そして、レイカの異変に、皆が気づきます。
補足しておきますが、レイカの能力は東方キャラの再現とはちと違います。歌や演奏によって様々な効果を起こすだけで、東方キャラの能力を好きなだけ再現出来るわけではありません………ということにした。
この過程でボツになった展開とかあります。レイカがスペカ使うとか。
「——————え?」
最初、言っている事の意味が分からなかった。
何を言ってるの?私が……化け物…?
アミが、しゃがみ込んだ私から逃げようと、恐怖に支配されながら倉庫の出口へ向かって走り出す。
「ア、アミ!待って、違うの!」
伸ばそうとした手が、光を失い、冷たくなっていくのを感じた。
救おうとした。悪意ある者だけを排除した。
なのに、結果は同じ。何もかも、シューメールの時と同じだ。
動かなければ。アミに、誤解だって伝えなきゃ。
私がここに来た理由を…言わなければ。
なのに、体も動かなければ、何かを喋ることも出来なくて。
さっきの一言が、私の脳内で、会長の呪いの言葉と重なった。
「私の………せいなの?」
その問いは、答えを求めたものではなく、確定した事実の確認だった。全身から、力が急速に抜け落ちていく。
アミを助けるために、自分に出来ることをした。
それが、「化け物」と断罪された理由だった。
彼女が最も恐れていたのは、自分の才能が無差別に恐怖を撒き散らす兵器であること。
そして、今、最も大切にしていた日常の人間から、その恐れていた通りの断罪を下された。
もうなにも考えられない。
自分自身の心が、だんだんと砕け散っていく感覚がする。
内側から引き裂かれるような激痛に苛まれながら……考えていたのは、一つだけ。
「(あぁ…私には、もう居場所なんてないんだ)」
ここではない、どこかへ。
誰もいない、人気のない場所へ、行かなきゃ。
私の力はやはり―――誰かを不幸にする、殺人兵器なのだから。
立ち上がった後は、ふらふらとした…しかし、しかし止められない衝動に突き動かされるように出口へと向かった。そして……遠目に見え始めた、ミレニアム自治区を彩る光を一瞥した。
あの光の下には、マキがいる。コタマ先輩がいる。モモイや、ミドリや、アリスやユズがいる。そして、アミがいる。私は、私の力が皆に届かない場所に、いなければならない。そうしなければ………いつ、誰が犠牲になるか分からないから。
そのミレニアムに背を向け、歩き出す。
誰にも見つからない場所……そうだ、ミレニアム郊外のキャンプ場があったはず。そこなら……もう、誰も来ないだろう。
―――どれくらい、そうして歩いていただろうか。
「…あ」
ふと、手に持っているものに気付く。
それは、折り畳みのギターだった。
あぁ、馬鹿だなぁ……私。
絶対それどころじゃないのに、どういうわけか持っている。
まるで、離したくても離せないもののように。
ふと、ギターの弦に触れる。
キン、と。
指先から伝わる金属の冷たさと、微かな残響。
それは、さっきまで響かせていた憎悪と破壊のメロディとは全く違う、静かな、諦念に満ちた音だった。
今の私に、歌う力も、言葉を発する気力もなかった。ただ、自分を構成する最後の破片に触れるように、ギターを抱きかかえる。
そして、メロディは、私の心の中だけで鳴り響いた。
それは、どこまでも続く夜の山道を行くかのような、孤独で叙情的なピアノの連符だった。
誰にも聞かれない、『遠野幻想物語』。
「化け物」として、人間世界から切り離されていく、孤独な旅立ちのテーマ。
悲しく、しかしどこか美しく澄んだその音色は、私の心を慰めはしない。
それどころか、「自分はもう、この日常には戻れない」という現実を、冷徹に肯定するようだった。
私は、ギターを抱いたまま、誰にも見つからない、現実の境界線を越えるように、ミレニアムの光に背を向け続けた。
◇◇◇◇◇
レイカが去ってから、わずか十分後。
メイド服姿のミレニアム生が、砕けた倉庫の壁から、中に侵入した。メイド達の懐中電灯が、辺りを照らす。
「何だ、こりゃあ」
「……信じられない」
そのメイド達を率いていた生徒―――C&Cのネルとアカネが思わず声を漏らした。
倉庫内部は、まるで巨大な暴風に襲われた後のようだった。ドミネイト・セキュリティズのロボット隊員たちは、装甲が無理やり引き剥がされ、内部の記録媒体を破壊された状態で、無残な残骸と化している。そして、その中心には、レイカの姿はなかった。
「チッ、遅かったか?」
ネルは、周囲の状況を分析する。明らかに戦い……というか蹂躙があった形跡だ。これを起こした張本人は取り逃がしたとみていいだろう。
彼女たちC&Cは、ヴェリタスからのタレコミを受け、ドミネイト・セキュリティズがミレニアムの生徒を拉致した容疑を確認する為に駆け付けたのだ。
「チヒロ先輩、見えていますか。これ……完全に機能停止していますね。ただの銃撃ではこうはなりません。まるで内部から爆発したかのような……」
アカネが解析端末を構え、現場に残る異常な惨状を記録する。
そのデータはそのままヴェリタスに送られ、チヒロたちに共有されていく。
『部長、アカネ』
「ん、どうした、カリン?」
『拉致被害者を保護した。行方不明になっていた、アミさんその人だ』
カリンからの報告が来た。映像越しには、メイド服を着た色黒の女子生徒と、彼女とは別に床にうずくまって震えている生徒が見えた。アミだ。彼女はその姿勢のまま、口元を押さえ、焦点の合わない瞳を泳がせていた。
「でかした、カリン。そいつに怪我とかはねーか?」
『怪我はありません。ただ…』
「ただ、なんだ?」
『かなり怯えています。異常なほどに』
「無理もねぇ、拉致られてたんだろ?」
『今、それを調べています』
『すみません、アミさん。怖い思いをしたところ、申し訳ないのですが……話を聞かせてもらえますか?』
カリンの後ろで、C&Cの生徒がアミに問いかけた。
アミは誰の顔も見ようともせず、ただ震える声でつぶやいた。
『……にげた……』
『逃げた? 誰が、ですか? ドミネイトが?』
『ちがう……レイカが……。あの、化け物……』
全員は内臓を触られたような、不快感に襲われた。
ドミネイトは全滅。しかも、生還した生徒の証言は、レイカが化け物だというばかり。
あまりの異常事態に、ネルでさえ息を呑んだ。
だが、ネルは即座に判断を下す。
「…アカネ、退くぞ」
「部長?」
「カリンも、よくやった。レイカが見つからなかったのは、アレだがよ…手がかりがねぇ以上、闇雲に探しても見つかりっこねー。一旦引いて、作戦を立て直すぞ」
『…了解』
カリンの返事を受けた彼女は通信機のチャンネルをいじり、部室にいるヴェリタスに連絡した。
「おい、聞こえるか、チヒロ。PMCは全滅。アミは保護したが、レイカは現場を離れて行方不明。手がかりがねぇんで、一旦そっちに戻る。詳しい事は、その後だ。ことは一刻を争う。情報集めとけ」
「……っ! 巫女さまが……行方不明……?」
コタマは、ネルから来たその報告に、強い自責の念に駆られた。
情報で支援するどころか、レイカの危機を察知できなかった無力感が、砕けたガラス細工のように襲い掛かる。
「巫女さまが盗作で苦しんでいることを知りながら、何もできなかった」という罪の意識が、彼女の冷静さを揺さぶっていた。
「了解―――コタマ? 大丈夫?」
「は、はい………大丈夫です…」
コタマは、震える声をごまかそうと、無理やり笑顔を作った。
チヒロは、そんなコタマの様子を冷徹な視線で射抜いた。
「………その顔色じゃ、嘘だってのが丸わかりよ。何があったの。レイカさんって、そんなに大事な人なの?」
詰め寄るように迫るチヒロ。
それを前にして、もう隠し事はできないな、と悟ったコタマは。
心の中で、レイカに謝った。
―――申し訳ありません、巫女さま。私は、これ以上貴女の秘密を守れそうにありません。
やがて………
「レイカさんは―――私の全てになった人です」
「「「はぁ!?!?!?!?」」」
―――誤解しか招かない爆弾発言をした。
チヒロは勿論のこと、同じ部室にいたマキとハレも巻き添えである。
まぁ、コタマにとっては「私の(音楽関連の人生の)全てになった(最推しのファン的な意味で)人」なので間違いではないが、チヒロには別の意味に聞こえてしまった。
「コタマ、どういうこと!? 『全てになった』って、あなたたち、そんな親密な関係だったの!? レイカのそんな素振り、一切見てないわよ!?」
「え、あ、いや、副部長! 違います!」
コタマはチヒロの誤解に気づき、慌てて否定しようとする。加えて、マキが慌てて割って入った。
「副部長! ちょっと待って!」
「いや待たないわよマキ! レイカが危機のさなかに行方不明になった状況で、こんな個人的な問題……」
「いや、コタマ先輩の言いたいこと、多分そういう意味じゃないです!」
マキはチヒロとコタマの間に入り、両手を広げてストップをかけた。
「副部長、コタマ先輩は……ほら、『ファン』としての『全て』って意味ですよ! あの人、レイカの…『黎毬神社』名義の活動の、一番ヤバいガチ勢なんですから!」
「黎毬神社?」
チヒロは目を丸くした。
「確か、数年前に流行った、有名なミュージシャンの……どうして今、その名前が…」
「私は! その巫女さまの音楽に、人生を捧げたファンなんです! だから、黎毬神社の巫女さまであるレイカさんが、盗作で苦しんでいるのを知っていて、何もできず、さらに暴走させてしまったのが……っ」
コタマは、感情を抑えきれずに嗚咽を漏らした。チヒロはコタマのあまりの熱狂ぶりに、先ほどの誤解が一瞬で吹き飛んだ。
チヒロは、そのコタマの告白から、シャレにならない情報を読み取った。レイカ=黎毬神社という事も発覚したが、それどころではない。
「ちょっと待ちなさい、コタマ。今、『盗作』って言ったわよね? レイカが、誰に?」
「さ、先日、解析したでしょう? レイカさんの音源は、過去の作品を改悪された、盗作された音源です。あの時、それがPMCが狙う『異常性』の源だと報告したでしょう!」
チヒロの頭の中で、全ての情報が繋がった。ドミネイトがレイカの「過去」を知っていた理由、そしてレイカが「兵器化」を誰よりも恐れていた理由。
「分かったわ。レイカは、トラウマと才能の兵器化の話を聞いて、おまけに友人を傷つけてしまったから、ヤケになったのね」
チヒロは通信機を握りしめた。
「マキ、ハレ! 今すぐ現場のデータを再解析! コタマ、あなたは引き続き盗聴した音源を調べて!なんとしてでもあの子の隠れた場所を突き止めるわよ!」
チヒロの表情は、一転してリーダーとしての厳しさに満ちていた。レイカの行方不明は、ヴェリタスにとって、最も危険な緊急事態へと格上げされた。
◇◇◇◇◇
翌朝、レイカは当然のように教室にいなかった。
「……あれ、レイカ、今日も欠席じゃん」
ゲーム開発部のモモイが、自分の席で端末を操作しながら、気の抜けた声を上げた。
「昨日、アミちゃんのお見舞いに行ったって言ってたのに。風邪でも移されたかな?」
ミレニアムでは、欠席は珍しいことではない。しかし、昨日のモモイの記憶には、レイカが「アミに会いに、行くわ」と、普段のクールな彼女にしては珍しく焦った様子で自転車に飛び乗る姿が焼き付いていた。
「お姉ちゃん、レイカのことは……」
ミドリが慌てて口止めしようとした、その時。
憔悴しきった様子のアミが、静かに教室に入ってきた。
彼女は昨日までと同じ制服を着ているが、顔色は青白く、まるで一晩中悪夢に苛まれたかのようだ。彼女の瞳には、光がない。
「アミちゃん! 元気になったの? レイカ、昨日お見舞いに行ったんだよね?」
モモイは悪気なくアミに声をかけた。
アミは、モモイの言葉に、ビクッと全身を震わせた。
―――まるで「レイカ」という単語が、彼女の最も恐れるトラウマであるかのように。
「……わ、私……知らない」
「え?」
「レイカのことなんて、知らない!」
アミは、そう叫ぶと、自分の席に座り込み、うつむいたまま動かなくなった。モモイや周囲の生徒たちが話しかけても、彼女は一切反応しない。
「あ、アミ……」
モモイは困惑して、ミドリを見た。
アミの、レイカに対する異常な拒絶反応。そして、レイカの欠席。
この異様な光景に、違和感を覚えない程、姉妹は鈍感ではなかった。
「これ……絶対ただの風邪や喧嘩じゃない。何か、おかしいよ、お姉ちゃん」
「だ、だよね……!? 一体、何があったの…?」
不吉な影を落とした、アミのリアクション。
それは、モモイとミドリ……ひいては、ゲーム開発部のメンバーに、暗雲をもたらしていく。
「大丈夫かな、レイカちゃん……」
「…確かに、不穏なイベントの予感がします。アリス、レイカを探してみようと思います!」
ユズは不安そうに俯き、アリスは立ち上がった。
「それについてなんだけど、ちょっと話いいかな?」
そこで唐突に、教室の入り口から声がかかった。その声は、感情的なものがほとんど込められていなかった。
「「「「!!!?」」」」
ゲーム開発部の元に現れたのは、ヴェリタスの副部長、チヒロだった。彼女は常に冷静沈着だが、今はその表情に、一瞬の躊躇さえ見当たらない。彼女の瞳は、まるで重大な事態を目の当たりにし、手当たり次第に仲間を集めているかのような焦燥感に苛まれつつあった。
そんな彼女の存在が……
「実は、そのレイカについて相談があるの。
ちょっと……ヴェリタスの部室まで来てくれない?」
―――彼女たちを、レイカが絡む、未知なる戦いへいざなう。
白峰レイカ
絶望から、ミレニアムを去る。己の力が、更なる不幸を生む前に。
「……………」
音瀬コタマ
己の最推しが、暴走してしまった事実を盗聴で知り、チヒロにすべてを告白した。その内容には、黎毬神社=レイカの事実も含まれているが、現段階で誰も気づいていない。
「み、巫女さま……私のせいで…。でも、もう傷つけたくないです!!!」
才羽モモイ
お見舞いに行くと言っていたレイカが行方不明になり、体調が悪かったハズのアミがレイカを避けるようになったら、流石におかしいことに気付く。
「レイカについて……何の相談だろう?」
各務チヒロ
コタマの報告を受け、ドミネイトに拉致されたアミを助けるため、ドミネイトのハッキングと、C&Cと連絡を取っていた。結果、アミは助けたものの、更なる事態の悪化を察する。
「さて、なんて話そうかな……」
美甘ネル
レイカが生み出した惨状に絶句。手がかりを失い撒かれたと思って情報収集の為撤退。ここからは、シャーレやセミナーとも連携して、レイカを探す予定。
「あのすげぇ音楽してたレイカが……一体、何があったんだ…?」
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