女、さては天然か? こんなポンコツ二人とこれからずっと仕事をし続けなければならないと思うとカヤは気が滅入った。

 

「すまない。さっき言った“がんしゃ”とは一体なんだ? 名前の響き的にそれは何かの銃(ガン)か?」

「まあ当たらずとも遠からず、といったところだな」

「ユキノ隊長、あなたもこんなノンデリの与太話に付き合わないでください!」

「――!? はっ、申し訳ありません」

「第一なんですか“それは何かの銃か?”って17にもなって普通聞いたことくらいあるでしょうこの軍事馬鹿の生娘が」

「何だ小さい声でごにょごにょと。生娘なのはカヤも同じじゃないのか? お前を選ぶ相手がいるとは思えんが」

「おいセクハラ!!!!」

「“きむすめ”……? すまないが、それは一体――」

「ユキノ隊長、それはもう十分ですって! 話がややこしくなるからもうあなたは退室しててください!!」

「――!? も、申し訳ありません、すぐ退室いたします」

 

いそいそと部屋を出て行くユキノ。心なしか肩を落としているように見える。

たかが駒をビンタしてやりたいと思ったことなどこれまでなかったのだが、今はユキノに対して若干そんな衝動にかられていた。何かもう、この空間の全てが嫌になった。

 

「はぁ~……」

 

カヤは天を仰いだ。今までこんなに疲れる仕事は初めてだ。仕事がしにくい、という表現があまりにも可愛らしいと思うくらいには、彼女は消耗していた。

一方オシリスは、あごに手をあてて何やら思案に耽っている。

 

「――やはり、自分の目で確かめるしかないか」

「はい?」

「おい、カヤ。今からアビドスに行ってくるから留守を頼む」

「はい??」

「お前は体力が無いからついてこなくていいぞ。わたしの手で素晴らしい大河川があるということを証明してやろう」

「……え゛」

 

カヤの喉から出たことのない音が出た。

何を考えていたのかと思えば、こいつ……!

 

「心配するな。水分はもちろん、お前に改造してもらったこの銃も持っていく。お前の考案した差し当たりの戦闘スタイルも身についてきたし、もしものことがあっても自衛くらいはできる」

「いやそういうことじゃなくてあなたが人目につくといろいろややこしいことがあってですね」

「そうだな、それについては努々気をつけよう。ではさらばだ!」

「あっ、ちょっと!!」

 

そういうが早いか、オシリスは水筒入りバッグと銃をひっつかむと部屋を飛び出して行った。ドアを吹き飛ばすかのような勢いだったので、カヤは開閉部分がもげていないかどうか少し心配になった。いや、というか、そうではなく。

 

「ちょちょちょ……待っっっっってください!! ちょっとユキノ隊長! その人を止め――」

 

そこまで言ってから、「あ、」と思い至る。

 

――あの馬鹿はもう退室させたんだった。

 

つまり、頼みの綱は今、ない。

 

「~~~~~~!! このぉっっっ、役立たずどもがァーーー!!!」

 

廊下に響くオシリスの足音が次第に遠ざかっていく。

せめてもの抵抗に、カヤはその背中へと向かって「せめて遅くなるようなら連絡は入れてくださいよ!!」と吠えた。

 

 

*

 

 

ざっ、ざっ、ざっと砂の上を走る多数の音が、砂塵を巻き上げながら砂漠の空気に吸い込まれていく。

日差しはすでに頂点を過ぎ、傾き始めていたが、暑さは依然として肌を焼くように厳しかった。

 

「――ん、アヤネ。聞こえる?」

『聞こえてますよ! 通信良好です』

「目標まで残り何キロ?」

『現時点で7キロを切りました! 探知できる範囲ではまとまった敵影も確認できません! もう少しですよ!』

「囲まれた時はどうなるかと思いましたけど、なんとかなりましたね~。ヒフミさんたちとゲヘナの皆さんのおかげです。ね、セリカちゃん?」

 

ノノミは走りながら隣のセリカに話しかける。

息は少し上がっていたし、胸元の汗がじわりと服ににじんでいたが、声にはまだ余裕があった。

セリカも額の汗を拭いながら頷いた。

 

「本当にこんなに上手くいくのかってくらい! 北の方の大隊はゲヘナが対処してくれてるっていうし、残りはチマチマしたドローンが大半だし。あとは先生を守りながら突っ切るだけでしょ?」

『一応油断しないでね、セリカちゃん。先生は銃弾一発でも致命傷になるんだから』

「大丈夫、それくらいわかってるって!」

 

現在、先生含めた対策委員会は、通信サポート役として校舎に残ったアヤネを除き、ホシノ救出のため砂漠を疾走していた。目標はアビドス砂漠のPMC基地の中央にある実験室――黒服の発言通りならば、そこでホシノが幽閉されているらしい。

 

最大戦力であるホシノがいない状態での作戦遂行はかなり厳しいものが予想されていたが、念入りな根回しと準備の甲斐もあり、ここまでかなりスムーズに進行していた。

 

たとえば、北側ではゲヘナの風紀員会がカイザーの大部隊を迎え撃っている。北側に展開されている部隊は“対デカグラマトン”――それが何を意味するのか対策委員会の面々は知らなかったが――を想定した大型装備が多く揃えられており、火力ではアビドスサイドが圧倒的に劣勢を強いられることが予想されたが、風紀委員会が割り込んできたことでそのバランスは崩れた。先生が文字通り足を舐めてでも助力を乞い願った成果である。

 

とはいえ部隊を一つ足止めした程度では、カイザーの総兵力からみれば誤差に等しい。当然、道中では多くの小部隊が展開しており、それらとの遭遇戦で多くの被害を受けかねないところだった……が、結論から言えば、そこはヒフミ、もとい“ファウスト”がカバーした。

 

いよいよ接敵するというタイミングで突如として牽引式榴弾砲が各ポイントに出現。対策委員会の眼前の戦線に猛烈な射撃を行ったのである。

 

『これは――支援射撃? アヤネ、こんなの用意してたの?』

『い、いえ……。これは私たちのものではありません! L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!』

 

どういうことだ、とその場にいた誰もが思った。

が、直後に通信が入った。見覚えのある覆面姿の人物のホログラムが現れる。

 

『あ、あう……。わ、私です……』

『あっ! ヒフ――』

『ち、違います! そこの猫耳の人! 私はヒフミではなく、ファウストです!』

『わあ、ファウストさん! お久しぶりです! ご自分で名前を言っちゃってますけど、それはご愛敬ということで☆』

『あっ』

 

このような具合で、彼女らは強烈な支援射撃に助けられた。

通信を切る間際、“ファウスト”は口酸っぱく「このL118はトリニティとは関係ない」と言い残していった。無理があるにも程があるというレベルの言い分だが、アビドス自治区の中で起こったことについては、政府である対策委員会が白と言えば白だし、黒と言えば黒だ。

 

今回は白ということにした。それで全てだ。

このような経緯で、彼女らはあらかたの危機を潜り抜け、いよいよホシノが捕らえられている基地に向けて接近しつつあった。

 

「……で、それはそれとして。出発した時からず~っと気になってたんだけど」

 

そのような中、セリカはふと後方を振り返り、半ば呆れたように尋ねた。

 

「いつまで先生をおぶっているつもり? シロコ先輩」

 

セリカの目線の先には、先生をガッチリとおぶるシロコの姿があった。

 

「たはは……情けない格好でごめんね。皆ほど体力が無くて……」

「ん、情けなくなんてない。先生は弱くて、私たちは強い。これは差別とかじゃなくて、生物学的な区別。この方が早く移動できるし、先生も守れる。一石二鳥で合理的。何? セリカは先生に走らせようとしてるの?」

「いや、そういうことじゃなくて……なんかシロコ先輩、顔が少しやらしいって言うか……。別な魂胆がありそうに見えるっていうか……」

「そんなことない。私はこれ以上ないくらい純粋な心で先生に触れてる」

 

シロコがそう言った瞬間、先生は臀部に感じたことのない感触を覚え、思わず声を上げてしまった。

 

「ひんっ!?」

「あっ、もう! 言ったそばから! 先生のお尻にあててる手をワキワキするな!」

「ん、走ってて揺れちゃっただけ」

「嘘つけ!!! 電車で痴漢するやつの言い訳じゃん!」

 

飄々としながら手を離さないシロコに、セリカが憤慨する。

 

「もう先輩には任せてらんないわ! そもそもシロコ先輩がこの中だと一番強いんだから、手がふさがってると戦力的に損でしょ! ここからは私が先生をおぶるから交代して!!」

「あれ、珍しいね。私の方が強いって素直に認めるんだ」

「…………。いや、別に、それは本題じゃないでしょ」

「でも普段なら“私だってできる!!”みたいな感じなのに、自分から負けていることを認めるなんて、セリカらしくない」

「だから、さっきのそれは言葉の綾っていうか何というか、とにかくそんな感じなの! つまり、私が言いたいのは先生が心配ってことで――」

「――セリカは、欲望の出し方が下手。先生を触ってみたいなら、そう言えばいい。自分の気持ちに素直になれないと、私には勝てないよ」

「んなっ……!? そ、そういう訳じゃ……!! フン、そんなんならもういいわよ!」

「まあ、素直に言ったところで私は許可しないけど」

「話が違う!!!」

 

いつものように後輩をやり込め終わったシロコは、通信機から漏れてくるアヤネの苦笑(後に語ったところでは、ほぼ勝ち確の正論側に立っていてなお勝てない同級生の姿を見て、若干心配になったとのことである)を耳に入れつつ、砂漠の先を見遣った。

 

隊列の前方では、顔を赤く染めたセリカにノノミが話しかけていて、更にその先には目的地がある。

 

「先生」

「……」

 

先生にしか聞こえない声量で、シロコは背中越しに話しかけた。が、返事は無い。

ほんの少しだけ声量を上げて、もう一度話しかけてみる。

 

「先生? いい?」

「――あっ。ご、ごめんシロコ。どうしたの?」

 

先生は意識を取り戻したような素振りで、シロコに声を返した。

 

「――やっぱり、まだ悩んでる?」

「……!」

「おぶってるから顔は見えないけど……たぶん、先生、いま怖い顔してる」

「そう……見えるのかな」

「ん」

 

シロコは力強く肯定した。

 

「大丈夫。ここまで来ればあと少しだし、きっと上手くいくよ」

「……」

 

「先生は大丈夫。何か不安なことがあるのなら、私たちにぶつけてもいいんだよ。先生が何を言おうと、どんな弱音を吐こうと、みんなきっと先生を受け入れてくれると思う」

「……そう、なのかな」

「うん、そう。ここまで来れたのは先生のおかげ。そしてこれからも、絶対、全部上手くいく」

「……そっか。そう言ってくれて嬉しいよシロ――ひうっ!?」

 

再びシロコの手が怪しい動きを見せ、先生は奇妙な声をあげる。

 

「し、シロコ!? また!?」

「ん……。つい出来心で」

「ええ……。この流れで……? っていうか、『出来心』ってことは、やっぱりわかっててやってたってことだよね!?」

 

さっきは揺れのせいだと宣っていたのに。先生は思わずツッコミを入れた。油断も隙もあったものではない。

 

「ふふっ……ごめんね、先生」

「も、もう……! 先生も人間なんだから、変なところ触られたら驚くよ?」

「うん。知ってる」

「じゃあやめてくれるかな……?」

 

先生の抗議を聞いたシロコは、ふんすと小さく鼻を鳴らした。

普段は表情こそあまり変わらないシロコだが、先生は経験上、彼女がこういう反応を見せるときは、決まって楽しくなっているか、得意げになっているときだと知っていた。

 

「楽しくなるところじゃないよ!? 結構大事な話をしてるつもりなんだけど……」

「うん、こういうシリアスな話をしてるときに、お尻を揉むのは良くなかったと思ってる。反省はしてるし、二度とやらないとは言えない」

「二度とやらないとは言えないんだ」

「うん。先生のお尻を揉むのは楽しいから」

「楽しさが上回っちゃったか……」

「楽しいんだもん。仕方ないよね」

「仕方なくないと思うけど????」

「……やっぱり?」

「何そのワンチャン仕方ない可能性があったみたいな含み!?」

「ん……。そんなことない。嫌なら本当の本当にもう止める。でも――」

「“でも”?」

 

 

先生はその二文字をリピートせざるを得なかった。「でも」、とは? まさか大人の尻を不同意で揉んだことに対する正当な理由があるとでもいうのか――!?

 

「でも先生。少し元気出てきたね」

「……?」

 

一瞬、先生は目を丸くした。

その言葉が意味するところを処理するのに時間を要した。

 

「……――!」

 

が、すぐにハッとして、自分の表情筋に意識を集中させた。気づけば、口角の緊張が先ほどより幾分か解けている。

 

「……もしかして、気を遣わせちゃった?」

「ん。ほんのちょっとだけ」

 

素直な答えだった。

 

「ホシノ先輩にみんなで『おかえり』って言うんでしょ? そのとき、そんな顔をしてたらホシノ先輩も戻るに戻って来れないと思う。あの人、あんな感じでいて、自分が周りに迷惑かけてるかどうかってことに異常に敏感だから」

「それは……まあ、たしかに」

「だから、今みたいなままでいると、ホシノ先輩はちょっと遠慮してしまいそう」

 

確かにそうだ、と先生は思った。

 

ホシノは、誰かに助けを求めることよりも、誰かを庇って自分が泥を被ることを選びがちだ。彼女をあそこまで追い詰めたのは、他でもない周りの人間たちだった。それなのに、彼女はむしろ自分のことを責め続けていた。そんな子だ。

 

ならば尚更、自分たちが彼女を迎え入れる側でいなければ意味がない。

 

「……そうだね」

 

地平線から吹いてくる風に砂粒が混じる。風は熱を孕んだまま目前の砂丘の輪郭を撫でていき、後ろ髪を引くように先生の頬を撫でた。

 

「うん。もう少しだけ頑張ってみるよ」

「ん。それでこそ先生」

 

砂丘の稜線をいくつか越え、巨大な塔のような砂紋が視界を横切るたび、距離感が失われる。それでも、確かに基地の方向へは近づいていた。

 

 

 

*

 

 

 

砂塵を巻き上げて進む対策委員会。

遠くに小さく目的地らしき建物が見えてきた頃、その手前、ちょうど対策委員会たちの進行方向に、不自然な直立物が微かに浮かび上がっていた。

 

「あれ……?」

 

最初に気づいたのはノノミだった。

 

「人影……でしょうか?」

 

ノノミが指差す先には、確かに人影のようなシルエットが浮かび上がっていた。砂煙に霞み、輪郭は朧げだが、人型をしていることは間違いない。皆が顔を見合わせる。

 

「セリカちゃん、このあたりで暮らしている人って居ますか?」

「……居るはずない。オートマタ型の住民なら水が無くても暮らせるかもしれないけど、こんな基地に近い場所でカイザーがそれを許すはずない」

「やっぱりそうですよね? なら、もしかすると遭難者でしょうか」

「ありえなくはないけど、こんな場所で……? たまたま今は戦力が出払っていて警備が薄くなってるけど、普段砂漠の周りはドローンが飛び回ってて、近づこうとする人なんていないでしょ?」

「なら、カイザーの警備兵とか? 基地が見えるくらいには近づいていますし、出会ってもおかしくはないですよね?」

「だとするなら、単独行動ってのは変じゃない?」

「まあ、そう言われると確かに変ですけど、でもこのままだと接触コースですし……。うーん、どうしましょう……迂回しますか?」

 

ノノミが振り返りながら尋ねる。シロコが事もなげに返した。

 

「ん、アヤネに連絡をとればいい。ドローンで様子見すれば、何かわかる」

「あっ、そうですね。ナイスアイディア、です☆」

 

ノノミは素早く通信機を取り出し、接続を試みた。数秒後――

 

『ザー……ザザッ……』

 

期待していたアヤネの明瞭な声の代わりに、機械を通した歪んだノイズが響いた。

 

「あれ? アヤネちゃん?」

 

ノノミが首を傾げる。もう一度タップ。画面には接続中のインジケーターが点滅している。

 

『――……ん…す……だ――』

 

途切れ途切れの音声がかすかに聞こえるが、内容は全く把握できない。シロコがノノミの肩越しに通信機を覗き込んだ。

 

「ん……ノイズ?」

「そうみたいです」

 

ノノミは眉を寄せる。先生は背中でおぶられたままいぶかしげに前方を見つめた。

 

「……妨害、されているのかも」

「妨害?」

 

セリカが前方の人影を睨みながら問い返す。

 

「基地からジャミングでもかけてきたってこと?」

「可能性はある。基地の近くまできてるんだし、そういう対策をしていても変じゃない」

 

シロコは即座に答える。

 

「でも、そんなに心配する必要はないと思う。サポートが無くなるのは少し痛いけど、どっちにしろこれから基地に突入するわけで、屋内で出来る火力支援はたかが知れてる。アヤネの最重要任務は私たちをここまで案内することで、それは達成済み。アヤネは十分仕事をしてくれた」

「でも、となるとドローンでの確認はできないのよね? アレと接触するか、迂回するか決めないと……」

「セリカ、そのへんは先生に判断してもらおう。先生、どう思う?」

 

シロコは通信機から顔を上げると、おぶったままの先生へと話しかけた。

 

接触すべきか、迂回すべきか。先生はしばし熟考する。

より安全なのは、迂回という選択かもしれない。しかし、そもそもこのような開けた場所でこちらが向こうを視認できたということは、向こうもこちらの存在に気づいている可能性が大だ。その場合、迂回を試みたところで、余計に時間がかかるだけで無意味になってしまいかねない。

 

「……このまま接触してみよう。もちろん、最大限警戒したうえで」

 

基地に突入する前に、安全を確保するためにも不確定要素はなるべく消しておきたい。ならば、このまま最短でホシノの救助に向かいつつ正体を突き止めておくのが無難ではないか? 怪しくはあるが、遭難者という可能性もゼロではない。その場合一刻も早い救助が必要だろう。どちらにせよ突入前の戦闘を想定してはいたし、仮にこちらに敵意ある存在だったとしても、単独相手なら制圧自体は容易い。

 

諸々考慮した結果、先生はそう判断した。

 

「ん、了解。他に意見は?」

「……そうね。先生がそう言うなら、私も賛成」

「私も特に異議なし、です」

 

 

*

 

 

やはり相手もこちらに気づいていたと見え、対策委員会たちが接近しはじめたと同時、謎の人影も少しずつこちらへと向き直り、接近し始めた。

 

「……い。おーい、君たち!」

 

銃を構えながら接近を続けると、程なくして遠目に相手の具体的な姿かたちが見えてきた。体格の大きな、オートマタ型の住民だ。両手を上げながらこちらに歩いてくる。銃を腰に下げているものの、構える意思は今のところ無いように見える。

 

「こちらに敵対の意志はない! 話をさせてくれないか!」

 

そのオートマタ型の住民は、やや奇妙な佇まいをしていた。腕や脚のパーツは比較的新しく見える一方、頭部や胸元から覗く胴体のパーツには傷が目立つ。新品と中古品が折衷したような不均一なスタイルだった。目的があって組み替えているのか、或いは手持ちのパーツでどうにか間に合わせているのか。平均的なレベルよりも、一言で言って“ゴツイ”見た目だった。

 

「何あの人……?」

「ん。怪しい。見た目で判断するのも良くないけど」

「でも、『敵対の意志はない』って言ってますよ……?」

 

セリカとシロコ、ノノミは三者三様に目の前の人物に対する印象を口にした。

「話をしたい」等と言われても、簡単に信用していいものか。対策委員会の面々は怪訝な表情を隠さずに、銃を向けたままオートマタの姿をじっと観察した。程なくして、シロコは先生を降ろすと「後ろにいて」の一言とともに銃を構え、オートマタへと一歩踏み出した。

 

「待ってくれ、何もしない。私は――」

「話は後で聞く。まずは銃を地面に置いて、こっちに蹴飛ばしてほしい」

 

シロコは銃を向けたまま警告する。

オートマタはやや肩を竦めると、言われた通りにした。

 

「これでいいか?」

「ん。いい子」

 

シロコは満足そうに頷いた。

 

「それで、あなたは誰? この先にある基地の関係者? そして“話”って何? 私たちも急いでいるから、手短に教えてほしい」

「ハハハ、そんなにいっぺんに質問されても困るのだがな……。まあ一つずつ答えていこうか」

 

オートマタは両手を上げたまま、やや困ったような表情を見せた。

 

「まずは最初の質問に答えよう。私の名前についてだが――まあ、実は……名乗るような名前は、ない」

「はあ?」

 

セリカが露骨に怪訝そうな声を上げた。

 

「ふざけないで! 名前が無いわけないでしょ!! 真面目に答えないなら今すぐここで蜂の巣にするわよ!?」

「待て待て、落ち着くんだ。別にふざけているわけじゃない」

「じゃあどういうことなのよ!」

「どうもこうも、本(・)当(・)に(・)名(・)前(・)が(・)な(・)い(・)。それだけだ。以前は役職で呼ばれていたから、それが名前みたいなものだったんだが、今じゃ生きがいの仕事すら無くしてしまってね。どこにも拠り所が無い。今の私をたとえるならば、そうだな……。幽霊みたいなもの、ということになるか」

「……??? “幽霊”……?」

 

一体何の話だ。オートマタの意味不明な供述に、一同は困惑する他なかった。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと何を言ってるのかよくわからないんですけれど、もう少し噛み砕いてもらえませんか……?」

「ん。というか、ちゃんと実体があって、生きて喋っている時点で『幽霊』は完全に嘘」

 

ノノミとシロコもこのオートマタの言っていることが理解できず、もう少しわかりやすく説明を要求する。

対してオートマタはどこ吹く風といった様子で答えた。

 

「ハハ、君たちは知らないかもしれないが、実はキヴォトスには幽霊が出るんだ――“資本主義”という幽霊が。強いて言うなら、それが今の私の名前ということにできるかもしれないな。ともあれ、今の私はやはり死人だよ。少なくとも、公(・)式(・)的(・)に(・)は(・)これはゆるぎない事実だ」

「あ~もう! 余計ワケわかんないじゃん! それはどういう――」

「セリカ、やめよう。話す気がないみたい」

 

オートマタはさらに意味のわからない供述を重ねていく。

流石にセリカもこれ以上突っ込んでいくのが馬鹿らしくなったのか、シロコの忠告を受けて尋問を打ち切った。その様子を見たオートマタは、「そんなことはないし、別に嘘はついていないんだが」とこぼしながら肩をすくめてみせた。

 

「あなたが誰かってことはもういい。二つ目の質問に答えてくれれば。こっちの方が重要だから」

「私が“この先にある基地の関係者”かどうか、という件か?」

「そう。私たちはそこの基地に用がある。あなたが無関係な人間なら、別に危害を加えるつもりはないし、このまま見逃す。けど、関係者だったら捕虜にしないといけない。――どうなの? この質問には『はい』か『いいえ』で答えられるはず」

「う~む」

 

オートマタは腕を組んで難しい顔をしてみせる。

シロコは険しい目つきで返答を促した。

 

「なんでもいい。はやくして」

「いや、そう言われても、これまた難しい。正直言って、『はい』でも『いいえ』でもある」

「は?」

 

シロコの目つきがますます険しくなっていく。

 

「なんなの? 質問の意味がわかってる? 基地と無関係なただの一般人なら『いいえ』。基地に関係がある人なら『はい』」

「質問の意味はわかっているとも。別にとぼけているつもりはない」

 

悪びれも無くそう言ったオートマタは、シロコの無遠慮な視線など意にも介していないようだった。シロコはついに堪忍袋の緒が切れた。

 

「……もういい。この話はここまで」

「?」

 

オートマタが目を瞬かせる中、シロコは一歩前に出て、銃を握ったまま銃口を頭部に向けた。

 

「二つ目の質問にもまともに答える気が無いと判断した。だから最後の質問。さっき言ってた“話”って何?」

「君はせっかちだな。もう少し細かい話をさせてほしいのだが」

「ん。これは最後通牒。話の内容によっては考えてあげなくもないけど、まともに答える気が無いか、ダラダラ話すようならこのまま拘束する。そっちの事情はこっちの用事が全部済んでからゆっくり訊く」

「なかなか酷い言い草じゃないか。――まあいい。話といっても何個か質問したいことがあるだけだから、すぐに終わるとも。君たちがダラダラ答えるようでなければ、な。『はい』か『いいえ』で答えてくれればいい」

 

シロコは舌打ちした。

 

「……じゃあはやくして。質問は3つまで。それ以上は問答無用で拘束するから」

「自分が三つ質問したから、こちらにも同じ数だけ質問させてくれるというワケか? 律儀じゃないか。こちらとしても、それだけあれば十分だとも。――では、さっそく。その制服と校章を見る限り、君たちはアビドス高校の生徒だな? それは間違いないか?」

「『はい』。これで質問一つめ」

「了解だ。では二つめ。君たちがアビドスの生徒なら、緑(・)髪(・)の(・)生(・)徒(・)を知っているか? 噂を聞いたくらいでもいい。純粋な身体的特徴として言及するんだが、胸が大きいのが特徴だ」

 

「キモッ」

 

シロコの後方でセリカは思わず生理的嫌悪を漏らしてしまい、すぐに謝罪の言葉を挟んだ。

 

「あっ、ごめんなさい! つい!」

「……まあ、いい。しかし、やらしいニュアンスを含めずに伝えるには、一体どうすれば……世知辛い世の中だ」

 

なんだか哀愁を纏った様子でぶつぶつと言うオートマタに、シロコは冷静に答えた。

 

「質問の答えは『いいえ』。そんな生徒はうちにはいないし、話を聞いたこともない」

「本当か?」

「本当。あんまりしつこいようだと――」

「わかったわかった。聞かされていなければそういうこともあるか。現役だった頃、君たちを見たことはないからな。了解だ。――では最後、三つ目の質問をさせてもらうが、いいか?」

「ん」

 

シロコははやくしろと言わんばかりに頷くと、オートマタは改めて問うた。

 

 

 

 

 

「銀髪に、狼の耳。そしてその特徴的なオッドアイ――君はアビドスの“砂狼シロコ”で間違いないか?」

 

 

 

 

 

「――――!?!?」

「どうなんだ? 『はい』か『いいえ』で答えてくれ」

 

なぜ自分の名前を――!? 

シロコの心臓が跳ね上がり、冷や汗が噴き出した。他の皆も血相を変える。

 

「ふむ、その反応――答えを聞くまでもないか」

「……っ」

「まあ写真を持っているし、どう答えたところでわかるのだが。ちょっとした遊びだよ、ハッハッハ」

 

オートマタはそう言って、懐から一枚の写真を出すと、こちらにちらつかせてみせた。

 

「……っ! いつ撮ったかは知らないけど、盗撮は犯罪。訴える」

「やってみるといい。現在のキヴォトスの住民データをすべて掘り起こしたとしても、私が誰かということすら分からず頓挫するだろうさ」

「あなたの身柄とその写真が何よりの証拠。データ上の捜査に頼るだなんて、まるで私たちが、今この場であなたを取り逃がすことが前提になっているみたいだけど、その前提が間違い。あなたの銃はこっちの手の内にある。抵抗は無駄、大人しく拘束されるべき」

「なるほど、なるほど。君の言い分は理解した。そういうことなら――」

 

オートマタは「待て待て」と言わんばかりに、上げていた両手を胸の前まで下ろして手のひらをこちらに向けた。

 

すると次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

バアン!!!!

 

 

 

 

 

「その前提が間違っていないことを教えてやろう」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「ぅがッ……!」

 

火薬の炸裂するような音が聞こえた直後、セリカは前方でシロコがうめき声を上げながら背中を丸めるのが見えた。何が起こったのか理解できず、反射的にオートマタの方を見る。そちらの方から音が聞こえたからだ。

 

そしてすぐ、理解する。

 

 

 

(――腕(・)に(・)銃(・)を(・)組(・)み(・)込(・)ん(・)で(・)る(・)!!!!)

 

 

 

オートマタの手のひらの一部に穴が空いている。その穴から硝煙が昇っていた。なるほど、やたらとゴテゴテした見た目だったのは、自分自身に改造を施したからからか――

 

(――違う!! この際、相手の背景情報はどうでもいい!)

 

大事なのは、今この状況に対処すること。セリカは強制的に思考を打ち切ると、膝を思い切り曲げて踏み込み、全力で前へ飛び出した。猫のような驚異的なバネと、並外れた瞬発力。ザンッ!と地面を蹴る足音が鳴り、砂塵が舞い上がった。

 

相手が銃を体に組み込んでいるなら、拘束するか、銃が組み込まれている腕に直接ダメージを与えればよい。

 

撃たれたシロコが気にならないわけではなかったが、キヴォトスの生徒なら1発撃たれた程度、何の問題もない。よほど体が弱い生徒なら別かもしれないが、端的に言ってシロコはこの中では最高戦力。ダメージ云々の不必要な心配をするよりも、今はオートマタの攻撃力を削ぎ、残りのメンバーと遠近それぞれの距離で連携しながら相手を無力化することを目指すべきだ。

 

まるで砂の波に乗るように、セリカはオートマタへと向かっていった。反撃の隙を与えまいと牽制の銃弾を撃ち込みながら、狙いを絞らせないよう微妙に蛇行しながら接近していく。しかし相手は撃つ気配がない。ただ右手を前に突き出して立っているだけだった。逃走するつもりは無いようだ。それならそれで構わない。

 

オートマタの近くまでたどり着くと、勢いそのままに胴体へ飛び蹴りを打ち込んだ。ダンッ!という乾いた音が鳴る。衝撃で相手を倒したあと、至近距離で腕を撃ち抜くなり関節技を決めるなりして無力化する――という算段だった。

 

だが――

 

「――重っ!?!?」

 

セリカの足に走った感触は、想像と全く異なるものだった。

まるで鋼鉄の柱でも蹴ったかのような感覚。金属製の足に履かれたスニーカーがぎしりと悲鳴を上げ、その反動がセリカの体に跳ね返ってくる。

 

(っっっ……硬すぎ!? なんて防御力……)

 

蹴りを叩き込んだ瞬間、オートマタの体は僅かに揺らいだだけで、大きく後退することもなければ膝をつくこともなかった。重心が完全に固定されているように、その場でどっしりと立ち尽くしている。セリカの体重では、この巨体を支えるフレームは揺らぐことすら許さないのだ。

 

「ふむ……そんなものか?」

「――!!」

 

そして、相手は近寄ってくるならこれ幸いとでも言わんばかりに、右手をセリカに向けて突き出した。

 

まずい、至近距離で撃たれる――

 

 

 

「セリカ、伏せて!!! ノノミ!!」

「はい先生!」

 

「!!!」

 

後方から先生とノノミの声が聞こえた。反射的に、セリカは体を捻りながら地面に倒れ込んだ。ほぼ同時に、右後方から凄まじい轟音が轟く。ノノミのミニガンの連射が始まったのだ。

 

ガガガガガガガガガガ!!!

 

伏せた体の上方で銃弾がぶつかり合う音がした。跳弾が砂地に突き刺さり、視界が一瞬で煙に覆われる。その煙に紛れるようにしてセリカは横にローリングすると、間一髪のところで射線から逃れた。

砂煙から脱出したところで体を起こし、バックステップで距離を取る。ある程度距離を取ったところで、再び銃を構え直しながら息を整えた。視界の端でミニガンの弾幕がなおも続く様子が映る。その威力は凄まじく、装甲を抉るような金属音が続いていた。しかし――

 

(――効いてない!!)

 

弾幕の勢いで抑え込んでいるが、効いている様子が全然ない。オートマタはその巨体に弾丸を受けても怯むことなく立っている。それどころか、身体のあちこちからわずかに火花が散るだけで、致命的なダメージを受けているようには見えなかった。

 

「……シロコ先輩!! あいつ、思ったより強い!!! 連携してかかろう!」

 

相手の強さは想像以上。ならばこの場を打開するカギは、3人の中で最も強いシロコしかいない。セリカは前方のオートマタから視線を外さないようにしつつ、後方にいるであろうシロコに呼びかけた。

 

しかし、返事はない。

 

(……?)

 

不審に思ったセリカは、再びシロコに呼びかける。

 

「先輩!? 聞いてる!?」

 

だが、それでも反応は返ってこなかった。痺れを切らしたセリカは後方へ振り返り――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ先に目についたのは、その色だった。

シロコの胸の中心は真っ赤に染まっていた。胸を手で抑えたのか、手のひらにも真っ赤な液体が張り付いている。

 

「は――?」

 

セリカは呆然とその光景を見つめた。どうしてシロコがそんな姿になっているのか、理解できなかった。

 

そして、それはシロコ自身も同じだったらしい。

シロコは信じられないものを見るように、自分の手のひらを見つめていた。それから、セリカと自分の手を交互に見やる。その間にも指の隙間から血が溢れ、滴り落ちた雫が足元の砂を赤黒く染めていった。

 

「――ひゅっ……っ、ひゅぅ……」

 

シロコは何かを伝えようとするように口をパクパクと動かしたが、漏れ出るのはかすれた呼吸音ばかり。

 

不意に、その口から血が溢れた。乱れた呼吸に合わせて赤い泡が膨らみ、ゴポリと音を立てて顎を伝う。シロコは慌てて口を押さたが、次から次へと溢れ出してくるそれらはシロコの抵抗を嘲笑うかのように滴り続けた。

 

「――あ――っ、ごぷっ……」

 

努力の甲斐なくひときわ大きい血の塊を吐くと、シロコの瞳がぐるんと裏返る。

 

長い首がぱたりと項垂れた。両膝を地につけることもできず、そのまま崩れ落ちるように、シロコは顔から砂地へ倒れ込んでいった。

 

 

 

 

「先輩!?!?」

*1:
古代オリエントの大河文明ということで一緒にされがちなメソポタミア文明とエジプト文明だが、文明の要である川の性質は全く異なる。ティグリス川はたびたび激しく氾濫し、「ノアの箱舟(方舟)」をはじめとする数々の洪水伝説を生んだ。また、穏やかな氾濫を定期的に繰り返すことで土壌の塩分を洗い流すナイル川と異なり、ユーフラテス川周辺では土壌に塩分が蓄積されていったため、年々塩害がひどくなり麦類の収率は減少していった。余談だが、学園都市「キヴォトス」の名はギリシャ語で「箱船」を意味する「Κιβωτός(Kivotos)」に由来すると考えられ、ブルーアーカイブの舞台の由来を辿っていくと、巡りめぐってティグリス川にたどり着くことになる。

*2:
古代エジプトではファラオが自慰によってナイル川に向かって精液を放出する行事があったという俗説が良く知られている。本作においては、この逸話が、ナイル川の神であるハピがファラオに精液をぶっかけさせていたことを示している、という立場を採用する。(この逸話の真偽についての補足を後書きに付す)




大分前ですけど、暴力の警告はしましたからね。

軍事に疎いもので良く分からないんですけど、ノノミの武器ってマシンガン、ガトリングガン、ミニガンの呼び方のどれが正確なんでしょうか? マシンガンが一番大雑把な呼び方になる感じですか?

【補足】
古代エジプトでファラオが自慰をし、ナイル川へ射精する行事が実際に行われていた、という俗説に言及した投稿・サイトは検索すればネットにいくらでも転がっていますが、実のところ、筆者が調べた限りでは確かな証拠を見つけられていません。

書籍ではJonathan Margolisの『O: The Intimate History of the Orgasm』にその記述があることは確認しました。この俗説に言及する複数の記事で同書が参考文献として挙げられているため、少なくとも現在この話が広まるうえで影響を与えた文献の一つではあるようです。

しかし、この本の中では主張を裏づける史料・出典までは明示されていません。つまり、なぜファラオがナイル川に向かって自慰をしていたとわかったのか?という肝心なところは不明です。

そのため、この俗説に懐疑的な姿勢を表明している専門家もおり、ひとつの可能性としては、ミン(勃起した姿で描かれる神)の祭が、何かしら誤解されて広まった可能性*が指摘されています。

*参考: https://getmegiddy.com/egyptian-pharaohs-masturbate-into-nile
(日本からは閲覧できないので、VPNで位置をアメリカなどに設定してからアクセスしてください)

とはいえ、単に筆者の調査が甘いだけで、ちゃんと本当にあった可能性はゼロではありません。よって筆者はこの行事が実在していたと信じます(強い意思)。

原作先生だって「水着じゃなくて下着だと思えばそれは下着」って言ってたし、信仰は真実となりやがてそれは事実を超えるって他ならぬブルアカが教えてくれているんですよ。

マジで下調べするだけで時間かかった許さんぞ陸八魔アル
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