オシリスのユメ   作:新人先生

5 / 17
今回はちょっと短めですが、タイトルから察せられる通り【解答②】もあるので近日投稿予定です。

*修正報告
前話で便利屋が既に「覆面水着団」の名前を知っているという描写が含まれていましたが、メインストーリーを見返したら強盗時点ではまだ把握していないことだったので修正しました。本筋には影響ありません。


第5話 正義とは【解答①】

「みんな大丈夫かな……」

 

 

 

先生は路地奥の配電盤に背を預け、タブレット端末の電源ボタンに親指を置いたまま、押す寸前で踏みとどまっていた。ここで通信を開けば、何らかの痕跡や自分たちの情報が残りかねない――それは作戦立案時、シロコが真っ先に指摘したリスクだった。

 

 ――ん、五分で終わらせる。先生は外で待機してて。

 

はじめは抵抗を覚えたが、5分という限られた時間の中で連絡をやり取りしている時間もない。ホシノたちのことはもちろん心配だが、彼女たちならきっと無事に戻ってくるはずだと自分に言い聞かせ、その場でじっと待ち続けていた。

 

このことを幸いと言っていいのか先生としては微妙なところではあるが、シロコは銀行強盗の“業界標準”を熟知している。しかも今回は書類強奪という限定的な目標に特化した作戦であり、難しい戦術指揮が必要となる可能性は低い。指示系統をシンプルに保つことを最優先すべきだと判断した。

 

……だが。

彼女たちが出発してから3分が過ぎ、4分が経過しようとしていた頃、事態は急展開を迎えた。

 

――ドォンッ!!

 

「うぉっ!?」

 

突然の衝撃音。地面が揺れる。銀行内部から響く重低音の振動が路地まで伝播し、窓ガラスが細かく震えた。

 

(なっ――なんだ!? 今の爆発音は……!?)

 

先生は慌てて身を伏せた。銀行襲撃事件が露呈して外部からの増援部隊が到着したのか? あるいは生徒たちが過剰な武力行使に出てしまったのか?

 

(落ち着け……冷静になれ)

 

心臓が早鐘を打つ。しかし、ここでパニックに陥って連絡を取り合えば、自分たちの居場所を敵に暴露してしまう危険がある。迂闊に連絡は取れない。

 

(……あと1分)

 

タブレット端末を強く握りしめる。祈る気持ちで先生はじっと堪えた。しかし、無情にも再び爆発音が轟く。

 

――ドガァアアアンッ!!!

 

今度はさらに大きく、さらに激しい音。引き続いて建物全体がガラガラと崩れ落ちてゆく音。硝煙の香りと砂埃がここまで届いた。

 

(まずい――これは単なる銃撃戦なんかじゃない! 明らかに建物が崩壊している――!!)

 

もはや耐えられない。ここで待っていることが正しい選択なのか? 判断を誤れば彼女たちをさらに危険に晒すことになるのではないか?

先生は逡巡しながらもタブレット端末の電源を入れ、通信を試みようとしたその瞬間――

 

「――先生!」

 

路地の奥からいくつかの人影が駆け寄ってきた。瞬時にその方向へと視線を向ける。覆面水着団の面々だった。

 

「先生! よかった、無事だよね!?」

「うん、みんなこそ……! 怪我はない?」

 

先生が安堵のため息を漏らすと、セリカが申し訳なさそうに視線を下げた。

 

「ごめんなさい先生! 私たち……」

「ごめん、先生。ホシノ先輩が大けがを……」

「……!」

 

見ればホシノは意識を失い、ぐったりとしたままシロコに背負われていた。身体からは血を流し、制服は焼け焦げており、尋常ならざる有様だった。

 

「いったい何が――いや、そんな場合じゃない」

「うん。詳しい説明はあとでする。目的のブツはノノミが持ってるから心配しないで」

「はい。ここに確かに。だからここから早く離れましょう、先生!」

 

ノノミがくい、と何かがぎっしり詰まったバッグを掲げて見せる。先生は頷くと素早く一同を見渡し、

 

「わかった。できる限り目立たないように行動するよ」

『こちらで安全なところまで案内します!』

 

アヤネが通信越しに声を張り上げる。その言葉に従い、そのまま街の喧騒に紛れ込むようにして、一同は迅速に移動を開始した。

 

 

 

 

 

マーケットガードを撒いた一行はひとまず大通りから離れた細い路地に入った。そしてそこでセリカが息を整えながら口を開く。

 

「……もう、脱いで大丈夫だよね? これ」

「その前にもっと離れたほうがいいんじゃないですか? まもなく道路が封鎖されるはずです」

 

ヒフミはおっかなびっくりといった様子で後方を振り返る。遠方からはサイレンの音が絶え間なく響き渡っており、緊迫した空気がじわじわと押し寄せてきているかのように感じられた。

 

「アヤネちゃん、どうですか?」

『少々お待ちを……はい、問題ないようです。封鎖地点は全て突破しました。この先は安全です」

 

アヤネの言葉に一同はほっと胸をなでおろし、それぞれが変装を解き始める。顔を隠す覆面を外し終えるとノノミがシロコに視線を送った。

 

「……ホシノ先輩は?」

「まだ意識が戻らない。かなり無理をしたんだと思う」

「うぅ……」

 

セリカは泣きそうな声でホシノを見つめる。それを見て先生は改めてホシノの容体を確認した。そっと彼女の額に触れる。出血箇所は多く、服の破れや擦り傷も多いが深刻なものではなさそうだ。体温も正常である。

 

「……よかった。たぶん気絶しているだけで、命に別条があるレベルではないと思う」

 

その言葉にセリカとシロコは安堵の表情を見せた。先生はそのままノノミに視線を向ける。

 

「それで……ノノミ。例の書類というのは……?」

「こちらにあります。いま出しますね――ええっ!?」

 

ノノミは大事そうに抱えていたバッグを開ける。だが、そこには大量の札束が詰め込まれていた。想定外の内容物にノノミは思わず目を見開く。

 

「シロコちゃん!! これ……お金です!! 書類は!?」

「うええええっ!? シロコ先輩、現金を盗んじゃったの!?」

「ち、違う……目当ての書類もちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで……」

「こ、これ……軽く一億は入っているんじゃないですか?」

 

一同は茫然と札束を見つめた。皆あまりにも予想外の展開に言葉を失っていたが、セリカがいち早く正気に戻り、札束に釘付けになりながら興奮を押し隠すこともなく叫ぶ。

 

「ちょちょちょっ……ちょっと待って。こんなにお金あるならさ……借金を返せるんじゃない!? やったあ! 運ぶわよ!!」

『えっ!? セリカちゃん!? ダメです! そんなことしたら本当に犯罪だよ!』

「どうせ銀行に武装して押し入った時点で犯罪でしょ!」

『ううっ……でも、超えてはいけない一線ってものがあるでしょ!』

「だから銀行強盗した時点でそれは超えてるんだって!!」

 

アヤネが通信越しに慌てた様子で制止する。当然といえば当然のことであるがセリカは興奮しており聞く耳を持つことができていない。

 

「そもそもあんな汚い銀行が悪いの! それにそのままにしていたら、犯罪者の武器や兵器に変えられていたかもしれない! 悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」

「私もセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私たちが正しい使い方をした方がいいと思います」

 

ノノミがそう言うと、セリカは「でしょでしょ!」と言いながら勢いよく頷きながら札束を詰め直し始めた。少しでも早く逃走できるよう、効率的な重量配分を無意識に考えているあたりが、逆に切実で痛々しかった。

 

「でも……」

 

その光景を見て、ヒフミが思い切って、しかしどこか所在なさげに手を挙げた。

 

「そのお金を持って帰ったら……大変なことになりませんか? たとえ悪人のお金でも、持っていたら“盗んだ”ことになっちゃうし……それに、そういうお金って、きっと、災いを呼ぶような……気がします」

 

セリカがむっとして振り返った。

 

「ヒフミさんまで……! せっかくのチャンスなんだよ!? 今までさんざん借金で苦労して……」

 

「で、でも……!」とヒフミが口ごもると、今度はシロコが静かに口を開いた。

 

「……そもそも、このお金は私が盗ったわけじゃない。書類を出せって脅したら、銀行員が勝手に詰めてきた」

「じゃあいいじゃない! 銀行員が渡したってことは、もらっていいってことだよ!」

「そうはならないと思う、セリカ」

 

シロコはホシノの体を片腕で支えたまま、もう一方の手でバッグのチャックを静かに閉めた。落ち着いた手つきだったが、わずかに眉根が寄っていた。

 

「強盗の最中に“渡された”からって、それで正当化されるなら、私がいつも考えてる銀行強盗計画だって、正義になる。……それで、納得できる?」

「えっ、それは……。よりによってシロコ先輩がそれ言うの?」

「普段はみんな、私が銀行強盗のプランを話すと止めるよね? 『そんなの駄目だよ』って。なのに今回は、たまたまお金が手に入ったからって、それを“正しい”って言い始めるのは、おかしいと思う」

「うぐ……ぐぬぬ……! な、なんか納得いかない……!」

 

セリカは言い返せず、バッグを抱きしめたまま猫のように唸った。

 

「わたしたちのやったことは、既にギリギリだよ。これ以上、線を越えちゃいけない」

 

その声に重なるように、先生が口を開いた。言葉は淡々としていたが、周囲の空気を確実に引き締めるものだった。

 

「シロコの言う通りだと思う。……いや、正確には、もっと根っこの話」

 

一同が自然と、先生の方へ視線を向けた。

 

「私は、持ち帰るのが正しいかどうかってだけじゃなくて、それを“正しい”と言い切ってしまえること自体が問題だと思う」

「……どういう、こと……ですか?」

 

ノノミが困惑したように眉を寄せる。

 

「たとえばさっきセリカが言った、“悪人のお金を盗んで何が悪い”って考え方。気持ちはわかる。でも、悪人かどうかって、誰が決めるんだろう? 君たち? 私? そして仮に相手が悪人だったとして、私たちには勝手に裁く権利まであるのかな」

「……」

 

先生の問いに誰も答えることができなかった。

 

「このお金は、たぶん、ほんとうに汚い資金だと思う。だけど……何が正しいかなんて、本来簡単には言えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ、どこで線を引くかは、常に自分たちで考え続けなきゃいけない」

 

先生はシロコの隣に移動すると、背負われているホシノの頭を静かに撫でた。

 

「ホシノだったら……どうしたと思う?」

 

誰もが、何も言えずにホシノの寝顔を見つめた。沈黙の中で、札束の存在が空気を圧し潰すようにのしかかる。

沈黙の中、シロコがホシノの重みを僅かに背中で調整し、空いた手でそっとバッグに触れた。そして、口を開く。

 

「このまま置いていこう。書類だけ取り出して。ホシノ先輩もそれを望んでると思う。それを使って借金を返したところで、それはもう私たちの守りたかったアビドスじゃない」

「……うん」

 

セリカが小さく頷いた。ゆっくりと手を離す。

 

「そう、ですね……これに慣れたら、次も同じことをしてしまうかもしれませんし……」

 

ノノミも、少しだけ名残惜しげな目で札束入りのバッグを見つめた後、先生の方へ向き直る。

 

「正しさって、難しいですね……」

「難しいから、意味があるんだよ」

 

先生は柔らかく答えた。

 

「簡単に決められるなら、それはもう正義じゃなくなるから」

 

先生のその一言で、場が静まり返った。しばし、誰もが声を発さず――

ガタガタ、と足音。荒く、急いで、騒がしく。

 

「……ん?」

 

先生が気配に顔を上げた。ほぼ同時に、一同が身を強ばらせる。

 

「え、えっ!? だ、誰か来た!?」

『マズいです! 誰か接近してきています! 覆面! 覆面!!』

 

慌てて皆が再び覆面を引っ張り出し、あたふたと着け直していく。その間にも足音は近づき――

 

「いたぁっ!! あなたたち!!」

 

けたたましい声とともに、路地の奥から何かが走ってきた。爆風で髪はアフロ、スーツは煤け、片袖は焦げて千切れ、額からは煙が立っている。

便利屋68――陸八魔アルだった。勝手知ったる様子で手を振りながら近づいてくる。

 

「私……さっきからあなたたちをずっと探してて……はぁ、やっっっと見つけたの! あなたたち、本当に最ッ高にクールだったわ!」

 

勢いのまま突っ込んできて、目の前で急停止。覆面越しの視線を真正面から捉える。彼女は息を弾ませながらも熱っぽく語りかける。

まるで子供が憧れのスーパースターを見つけた時のように鼻息荒く目を輝かせ、尊敬と期待の入り混じった純粋な感情が迸っていた。

尋常ならざる様子に皆呆気にとられていたが、ヒフミがおずおずと口を開いた。

 

「あ、あの……それより……その格好、大丈夫なんですか?」

「今は私のことはどうでもいいの! ……このご時世にあれだけの大立ち回りができるなんて……本当に凄かったわ! そ、そういうことだから……名前を教えて!!」

「名前……?」

 

シロコが虚をつかれたように聞き返すと、陸八魔アルはこくりと頷く。

 

「ほら、チーム名とか、そういうのあるでしょ? あなたたちの今日の雄姿を、わたしのこの胸に一生刻み付けておける様に!」

うわ、なんだか盛大に勘違いされてる……ムウッ!?」

セリカちゃん、シーッ! ……はいっ! おっしゃることは、よーく分かりました!」

 

セリカがぼそりと呟くと、即座にノノミがその口を塞ぎながら朗らかに応じる。

 

「私たちは、人呼んで……『覆面水着団』!」

「……『覆面水着団』!? や、ヤバい……! 超クール! カッコ良すぎるわ!!!」

「ん、本当はスクール水着に覆面が正装なんだけど、今日はちょっと緊急だったから覆面だけ」

(シロコ先輩、なんか妙な設定付け足してる!?)

「そして私はクリスティーナだお♧」

「『だお♧』……!? す、すごい、キャラも立ってる……!」

「私たち、普段はアイドルとして活動してて――」

『あの……皆さん、先輩を早く治療しないと……』

「あはは……クリスティーナさん?に相手をしておいてもらっているうちに運びましょうか」

「ん、了解。離脱する。セリ――4号も相手しといて」

「うえ!? なんで私も!?」

「一人だけ残しておくと、何かあったとき危ない。危機管理の基本」

「……なんか、都合よく使われてない?」

「そんなことない。じゃ」

「あっ、ちょっと!!」

 

そうしてセリカとノノミを残し、他のメンバーはいそいそと撤退した。

しばらくの間、路上では残された二人と陸八魔アルとの間でアウトロー談義が白熱し続けたとのことである。

 

 

 

 

 

 

わたしの目の前には、遺体があった。

よく知った、あの少女の、遺体が。

 

彼女との記憶が、滝のように押し寄せてくる。

眠れぬ夜、神殿まで忍び込み、布の端を握っては「いっしょにねてくれないと、ないてやります」と頬を膨らませていたあどけない姿。

「将来お父さまみたいな学者になるのです」と胸を張って言いながら、三日と持たず机から逃げ出したあの娘。

朝も昼も、そして神前の祭日も、彼女はまっすぐだった。

 

そんな彼女が今、静かに横たわっている。

光のない瞳は、すでに閉じられていた。

誰かがそっとまぶたを下ろしたのだろう。そこに、最後の優しさがあった。

 

けれど――その頬には痣があり、

腕には縄の痕があり、

脚は泥に汚れ、

そして胸には――刃が突き立てられていた。

 

死に顔には、微かに涙の跡があった。

きっと、痛かったのだろう。

怖かったのだろう。

誰かを呼びたかったのだろう。

 

わたしは地に膝をついて、その遺体に触れた。

小さな肩に手を置く。

わずかに震えたような気がして、すぐに錯覚だと気づく。

彼女の体は、もう熱を持ってはいなかった。

 

なにかが崩れていく音がした。

遠くで、怒号が交差していた。

神官たちが、兵士たちが、町の者たちが、何かを叫び、誰かを糾弾していた。

しかし、わたしの耳には、ただひとつの問いしか届かなかった。

 

――誰がこの子を殺したのか。

誰が、何のために。

誰の正義が、この子の命を奪ったのか。

 

その問いだけが、胸の底に釘のように刺さったまま、わたしは……。

 

 

 

 

 

 

意識の底に、かすかな波が寄せては返す。

耳の奥で、自分の鼓動ではない一定の律動が響いていた。

重たいまぶたの裏側を、白い光がじわじわと満たしていく。

痛みではない。けれど、全身が水底から引き上げられるような、抗いがたい感覚に包まれている。

 

やがて、ぼやけた視界の輪郭がかすかに形を結び――

 

 

 

白い。

 

 

 

どこまでも、白い空間。

壁も天井も、硝子のように冷たい光をまとっていた。

 

わたしは見知らぬ台の上にいた。

左腕に管が刺さっている。何かの液体が、静かに流れ込んでいた。

微かな薬草の匂い――いや、違う。これは……知らない香りだ。

 

枕元には鉄の器具。見慣れない、奇妙な記号が点滅している。

天井からは風もないのに唸るような音。

 

「……どこだ、ここは」

 

声が掠れていた。喉の奥に粘っこいものが詰まったような感触がある。

身体が思うように動かない。起き上がろうとしたが、腹筋に力を入れた瞬間、激痛が腹部を走り抜けた。

 

「うっ……ぐ……」

 

いつのまにやら着せられていた簡素な服をめくりあげ、腹部に視線を落とす。己の胴回りはぐるぐると包帯が巻かれていた。それは間違いなく“手当”された痕跡だった。

 

誰が? なぜ?

 

疑問は泡のように浮かび上がり、思考の水面へと浮上する。だが答えはない。

 

「下手に動かないほうがいい。相当な大けがだった」

「――!!」

 

不意に投げかけられた声に驚き、わたしは跳ねるように身体を起こした。左腕に刺さっていた管がぶつりと外れ、ぽたりと雫がこぼれる。針の痕から鈍い痛みが走るが、構わず距離をとり臨戦態勢に入る。声がした方に視線を向けると扉に寄りかかり、パイプ椅子に腰を掛ける女の姿があった。

 

「まったく……。まだ安静にしてなければならないというのに。治るものも治らなく――」

「誰だお前は」

 

警戒を解かぬまま相手に問いかける。相手が何者であれ油断をするわけにはいかない。今は少しでも情報を集めるのが先決だ。

 

「……随分うなされていたようだし、おおかた悪夢でも見てまだ混乱している……といったところか。無理もないことだが、少し落ち着いたらどうだ」

「……質問に答えろ」

「本当に覚えていないのか? 既に何度も会ったことがあるだろう」

「……?」

 

パイプ椅子に腰掛けていたその女は、背もたれに寄りかかりながらも、隙のない気配を纏っていた。

白地の上着に濃紺のスカート、赤いスカーフ。腰には刃を固定したベルト、手には無骨な銃が下げられている。

 

長く艶やかな黒髪。その頭の上からは人間のものではない耳――鋭く立った狐の耳が覗いていた。

血のように深い紅の瞳が、射抜くようにこちらを見ている。耳に掛けられた大型のヘッドセットには通信機らしき装置が組み込まれ、肩越しにはいくつもの小物や装具が整然と下がっていた。

 

その姿――間違いない。

 

「……お前……!」

 

思わず低く唸り声が漏れる。

 

ゲヘナの裏路地、ブラックマーケットの雑踏、アビドスの廃墟。

わたしが潜伏先を転々とする中で、幾度となく視界に現れ、容赦なく追跡と襲撃を繰り返してきた小隊の長。

刃のような冷気と殺気をまとい、何度も銃火を交わした、あの追跡者。

 

「わたしを付け回してきた……カイザーの回し者――」

「……なるほど。そう見えるのか」

 

狐耳の女は感情を動かすことなく淡々と返す。紅の瞳はわたしを正面から捉えたまま、一切揺らがない。

 

「確かに、私たちが君を追跡し、何度も交戦するようになったのは――あの一件、カイザーPMC理事襲撃の後からだ。そう思い込むのも無理はない」

 

一呼吸置き、簡潔に続ける。

 

「だが、正確には違う。この際、改めて自己紹介しておこう」

 

そう言って女は名乗る。

 

「私は七度(しちど)ユキノ。SRT特殊学園所属、君を追跡してきたFOX小隊の隊長だ」




前話のアルとの再会シーンといい、今回のユキノとの再会といい、潜伏編を全カットして伏線をちょろっと書いておいただけで済ませたことによる勿体なさが連続してしまっている
あと何故だかわからないけどユキノの口調を再現するのが難しい……

*追記
アンケートを作ったので、良ければご協力ください。

「オシリスのユメ」を読む動機はどの要素の影響が大きい?

  • ホシノ曇らせ
  • 神話要素
  • ストーリー(構成、伏線など含む)
  • キャラの味付け
  • 文章・描写
  • テーマ
  • 上の選択肢の全て/総合的に
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。