オシリスのユメ 作:新人先生
今回は前話よりさらに短いんですが、【解答③】もある関係上ここで区切るべきだと判断しました。
ちなみに短編のURLはあとがきに置いておくので、そちらも是非読んでくださると嬉しいです!
「えすあーるてぃー特殊学園だと?」
「“SRT”。Special Response Team の略だ。少々特殊な立ち位置の学園だから、馴染みはないかもしれないな」
「スペシャル……れ、れすぽんす?……えー、どういう意味であったか……」
「『スペシャル・レスポンス・チーム』。要は特殊部隊だ。役割は警察と公安と法執行をまとめたようなもの――もしかして英語が苦手か?」
「ふ、ふん。近頃はカタカナ語が多すぎるのだ。最近の若い者はこれだから困る」
「……年は変わらないはずだが」
「と、とにかく! そのなんとか学園だかいう学校の生徒が、どうしてわたしを付け回していた?」
「“SRT”だ。老人でもないんだから覚えろ」
「ろ、老人……!? むっ……いや、今は些事だ。質問に答えろ。なぜだ」
ユキノは小さく嘆息し、端的に告げた。
「君を逮捕するためだ。カイザーPMC理事襲撃の容疑者、逃走中。自覚がないとは言わないだろう?」
「――テロリスト? よりにもよって、あんな連中と一緒にするな。奴らがアビドスで何をしていたか、知らぬはずあるまい」
オシリスの声音に棘が走る。
「百歩譲ってわたしがテロリストであったとしよう。ならば何故、お前たちは公的手段を取らなかった? 警察組織――ヴァルキューレと言ったか。それに通報すれば済むものを何故、お前たちは自分たちだけで動き続けた?」
「上層部の判断だ。ヴァルキューレは各学園の自治権が理由で活動を制限されることがある。しかしそういった場合であっても、法の執行が妨げられるべきではない。我々はそういったヴァルキューレでは対応できない案件や、高難度・迅速な任務遂行が要求される場面において投入される」
「――!!!」
その言葉に、オシリスはハッと何かに気づいたかのように目を見開くと、顔をずい、と突き出すようにして身を乗り出した。まるで仲間を見つけた孤児のように――あるいは旧友を見つけた少年のような顔をしている。ユキノはその様子に気圧されつつも、「な、なんだ?」と思わず一歩後ずさる。彼女が狼狽える様はなかなか珍しいものだった。
「……ということは――不法の最後の砦が、お前たちというわけか?」
「あ、ああ。我々の学園は政治的中立を志向している。相手が誰であれ、犯罪なら対処する」
「たとえば!? たとえば何をしたんだ!?」
「私の場合、過去には、違法兵器の製造拠点を突き止め、突入・押収まで持っていったことがあるが……」
「おお……!! 素晴らしい!!」
オシリスは思わずユキノの両手を掴み、上下にぶんぶんと振る。
「よーしよしよしよしよし!!」
「ちょ、ちょっと――揺らすな、包帯が……!」
「む? 包――いだだだだだっ!」
オシリスは自分の腹が悲鳴を上げていることを今さら思い出し、その場で前屈みになる。ベッド柵に額をこつんと当て、妙に殊勝な声で「……すまない」と呟いた。
ユキノは咳払いをひとつ。頬がほんのわずかに赤い。
「とにかく落ち着け。水、いるか?」
「……ああ」
前にも同じことを言われたことがあるな、と思い出しながら、オシリスは差し出された紙コップを受け取り一口だけ含む。冷たさが喉を通り過ぎる間に、ユキノは簡潔に続けた。
「褒められて悪い気はしないが、私は仕事をしているだけだ」
「仕事であれ、志であれ――正しき秩序に与するなら、称えるに値する。お前、いや――お前たちは、よい」
オシリスは思わず背筋を伸ばしかけ、包帯がきしんで再び顔を歪めた。
「だから動くなと言っているだろう」
「よいのだ……! わたしは嬉しい。弱きを護り、悪しきを挫くために刃を抜く者が、ここにいる。それだけで、十分だ」
不器用な称賛に、病室の空気が少し軽くなる。ユキノは肩をすくめた。
オシリスは唇の端を指で拭い、紙コップをサイドテーブルへ戻す。
かさ、と薄い音。そこで、彼女の笑みがすっと引き、視線が固まった。同じ瞳のはずなのに、色が変わったように見えた。深い井戸を覗き込んだような、底が測れない暗さ。
天井の蛍光灯が一瞬、白を強く吐き、次いで呼吸をやめたかのように静まる。唸っていた空調音が遠ざかる――いや、音が消えたわけではない。世界が音を透かして落ちていく。そんな錯覚に、ユキノは首筋の産毛が立つのを自覚した。
「――お前たちを見込んで、ひとつだけ、確かめたい」
声の高さが半分落ちる。引っこ抜けた管から滴る点滴の間隔が耳につく。
「お前たちは、法を執るという。ならば――」
ユキノは背筋が勝手に伸びるのを自覚した。肩甲骨の間に冷えが走り、耳の先がごくわずかに伏せる。銃口を向けられたわけではない。けれど、照準がこちらに据えられた、と身体が判断する圧がある。空調が働いているはずなのに、空気が湿り気を帯びて重くなったかのよう。
「お前たちにとって、“正義”とは何だ?」
ユキノは一歩、世界を踏み外した気がした。
視界の周縁がにじみ、オシリスだけが異様な解像度を持っている。まるで時間の流れが、彼女を中心に止まったかのようだ。
呼吸がしづらい。マスクは着けていないのに、肺が窮屈だ。
「……それは――」
言い出した舌の先に、かつての理念が乗りかけて、留まった。ここでそれを言えば、嘘になる――直感が先に拒んだ。
「正義の番人ならば、当然、答えくらいあるだろう?」
問い自体は短い。押しつけがましさはないのに、逃げ場を作らない視線だけが、正確にこちらを向いている。射撃場で、スコープの向こうの世界が狭くなる瞬間にも似ていた。
「……言語化が難しいか。ならば具体だ。これまで他に何をしてきた? それで大体わかる」
「……」
何も言えなかった。喉がひりつく。
過去の作戦なら列挙できる。違法工場への突入、密輸の遮断、拉致被害者の救出。――列挙はできる。だがいつからか、標的を選ばなくなった。与えられるだけになった。
連邦生徒会長の失踪で、SRTの上位権限は宙に浮いた。能力はあるのに権能がない組織は、政治にとって爆発物だ。閉鎖論はすぐに出た。
その隙間に差し込まれた“庇護”。学園の存続と引き換えに、命令系統は一本化された。――人質に取られたのは校名そのものだ。
(考えるのは上のやること。私たちは――)
状況が変わるたび、自分にこう言い聞かせてきた。
(――武器。武器は自分で考えないからこそ、価値がある)
勝手に動く武器ほど扱いにくいものはない。
銃は引き金を引く者の意思に従ってこそ意味を持つ。だから、自分の頭で判断する代わりに、命令に徹底して従う。そう決めていた。そうすることでしか、この立場を保てなかった。
「答えの用意がない、ということか」
ユキノは唇を開き、閉じた。声帯が固まる。指先に汗が滲むのを、手袋の内側で自覚する。
そのとき、耳の奥で短い振動が走った。ヘッドセットのインジケーターが一瞬だけ光る。
ユキノは反射的に側頭部へ指を添え、低く要点だけをやり取りする。
「……了解。――すぐ向かう」
応答を切ると、ユキノはわずかに視線を落としたまま言った。
「次の任務が入った。君が暴れる様子はないし……様子を見る限り、その怪我では暴れようとしても無理だろう。ここは一旦、離れる」
オシリスの眉が、かすかに動く。
「逃げるのか?」
「違う。必要な連絡をしに行く。……それと、伝言だ」
ユキノは一度だけ躊躇してから、はっきりと言葉を置いた。
「君が目覚めたことを報告した。近々、私たちの――上司が来る。君の追跡任務を出した本人だ」
「名は」
「会えばわかる。……それから」
ユキノは視線をわずかに逸らし、言葉を選ぶように口を動かした。
「さっき跳ね起きたときに、だいぶ乱れた。……服を整えておくといい」
オシリスは眉をひそめ、ついで自分の胸元を見下ろす。
上衣の合わせが外れ、包帯の白に挟まれて二つの淡い曲線がのぞいていた。布地の隙間から、わずかに影を含んだ薄桃色の輪郭――柔らかな膨らみの頂が、冷たい空気に晒されている。
しかしオシリスは何の動揺も見せず、指先で軽く布を寄せただけだった。
「なるほど……確かに、人前に出るのにこの格好は無作法だな」
淡々と、礼儀作法の確認でもするかのような口ぶりだった。
対照的に、ユキノのほうはわずかに赤く染まった顔をそらし、指を落ち着きなく動かしている。
キツネ耳がわずかに伏せられ、毛並みがぴくりと震えた。普段は冷静沈着な小隊長の、その仕草はどこか年相応で、妙に人間味がある。
「……そういうことだ。では」
短く告げてドアノブに手をかける。
「……ユキノ」
呼び止められ、彼女は振り返ることなく、耳だけをオシリスの方へに傾けた。
「何だ」
「わたしは、お前の答えを待つ」
ユキノは一瞬、耳を小さく動かした後で短く答えた。
「……覚えておこう」
扉が閉まる。
静けさが戻ると、オシリスは胸元の布を少しだけ整えながら、苦笑を浮かべる。――とはいえ、この簡素な病院着では“正装”には程遠い。
何か代わりになるものは……と視線を巡らせ、ベッドの白いシーツで止まる。
織り目が細かく、ほどけにくそうだ。幅も、長さも、悪くない。
「ふむ……これならば――」
オシリスは何かを思い付いたかのような顔をして、ゆっくりと身を起こし布をたぐり寄せた。
解答②は白紙提出でした。ちょっと~ユキノ?
次の解答③は自分が一番書きたかった話だけど、展開を予想できる人いないんじゃないかと思っています。ドキドキ。
私は純情なので、今回胸がはだける程度のサービスシーンを書くだけで悶えてましたよ、ええ。他人が書いたのを読む分には全然平気なのに、自分で書くと急にエッチに見えてくるんですわ。
https://syosetu.org/novel/384137/
↑更新してない間に書いていた短編。文体とか雰囲気をガラッと変えています。
「オシリスのユメ」を読む動機はどの要素の影響が大きい?
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ホシノ曇らせ
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神話要素
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ストーリー(構成、伏線など含む)
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キャラの味付け
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文章・描写
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テーマ
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上の選択肢の全て/総合的に
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その他