初めての経験です(震え声)
…信じられないかもしれないが、あの任務以降、私は再び平穏な生活を送ることが出来ている。
ミレニアムの教室に通い、授業を受けたり、友達と駄弁ったりして、帰り道にたまにお菓子買ったり、生活必需品を買ったりしながら、日々を過ごしていた。
誰も、先日の不良鎮圧の任務について、私のことを詮索してくる者はいなかった。
コタマ先輩も、アリスも、あの場での私の冷酷な行動については、私の「説得」や「ゲームのお約束」の成果もあり、半ば納得してくれたようだった。カヨコさんと先生が裏で何を考えているかは分からないが、少なくとも、表立って私を糾弾する者はいない。
「(……これでいい。私は、私の人生を生きる)」
自分にそう言い聞かせる日々。
しかし……なぜだろうか。心の奥底では、先日の元会長の顔と、彼女の最後の絶叫が、小さな棘となって残り続けていた。
『……ソイツを、生かしていたら……』
『間違いなく、皆が不幸になる……!!』
『あの女の歌は、いつかお前たちも―――!!!』
…
元会長の言葉は…誰がどう見ても悪意に満ちており、あのまま黙らせなかったら、ロクでもない事を言っただろうことは、火を見るよりも明らかだ。
きっと、私の能力の負の面を、何も知らない人に突きつける。そうして危機感を煽り、排除でも企んだんだろうか。
だが、そうはさせなかった。
あの時の私は、すべて言い切られる前に、元会長を撃ち抜いて黙らせた上で、完璧な嘘でその言葉の信憑性をゼロにした。
「これで終わり」。そう自分に言い聞かせたはずなのに、あの夜から、私の心には常に冷たい風が吹いている。不良鎮圧の任務で得た報酬も、普段の生活の楽しさも、この小さな棘を抜いてはくれなかった。
「(結局、逃げたのは私だ)」
嘘をついて、過去の言葉を最後まで聞くことから逃げた。その事実が、私をあの場所へと引き寄せたのかもしれない。
ミレニアムの制服を着て、やってきたのは―――とある中学校の校門。
そう。私はかつて通っていた中学校の門の前に立っていた。
あの事件以来、私はこの学校に近づくことはなかった。事件とは、もちろん、かつての生徒会長だったあの女が中心となった事件。
私が作曲した歌を生徒会長に盗作され、権威維持のために改悪して利用された挙句、ライブを私物化されたり、音楽活動まで縛られて………最終的には、あの女に雇われたチンピラに、当時使ってた大事なギターまで壊されたっけ。その後もボッコボコに撃たれて……あそこで反撃してなかったら、私はもう二度と歌を歌えなくなってたかもしれないな。
あの事件は、最終的に私の歌の力が暴走して、会長をはじめとした生徒会の連中や…一般の生徒にも、被害が出た。あの時は、私自身も、その行為によって周囲から孤立したし、傷つけてしまった皆には悪いことをしてしまった。悪影響を鑑みた新生徒会によって、強制的に転校させられて終わったっけっか。
―――あれから、もう2年か。
学校は静かで、生徒の姿はない。そういや休日だったっけ、この日の学校。
……校舎は古びて見えるが、私が知っている頃と何も変わっていなかった。
私は、フェンスの隙間から、するりと校内に侵入した。目指す場所は決まっている。
校舎の裏手に回ると、そこには中庭があった。中央には、シンボルツリーのように、大きく枝を広げたクスノキが立っている。私と元生徒会長が、まだ信頼し合っていた頃、二人でよく話をした場所だ。そして、彼女が私の歌を「素晴らしい才能だ」と初めて褒めてくれた場所でもある。
「……気持ち悪い」
懐かしさなど微塵もない。湧き上がるのは、裏切りと憎悪の記憶だけ。
最悪だ。本当なら、ここで通っていた友達や、一緒にあれこれしたとか、そういう思い出が出てくるべきなのに……アイツのせいで、全部悪い方向に上書きされてる。絶対前の任務でアイツに会ったからだ。
でも、不思議と……思った以上の拒否反応が出てこない。吐くとか、一歩も動けなくなるとか、そういう生理現象が起こらない。まるで……アイツから受けた仕打ちが、取るに足らない事だと言ってくるかのようだ。……………そんなわけ、ないハズなのに。
私はクスノキの根元に腰を下ろし、そっとリュックからギターとスマホを取り出した。
歌う曲は……今ここで歌っておきたい曲は…ここに来る前から、もう決まっていた。
―――華鳥風月。
幽閉サテライトが作った、厳かに、自然を歌った曲だ。
音源を流し、静かにギターを構える。ヘイローが微かに輝き、いつもの蒼い光が全身を包み込み始めた。
私の姿が、少しずつ変わっていく。黒い髪が、孔雀緑に染まっていく。
原曲のことも考えていると、手にしたギターが、悔悟の棒にでもなったかのようだ。
表情も引き締まっていく。あの閻魔さまなら、緩んだ表情など見せない。本物のクオリティを求めようとするコスプレイヤーのように、引き締めて、でも高らかに歌う。
歌い出しは、「正しさなんてもの、人のモノサシによって変わる」という、静かな諦めのようなフレーズを纏っていた。
レイカの歌声は、中庭の静寂を切り裂き、学校全体に響き渡る。その響きは、過去の彼女が感じた理不尽、あの時生徒会長が振りかざした虚構の「正義」への、静かな反論のようだった。
「(あの人が言った「正しい指導」なんて、あの人の私欲で変わるものだった。私が正しいと思ったものも、誰かにとっては悪でしかない)」
そんなものは幻想だ。
子供どころか、大人にも分からないだろう。
そんな世界で、不変なるものは…花鳥風月、その厳かさと美しさを讃える。
私は、憎悪の記憶を呼び起こすのではなく、歌を通して出てきた、「不変のものの穏やかさと懐かしさ」という真理を、歌を通じて受け止めていく。
歌が進むにつれて、メロディは次第に力強くなる。
レイカが元生徒会長にあの歌を叩きつけた行為は、決して「清らかな正義」ではない。それは、過去の自分を救うための、「過ちの中にあるけじめ」だった。
レイカの歌声は、過去の裏切りや、チンピラに襲われた恐怖、そして能力が暴走した罪悪感さえも、全て包み込んでいく。
―――汚れぬことが、正義なのだろうか?
もし汚れぬことが正義なら、私はもう、この世界では正義ではない。
でも……汚れることを恐れない愛もまた、正義だ。私は……大好きな音楽や、東方ボーカルや、コタマ先輩、ネル先輩、アスナさんに、先生、そしてアリスも……私の歌を素敵だと思ってくれる全ての人のために……自分が間違っているなどとは、思ってはいけない。
私の歌は、形をなさない、悲しめる心や怒れる優しさといった、全ての感情を肯定する。
それは、自分自身の心に問いかける言葉だった。
形なんてない、正解なんてない、測ることなんて当然できない。
誰のモノサシにも縛られず、自分の音楽を求めること。それが、この過去の場所で私が見つけた答えだった。
レイカの歌声は最高潮に達した。
何処までも美しくなれ、いつまでも美しくあれ、という願いのようなフレーズを、中庭のクスノキ、そして空へと響き渡らせた。過去の傷も、未来への決意も、全てを許容し、前へ進む強烈なエネルギーに満ちていた。
最後の音が、中庭の静寂の中に消えていく。
レイカは、ゆっくりと目を開いた。変身が解け、いつものミレニアムの制服姿に戻っている。手元のギターとスマホが、再び普通の道具に戻った。
クスノキの根元には、もう憎悪も、悲しみも、過去の呪縛もない。
私は静かに立ち上がり、リュックにギターをしまった。そして、学校の門へと向かいながら、心の中で強く誓った。
「もう振り返らない。私はミレニアムの白峰レイカとして、この力で私の未来を切り開く。もう、誰の言葉にも、過去にも、縛られない」
自分に言い聞かせるような、力強い決意を胸に、学校の門へと向かった。
彼女の足音が、遠ざかるフェンスの隙間から消え、再び中庭に静寂が戻った。
◇◇◇◇◇
―――カタン。
中庭に面した旧美術室の窓がわずかに開いており、その窓の下、古びた植え込みの影から、一人の大人がゆっくりと立ち上がった。先生だ。
その手には、連邦生徒会から預かった合併手続きに関する資料を持っている。先生がここにいたのは、半分くらいは偶然だった。
数日前に、先生はアリスとユウカから相談を受けていたのだ。
レイカの様子がおかしい、少し気にかけてあげて欲しい……と。
先生としても、断る理由はなかったし、不良捕縛の任務がきっかけだったことには間違いないから、彼なりにレイカを見守ろうと思っていた。
ただ、この日来た中学校が、レイカの母校であり、そこにたまたまレイカがいたことについては完全に偶然だ。
彼はこの時、ある中学校の合併手続きの再確認のための合議に立ち会い、帰路につく直前だったのだ。そこに、レイカの歌声が聞こえてきて、咄嗟に身を隠したのだ。
先生は、レイカが歌っていたクスノキの根元まで、静かに歩み寄った。
中庭には、レイカの歌声の余韻が、かすかに漂っている。
それは、先日にシャーレで聞いた「黄金航路」とはまた違った方向の、清らかで、しかしどこか強い意志を秘めた響きだった。
「“……すごい歌だったな”」
先生は、誰に聞かれるでもなく、ただ小さくそう呟いた。
先生はレイカの具体的な過去、すなわち「盗作」や「元生徒会長」という因縁は知らない。
不良鎮圧の任務の際、捕縛したリーダー格の生徒がなぜレイカ個人を強く憎悪していたのかも、分からなかった。ただ、レイカが何かを守るためにあの不良を撃ち、アリスとコタマに嘘をついたこと、その裏に並々ならぬ理由があることは察していた。
そして、先ほどの歌には、言葉を超えた重さと、何かを断ち切るほどの強いエネルギーが込められていたことも、肌で感じ取っていた。
先生は、レイカが残していった空間に、そっと手をかざした。
「“ずいぶん、重いものを背負い込んでいたんだね”」
レイカが撃ったというあの不良は、不意打ちを仕掛ようとしたわけでも、薬物中毒者だったわけでもない。
あの日、レイカが「嘘」をつき、冷酷に見えた行動の裏には、「大切なものを守りたい」という、恐怖にも似た強い感情が隠れていたことを、先生は既に察していた。
先生は、クスノキの太い幹にそっと背を預けた。目を閉じ、歌のメロディを思い出す。それは、華やかでありながら、どこか諦観と決意が入り混じった調べだった。
「“もう振り返らない……か”」
レイカは、過去を清算し、自力で「もう誰にも縛られない」という結論を出した。
一人の生徒としての大きな成長だ。それは、間違いない。
先生の瞳が、優しく、しかし真剣な光を帯びる。
「“大丈夫。レイカ……君が選んだ未来なら、私はそれを信じるよ”」
レイカは一人で過去と戦い、勝利した……ということなのだろう。
だとすれば、先生である自分がすべきことは、その勝利に水を差すことではない。
レイカが嘘をついてでも守ろうとした「現在の居場所」を、大人としてしっかり支え、「過去の呪い」が二度と彼女を追い詰めることのないよう、見守り続けることだ。
先生は、静かに中庭を後にした。来た時と同じように、誰にも気づかれることはなかった。
先生は、レイカが完全に過去の場所から立ち去ったことを確認すると、スマートフォンを取り出した。
「“もしもし、ユウカ?”」
電話越しの声を聞き、先生は続けた。
「“レイカのことは、心配しなくて大丈夫だよ。彼女は、自分なりに折り合いをつけたみたい。ただ……まだ、少し無理をしているみたいだから、引き続き、一緒に様子を見ていこう”」
先生は、レイカの「嘘」を暴くのではなく、「その嘘が崩れる瞬間が来ても、彼女を支えられるように」、水面下でのサポート体制を整え直していた。
白峰レイカ
居てもたってもいられずに、トラウマすれすれの行動をした。その結果、ひとまずは自分自身に折り合いはつけられた。だが……それは『ひとまず』というレベルだ。悪意ある第三者が掘り返した場合は……?
「はー、すっきりした」
レイカ(四季映姫のすがた)
この時のレイカは表情が硬い。だが、その違いは先生位にしか分からない。いつも事なかれ主義で、ツンデレみたいな振る舞いをしてるから、表情硬めとか言われても仕方ない。でもイベントとかでは様々な表情差分とか作られると思う。ただでさえ音楽を奏でる時に無茶な全身差分を担当イラストレーター(架空)に強いているのに。多分、レイカのイラストレーターさんは3人以上いないと死ぬ。
先生
今回静かに見守るムーブをしたが、生徒によってはストーカーもするし脚も舐めるしキモい事も言う。作者の個人的な所感としては、レイカにはやらなそうだったからやらなかった。
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