オシリスのユメ 作:新人先生
ところでまだアビドス編終わらないってマジ? ここまで7万字くらいだけど、3000~4000字間隔で更新するタイプの人なら20話使ってることになるんやぞ。
あと、はよ潜伏編も書かないとですね。ホシノ登場させたいからってすっとばし過ぎた感あるし。
「――お断り、です……!」
「――!?!?」
カヤは毅然と言い放った。胸を抑えられ呼吸すら困難になりながらも、眼光だけは鋭さを失わない。
「お前は――お前は、何を自分が言っているのかわかっているのか!? それとも、本当にわたしが何者かわからないほどの愚か者なのか!? わたしは――」
「神様、みたいなものでしょう。ええ、痛いほどわからされていますよ……っ、はあっ……それくらい、察しが付きます。でも、わかったうえでお断りだ、と言っているんですよ……!」
「ならば何故だ!?」
オシリスは心底理解不能という様子でカヤを睨む。カヤの目がギラつく。
「はは……何故ですって? 気に食わないから、ですよ」
カヤは挑発的に口角を釣り上げながら荒い呼吸と共に吐き捨てる。オシリスがカヤの胸を掴む手の圧が増す。彼女の苦悶の呻きが溢れる。
「がぁ……っ!」
「お前は“否定の告白”を拒む者がどうなるか、わかっているのか!?」
「さて、ねえ……」
「
「……はっ! 知りませんよ、そんなの」
「――!!!!」
カヤは苦痛に顔を歪めながらも、血走った目を逸らさずに見返す。
「……狂っているのか、お前は」
オシリスの声に怒気が混じる。病室の壁が軋むように鳴り、空気はさらに重く沈んだ。
カヤは嗤った。
「狂ってるのはそっちでしょう。神だか何だか知りませんけどね――来世がなくなる? 魂が救われない? ――だから何ですか。ニーチェによって、この世界はとうに『神は死んだ』と言い渡された後の世界なんですよ。空いた天蓋の下で、拠り所は自分で拵えるしかない」
オシリスは、心底理解不能だと言わんばかりにカヤを見つめた。
「なぜだ。なぜそこまで抗う。魂を救済する機会を自ら捨てるなど――」
カヤは短く息を吐き、唇を吊り上げた。
「――私は、“超人”を目指しています」
一瞬、沈黙。オシリスの指先がカヤの鼓動を確かめるように微かに収縮する。
「超人……?」
「ええ」
カヤは歯を食いしばり、なおも言葉を押し出す。
「人はみな、神に縋って、救済だの来世だのとすがりつく。でも私は違う。そんなものに跪いた瞬間、そこで終わりです。神に屈するくらいなら――超人なんて目指せません」
オシリスの眉間に深い溝が落ちた。
「……つまりお前は、わたしを否定することで己を肯定するつもりか?」
「そうですよ。気に食わないんです、あなたみたいな存在は。神だからって、上から『告白せよ』『救済してやる』なんて――笑わせないでください」
カヤは苦痛に震える体を押し立てるようにして、目だけは逸らさなかった。
「私が目指しているのは、神に従う人間じゃない。神すら乗り越える存在――ただ一人で、自分の足で頂点に立つ者です。もともと“神”が君臨する世界観から人間を救い出すために生み出された思想こそ、この“超人”という理想なんですよ。よりによって“神”に屈してやるなんて、超人を目指す者にとって一番やってはいけないことなんです」
オシリスの眼差しが揺れる。理解不能の色と、しかしそれを超えたところにある奇妙な興味が混じって。
「……なるほど。神を否定するのではなく、神に従わぬために否定を拒む、か。奇妙だ。だが――それほどまでに“超人”とやらを求める理由は何だ」
カヤは嗤いを零す。
「理由? 単純ですよ。人の群れはいつだって弱い。妥協し、迎合し、平均に埋没する。だからこそ――群れの上に立つ、ただ一人の“超人”が必要なんです」
オシリスの指がさらに心臓を締める。圧迫は痛みよりも重さを増して、肺の奥に沈む。だがカヤの瞳は曇らせるには至らなかった。
「この世界を治めるにふさわしいのは、書類に印を押すだけの官僚でも、票数を集めるだけの人気者でもない。大衆に迎合せず、己の理想を掲げ、それを実現する意志と力を持つ者――唯一の統治者。それこそが必要なんです」
「唯一の統治者――」
オシリスは低く呟いた。瞳の奥に、過去の影がちらつく。ホルス。秩序を取り戻した王の姿。自らが頂点となり、人々を導く。その意思こそが――
「それに膝を折った時点で、超人なんて茶番になる。だから――」
カヤの声が響いた、その刹那。
『――関係ありません。神様だからって――』
かつての記憶が、泡立つ水底のようにふいに浮かび上がる。
「――神だからって遠慮してやる道理はありません」
『――神様だからって遠慮してやりませんです』
二つの声が、時間を越えて重なり合う。
「――!」
オシリスの脳裏を、かつての光景が閃光のように走り抜けた。目の前のカヤと、過去の誰か。重なるはずのない輪郭が一瞬、二重写しになる。
病室に静寂が訪れた。
病室の蛍光灯が一瞬明滅し、空気がざらつく。沈黙のなか、オシリスの表情からは怒気が薄れ、代わりに何かを測るような冷静さが浮かんでいた。
「……ならば問う」とオシリスはゆっくりと口を開いた。
「お前の言う通り、人は弱い。ゆえに、それを体現して導くただ一人の統治者が要ると、わたしも思う。ならばその統治者に必要なものとは何だ。お前の言う“超人”が王座に就くための条件――それは何だと考えている」
カヤは荒い息を吐きながら、かすかに笑んだ。
「……条件ですか。簡単なことです。統治者に必要なのは、“理想”を持っていること。計算高い官僚の能吏でもなければ、民衆に愛想を振りまく偶像でもない。――国家をどうしたいのか、その青写真を自分の中に掲げられるかどうか。それがなければ、ただの椅子取りゲームですよ」
「理想――」
「私のキヴォトスでは、犯罪を許しません」
オシリスはその言葉を噛み締めるように反芻した。
理想。
カヤの理想と、自身の理想はおそらく異なる。だが――根底には確固たる芯があった。それはかつてオシリスが夢見た統治の在り方に似ていた。
民をまとめ、秩序を築き、国の行く先を定める唯一の存在。その資質が“理想”という形であっても――
カヤは苦痛に喘ぎながらも続けた。
「理想がなければ統治できません。理想なき者は、ただ周囲に流される傀儡です。誰かが作った枠の中でしか動けない人間が、国を導けるわけがない。決して、このキヴォトスを、知識人ぶったリベラルに、理想も持たず書類仕事をこなすだけの官僚女に任せたままでいいはずがない――!」
オシリスの目が細められる。
「……官僚女、か。名を伏せているが――随分と具体的な恨みがこもっているな?」
カヤはかすかに笑った。苦悶に顔を歪めながらも、瞳には確信の色がある。
「そうです。彼女に“正義”などありません。あるのは便宜と手続きだけ。そんなものが統治者の資格になるとでも? 私はそうは思いません」
オシリスは黙したまま、手のひらでカヤの鼓動を確かめる。速い。だがその速さは怯えではなく、熱を帯びた思想の昂ぶりだとわかる。
「……では、問う。お前にとって“正義”とは何だ」
空気が一段と重く沈む。神の問いかけは裁きであり、逃げ場を許さぬ詰問だった。
だがカヤは唇を吊り上げ、言葉を叩きつけるように答えた。
「正義とは――“真理”です」
オシリスの眉がわずかに動く。カヤはその反応を見逃さず、さらに言葉を重ねた。
「人それぞれの信念? そんなものは正義じゃありません。ソフィストたちの屁理屈に過ぎない。彼らは“正義は人によって違う”などと吹聴して、結局は力ある者や金で買える者が勝つ、そんな相対主義に貶めてきた」
彼女は苦痛に顔を歪めながらも、声に力を込める。
「だからこそ、かつてソクラテスは命を賭けたんです。毒杯を煽ってまで、“正義とは何か”を問い続けた。相対化されて消えていくものではなく、どこかに確固として存在するものだと。それを無駄にしないために、プラトンは師の遺志を継いで“イデア”を掲げ、真理としての正義を追い求めた」
オシリスの瞳が揺れる。その語り口は人の身から放たれたものとは思えない確信に満ちていた。
「もし私が“正義は信念の数だけある”などと軽々しく言ってしまえば、彼らの努力はすべて無駄に帰す。魂を燃やして真理を探求した人々を裏切ることになる。――だから私は、正義を“真理”と呼ぶ。必ずどこかにただ一つ存在し、それを目指すためなら手段を選ばないほどの価値がある。そうでなければ、正義という言葉はただの空虚な記号です」
オシリスの瞳が再び細まり、しかしそこにあったのは怒りではなかった。
「正義を“真理”と呼ぶか……」
低く洩れた声は、どこか懐かしむようでもあった。
「……マアト――秩序と真実の重ね合わせ。その名のもとに、わたしは死者を裁いてきた。魂の重さを量り、真理に適うか否かを判じる。それが王であれ奴隷であれ、すべては等しく――」
オシリスはそこで一度口を噤み、胸に突き刺さった記憶を振り払うように短く息を吐いた。
「わたしもまた、正義とは真理だと思う。正義が信念の数だけあるなどと放言する者は、わたしの時代にもいた。だがそれは秩序を腐らせるだけだった。魂をすり減らし、国を崩壊させる毒に他ならなかった」
カヤは、掴まれた胸の痛みに顔を歪めつつも、オシリスに畳み掛けた。
「なら、話が早いでしょう。――私も同じです。正義を相対化する奴らこそが、腐敗を広げる。だから私は、真理を探す。正義とは“在る”と信じているから」
「……」
オシリスはしばし沈黙した。神の眼差しがわずかに柔らぎ、掴んでいた手の圧もほんの少しだけ緩んだ。
「お前……奇妙なものだな」
「奇妙?」
「汚れた魂を持ちながら、言葉だけは真理に触れている。――まるで、己の手を泥で濡らすことを厭わぬくせに、その奥底では澄んだ理想を掲げているかのようだ。いや、“澄んだ”というと語弊があるか」
カヤは嗤った。
「泥に足を突っ込まなきゃ、上に立つことなんてできませんよ。真理を夢見て語るだけなら簡単です。でも、それを実現するために手を汚す覚悟がなきゃ、世界は変えられない」
まるでカヤの発した“超人”という言葉の感触を確かめるかのように、オシリスはひとつひとつ言葉を選びつつ続けた。
「……“超人”と言ったな。わたしもまた、唯一の統治者が必要だと考えている。この地を導き、秩序を打ち立てる者――かつてホルスがそうであったように。お前の理屈は、わたしの夢見た世界と……思いのほか近い」
オシリスは手を胸から引き抜く。
「……腐りきったこの地で、わたしと似た理を抱いている者がいようとは思わなかった。しかも、それがお前のような道を踏み外しかけている人間とは」
その声音には、ほんのわずかだが愉悦の色が混じっていた。
「お前の魂は濁っている。だが――まだ沈み切ってはいない。理想を掲げるなら、完全に道を踏み外す前に矯正する余地はある。鍛え直せば、第2のイムホテプにすらなり得るだろう」
カヤは肩で息をしながら、目を瞬いた。
「イムホテプ?」
「人の身でありながら、神の地位にまで上り詰めた者。知と理想をもって世界を築き上げた――古の同胞だ」
オシリスはわずかに不敵な笑みを浮かべ、カヤに歩み寄る。
「お前もまた、唯一の統治者が君臨する世界を望むのだろう? ならばわたしと組め。わたしと共にあれ。お前を矯正し、救ってやろう」
カヤの胸に走っていた圧迫感がようやく和らぎ、息が整い始める。彼女は口の端をつり上げ、かすれた声で吐き出した。
「……矯正? 救済? はは……おかしいですね。私はあなたに従う気なんてさらさらありませんよ」
「――なんだと?」
「でも、利用する価値はある。あなたは力を持ち、しかもこの世に“存在しない”身分。そんな存在を手元に置いておくのは、政治的にも戦略的にも極めて有効です。だから――ビジネスパートナーになりましょう」
カヤの目は鋭く光り、唇には挑発的な笑みが浮かんでいた。
「あなただって、身を隠す場所が必要でしょう? 私は当面の間それを提供しましょう」
オシリスは数瞬、黙したまま彼女を見下ろしていた。やがて鼻で笑い、低く呟く。
「……生意気な奴め。超人をうそぶくだけのことはある。その鼻っ柱をたたき折ってやろう」
その声音には、怒りではなく、むしろ奇妙な期待と興趣が滲んでいた。
彼女は視線を外し、しばし天井を仰ぐ。包帯の下から滲む痛みをものともせず、その声音はどこか遠い場所を見据えていた。
「それに――俗世に毒されてはいるが、アビドスのあいつよりは、よほどマシだ。まだ取り返しのつく範囲だろう」
「……? アビドスの“あいつ”、とは?」
カヤが眉をひそめる。
オシリスはしばし沈黙した。揺れる瞳の奥で何かを反芻するように。
やがて低く、しかし決定的に区切るように言い放つ。
「諸事情あって、それは言えない。隠し事は本来好きではないのだがな」
「……まあ、無理には聞き出しませんが」
このとき、表に出すことこそしないが、カヤはとある違和感を目ざとく感じ取っていた。
(――妙だ)
「アビドスのあいつ」と言いながら、それをわざわざ伏せた?
彼女の背景を鑑みれば、「アビドスのあいつ」とは十中八九カイザーPMC理事のことだ。だが自分がアビドスの一件を把握していることは、すでに相手に伝えてある。ならば、今さら隠す意味などないはずだ。
(……なのに、ぼかした?)
ほんの一瞬の沈黙と、無駄な言い換え。その隙間に、粗雑な取り繕いが透けて見えた。
(――結局、胸に栄養を取られている輩の頭なんてこんなものですか)
カヤの口端が、冷えた愉悦を含んでわずかに吊り上がる。
(この程度なら、こちらの手のひらの上で踊らせることも難しくない)
内心では既に、結論に至っていた。
この少女――いや、目の前の“神”を名乗る存在がどれほど強大であろうと構わない。頭が回らないのであれば、尚のこと都合がいい。自分のために、その力も存在も徹底的に利用してやればいいのだ。
(私の手元に置いておけば、カイザーに対する最大の切り札になる。事件の真相を握りつぶし、利用価値だけを吸い尽くす……駒としては申し分ない。利用されているとも知らず、勝手に力を振るえばいい。最後に笑うのは、私だ)
彼女の胸の内に渦巻いているのは、冷徹な計算と、支配への欲望だった。
オシリスは、カヤの張り付けた笑みを見ていた。そんな彼女に向かって、オシリスは包帯越しの腹部に痛みを抱えながらも、淡々と威厳をもって告げた。
「……生意気な奴め。だが、お前のように泥に足を踏み入れながら理想を掲げる者は、この地では希少だ」
「それはどうも」
カヤは涼しげに返す。
「いずれその理想がどこに行き着くか……頂点で見極めればいい」
オシリスの声は低く、しかし愉悦を滲ませていた。カヤは指を組んだ手を持ち上げ、軽く肩をすくめてみせる。
「ええ。それまでは互いに利用し合えばいい。あなたは身を隠す居場所を、私は力と存在を――。お互いに悪い話じゃないでしょう」
そう言ってカヤは右手を差し出した。
「ほら、手を出してください。今度は胸に突っ込まないでくださいよ」
「もう冗談を言う余裕があるとは。さっきまで生唾を飲んで苦しんでいたくせに」
「ビジネスパートナーは対等でなくては。そうでしょう?」
「減らず口を」
そう言うと、オシリスもまた右手を差し出し、固く握りしめた。
こうして、正義漢のお尋ね者と汚職官僚という相容れないはずのバディが、キヴォトスの端でひっそりと誕生したのであった。
*
「ああ、そういえば」
「……? 何ですか?」
唐突にオシリスが思い出したように口を開く。
「お前、さっき“住む場所を用意する”とか言っていたな」
「え? まあ……はい。防衛室の予算で、どこか適当な場所を――」
「ならば決まりだ」
「決まり?」
「お前の家に住まわせろ」
「――はあああっ!?」
カヤの素っ頓狂な声が病室に響く。
「な、何言ってるんですか! いやいやいや! 普通に新しい住居を手配しますって! そっちの方が絶対に便利ですし!」
「いや、それでは駄目だ」
「駄目って……」
「お前のことだ。目を離すと、どうせ裏で何を企むか分かったものではない。それに、わたしはお前を導くと決めた。ならば付きっ切りで語り合い、鍛え直してやるのが筋だろう?」
「い、いやいやいやいや! そんなのただの居候じゃないですか! こっちだって生活が――」
「ん……?」
オシリスがわざとらしく右手を持ち上げ、指をワキワキとさせる。
「ま、まさか……!」
「いま、何か言ったか?」
「――ッ!!」
カヤは一瞬で口をつぐんだ。喉まで出かかった抗議が、綺麗さっぱりと引っ込んでいく。
胸の奥で悪態をつきながらも、愛想笑いを張り付けるしかなかった。
「……ご自由にどうぞ、ええ」
「よし、もう一つ契約成立だな」
(くそっ、なんだかんだ理由つけて後々追い出してやる……!)
「一応言っておくが、神との契約なのだから、破ろうものなら相応の罰が下るぞ?」
「……は?」
「安心しろ、わたしも破れないから平等だ。うむ。そうと決まれば、まずは掃除をしておけ。わたしは湿気と埃が苦手でな」
「……」
カヤは笑顔を崩さぬまま、内心で盛大に机を叩いていた。
こいつ、本当に嫌いだ!!!!!
カヤ強化路線。人間相手なら本編みたく負けるけど、神相手なら超人のプライド的にギリギリ譲らない。
【解答まとめ】
先生:正義は信念
ユキノ:(回答できず)
カヤ:正義は真理
正義マンのお尋ね者と汚職官僚。
神と超人。そしてデカパイと貧パイ。
でも思想・哲学・政治信条を一部共有できる数少ない同士。
「正義とは」シリーズは一旦ここで区切りとします。アビドス編は普通に続きます。ホシノ出したいし。
以下のアンケートについてですが、パヴァーヌ編など、メインストーリーの中でもホシノの影が薄い部分をどうするか、ご意見をくださると嬉しいです。票が多い案を必ずしも採用する訳ではありませんが(自分のリソースも考慮しつつ決めます)、今後どう進めていくかの参考にさせていただければと思っています。
ホシノがあまり関わってこないメインストーリーをどうする?
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省く/ダイジェスト化/番外編の扱い
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しっかり書く