オシリスのユメ   作:新人先生

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近日投稿って言ってたのに、お盆の手伝いしたり、唐突に閃いたゴルコンダ=生塩ノア説を元に短編書いたりして普通に時間がかかってしまいました…すみません!
今回は前話よりさらに短いんですが、【解答③】もある関係上ここで区切るべきだと判断しました。
ちなみに短編のURLはあとがきに置いておくので、そちらも是非読んでくださると嬉しいです!


第6話 正義とは【解答②】

「えすあーるてぃー特殊学園だと?」

「“SRT”。Special Response Team の略だ。少々特殊な立ち位置の学園だから、馴染みはないかもしれないな」

「スペシャル……れ、れすぽんす?……えー、どういう意味であったか……」

「『スペシャル・レスポンス・チーム』。要は特殊部隊だ。役割は警察と公安と法執行をまとめたようなもの――もしかして英語が苦手か?」

「ふ、ふん。近頃はカタカナ語が多すぎるのだ。最近の若い者はこれだから困る」

「……年は変わらないはずだが」

「と、とにかく! そのなんとか学園だかいう学校の生徒が、どうしてわたしを付け回していた?」

「“SRT”だ。老人でもないんだから覚えろ」

「ろ、老人……!? むっ……いや、今は些事だ。質問に答えろ。なぜだ」

 

ユキノは小さく嘆息し、端的に告げた。

 

「君を逮捕するためだ。カイザーPMC理事襲撃の容疑者、逃走中。自覚がないとは言わないだろう?」

「――テロリスト? よりにもよって、あんな連中と一緒にするな。奴らがアビドスで何をしていたか、知らぬはずあるまい」

 

オシリスの声音に棘が走る。

 

「百歩譲ってわたしがテロリストであったとしよう。ならば何故、お前たちは公的手段を取らなかった? 警察組織――ヴァルキューレと言ったか。それに通報すれば済むものを何故、お前たちは自分たちだけで動き続けた?」

「上層部の判断だ。ヴァルキューレは各学園の自治権が理由で活動を制限されることがある。しかしそういった場合であっても、法の執行が妨げられるべきではない。我々はそういったヴァルキューレでは対応できない案件や、高難度・迅速な任務遂行が要求される場面において投入される」

「――!!!」

 

その言葉に、オシリスはハッと何かに気づいたかのように目を見開くと、顔をずい、と突き出すようにして身を乗り出した。まるで仲間を見つけた孤児のように――あるいは旧友を見つけた少年のような顔をしている。ユキノはその様子に気圧されつつも、「な、なんだ?」と思わず一歩後ずさる。彼女が狼狽える様はなかなか珍しいものだった。

 

「……ということは――不法の最後の砦が、お前たちというわけか?」

「あ、ああ。我々の学園は政治的中立を志向している。相手が誰であれ、犯罪なら対処する」

「たとえば!? たとえば何をしたんだ!?」

「私の場合、過去には、違法兵器の製造拠点を突き止め、突入・押収まで持っていったことがあるが……」

「おお……!! 素晴らしい!!」

 

 オシリスは思わずユキノの両手を掴み、上下にぶんぶんと振る。

 

「よーしよしよしよしよし!!」

「ちょ、ちょっと――揺らすな、包帯が……!」

「む? 包――いだだだだだっ!」

 

オシリスは自分の腹が悲鳴を上げていることを今さら思い出し、その場で前屈みになる。ベッド柵に額をこつんと当て、妙に殊勝な声で「……すまない」と呟いた。

 

ユキノは咳払いをひとつ。頬がほんのわずかに赤い。

 

「とにかく落ち着け。水、いるか?」

「……ああ」

 

前にも同じことを言われたことがあるな、と思い出しながら、オシリスは差し出された紙コップを受け取り一口だけ含む。冷たさが喉を通り過ぎる間に、ユキノは簡潔に続けた。

 

「褒められて悪い気はしないが、私は仕事をしているだけだ」

「仕事であれ、志であれ――正しき秩序に与するなら、称えるに値する。お前、いや――お前たちは、よい」

 

オシリスは思わず背筋を伸ばしかけ、包帯がきしんで再び顔を歪めた。

 

「だから動くなと言っているだろう」

「よいのだ……! わたしは嬉しい。弱きを護り、悪しきを挫くために刃を抜く者が、ここにいる。それだけで、十分だ」

 

不器用な称賛に、病室の空気が少し軽くなる。ユキノは肩をすくめた。

 

オシリスは唇の端を指で拭い、紙コップをサイドテーブルへ戻す。

 

かさ、と薄い音。そこで、彼女の笑みがすっと引き、視線が固まった。同じ瞳のはずなのに、色が変わったように見えた。深い井戸を覗き込んだような、底が測れない暗さ。

 

天井の蛍光灯が一瞬、白を強く吐き、次いで呼吸をやめたかのように静まる。唸っていた空調音が遠ざかる――いや、音が消えたわけではない。世界が音を透かして落ちていく。そんな錯覚に、ユキノは首筋の産毛が立つのを自覚した。

 

「――お前たちを見込んで、ひとつだけ、確かめたい」

 

声の高さが半分落ちる。引っこ抜けた管から滴る点滴の間隔が耳につく。

 

「お前たちは、法を執るという。ならば――」

 

ユキノは背筋が勝手に伸びるのを自覚した。肩甲骨の間に冷えが走り、耳の先がごくわずかに伏せる。銃口を向けられたわけではない。けれど、照準がこちらに据えられた、と身体が判断する圧がある。空調が働いているはずなのに、空気が湿り気を帯びて重くなったかのよう。

 

「お前たちにとって、“正義”とは何だ?」

 

ユキノは一歩、世界を踏み外した気がした。

視界の周縁がにじみ、オシリスだけが異様な解像度を持っている。まるで時間の流れが、彼女を中心に止まったかのようだ。

呼吸がしづらい。マスクは着けていないのに、肺が窮屈だ。

 

「……それは――」

 

言い出した舌の先に、かつての理念が乗りかけて、留まった。ここでそれを言えば、嘘になる――直感が先に拒んだ。

 

「正義の番人ならば、当然、答えくらいあるだろう?」

 

問い自体は短い。押しつけがましさはないのに、逃げ場を作らない視線だけが、正確にこちらを向いている。射撃場で、スコープの向こうの世界が狭くなる瞬間にも似ていた。

 

「……言語化が難しいか。ならば具体だ。これまで他に何をしてきた? それで大体わかる」

「……」

 

何も言えなかった。喉がひりつく。

過去の作戦なら列挙できる。違法工場への突入、密輸の遮断、拉致被害者の救出。――列挙はできる。だがいつからか、標的を選ばなくなった。与えられるだけになった。

 

連邦生徒会長の失踪で、SRTの上位権限は宙に浮いた。能力はあるのに権能がない組織は、政治にとって爆発物だ。閉鎖論はすぐに出た。

その隙間に差し込まれた“庇護”。学園の存続と引き換えに、命令系統は一本化された。――人質に取られたのは校名そのものだ。

 

(考えるのは上のやること。私たちは――)

 

状況が変わるたび、自分にこう言い聞かせてきた。

 

(――武器。武器は自分で考えないからこそ、価値がある)

 

勝手に動く武器ほど扱いにくいものはない。

銃は引き金を引く者の意思に従ってこそ意味を持つ。だから、自分の頭で判断する代わりに、命令に徹底して従う。そう決めていた。そうすることでしか、この立場を保てなかった。

 

「答えの用意がない、ということか」

 

ユキノは唇を開き、閉じた。声帯が固まる。指先に汗が滲むのを、手袋の内側で自覚する。

 

そのとき、耳の奥で短い振動が走った。ヘッドセットのインジケーターが一瞬だけ光る。

ユキノは反射的に側頭部へ指を添え、低く要点だけをやり取りする。

 

「……了解。――すぐ向かう」

 

応答を切ると、ユキノはわずかに視線を落としたまま言った。

 

「次の任務が入った。君が暴れる様子はないし……様子を見る限り、その怪我では暴れようとしても無理だろう。ここは一旦、離れる」

 

オシリスの眉が、かすかに動く。

 

「逃げるのか?」

「違う。必要な連絡をしに行く。……それと、伝言だ」

 

ユキノは一度だけ躊躇してから、はっきりと言葉を置いた。

 

「君が目覚めたことを報告した。近々、私たちの――上司が来る。君の追跡任務を出した本人だ」

「名は」

「会えばわかる。……それから」

 

ユキノは視線をわずかに逸らし、言葉を選ぶように口を動かした。

 

「さっき跳ね起きたときに、だいぶ乱れた。……服を整えておくといい」

 

オシリスは眉をひそめ、ついで自分の胸元を見下ろす。

上衣の合わせが外れ、包帯の白に挟まれて二つの淡い曲線がのぞいていた。布地の隙間から、わずかに影を含んだ薄桃色の輪郭――柔らかな膨らみの頂が、冷たい空気に晒されている。

 

しかしオシリスは何の動揺も見せず、指先で軽く布を寄せただけだった。

 

「なるほど……確かに、人前に出るのにこの格好は無作法だな」

 

淡々と、礼儀作法の確認でもするかのような口ぶりだった。

 

対照的に、ユキノのほうはわずかに赤く染まった顔をそらし、指を落ち着きなく動かしている。

キツネ耳がわずかに伏せられ、毛並みがぴくりと震えた。普段は冷静沈着な小隊長の、その仕草はどこか年相応で、妙に人間味がある。

 

「……そういうことだ。では」

 

短く告げてドアノブに手をかける。

 

「……ユキノ」

 

呼び止められ、彼女は振り返ることなく、耳だけをオシリスの方へに傾けた。

 

「何だ」

「わたしは、お前の答えを待つ」

 

ユキノは一瞬、耳を小さく動かした後で短く答えた。

 

「……覚えておこう」

 

扉が閉まる。

静けさが戻ると、オシリスは胸元の布を少しだけ整えながら、苦笑を浮かべる。――とはいえ、この簡素な病院着では“正装”には程遠い。

 

何か代わりになるものは……と視線を巡らせ、ベッドの白いシーツで止まる。

織り目が細かく、ほどけにくそうだ。幅も、長さも、悪くない。

 

「ふむ……これならば――」

 

オシリスは何かを思い付いたかのような顔をして、ゆっくりと身を起こし布をたぐり寄せた。




解答②は白紙提出でした。ちょっと~ユキノ?
次の解答③は自分が一番書きたかった話だけど、展開を予想できる人いないんじゃないかと思っています。ドキドキ。
私は純情なので、今回胸がはだける程度のサービスシーンを書くだけで悶えてましたよ、ええ。他人が書いたのを読む分には全然平気なのに、自分で書くと急にエッチに見えてくるんですわ。

https://syosetu.org/novel/384137/
↑更新してない間に書いていた短編。文体とか雰囲気をガラッと変えています。

「オシリスのユメ」を読む動機はどの要素の影響が大きい?

  • ホシノ曇らせ
  • 神話要素
  • ストーリー(構成、伏線など含む)
  • キャラの味付け
  • 文章・描写
  • テーマ
  • 上の選択肢の全て/総合的に
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