東方×青響フルスペクトラム!   作:伝説の超三毛猫

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今回、レイカが少し本気を出します。
というのは、レイカの攻撃性と、その能力が攻撃に向いたらどうなるか……その一部を書き出せればいいかなと思っているわけです。


Unprivileged Access

 シャーレの当番では、たまに鎮圧任務も執り行う。

 この日、私はシャーレに手伝いに来ていたこともあって、その任務の手伝いをすることになった。

 

 ………別に、不思議じゃない。

 この世界では、ヘルメットを被った不良や一昔前のスケバンが銃を持って暴れるなど、当たり前なのだ。………元日本人として、いまだに甚だ理解出来ないけども。

 で、だ。今回の任務は、廃棄されたある商業施設に巣食う不良達を捕まえる事。

 私としては……面倒そうだから拒否したかったが、アリスが参加すると知ってしまったので、流されるまま参加を決めてしまった。………あぁいう子を無視できないのが、私の悪い所だ。

 

 私の「面倒そう」という勘は当たった。なんでも、不良たちの根城が大きいらしく、そこそこ人数も規模があるのだとか。

 そのために、私達以外にも、色々な生徒達が手伝いに来たようだ。

 

「レイカ!今日はお願いします!」

 

「アリスも来てたのね。他のメンバーは?」

 

「モモイとミドリで新ゲームの取材だそうです!ユズはお留守番だと言ってました!代わりにコタマ先輩が来ています!」

 

「ふええええっ!!? こ、こここここんにちわ!よ、よろしくお願いします!!!」

 

「え、えぇ、よろしく…」

 

 まずは同じ高校から、先程も話題に出したアリスと、あとコタマ先輩。

 1人でいるよりは心強いけど…2人とも、テンションが独特*1なのがなぁ……ちょっと、不安だ。

 

 で、あとは……

 

「シロコ先輩、よろしくお願いします!」

 

「ん、レイカもよろしく」

 

 一度だけ、シャーレでご一緒した先輩のシロコさんと。

 

「あっ、カヨコさん!」

 

「えっ……? なんで私の名前…」

 

「え? 空き地で会いましたよね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 空き地で猫にライブした時に、偶然会ったカヨコさんだ。

 この日、会った時に、まるで知らない人から話しかけられたようなリアクションをとられたけど。

 後で話を聞いたところによると、なんでも私の見た目を猫耳だと思い込んでいた、とのこと。

 まぁ………私の能力の影響だろうな。歌っている時、東方キャラの見た目に寄るように細部が変化するのは、部屋で練習している時に何度も鏡で見たから知っている。そのことを教えなかったカヨコさんには、悪いことをしちゃったな。

 

 

「“それじゃあ皆、準備は出来たかな?”」

 

 先生の号令で、シャーレに集まった生徒達を中心にした、不良たちの捕縛作戦が始まった。

 事前のブリーフィングで、役割は決まっている。前衛にはアリスとシロコさんが出て、その後ろをカヨコさんがカバー、更にその後ろから私が続く。コタマ先輩は前線には出ず、先生とバックアップに入る。

 

『“目標の建物までは、コタマからの情報で最短ルートを確保済みだよ。皆、無理はしないで”』

 

「ん、了解」

 

「アリス、敵を撃破します!」

 

 シロコさんとアリスの二人が、先陣を切って施設のシャッターをこじ開けた。中からは、ヘルメットを被った不良たちの怒号と、銃声が響き渡る。

 

 シロコさんは、その小柄な身体からは想像もできない機動力で、流れるように敵の銃弾を回避し、正確な射撃で不良たちを無力化していく。一方のアリスは、まさに「勇者」と呼ぶにふさわしい、圧倒的な火力だ。巨大なレーザーライフルから放たれる光線が、遮蔽物もろとも不良たちを吹き飛ばしていく。まさに一騎当千の活躍だ。

 

「さすが、シロコ先輩……強いですね」

 

「戦士のシロコもなかなかです!勇者のアリスも負けていられません!」

 

 前衛の二人が生み出す突破口に、カヨコさんが続く。彼女は、シロコさんとは対照的に、冷静沈着な動きで、物陰に潜む敵や、シロコさんたちの手から漏れた敵を、確実に処理していく。その銃口がブレることはない。

 

「レイカ、撃ちすぎないように。敵の弾薬を消耗させるのが目的」

 

「はい、カヨコさん」

 

 私は、カヨコさんの指示に従い、最小限の射撃で支援を続ける。アリスの光とシロコさんの弾幕、カヨコさんの精密な射撃だけでも、不良たちは完全に押されていた。歌の力を使うまでもない。私の出番は、カヨコさんと共に、何度か拳銃を使って相手を撃つだけであった。

 

「(……やっぱり、私みたいなのは、後方支援で十分だ)」

 

 派手な戦闘を横目に、私は心の中で安堵する。変に目立つと、また面倒なことに巻き込まれる。今の穏やかな立場が一番良い。

 

『コタマです。皆さん、アジトの奥から、複数の人影を確認しました。おそらくリーダー格もそこです』

 

 先生とコタマ先輩からの指示が届く。いよいよ詰めの段階だ。

 

「カヨコさん、奥に進みます」

 

「わかった。アリス、シロコ、そのまま制圧を」

 

「ん」

 

「アリスに、お任せください!」

 

 シロコさんとアリスが、残りの不良を片付けるのを背に、私とカヨコさんは、リーダー格がいるであろう区画へと踏み込んだ。

 

 そこは、元々は施設の管理室だったのだろう。ボロボロのパイプ椅子と、散乱したゴミの中央に、一人、ポツンと座り込んでいる生徒がいた。

 彼女は、ヘルメットも装備せず、ただ虚ろな目で私たちを見ていた。その髪は荒れ、制服は泥と油で汚れ、かつての面影は欠片もない。

 カヨコさんが、警戒して銃を構える。しかし、私はその姿を認識した瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。

 

 この顔を、私は忘れるはずがない。

 いくら荒れようが、見間違えようはずもない。

 

 私の心の中に、中学時代に経験した、あの吐き気を催すほどの嫌悪感と、裏切りの痛みが、一気に蘇った。

 私の中から、なにか制御できないものが少しずつ暴れ始めた。それは、どこまでも怒りと憎悪を私に語りかける、荒々しい光だった。

 

「…………嘘……」

 

 私の呟きを聞き、彼女はようやく顔を上げた。その目は、すぐに私の姿を捉え、虚無から憎悪へと一変した。

 

「……白峰、レイカ……?」

 

 彼女の声は、かつての「生徒会長」としての威厳など微塵もなく、ただの怨念を込めた、か細い響きだった。

 なんで、コイツがこんなところに。

 

「レイカ!ぼーっとしてないで……レイカ?」

 

「………………会長」

 

「会長?」

 

 なんて声をかけるか、長い時間のように引き延ばされた一瞬で考え、それを口に出しかけた時。

 目の前の「彼女」は……私を見つけるなり、目を血走らせながら、口を開いた。

 

「久しぶりだなぁ、レイカ。おい、その制服は何だ?………何故、キサマが、ミレニアムの制服なんざ着ている?」

 

「………レイカ、知り合い?」

 

「……私に、不良の知り合いは―――」

 

「つれないなぁオイ、私とキサマの仲だろう? キサマが、あの時……全部、壊したのだろうが!!!」

 

 元生徒会長は、座っていた椅子を蹴り倒すと、血走った目で私を睨みつけた。その表情は、憎悪と狂気に歪んでいる。

 

「何がミレニアムだ、何がシャーレだ! 私を、あの地獄に突き落としておいて、自分だけ優雅に学生生活を送っているつもりか!」

 

 彼女は、まるで全身から毒気を発しているかのようだった。私の心の奥底にあった、蓋をしていたはずの感情が、一気に溢れ出す。

 

「…………会長」

 

「レイカ!」

 

 ……正直、この時。私は、会長がほんの少し。ほんの少しでも……()()()()で痛い目を見た後なら、良心の呵責を覚えるかな、なんて。そんな淡い期待を持っていた。

 だが、現実は目の前の通りだ。会長の瞳は私への憎悪に塗れ、今にも襲い掛かってきそうだ。

 私だって、この歌の力の…恐ろしい部分を、一度はこの人に使ったよ。でも……ここまで恨まれる謂れはない。

 だって、あの時は―――コイツが先に、私の全てを踏みにじったのだから!!

 

 カヨコさんが、緊迫した声で私の名を呼んだ。彼女は銃を構えたまま、私と元生徒会長の間を警戒している。

 

「落ち着いて。レイカ。この状況、私たちが前に出る」

 

「ダメです、カヨコさん!」

 

 私は、カヨコさんの言葉を遮った。体が、制御を失って熱くなっている。もう、この場を他人任せにすることはできない。これは、私の、私だけの問題だ。

 

「邪魔をしないで。これは……私と、この人との問題なんです」

 

「問題? ふざけるな! お前がその邪悪な歌を歌ったせいで、私は全てを失った! みんな、お前の歌に惑わされ、私の正しい指導を拒絶した! お前こそが、全てを壊した悪魔だ!」

 

 元生徒会長は、近くにあったパイプを掴み取ると、それを振りかざして私に突進してきた。

 

「許さない! お前さえいなければ、私は今も……!」

 

 そこまで行ったところで、前の部屋から、爆音と振動が襲ってきた。

 直後、慌てた様子のコタマ先輩から、通信が入る。

 

『“カヨコさん!レイカさん! 今、不良たちが最後の抵抗で巨大兵器を出してきました!増援に向かってください!!”』

 

 カヨコは、その連絡を受け、レイカを応援に向かわせようとした。だが――レイカが、その指示に従うかは半々だった。

 目の前のリーダー格はフラフラだ。レイカだけでも勝てそうなくらいである。しかし…先程からレイカの様子が変わったことも、なんとなく見抜いていた。激情に囚われて、思わぬしっぺ返しを食らうかもしれない。

 ここで迷っている時間はない。仕方ないと割り切り、カヨコは別の言葉を、レイカに告げた。

 

「…レイカ、コイツは任せる。シロコとアリスには、リーダー格を抑えたとだけ言っとくけど、しくじらないでよ」

 

「はい」

 

 走り去っていくカヨコさんに内心で感謝した。

 もし、コイツを置いて応援に行けと言われたとしても、今の私がちゃんという事を聞けるか、怪しかった。

 それくらいには、目の前の会長には………頭に来ている。

 

 しかも。よりにもよって、この人は「許さない」と来た。

 だが不思議だ。体の中は…今にも煮えたぎり、燃え上がりそうなほど熱いのに、頭の中はキーンと、冷え切っている。

 

「許さない、ね」

 

 お前には。

 お前にだけは。

 私に対して、ソレを言う資格なんかない。

 

「それは私の台詞よ」

 

 震える手でスマホを取り出し、音源を流す準備を終えた。

 それは……動画サイトに上げられていた、かつての中学校のHPに載せられていた歌。

 私にとっては忌まわしい歌そのものだが。コイツをやるには、この曲が相応しい。

 私がそう呟いた時、元生徒会長は鼻で笑った。パイプを振り上げるその手の動きは、感情の昂ぶりからか、ひどく不安定だ。

 

「笑わせるな! お前の負け惜しみを誰が聞くか! さあ、その汚れた力ごと、今すぐ消えろ!」

 

「汚れているのは、あんたの方よ」

 

 私は、震える手でロックを解除したスマホを、ポケットの中で操作した。流したのは、動画サイトに上げられていた、かつての中学校のHPに載せられていた歌。

 私が考え、私が作り、私が書き上げて……そして、()()()()()()()()。そんな「改悪された曲」のデモ音源のようなものだ。

 チリチリ、とノイズのような微かな音が、管理室の中に響き始めた。

 

 その音量は、極めて低い。外部に漏れ、シロコさんやアリスに影響を及ぼすことのないよう、最大限に抑えられていた。しかし、その音源が流れた瞬間、私の全身から溢れていた金色のオーラが、会長の周囲にだけ、濃密な膜のように張り付いた。

 

「な……んだ、これは……?」

 

 元生徒会長は、パイプを振り下ろす手を止め、動揺したように辺りを見回した。彼女の瞳は、私を睨んでいるはずなのに、焦点が定まっていない。

 

「聞こえるでしょう? あんたが改悪した(つくった)、あの『歌』」

 

 私の声は、自分でも驚くほど冷たかった。音源は、元生徒会長の精神へと直接作用し始めた。

 元生徒会長の視界は、瞬く間に、暗い、汚い教室の幻影に包まれた。耳元では、無数の生徒たちの声が、ヒソヒソと、嘲笑と軽蔑の言葉を囁いている。

 

 ―――「会長、また失敗したんだってさ」

 ―――「あいつの曲、全然心に響かないよね」

 ―――「あれ、レイカのパクリだろ?」

 

「うるさい! 黙れ! 黙れ!」

 

 元生徒会長は、幻影を振り払おうと頭を抱え、錯乱し始めた。目の前には、彼女の権威が崩れ去り、誰も彼女の言葉を聞かなくなった、悪夢のフラッシュバックが、高速で再生されている。

 

「違う! 私が間違ってない! あの女の歌が、おかしいんだ! 私が、私が……!」

 

 彼女は、まるで全身を虫にたかられているかのように、自身の体を掻きむしり、叫んだ。その様子は、見るに堪えない。

 

「(……これでも、まだ懲りないの?)」

 

 私は、幻覚に苦しむ元生徒会長を、氷のような目で見下ろした。彼女の苦しみが、私の心の火傷を鎮める冷水のように感じられた。

 しかし、元生徒会長は、その精神攻撃を、意地だけで耐え忍んだ。彼女は血を吐きそうなほどの形相で、再び頭を上げ、私を睨みつけた。

 

「レイカ……! お前なんかに、私の、私の誇りを……!」

 

 憎悪に満ちたその瞳を見て、私は悟った。この程度の攻撃では、彼女の根深い怨念と歪んだ自尊心は砕けない。

 私が、この戦いに決着をつけなければ、またあの悪夢が繰り返される。

 

「……そう。わかったわ」

 

 私は、ポケットからスマホを取り出した。流していたデモ音源を、指先一つで停止させる。そして、画面をスクロールさせ、別の、強力な楽曲の音源に切り替えた。

 今の私が出せる、最も攻撃的で、決定的なトドメ。歌えば、聞くものの精神を病むだろうと踏んだ……その一つ。

 

「もう、あんたの顔を見るのは、今日で最後にする」

 

 私は、大きく息を吸い込んだ。体中の熱が、一気に喉元に集約される。次の瞬間、この管理室全体を、私の歌声が支配することになる。

 私の歌声が、元会長(コイツ)の、この世界における存在全てを、完全に否定する。

 

 

 流れた音源は、デモ曲のような微かなノイズではない。激しく、黒く、そして惨憺たるエレクトロニックなビート。それはまるで、人の心の最も暗い部分を、容赦なく解析し、暴き立てるプログラムのようだ。

 私が歌い始めた瞬間、管理室の空気は一変した。自分の周囲に、蒼と黒が混じったオーラが爆発的に広がり、その歌声を直接脳に響かせる。まるで―――不正アクセスのように。

 

 他人を出し抜きたいと思ったでしょう? 私の歌を奪おうと決めたでしょう? 私を殺そうと思ったことは?――――――あるでしょう。

 抗いようのない、醜い感情を突き付けて心をへし折るためのフラッシュバックが、今の彼女には見えているだろう。

 

「違う!違う!!これは私のせいじゃない!!!」

 

 元生徒会長の絶叫は、もはやレイカへの怒りではない。自分の醜い本性を目の当たりにした、純粋な絶望と錯乱。

 それでもレイカは無表情で歌い続けた。それは最早、憎しみという個人的な感情を超えた、裁きの行為だった。

 やがて生徒会長だった彼女は、「赦し」を乞うかのような、意味をなさない言葉を叫びながら、そのまま意識を失い、床に倒れ込んだ。

 

 それを確認した私は、音源を停止させた。

 管理室には、重い静寂が訪れる。

 私の濁っていた、奥底に暴れていたものが、収まった気がした。まるで、暴走した車の、燃料が尽きたかのように。

 

「―――私は今、幸せに生きてる。あんたとの中学時代の思い出は……邪魔なのよね」

 

 勝利を確認した私は、持っていた縄で会長を縛ってから、カヨコさんが応援に走っていった方向へ向かった。

 

 

 

 ―――あの後、トラブルなく不良たちの鎮圧が終わった。

 

 アリスとシロコさんの圧倒的な戦闘力、カヨコさんの冷静な処理もあり、不良たちは全員捕縛され、シャーレの回収部隊が到着した。

 私は、縄でぐるぐる巻きにされた元生徒会長を、他の捕縛された不良たちと共に廊下に並べた。私の心は、あの激しい感情の爆発の後、冷たい静寂を取り戻していた。

 その時、コタマ先輩が先生からの通信役を終え、状況を確認しにこちらへやってきた。

 

「よかった、皆さんご無事で。レイカさん、そちらのリーダー格は―――」

 

 コタマ先輩の声を聞いた瞬間、床に倒れていた元生徒会長の瞼がピクリと動いた。彼女は、辛うじて意識を取り戻したようだ。

 元生徒会長は、全身を縛られているため起き上がれないが、コタマ先輩の姿を視界に捉えると、その顔が、憎悪と狂気に歪んだ。

 

「……ソイツを、生かしていたら……」

 

 か細い、しかし悪意に満ちた声が、絞り出された。喋ると思ってなかったのか、コタマ先輩は驚いて元会長を見た。

 表情と心臓が、一気に凍り付くのを感じる。

 

「間違いなく、皆が不幸になる……!!」

 

 こいつ…まだそんなことを言う元気があったのか。

 コタマ先輩に何を吹き込むつもりだ。

 よりにもよって、私のファンである彼女に。

 やめろ。やめろ。

 

「あの女の歌は、いつかお前たちも―――!!!」

 

 それ以上、何も言うな!!

 

 

 バンッ!

 

 

 気が付けば私は、銃を抜き、元会長の肩を撃ち抜いていた。

 一瞬震えたと思えば、再びがくり、と頭を落とした。意識を失ったか。

 そして、その場にいたコタマ先輩はというと、あまりの出来事に体が硬直していた。

 

「レイカさん……!?ど、どうして、彼女を撃ったのですか…?」

 

 コタマ先輩の動揺した問いかけに対し、拳銃を静かに懐に戻しながら、努めて冷静に、理性的に答えた。

 

「先輩、見えなかったんですか? ソイツ、不意打ちを仕掛けようとしてましたよ。いくら縛られていたとはいえ、こちらに悪意を向けているのは明らかでした。もう少し遅ければ、先輩が撃たれていました」

 

 嘘だ。本当は…知られたくなかっただけだ。

 

「あ、あの…彼女が倒れる前に言っていたことは…?」

 

「…………さっきその不良と戦った直後に確認したのですが……彼女には麻薬投与の痕跡が見られました。薬物中毒者の狂言の可能性が高いでしょう。まともに取り合う必要はありません」

 

 咄嗟に思いついたにしては、我ながら良い嘘だと思った。元会長の言葉を「不良の戯言」として一蹴し、その存在の信頼性を完全に貶めた。

 その時、不良たちを完全に鎮圧し終えたアリスが、管理室から出てきた。

 

「レイカ!どうしてこんなところで銃声が?」

 

 アリスは、床に倒れ、肩に弾痕のような打撲痕のある元会長と、私を交互に見る。

 コタマ先輩から状況を聞いたアリスは、純粋な疑問を投げかけた。

 

「本当に、そうだったのでしょうか? 彼女は、銃を構えられる状態ではなかったように見えますが……」

 

 アリスらしい、純粋な疑問だ。騙すようで悪いけど…この嘘は、押し切らせてもらう。

 彼女に相応しく…ゲームに例えて、誤魔化すことにした。

 

「アリスちゃん。私ね、こういうシチュエーションで、バックアタックを食らって、重要な仲間がロストするゲームをいくつか知ってるのよ」

 

「! ドラゴンテストシリーズやテイルズシリーズのお約束ですね! なるほど、レイカは慎重派です!」

 

 あからさまな議論のすり替えに納得しちゃうアリス。

 この様子を見ていると、小さな子を騙しているかのような――実際騙しているし――罪悪感に襲われる。

 全てを誤魔化すように、私は、嬉しそうなアリスとまだ不安げなコタマ先輩に、「シロコ先輩と不良ども連れて帰りますよ」と、帰路を促したのだった。

 

◇◇◇◇◇

 

 カヨコは、後ろでレイカ達の話を聞いていた。彼女は、状況を一瞥し、レイカの発言と、その裏にあるものを、瞬時に見抜いていた。

 

「(麻薬の注射痕……? さっきの乱暴な戦闘でついた傷跡はあっても、麻薬常習者のそれではない。それに、あの体勢…完全に両腕が縛られていた。あそこから不意打ちなんて不可能。レイカ、貴女は―――)」

 

 カヨコは、レイカの顔から、秘密を守り抜こうとする強固な意志を感じ取った。彼女の瞳は、レイカの言葉が嘘だと見抜いている。

 だが、それについて聞こうかと思ったところで、先生が現場にやってくる。先生はカヨコの迷っている様子をすぐに察した様子で、黙って首を振った。

 不良たちを連れていくアリスやレイカ、コタマに、回収部隊の待機場所を告げると、3人はそのまま去っていた。

 

「先生………いいの?聞かないで」

 

 物音が遠くなったことを確認してから、カヨコは先生へ静かに問いかけた。

 

「“レイカがあんな事を言ったことには、彼女にとって譲れない理由がある。それが判るまで、下手に口出しは出来ない”」

 

 先生の静かな声が、カヨコの耳に響く。レイカを追い詰めず、彼女が自ら心を開くのを待つという。

 

「そう…なら仕方ないか」

 

 カヨコは、口を閉じた。レイカの冷酷な行動の裏に、簡単には話しがたい“何か”があることを理解したからだ。

 

「“待つしかないよ。信頼関係を築く時間が必要だ”」

 

 先生は、やや悔しそうにそう言いながら。カヨコは、それを耳に、黙ったまま。

 レイカと元生徒会長の遺恨の場を、見つめていた。

 

*1
コタマは「巫女さん」を前にして緊張しまくっているだけ




白峰レイカ
過去と対峙する。だが、過去のことを憎しみに変えつつ、元生徒会長を破った。今回の件で過去は断ち切ったようだが、それと同時に、現在にわずかなしこりを残した。
「……あいつがいるって知ってたら、参加しなかったのに」

レイカ(古明地姉のすがた)
覚りの姿になったレイカ。歌っている間のイメージ(変身)でしかないため、サードアイはオプションに過ぎず、心を読むことも不可能。

天童アリス
レイカと共に不良の鎮圧を行う。最後、レイカの銃声に駆け付け、動けない元生徒会長を撃った理由を尋ねた。……すぐに丸め込まれてしまったが。
「レイカのお陰で仲間のロストを防げました!ママスの『ぬわーっ!』回避です!」

音瀬コタマ
レイカと共に不良の鎮圧の任務に参加し、バックアップした。レイカが元生徒会長を撃ったことについては、自分を守ってくれたのか、と思う一方で、レイカが元生徒会長を見る目が恐ろしく冷たかったことが引っ掛かっている。なお、レイカに仕掛けられた盗聴器はしっかり「Unprivileged Access」を拾っている。
「巫女さまが私を守ってくれた……でも、このすっきりしない感情は、一体…?」

鬼方カヨコ&先生
今回倒した不良のボスとレイカには絶対何かあると踏んでいる。だが、下手に掘り起こすと良くないことが起こりそうなのも察している。
「“私も、レイカの力になりたい気持ちはよく分かるよ”」
「あの子、放っておいちゃいけない気がするよ。猫好きのよしみとして、なにか出来ることあるかな?」
「“必要になったら呼ぶね”」
「ありがと」

砂狼シロコ
ふつーに不良を倒しただけ。ちゃんとヴァルキューレから懸賞金は貰った。
「ん、私だけ影薄いの納得いかない。納得いかないから先生にかまいに行く」

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  • それ以外
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