【完結】オーバードーズ・ヒロイズム 〜時限能力獲得ドラッグ中毒TSヒーローちゃん〜   作:相竹空区

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7話 正義/アウトロー(下)

 

 レイを見送ったビルの屋上から、ルミナスが事の経緯を眺めているのは自然な事。

 レイならば解決出来るだろうと、カツアゲ現場を眺めていれば、やはり予想通りに簡単に制圧してみせたのだからルミナスは感嘆の声を上げる。

 

「やるねぇ。さっすがレイ……ありゃりゃ、警察来ちゃった」

 

 一部始終を見ていても、何を話しているかまでは分からない。

 分からないが、レイがテレポートで逃げない事からイレギュラーが起きている事だけは理解する。

 

「早く逃げないの?能力使えなくなった?撃たれたら大変だって……」

 

 ハラハラと、ルミナスが遠くの様子を眺めているだけの状況にもどかしさを感じ始めた頃、視界からレイの姿が消えた。

 

「消えた!……良かったぁ」

 

 消えた、つまりレイの安全は心配ないという事。

 テレポートは逃走に使えば、追いつける者などそう居ない。

 ルミナスの安堵の息が全て吐き出される前には、その背後にレイが落ちてきた。

 

「おかえり〜……って、レイ?」

 

 転がり込むようなテレポートで現れたレイは、起き上がる事もせず這いつくばったまま。

 心配したルミナスが近付いて、レイの肩にそっと手を触れてみると、その肩が震えている事に気が付く。

 そしてその真っ青な顔色は、ルミナスを慌てさせるには十分だった。

 

「レイ!?どうしたの!?どこか怪我でも……」

 

 普段の間延びした口調を忘れ、怪我はないかとレイを慮るルミナスだが、返ってくるものはない。

 レイはただ、震えた唇からか細く呼吸をするだけ。

 

「上手くいってるって……そう思ったのに」

「レイ?」

 

 レイが不意に溢した言葉は、聞かせようとして発した訳ではなく、殆ど独り言のようなもの。

 聞かせるのはルミナスでも、壁でも床でも良かった。

 そもそもひとりで抱え込む事に慣れているのだから。

 

「良い事をしたい……人を助けて、ヒーローみたいに……」

「出来てるよ?レイは色んな人に親切にしてるって知ってる」

「でも僕じゃ駄目なんだ。僕が何をしても犯罪者だから!偽物だから良くならない!」

 

 犯罪者、という表現は間違いではない。

 実際レイは非合法の活動を行っているのだから、ルミナスは人助けをしているレイを人間的に肯定しつつも、犯罪行為については無条件に肯定しづらい。

 個人的な、人間性の肯定とは別の問題に、ルミナスは言葉を失いただレイを背後から優しく抱擁した。

 

「そんなに自分の事を悪く思わないでいいんだよ。人それぞれに出来る事、出来ない事があるんだから、全部悪いように捉えたって仕方ないよ」

 

 それは明確な解決策というよりも、心に寄り添って慰撫する言葉であったが、人と触れ合う事に慣れずそして飢えていたレイにはよく効くものだ。

 そしてよく効いてしまうからこそ、それに対する拒否も出る。

 押し除けるようにしてルミナスと距離を取るレイは、酷く動揺し慌てふためき後ずさった。

 

「だ、だ、駄目だよ僕に触っちゃ!?こんな、のに触っちゃ君が汚れちゃう」

 

 その優しさは自分には相応しくないものだと、そうレイは考える。

 なぜならば、それに値しない罪人であると刷り込まれたから。

 贖いきれないものを贖わなければならないと、そう考えたから。

 

「レイは汚くなんかないよ?」

「僕も最初はそうなれると思ったけど、駄目なんだ、駄目なんだよ!綺麗になれたって罪が無くなったって思ったけど!」

 

  故にレイは、ヒーローに憧れる。

 

「僕が良い子になれば、本物になればきっと迎えに来てくれるって……許してくれるって思ったのに」

 

 姉のような特別、それ以外に──母に見てもらう──方法が無いから。

 

「僕は結局変われない……」

 

 だが結局、レイモンド・クロスが能力を得るドラッグを使用したところで、それは一時的なもの。

 合法的にヒーローになろうと思っても、手持ちに限りがあるうえに時間制限があるとなれば、到底騙し通せるものではない。

 結局レイモンドは非合法な活動をする事でしか、己の満足を得られずに、今ではこうして満足すら得られなくなってしまった。

 レイモンドがレイモンドである限り、決して救われないジレンマ。

 その只中に、彼は居た。

 

「人間、産まれた時に変われる範囲って決まってるよねぇ」

 

 そして同じく、自分が自分である限り変えられないものを持つ者が居る。

 

「ルミナスには分からないよ……」

「そりゃあ分かんないよ。レイはレイだし、完全無欠のヒーロールミナスちゃんには悩みなんて無いもんねぇ」

 

 突き放すような事を冗談めかして言って、だがルミナスの輝く瞳は憂いを帯びて、吐く息も気怠い。

 

「でもウチにはクリスタルって、中身の女の子が居るから。産まれた時から人より眼が良くて、他の人には見えないものが見えちゃった」

「ルミナスの、スーパーパワー?」

「そ。遠くを見れて、そして壁の向こうやポケットの中身が見えちゃう力。あの子は忘れ物をして困っているなぁ、とか誰が学校の何処に居るとか、そういう事が分かる力」

 

 ルミナスはそこで言葉を区切り、何度も味わった苦汁を思い出して噛み締める。

 

「でもね、私の前では隠したいって思う秘密も意味ないの。秘密のノートとか、学校に持ち込んだゲームとか。覗き魔だとかチクリ屋だとか散々言われたなぁ〜」

 

 やはり口調は浮ついて、しかしそれを放った表情は無理やり作った笑みだった。

 

「悪い事してるのは自分だってのに、ウチがチクったって言うんだよ!?酷くない?こんな眼のせいで、勝手に性格悪いって事になるの!欲しいと思った訳でもない力のせいで、昔は虐められてたなぁ」

「酷いね……ちょっと分かるかも。僕もそんな感じだから」

「そうかな?ウチとレイは違うと思うなぁ」

 

 対話によって心が落ち着き始めていたレイだったが、唐突に梯子を外されて混乱が勝る。

 人を手玉に取るような、そんな様子のルミナスは笑みひとつコロコロと移り変わる感情を表していて、レイは着いて行くのがやっと。

 むしろそのように、内向きになるような思考から遠ざけるルミナスの策であったのかは、その笑みだけでは判断の付かない事だった。

 

「だってレイは真面目過ぎるもんね。結局ウチはこの力を活かそうとしてヒーローになったけど、ぜーんぜん上手くいかない。ウチはやっぱり見えすぎちゃうから、あそことあそことあそこで困っている人が居る〜って報告しても、解決する為の人員が足りないんだって」

「でも、ヒーローならみんなを助けないと……」

「ホント!ウチもそう思うの!でも無駄に報告するな!重大事件に絞って報告しろ!って怒るんだよぉ!?ならウチにだって考えってものがある!」

「それは、何?聞いても……良いかな」

「良いとも良いとも、なんせレイがウチの考えだもんねぇ〜」

「ぼ、僕?」

 

 予想外の返答にレイは目を見開いて驚き、ルミナスは悪戯心を滲ませた笑みを浮かべて、その輝く瞳でレイを覗き込む。

 

「前に言ったでしょ?ウチのお婆ちゃん、レイに助けられたって」

「助けたって言っても、横断歩道を渡るの手伝っただけだよ」

「他の誰でも、ヒーローでもなくてレイが助けてくれた。ウチが見えちゃったものを、レイは消してくれる。困っている人が見えるのに、ウチは見えるだけだからねぇ……」

 

 ルミナスに、戦闘に役立つ能力はない。

 ただ人よりも遠くが見えて、透視が出来る。

 それは確かに使い用によっては強力だが、他者との連携が必要な強さだ。

 だがルミナスが見つけてしまう事件に対し、手を差し伸べる者は居なかった。

 銃撃戦になるような重大な事件から、日常の些細な困り事まで、ルミナスにとっては等しく事件。

 これは人よりも遥かに広い目の前(・・・)で困っている人を助けたいと思う善性を持ちつつも、助ける為の能力を持たないルミナスの不幸と言えた。

 

「だから僕を助けてくれるの?」

「ウチがレイに助けられてるんだよぉ。ウチが見てるだけしか出来ないだから規則なんて知った事かぁ!ウチはレイを応援する!だって、それで困っている人が笑顔になるなら正しいってウチは信じてる!」

「大丈夫かなぁ……」

「後先の事考えて、それで今が置いてきぼりになっちゃ意味ないもんね!ウチは過去でも未来でもなく、今を生きてるんだから!」

 

 ルールを無視して目の前の問題に取り掛かるそれは、刹那的でその場凌ぎの繰り返しになってしまう生き方だが、少なくとも優先順位の頂点に今の楽を置けば悩む必要はなくなる。

 そしてルミナスはまだ子供で、両親に生活の保障をして貰っている時分だ。

 ならばこの選択は、その両親からの愛を受けたクリスタルという少女だからこそ選べたもの。

 ならばこの言葉を受け取るレイはどうだろう?

 彼にも生活を保障してくれる保護者は居る。

 だがそこに、レイは甘えきれない。

 ただ全てを抱え込む事で生きてきたレイが、ようやく手に入れた自己救済の手段が能力獲得ドラッグだ。

 この上なく今を重視したその選択を、図らずしてルミナスは肯定した。

 

「僕は全部が不安かもしれない。さっきまでは人生で初めて、上手く行ってるって思えてたんだ」

「じゃあ今は?」

「頑張ってた意味が無いのかもって」

「レイは何を頑張ってるの?」

「人助け……ヒーローみたいに、能力を使って」

「なら出来てるじゃん!ウチよりよっぽど人助けしてるよ〜」

 

 そして破滅的な特別に手を出して得たものを、肯定した。

 

「このまま続けてもいいのかな、こんな僕なんかが」

「さあ〜それはレイが決めるものだからねぇ。ウチならやりたいならやるし、やりたくないならやらないよ」

「僕は……やりたい。人を助けて、感謝されると生きていてもいいんだって許された感じがする。それでいつか──」

「あー!ダメダメ!大切な願いは迂闊に口にしちゃいけないよ?ヒーローならミステリアスな魅力がなきゃね?」

「あはは、確かに。僕もなれるかな、ヒーロー」

「力の強さとかじゃなくて、人を助ける心持ちこそがヒーローだってウチは習ったよ。レイなら十分じゃない?」

 

 ルミナスは当然ながら、自らが肯定した行いの裏にあるものを知らない。

 レイ自身の行いは純粋だとしても、手を出したものはどうだろう。

 使っている本人ですら、その全てを知りはしない拾得物。

 そこにどんな悪辣な副作用があるかも分からず、それを使い続ける事を選んだ。

 救う事で、救われたい。

 レイモンドの願いはひとつ。

 

(僕も特別な存在になって、良い事をしたら……お母さんは僕の事を許してくれて、迎えに来てくれるかも)

 

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