すっかり忘れ去られそうな奴らの後始末とか、あの先輩たちの動向とかも盛り込んでみました。
先生やヒマリの事で指摘も受けましたが、やはり私自身まだまだだなと痛感できた一作でした。
何はともあれ、短いですが、お付き合いいただきありがとうございました!
白峰レイカの伝説となったライブから時は少々遡り。
ある男が、怒りに顔を歪ませていた。
「クソォッ!! よくも我が精鋭部隊をっ!
下手に出たらつけあがりやがってあのクソガキがぁ!!!」
彼———ドミネイト・セキュリティズの社長は、全身を震わせ、力任せに自席を拳で打ち付けた。
「こうなったら、アイツのデータを流出させて……」
まだ諦めない。
諦めなければ、必ずレイカを捕らえられる。
そう思っていた社長の懐で、携帯が鳴った。非通知の電話。怪訝に思いながらも、電話に出た。
「…こちらドミネイト」
『あっ、繋がりましたね!初めまして、ドミネイトの社長さん。わたくし、ミレニアムが誇る至高の花にして超天才病弱美少女ハッカーでございます♪』
「………どうしてこの番号を知っている」
『あら、そんなに内密にしていたつもりでしたか? この番号でしたら、私の手にかかればあなたの朝食の献立を調べるより簡単でしたよ』
受話器の向こうから聞こえるのは、鈴を転がすような、それでいてどこか人を食ったような余裕に満ちた声。
「ミレニアムの……ハッカーだと? 遊びに付き合っている暇はない。ふざけた軽口を叩けんよう、貴様の居場所などすぐに特定して———」
『おやおや、物騒ですね。しかし、特定ならもう済んでいますよ? 私の方が、あなたの全てを、ですが』
瞬間、社長の背後の大型モニターが、勝手に起動した。
そこに映し出されたのは、ドミネイト・セキュリティズがこれまでに積み上げてきた「裏帳簿」、他校への不当介入の記録、そして――白峰レイカから不当に採取した生体データや研究資料のリストだった。
「なっ……何だこれは!? 誰がアクセスを許可した!」
『私ですよ。ミレニアム・サイエンススクール、特異現象捜査部部長――明星ヒマリ。この名前、冥土の土産に覚えておくといいでしょう。もっとも、あなたのような方が通う地獄に、お土産を持っていく余裕があればの話ですが』
画面が切り替わり、一人の少女が映し出された。
車椅子に座り、優雅に紅茶を嗜むその姿は、およそハッカーという言葉から連想される泥臭さとは無縁の、聖女のような気品を纏っていた。
『あなたの会社が、かわいい後輩――白峰レイカさんに向けたその浅ましくも醜悪な執念。ミレニアムの最高知性である私が、見過ごすとでも思いましたか?』
「くっ、調子に乗るなよ小娘が! データならバックアップがある! それをバラ撒けば、あの女は終わりだ!」
『ふふっ……バックアップ? ああ、あのサーバーの隅で埃を被っていたガラクタのことですか? あれなら既に消しておきました。もう二度と、電子の塵にすら戻ることもないかと』
ヒマリが指をパチンと鳴らす。
その瞬間、モニター内のファイルが開く。そこにあったハズの機密データは、とっくのとうに桜の花びらへと姿を変え、デジタルエフェクトと共に霧散していた。
「バカな……消去されている!? 全ての端末のデータが……!?
貴様、なんてことを! これは我が社の命綱だったのだぞ!!?」
『命綱……命綱ですか? 私の後輩を食い物にするような、おぞましい命綱など、この全知が統べるミレニアムの領域において存在してはならないものです。……さあ、仕上げといきましょう』
ヒマリが、冷ややかに微笑んだ。
『今、あなたの会社の全ての不正ログ、脱税の証拠、そして機密データを、行政当局とヴァルキューレ警察学校、ついでにカイザーグループの不祥事を追っているメディアにも転送いたしました』
「……ぁ……」
社長の膝が、ガクガクと震え出す。
ドミネイト・セキュリティズという城が、砂の城のように崩壊していく音が聞こえた。
『私はか弱い美少女ですから、暴力は好みません。ですから、電子の海を人魚の如く舞う、清楚系天才ハッカーなりのやり方で、社会的な終止符を打たせていただきました』
ヒマリは、慈悲深い女神のような、それでいて絶対的な強者の微笑みを崩さぬまま、告げた。
『それでは、さようなら。ドミネイトの、元・社長さん。……あぁ、安心してください。レイカさんの新しい歌は、あなたのいない世界で、最高に美しく響くことでしょう。それは、ミレニアムが誇る唯一の「全知」であるこの私が保証します』
通話が切れた。
社長は、崩れ落ちることしか出来なかった。
SNSでは、メディアの公式アカウントが「ドミネイト社、組織的犯罪の証拠流出」と速報を出し、あっという間に燃え盛る炎となって拡散されていく。
数分後、セミナーの監査部とヴァルキューレ公安局が社長室の扉を蹴破るまで、彼はただ、自分の手から滑り落ちた富と権力の名残を眺めていることしかできなかった。
◇◇◇◇◇
あのライブの後の私の生活は、思ったよりは激変しなかった。
黎毬神社の巫女の正体だって、仮面をしていたとはいえ、ミレニアムの技術をもってすれば判明しそうなものではあるが、誰もが予想を立てるだけに留まり、私がそうだと言わなかった。
割と驚いたのは、ライブ後に開いたSNSのニュースで、「ドミネイト・セキュリティズが不祥事で倒産した」というニュースを目にした時だ。何でも、一気に犯罪の証拠が流出して、株価が大暴落、提携先とは一つ残らず契約を打ち切られたらしい。一体何があったと思ったが、チヒロ先輩や先生が察している様子だった事から、何か知っているかもしれない。今度聞こう。
それで…今私は何をしているかというと、ゲーム開発部を呼び出して、大事な話をしようとしているところだ。
場所は……私が一度、全てを投げ出そうとした、あのキャンプ場。
あの凶悪な能力を解き放った中心部は、今もまだ荒れ果てていて、そこだけ嵐の翌日かのように時間が止まったままだ。
昼間の光に照らされたその場所は、私の暴走の凄まじさをより鮮明に映し出していた。枯れ果てた樹木、壊された器具たち、ひび割れた大地。そこだけが、ミレニアム郊外の豊かな自然から切り離されたかのようだった。
「れ、レイカちゃん!」
「来たわね」
「はい! 仲間のイベントは必ず回収するのが勇者ですので!」
「ねぇ、ここで話ってなんなの?」
「わざわざここを選んだ理由って…?」
モモイ、ミドリ、ユズ、アリス……4人がそれぞれの反応をする。
私はここで……これからのことを話さないといけない。4人も関係する、大事なことだ。
「来てもらって悪いわね。でも…ここで話すことに、意味があるから」
「意味…?」
「もう分ってるでしょ? 私の力。やりようによっては、皆を不幸にするかもしれないって……」
「大丈夫だって! レイカにそんな気はもうないんでしょ!? なら安全だって!!!」
「そうだよ! あんなにすごいライブまで、できたんだから!」
「私達も…信じる、から!」
「もしまた闇堕ちしても、勇者であるアリスが、何度でも止めます!」
………本当に、甘ちゃんなんだから。
でも、私はそれに救われた。だから……
「―――そうね。結局は使い方。
最強の剣は、勇者が持つのと、魔王が持つのでは意味が違うから……」
まずは、この歌を、この4人に聞かせたい。
私は、荒れ果てた地面の中央で立ち止まり、ゆっくりと息を吸い込んだ。
昼間の空には厚い雲が垂れ込め、うっすら見える月が隠れようとしている。その光景は、まるであの夜の私の心のようだった。
けれど、今はもう、隣に皆がいる。
「この歌で、この場所の時間を、もう一度動かすわ」
私は目を閉じ、胸の奥で眠る旋律を呼び起こした。 曲は、『月に叢雲華に風』。
華やかでいて、どこか切なさを湛えた疾走感のあるメロディ。和風の情緒とロックが混ざり合う、私の魂そのもののような音。 私は、剥き出しの声を、祈りと共に放った。
「月には叢雲 華には風と―――」
私のヘイローが、これまでにないほど澄んだ黄金の光を放つ。 あの日、後戸から溢れ出したドロドロとした負のエネルギーが、私の歌声に触れた瞬間、キラキラとした光の粒子へと浄化されていく。
「――――――♪」
ピアノの旋律が跳ねるように響き、荒れ果てたキャンプ地に「命」を吹き込んでいく。倒れた樹木は瑞々しい緑を纏い、焦げ付いた土からは小さな花が芽吹きはじめた。
「――――――♪」
最後のフレーズを力強く、祈るように歌い終えた時。
ずたずたになっていた荒地は、まるで魔法にかけられたかのように、穏やかな午後の陽だまりに満ちたキャンプ場へと戻っていた。
「ふぅ……」
私は歌を止め、ゆっくりと目を開けた。 目の前には、言葉を失ったまま、奇跡のような光景を見つめる4人の姿。 彼女たちの瞳には、恐怖も、疑念も、もう一滴も残っていなかった。
私は、ずっと言いたかった言葉を唇に乗せる。 これまでの「隠し事ばかりの私」にお別れを告げるために。
「モモイ、ミドリ。ユズ。アリス」
静寂が戻る。頬を撫でる風はもう冷たくなく、新緑の香りが鼻をくすぐった。
私はゆっくりと振り返り、驚きで目を輝かせている4人に歩み寄った。
心は、かつてないほどに晴れ渡っている。
「――私を、ゲーム開発部の仲間にしてくれないかしら?」
一瞬、森が静まり返った。 そして。
「な、ななな……何言ってんの、レイカ!!」
モモイが、弾かれたように叫び声を上げた。えっ、やっぱりダメだった? 私、変なこと言ったかしら……?
不安が過ったのも束の間、モモイは顔を真っ赤にして、私の両手をがっしりと掴んだ。
「当たり前でしょ!! レイカはずーっと前から、私たちの仲間だよ!!」
「そうです! レイカはアリスたちのパーティメンバー、大事な大事な
「……もう、レイカちゃん。改まって言うからびっくりしちゃった。もちろん、大歓迎だよ」
「レイカちゃん……よろしく、お願いします。一緒に……ゲーム、作ろう?」
ミドリとアリスが私に抱きつき、ユズが控えめながらも確かな力強さで私の袖を引く。
「……そ。ありがとう。これからよろしくね、部長さん」
胸の奥がじんわりと熱くなる。 自分の居場所は、逃げて探すものじゃない。こうして、さらけ出した先に、皆と一緒に作っていくものなんだ。
「さあ、勇者の凱旋です! 帰ったら、さっそくレイカの加入イベントとして、スマシスを一緒にやりましょう!」
「ゲーム作るんじゃなかったの?………マリンカート、ある?」
「もっちろんだよ、レイカ! 他に好きなキャラとかゲームとかは?」
「そうね……弾幕シューティングとかは得意かもしれないわ」
賑やかな笑い声に包まれながら、私たちはミレニアムへと続く道を歩き出した。 私の物語は、ここからまた、新しく始まっていくのだ。
白峰レイカ
ゲーム開発部に入部。BGM担当になる。黎毬神社との両立もしていくため、ゲーム開発部の駄作系ゲームは「音楽は神だけどクソゲー」「音楽100点シナリオ0点」などと言われるようになる。
「これからよろしくね…みんな」
ゲーム開発部
レイカが仲間に加わった。これでゲーム開発部は更に賑やかになるだろう。余談になるが、レイカがゲーム開発部で一番スタイルがいい。他がぺったんすぎるのもあるけど。
「やったー!レイカが入部したー!ユウカに言おっと!」
「お姉ちゃん調子に乗らないで…」
「これからよろしくね、レイカちゃん」
「パーティが4人以上になりましたので、誰かを馬車に残す必要がありますね!」
明星ヒマリ
ドミネイトを社会的に殺した。チヒロと先生も承知済み。
「ふふふ、レイカさんに幸がありますように。」
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