ファビュラス
前の生では、それがなかった。
それが無かったゆえに、中途半端で何も為せず。
どこにも居場所も自信も持てないまま、命を終えた。
悔しくて悔しくて……辛くて辛くて、たまらなかった。
だから。
『新たな生を送る貴方へ 望むものをひとつお書きください』
こんなことを聞かれたら、求めるものは一つに決まっていた。
―――才能を。誰より誇れる才能を。遍く全てを魅了できる才能を。
『音楽の才能』
私は迷うことなく、それを書いた。
――――――
「あの!
「ブッ!!?」
今回の生を始めて15年。
望み通り、音楽の才能に恵まれて生を受けた私———
前世の挫折を振り切るかのように進んだ道では、今まで嫌われていたんじゃないかと思う楽器たちも面白いように手に馴染んだ。それに、かつての喉では思うように出せなかった音域も、当たり前のように出せる。それだけで楽しかった。
私が考えた音楽は、どの曲も大ヒット。たとえ5分で考えたテキトーなBGMでも、ネットに上げれば一瞬で大バズりした。前世の人気曲を模倣するよりも、自分で1から作った曲の方が売れると言う確信もあった。
だが私は…それよりもやりたいことがあった―――布教だ。
この世界には……私の愛したコンテンツ―――東方ボーカルは微塵も存在しなかった。
東方ボーカルとは、東方Projectの二次創作…その、音楽に特化したものだ。東方Projectのゲームに登場したBGMを、歌などにアレンジしたもの。私を虜にしたその楽曲たちが…この世界にはなかった。
だから私は、その曲を蘇らせて、皆にもこの曲の良さを知ってもらおうと思ったのだ。幸い、この才能は音楽に関係していれば何でもOKなようで、かつて何度も聞いた曲を完璧に、或いはそれ以上に再現ができた。
この曲を通して、皆にも私の愛した曲たちを知ってもらいたい。私も楽しく歌いたい。
………
……今は訳あって、表立って音楽活動はしていない。大好きなハズの音楽もネットに投稿しなくなり、友達にも「趣味の範囲を出ない」と言っている始末だ。
そんなこともあって、今の私は特に何の変哲もない……ごくごく普通の、ミレニアムサイエンススクールに通っているだけのいち生徒であるはずだ。
………さて、現実逃避はさておき、今の状況を説明しないといけない。
私は今、休み時間の教室に手、2人の女子生徒……同級生に興味深そうに詰め寄られている状態だ。同級生というには幼く見える。それに………今私のこと、動画投稿時の
―――参ったな。確かに私は『黎毬神社』という名で投稿してた時期もあったけど、今更そんなことで注目されるのも嫌だな。
「はぁ…」
「あれ!? 違った!? 確かに聞いたのに…」
「ほらお姉ちゃん、溜息つかれちゃったじゃん…」
「バカねホントに。私なんかがその黎毬神社?とかいうやつじゃないに決まってるじゃん」
一度は、こう否定する。ここでは、クラスメイトの目が多すぎる。
「一体誰がそんなデマ流したの?」
「いや、えっと……」
「いいわ。場所を変えましょ。ここだと人が多いわ」
そう言って、姉妹ちゃんの手を引っ張って、場所を変えていく。向かった先は……ミレニアムサイエンススクールの中でも、めったに使われていない空き教室。
ここまで来れば、誰かに聞かれることもないだろうからね。
「あの、ここまでくる必要って、一体―――」
「―――どうして知ってるの?」
「え?」
「私のハンドルネームのことに決まってるでしょ。『黎毬神社の巫女さん』の情報管理はしっかりしてたハズ。辿り着ける要素は皆無だと思うんだけど」
「み、認めるの!? 黎毬神社さんだって!!」
「私のことはレイカって呼んで。白峰レイカ。リアルでネットのハンドルネーム呼ばないのは常識でしょ」
「あっそっか! 私は才羽モモイ!」
「才羽ミドリです」
そうして姉妹―――モモイとミドリは教えてくれた。
音楽投稿者としての私……黎毬神社のことは、ある先輩から聞いたこと。その先輩について詳しく知ろうと思ったけど、彼女たちも直接聞いた訳ではないらしく、名前くらいしか分からなかった。
そして、その黎毬神社の私にどのような用があるのかを尋ねた時、姉妹の姉の方……モモイが、目を輝かせながらこう言ってきたのだ。
「レイカ、ゲーム開発部に入ってよ!!」
「………どゆこと?」
「お姉ちゃんがごめんなさい…」
おそらく何段階かすっ飛ばしたであろうモモイの説明を、ミドリが補足してくれた。
ゲーム開発部なる部活の人数が足りないこと。このままでは廃部になること。廃部を回避するために、部員を募集していること。そこで……私の、「黎毬神社」の噂を聞いたこと。そして。
「あなたの音楽が、私たちのゲームに必要なのっ!お願い!!」
この子たちが……私の音楽を求めて、部員にスカウトしに来たこと。
ハッキリ言ってめんどくさい。何故私が、また音楽を作らなきゃいけないんだ。
音楽はもう作らないと決めたのに……また、期待されてしまうなんて。
「悪いけど…今はちょっと……そういうのは」
「どうして!!?」
うっ、押しが強い!
このままじゃあ、よく分からない部活に入れられる!
でもそこで、思い出した。私がいま……何を持っているのかを。
「う~~~ん……わかった。じゃあこういうのはどうかしら。あなたたちに一曲だけ“歌”を聞いてもらう。それで私の音楽が本当に必要か、判断してよ」
「え、ええええええええええええええええええっ!!? いいの!!?」
「いいも何も、聞かなきゃ判断できないでしょ」
目を輝かせるモモイ。ちょっと遠慮がちにミドリも「良いんですか…!?」と期待を震わせて聞いてきたから、了承した。
丁度良かった。断る方便にもなるし…何より、久しぶりに使う力の実験になるからね。
幸い、演奏道具は持ってきている。カバンの中からギターを取り出して組み立て、空き教室の床に二人を座らせた。
久しぶり……誰かの前で直接やるなんて、あの時以来だ。だから。
「覚悟してて。―――『ファビュラス』」
コードを一つかき鳴らすと、教室の空気が震えた。
乾いた音の波が、静寂を切り裂くように鈍いフローリングを這い、天井へと跳ね返る。
そしてレイカが、微笑んだ。
それは慈悲でも、優しさでもない。
まるで、獲物を前にした妖怪のような笑みで。まるで、誰かの財布の中身をすでに見通しているかのような――
歌声が放たれた瞬間、教室の色が歪んだ。
空間が金と紫の螺旋に包まれ、レイカの姿が変容していく。
揺れる黒髪のボブが神々しいブロンドに染まり、ストレートの髪が徐々にねじれていき、勾玉と八卦炉を模したヘイローは緑金に煌めいた。
瞳に灯るのは、飄逸な疫病神のような冷たくも妖しい自信。
ギターのリフに乗せて歌い出す。声は緩急を自在に操り、リズムと言葉が絡みつく。
「―――」
その瞬間、モモイとミドリが動きを止めた。
教室の空気が一層重く、濃密になり、二人の目がほんのり潤む。そして――
「―――」
歌詞はブラックなのに、どこか曲調は明るくて。
2人に語り掛けるようなレイカの歌声は、甘さと毒を同時に含んだ――まるで笑顔で背中を刺してくるような響きだった。
まるで呪文のように、“ギラギラ”“マネー”という言葉が繰り返されるたび、二人の表情が変わる。
モモイの手が無意識にカバンに伸び、財布を手に取って……チャリーンと音を立てた。
ミドリも同じように、財布から小さな硬貨を取り出して。
硬貨をすべて投げ終えた後は、何の躊躇いもなく札を抜いて投げた。小銭の山の上に、紙幣が降り積もる。 ――それはもう、「私のために投げる」しかない仕草。
「(あぁ……)」
歌を楽しみながらも、私は虚ろな目で財布の中身をゴミか何かのように投げている姉妹を見て、思うのだ。
「(やっぱりヤバすぎでしょ、この力)」
後奏で音がフェードアウトする頃には、教室の床に“投げ銭の山”が積み上がっていた。二人は放心し、目をパチクリさせている。
私は淡く笑って、アンプの電源を落とした。
「判断材料にはなったかな、なんて…………まぁ、もう聞いてないだろうけど」
そう言いつつ、投げ銭の山から札を2枚と硬貨を数枚、ポケットに入れた。
そうしている間も、2人は私を咎めるどころか、微動だにせず、未だに夢の宴から戻ってこれないかのようだ。
ひいふぅみぃ……うん、全部取るのはやり過ぎだろうし、これだけあれば明日のお昼代くらいまでは浮くかな。
やることを終えた私はゆっくりと歩き出す。振り返りもしないまま、残った投げ銭の山と呆然とした姉妹を背にして——
「加入の件は…また考えとくわ♡」
たぶんもう会わないだろうけど。
心の中だけでそう付け加えて、教室のドアを静かに閉めた。
「ふぅ……」
3人きりのライブを終えた私は、帰路につきながらさっきの“能力”のことを考えていた。
私の能力……それは、歌った歌によって、人や物、事象を自由自在に操作できる力だった。
比類なき音楽の才能と共に身についていたこの力は、歌詞のある歌なら何でも発動するようで、特に東方ボーカルの曲では顕著だった。制御については……できると思う。少なくとも、「意図的に発動できる」くらいには。
つまるところ、何が言いたいのかというと……
「ごめんね、モモイ、ミドリ。
私の才能は、私の為に使うって、決めてるから」
誰かの期待のためでも、承認欲求のためでもない。
前の生で、誰かの目ばかり気にして、自分の価値を見失った私だからこそ。
この才能は、“私自身が私を好きになるため”に使いたい。
まだ、ちょっとしか使いこなせてないけど。
少しずつでいい。私だけの音楽を、もう一度始めてみよう。
私のために、私の好きな音で。
夕暮れの坂道を歩きながら、私はそっと鼻歌をこぼした。
「~♪」
東方ボーカルの、最初に覚えた大好きなあの歌を。
生徒紹介
学 園:ミレニアムサイエンススクール
部 活:―――
学 年:1年
年 齢:15歳
誕生日:8月11日(東方紅魔郷発売日)
身 長:160cm
趣 味:ギターの調整、動画編集
C V:??????
容 姿:髪型は黒のボブカット。頭頂部に赤いリボンを結ぶ。頭上のヘイローは、陰陽玉と八卦炉を合わせたようなデザイン。吊り目で背は中くらい。超ざっくり書いてしまうと、「ミレニアムサイエンススクールの制服に身を包んだ博麗霊夢」をイメージ。
能 力:歌った歌によって、人や物、事象を自由自在に操作できる。また、歌っている最中、自身の姿が少し変化する。
(例)今回の「ファビュラス」→依神女苑のようなカラーリングになり、髪のクセも生まれる。曲が終われば元に戻る
前世で冴えない一般人だった元大人の生徒。東方project、特に東方ボーカルが好きで、キヴォトスでもその良さを広めたいと考えていた。ある出来事を経験したからか、才能は自分のために使うと考えており、現在は音楽への情熱を失いかけている。音楽制作をしていた時期は「黎毬神社」のハンドルネームで投稿しており、ファンからは「黎毬神社の巫女さん」と呼ばれている。レイカにとっては満更でもない模様(Z〇N氏が神主と呼ばれていたため)。
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