ポケモンバトル部トリプルバトルチームへようこそ 作:k@ins
小さなゲーム会社から発売された、ゲームシリーズ『ポケットモンスター』縮めて『ポケモン』今から50年ほど前にそれが世に出てから世界はポケモン1色に染め上がった! ポケモンを集め、交換して、一緒に暮らす。そんな様々な楽しみ方があるゲームの中で、ひときわ盛り上がりを見せる遊びがあった……それは『ポケモンバトル』!!!!
『ラティアス!!! “いやしのはどう”』『カメックス!!! “しおふき”!!!』『ひゅわーん!』 『カアアアアア!!!』 夢幻ポケモンの支援を受けて砲台から放たれる大量の水、しかしそれは壁のような守りに阻まれる。
『ギルガルドのワイドガードだ、その攻撃は届かない! 反撃だ! ガルーラ!!!!!!!!』『があああああ!』
電子の世界の数字の塊だったポケモンたちは3D技術の進化により生み出された『ポケットリアライザー』縮めて『ポケライザー』の力で身近にそしてそこにいるかのように映し出される。ポケモンバトルもよりリアルに! よりダイナミックに! ポケモンバトルはスポーツとして今や世界中で行われ、多くの子どもたちがプロを夢見るのだ!
「いけ! がんばれ!」 テレビの前で試合をこの少女もその一人、名古屋市の
「この構成……やっぱり、ラティアスは“追い風といやしのはどう”でのサポート役、カメックスが構築のエース……! そして……でもこのギルガルドによって防がれた……!」
瞬きも忘れて実況とバトルを追いかける。 しかし彼女もついこの間まで小学生だった子ども、「こら未来! あしたから中学の授業が始まるのよ! そんなんじゃ背も伸びないわよ」「わかってるよお母さん!」
未来は名残惜しそうにテレビを消すと布団飛び乗った。
図鑑データや過去の大会映像をノートにまとめるのが日課で、夜遅くまでバトルのリプレイを観ることもある。中でも、トリプルバトルに魅せられていた。
3体のポケモンが同時に動き、絡み合いながら戦う姿。まるで舞台の演劇のようで、見るたびに胸が高鳴った。だが、実戦経験はゼロ。育てたポケモンすらいなかった。
それでも夢を見ていた――いつか自分も、あの舞台に立つのだと。
「……でも、やっぱりバトルって奥が深い。カメックスの“しおふき”はHPが高いほど威力が出る。ギルガルドの“ワイドガード”で止めるのは定石だけど、どうすればその上を取れるかな……」
ぶつぶつとひとりごとをつぶやきながら、部屋の天井を見上げる。そこには、過去の名試合の写真や、憧れの選手たちのサイン入りカードが何枚も貼られていた。 「明日から中学生か、ポケモンバトル部はあんだよね? でもトリプルバトルはあんまり人気がないしなー」
「……あーあ、もっとトリプル流行ればいいのに」
未来はニンフィアのぬいぐるみをそっと抱きしめるようにして、布団に潜り込んだ。 カードの中の選手たちは未来を慰めてくれた気がした。
膝上で揃えられた紺色のスカートから伸びる足。学生服のズボンがずらっと並ぶ制服に着られた少年少女たちは少しわくわくしていて少し不安そうだ。そんな少女の中に一人、未来の姿があった。名古屋市立藤岡中学校はなんて事のない普通の中学校だ。
未来たちは始業式で先輩たちから部活の説明を受ける、さっそく今日から体験入部が始まるそうだ。未来は先輩の説明をほったらかしにて全員に配られた部活紹介のパンフレットをめくり続ける。吹奏楽部、違う。戦車部、これも違う。 パラパラと目を走らせて、ポケモンバトル部、これだ! 未来はついにお目当ての部活を見つけた。
ポケモンバトル部、近年その名を冠する部活動は着々と増え続けている。活動内容は至って単純! それはポケモンバトルをすること! そして未来は決定的な1文を見つけた! 『主要5種どれでも歓迎!』主要5種とはシングルバトル、ダブルバトル、トリプルバトル、ローテーションバトル、マルチバトルの5種類だ。夏に横浜、みなとみらいで行われる全国大会では日本中のポケモントレーナーがこの5種の競技と団体戦で覇を競うのだ!
ポケモンバトル部がにトリプルができる気配があれば後は部室の扉を叩くだけ! そう考えているとポケモンバトル部の紹介が始まる。「次は……ポケモンバトル部です」司会の生徒が紹介すると、ステージ上に現れたのは、黒い学生服のホックまできっちり留めて横にも縦にも大きい眼鏡の男子生徒だ。
「ポケモンバトル部、部長の
部長の静かな言葉に会場の空気がすっと引き締まる。生徒の顔には驚きと困惑を浮かべる者もいる。だって去年までは……「ポケモンバトル部は、全形式に対応する実力をつけ、今年度は横浜のみなとみらいで行われる全国大会での入賞を目指します。初心者の方も歓迎します」 付け加えたかのように初心者を勧誘し川村部長は去っていった。
教室に戻っても、未来はまだそわそわしていた。机の上にはくたびれたパンフレット、指先は緊張気味にポケモンバトル部の文字撫でている。
「──まぁ、あなたも気になっていたのね。あの部活」
ふいに、隣の席から声がした。振り向くと、未来は思わず目を見張った。そこにいたのは、整った黒髪をきちんとまとめ、上品な佇まいを崩さぬ少女。真っ白なハンカチを膝の上に丁寧に置いたまま、にこやかに微笑んでいる。
「え、えっと……隣の席の……」
「織田晴香と申します。お隣の席のご縁ということで、ご挨拶をと思って。……ポケモンバトル部、気になっていたのよね?」
「あ、うん。私、トリプルバトルが好きで……!」
「まぁ、奇遇ですわね。わたくしもですの。シングルやダブルも結構ですけれど、あの華やかな布陣、読み合い……あれほど芸術的な競技は他にないと存じますわ」
(芸術!?)未来は心の中で思わずつっこみそうになったが、晴香の言葉はどこか説得力に満ちていて、未来は自然と頷いていた。
「私は、音無未来。……でも、実はまだ、トリプルで戦ったことないんだ。見るのと研究ばっかで」
「まあ、奇遇ですね。わたくしもですのよ。けれど、憧れは何よりの原動力です。ご一緒に、夢を追いましょう?」
晴香は、指先を揃えて控えめに、でもどこか凛とした笑みを浮かべてそう言った。
未来は少し照れくさそうに笑い返しながら、心の中でつぶやいた。
(……なんかすごい子と同じクラスになっちゃったかも)
オリエンテーションがすべて終わり、放課後のチャイムが鳴り終わると、教室の中は一斉にがやつき始めた。未来はパンフレットを見つめたまま、どう動こうかと迷っていた。
「音無さん?」
その声に顔を上げると、すでに鞄を整えた織田晴香が、立ったままにっこりとこちらを見ていた。
「もし、これからお時間があるようでしたら……ご一緒にいかがかしら? ポケモンバトル部、体験してみたいと思って」
「え、い、今から⁉」
「ええ。見学だけでも楽しいはずよ。……それに、きっと“トリプル歓迎”という文面、うそではないと思うの」
晴香はそう言って、鞄を抱えなおした。まるで、もう未来がついてくるのを前提にしているような自然な仕草だった。
未来は一瞬だけ迷ったが、ポケモンバトル部の文字がまた頭に浮かんだ。
「……うん! じゃあ、行こっか!」
「ふふ、決まりね」
晴香は一歩廊下へ出ると、未来の歩調に合わせて軽やかに進み出した。
夕焼けが差し始めた校舎の廊下。
未来の心は、不安とわくわくで少しだけ跳ねるようだった。
──自分は、ついに第一歩を踏み出そうとしている。
部室のドアを開けると、広くはないが整理された空間に、すでに数人の新入生が集まっていた。未来と晴香も空いている机のひとつに腰を下ろす。
周りをぐるりと囲む先輩たち。
「部長、もう来なさそうです」
黒髪の前を短く整えた少女が部長にささやく。
「そうか──では、始めます」
「皆さん、部活動紹介ぶりです。私は川村 守 この部の部長をしています。部員にはマモルとか部長と呼ばれます」「新入生諸君には今からどのバトルを体験したいか、やりたいかを選んでもらいます。私の横にいるのは各バトルの代表者です。中学からポケモンバトルを始める人は参考にしてください」
パチン、とホワイトボードのペンを鳴らして前に立ったのは、話し始めると明るくテンポがよい。
「私は副部長の真嶋リオ。主にシングルとローテーション担当してます。前に出た副部長の真嶋リオは、ホワイトボードに「S」「R」とだけ書くと、くるっとこちらを振り返って笑った。
「さて。まずはポケモンバトルの“原点”、シングルバトルから説明するね。知ってる人も多いと思うけど、6匹のポケモンを見せあって1対1の対戦形式。出すのは1体、控えは2体。合計3匹でパーティを組んで戦うんだ」
彼女は指を3本立てて見せる。
「単純? ──ううん、だからこそ奥が深い。読み合い、交換、状態異常、持ち物、すべてが絡んで、1ターンで勝敗が決まることだってある」
ちらっと笑うと、今度はホワイトボードに大きく円を描いた。
「そして、こっちがローテーションバトル。名前は聞いたことある?」
見学者たちの何人かが首をかしげる中、リオは得意げに説明を続ける。
「ローテーションは、前に3体並べて戦うバトル。でも、実際に動くのは1体だけ。他の2体は“横にいる”だけなんだけど、なんと! バトル中に“交代”扱いじゃなくて、“ローテーション”で入れ替えられるの!」
ぴっと指で空中をなぞるようにして、ポケモンがくるくる入れ替わる様子を再現する。
「だから“こうげき”するふりして“まもる”ポケモンにローテーションしたり、“とくしゅ”読みで物理ポケモンを前に出したり──相手の思考の1ターン先を読むバトル。トリッキーだけど、ハマると病みつき! 以上! ローテーションバトルはその難解さから今は私が兼任していますが、経験者ややってみたいよって子がいたら私の所まで来てね!」
リオは目を細めて笑った。
横から手を挙げたのは、いかにも理系っぽい眼鏡の少年だった。ボタンのとめ方もどこかずれている。
「ダブルは僕、佐久間ユウトが説明します。えっと、あの、今期のダブルバトルは環境変化が激しくてですね、アッ ダブルは、2対2で戦う形式です! プレイヤーはポケモンを2体ずつ場に出して、同時に行動を指示します」
ユウトはホワイトボードに「自分:◯◯/◯◯ 相手:◯◯/◯◯」と簡単な図を描いた。
「ダブルバトルは、世界で初めて公式の世界大会──ワールドチャンピオンシップスのルールに採用された形式なんです。以降、基本的に世界大会はダブル! つまり、ガチです!!」
急に語気が強くなって見学者たちがビクッとする。
「あ、すみません。えっと、ダブルならではの特徴をいくつか挙げます」
と、ユウトは指を折りながら語り始める。
「まず、“場作り”。“追い風”を使って味方全体のすばやさを上げたり、“トリックルーム”で遅いポケモンを先に動かせるようにしたり……どのターンに何を通すか、すごく大事なんです」
「“ねこだまし”で相手の行動を一時止めて、後ろから範囲技などの強力な攻撃を通す行動。“まもる”で一体を守ってる間に、もう一体が積む。交換じゃないから、テンポが命なんです」
未来は横で、こくこくと頷いていた。隣の晴香も真剣に聞き入っている。
「あと、“いかく”のタイミングとか、“このゆびとまれ”で攻撃を吸うとか──ああ、話し足りない……でも、えっと、基本から教えます! 初心者でも、必ず強くなれます!」
最後はちょっとかみながらも力強く言って、ユウトはペコリと頭を下げた」
「……語りたそうだなあ」と未来が小声でつぶやくと、晴香はくすっと笑った。
続いて静かに前へ出てきたのは、制服の襟をきっちり閉めた川村部長だった。
「トリプルバトルは私が説明します」
彼はそう言って、ホワイトボードに3対3の配置図を描いた。
自分の側に3体、相手の側にも3体。それぞれが横一列に並んでいる。
「トリプルバトルは、3体のポケモンを同時に場に出すバトル形式です。
構築では6体すべてのポケモンを世㎜出します。つまり、同時に戦う数が最も多いバトルです」
彼はホワイトボードに「左・中央・右」と自軍の配置を書き込んだ。
「攻撃できる相手には“範囲”があります。中央のポケモンは敵の全員を攻撃できますが、両端のポケモンは“対角”にいる相手には直接攻撃が届きません。これをと言います」
未来は思わず前のめりになる。
「……たとえば、自分の右端から、相手の左端には“はたきおとす”は届かない。でも、“はどうだん”や“ブレイブバード”のような技なら全員に当たる」
続けて川村は静かに図に矢印を書き加える。
「次に“ムーブ”。これは自分の場に出ているポケモンを、バトル中に左右に移動させることを指します。
たとえば、“対角”に攻撃できない状態でも、ムーブで中央に移動すれば届くようになる。逆に、不利なポケモンが近くに来てしまったら、ムーブで逃がすこともできる」
彼は一度話を止め、静かに教室を見渡した。
「トリプルバトルでは、“どこにいるか”も重要な戦術要素になります。守るべきポケモンを端に置き、中央を制圧する。
“このゆびとまれ”でヘイトを集めて、“てだすけ”で決定打を通す。3体いるからこそできる連携があります」
そして言葉を締めくくった。
「……攻撃、補助、防御。すべてを一度に行えるのがトリプルバトルです。だから私は、これを総合的な競技と捉えています。
興味のある人は、説明後に来てください。体験でも構いません」
その静かな言葉に、どこか会場の空気が引き締まった。
未来の胸が、ふるふると高鳴っていた。
(これ……やっぱり、やりたい)
そして、最後にぴょこんと揃って手を挙げたのは、瓜二つの双子の兄弟。
「「マルチは僕たちです!」」
「兄のカズキと!」「弟のリュウキが!」「「全力でサポートします!」」
見学者たちはぽかんとしたあと、小さく笑いが起きた。
カズキが話す。「マルチバトルは、二人一組で組んで戦うバトルです」
リュウキが続ける。「合計4人で、2vs2の形式です」
「一人あたり、ポケモンは3体ずつ出します」
「つまり、1チームあたり6体。2体ずつ場に出ます」
「連携は……相談できません」
「だから、“以心伝心”とか、“察する力”が超重要です」
「“このゆびとまれ”や“いかく”のタイミングを合わせたり」
「“まもる”と全体技をズラして通したり。コンボがハマると気持ちいいです」
声も姿も同じで頭に入ってこない。双子もそれをわかっているのか説明はひかえめだ
希望者の振り分けが始まると、見学者たちは次々とそれぞれの形式を担当する先輩のもとへ向かい始めた。
「……行こっか」
晴香が制服の袖をくいっと引っぱって、未来を誘った。
未来は一瞬戸惑って立ち止まる。
(わたし、本当に行っていいのかな……トリプル好きだけど、実戦なんてやったこと……)
でも、足は止まらなかった。
——だって、行かなきゃ始まらない。
未来と晴香はポケモンバトル部の中でもひときわ空気の張り詰めた一角へ向かう。そこには、先ほど壇上で説明をしていた川村部長が立っていた。傍にはホワイトボードがあり、今は無言で希望者を待っているようだった。
「トリプル希望です!」
晴香が元気よく言うと、川村はうっすらと眼鏡の奥でまばたきをしてから、頷いた。
「ようこそ。トリプル経験者か?」
「えっと……私は、見るのが好きで……でも、まだバトルは……」
未来が正直に答えると、部長は少しだけ目を細めた。
「ふむ。——構わない、歓迎する。トリプルは入り口が狭いが、広くて深い」
それを聞いた未来の心のなかに、ぽっと小さな灯が灯ったような気がした。
「君たちが初心者なら、ポケモンと会うところから始めよう」
その声はにふたりの心は高鳴り始めた。
「はいっ!」
「よろしくお願いします!」
「二人ともポケライザーは?」
「「持っていないです!」」
「元気が良くてよろしい」
「ならば、まずはこれだな」
川村は部室の棚を開けると、黒いケースを2つ取り出した。
「部の貸出用ポケライザー。しばらくはこれを使え。大事にすること」
差し出されたのは、手のひらサイズの楕円形の端末。正面に円形のホログラム投影部があり、起動すればそこにポケモンたちが現れるという。
未来と晴香は慎重にそれを受け取り、同時に「わぁ……」と声を漏らした。
「……じゃあ、使ってもいいですか?」
「うん、早く見たい!」
川村は首を横に振り二人を屋上に案内する。「起動ボタンは中央の青いパネルだ。長押しして、名前を登録しろ」
二人がそっとボタンを押すと、静かな電子音と共にポケライザーが淡く光った。
部屋の空気がふるえるような音。次の瞬間——
「ぶいっ!」
未来の目の前に、小さなイーブイの姿がホログラムで浮かび上がった。くるくるとまわりながら、まるで「よろしくね」と言っているように笑っている。
「っ……すご……本当に、目の前にいるみたい……!」
未来の声が震える。画面じゃない。映像でもない。そこに“ポケモン”がいる感覚。
晴香のほうでは、ヒトカゲがきょとんとした顔で立っていた。
「かわいい……!」
「私、ヒトカゲが! やばい、もう最高……!」
二人は夢中でポケモンたちを眺めながら、まだ始まってもいない部活の世界に引き込まれていった。
川村はその様子をじっと見ていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……ポケットモンスターの世界へようこそ」
二人の胸の奥で、ずっと夢だった物語が、いま確かに動き始めていた。