あと、東方ボーカルについて語りたい方の為に、別ページを用意しました。そっちもぜひ見ていってください。
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トリニティ自治区の郊外にて。
私は……ちょっとした……いや、かなり大掛かりなものに巻き込まれた。
「急なお願いでごめんね!」
「大丈夫!君は弾いてるフリだけでいいから!」
慌ただしく舞台を組み立てるため動く人々。
動く鳥や猫の着ぐるみ。申し訳無さそうなマネージャー。楽器やライトの最終調整に走るスタッフ。その中で。
「……どうしてこうなった…?」
……私は、ギターを手に、ステージに立たされていた。
そう……モモフレンズ・ゲリラショーなる催しの、バックのギターの一人として、演奏することになったのである。
なんでこうなったのか? それを語るには……少し時間をさかのぼる必要がある。
きっかけは、トリニティ自治区付近にまで足を伸ばし、ギターの弦を買いに行った時のこと。
思ったような弦がミレニアムで見つからず、トリニティ自治区近くの専門店に売っているという情報が手に入り、お金はかかるものの、仕方ないと割り切って向かうことにした。
……ネットで注文しないのかって? 信じられないかもしれないけどこの世界、運送中のトラックが略奪の憂き目に遭ったり、チンピラの紛争に巻き込まれるなんてザラだから。私……買ったばかりの機材が、家の目の前、まさに受け取る直前に不良どもの喧嘩に巻き込まれて壊れた事件を目の当たりにしてからは、高い買い物は絶対にネットで注文しないって決めたからね。
―――まぁそんな、運送業者涙目の事情はさておき……とにかく私は、トリニティ自治区付近にある、目的のお店に行って、目的にしていたギターの弦を買ったわけだよ。
事件は、その帰りに起こった。
買ったばかりのギター弦を収めたショップのロゴ入りレジ袋を片手に、私はトリニティ地区の裏道を歩いていた。ちょっと入り組んだ道ではあったが、スマホのナビに最短距離を聞いた結果だから仕方がない。と、その時。遠くから、普段聞く銃声とは違う、焦燥感に満ちた叫び声が聞こえてきた。
「もう時間がないんだ!このままだと、モモフレンズのゲリラショーが…!」
「ギターが!ギターの人が急病で倒れちゃったんだ!」
何事かと音のする方へ目を向けると、そこには簡易的なステージが設置され、数人のスタッフらしき人々が慌ただしく動き回っていた。その中心にいるのは、首から社員証のようなものをぶら下げた、いかにもマネージャーといった風体のパグだ。彼女は青ざめた顔で携帯を握りしめ、誰かに必死に訴えかけている。
私は反射的に立ち止まり、彼らの様子を伺っていた。まさか、こんなところでショーの準備をしているとは。しかも、ギターがいないなんて、かなり致命的なトラブルじゃないか。
「どうしよう…このままじゃ開演に間に合わない!子どもたちが待ってるのに…!」
マネージャーらしき女性が頭を抱え、半泣きになりながらあたりを見回した。その視線が、ふと私の手に持っていたレジ袋に吸い寄せられた。
「あ、あなた…!」
彼女の目が、私の持つレジ袋、そこからわずかに覗くギター弦のパッケージを捉えた。まるで獲物を見つけたかのような、いや、救世主を見つけたかのような輝きを宿して。
「もしかして、ギター…弾けますか!?」
矢継ぎ早に投げかけられた言葉に、私は思わず口を開きかけた。「いえ、あの…」と断ろうとした、その瞬間。
「お願いです!どうか力を貸してください!弾いてるフリで構いませんから!どうしてもショーを成功させたいんです!」
マネージャーは私の手を両手で握り、半ば懇願するように訴えかけてきた。その必死な様子と、彼女の背後に見える、準備が進められているステージに描かれたモモフレンズの可愛らしいキャラクターたち。そして、何よりも、その場に集まり始めた子どもたちのキラキラした瞳が、私の視界に飛び込んできた。
「いや、あの、私、急に言われても…」
私は一度は断ろうとした。見知らぬ場所で、急に、しかも何の打ち合わせもなくステージに立つなど、冷静に考えれば非常識だ。絶対に無理に決まっている。
「お願い!本当に、本当にこれがないと、みんながっかりしちゃうんです!モモフレンズを待ってる子どもたちが!」
マネージャーの言葉は、まるで機関銃のように私に浴びせられた。彼女の熱意と、今にも泣き出しそうな顔。そして、遠くから聞こえる、子どもたちの「モモフレンズー!」という期待の声が、私の断りの言葉を完全に飲み込んでしまった。
「か…」
「か?」
「代わりにっ、見た目と顔を隠せる道具をくださいっ!!」
「そ――そのくらいなら、いくらでも!!!!」
―――いくら子供達の為とは言え、着慣れない服で、急に、打ち合わせなくステージに立つことを決めてしまった私は……今振り返れば、どうかしていたといわざるを得ない。
———そして、今に至る。
今の私の格好は、普段通りのミレニアムの制服ではない。無理を言って用意してもらった、モモフレンズの鳥・ペロロの着ぐるみパジャマとなんかドクロみたいなキャラクター*1のお面を身につけて立っている。
……こっちが提案しておいてなんだけど、大丈夫かな、この格好。変質者じゃない?私。
そんな戸惑いを置き去りにするかのように、MCが始まった。
今回はペロロとあと3匹、ピンキーパカなるアルパカとアングリーアデリーなるペンギン、あとはビッグブラザーとかいう水色のフクロウが踊るらしい。……よくわからないな。こんなのが可愛い……のかな?
と…とにかく! 受けてしまった以上、やっぱ無しなんて通じない。幸い、ギターは貸してもらえたし、弾くフリで良いと言ってくれたから、私の腕を見せなくてもいいってことだ。
ドラムの人が、スティックを鳴らした。それに合わせて、ベースの人、他の楽器の人達も音を鳴らし始め、音楽が流れ始める。それに合わせて、マスコットたちも踊り始めた。
このまま…弾くフリを続ければいいんだ。幸い、顔はお面で誰にも分からない。
私は貸し与えられたギターを構え、指を弦の上で滑らせる。
軽くピッキングの真似事をしてみるが、当然音は出ない。流れているのも、スピーカーから流れているのだろう音源のもので、私の音じゃない。
隣でベースを弾くスタッフの男性は、私のことを気にする素振りもなく、真剣な表情で演奏している。その視線は、マイク越しに子供たちへと向けられていた。
「(……なるほど、これがショーか)」
私が今まで経験してきた、あるいは前世で見てきたライブとは全く違う。
純粋な音楽性や技術を追求する場所ではない。ただ、目の前の子供たちの笑顔のために、この空間を作り上げている。そのひたむきさに、ふと、胸の奥が温かくなるのを感じた。
その時だった。
無意識のうちに、私の右手の人差し指が、弦に触れてしまった。
カチャリ、と、小さくもクリアな金属音が、音楽の隙間を縫って響く。
「ッ!?」
たったそれだけの音だったのに、隣のベーシストの犬の男性が、一瞬だけぴくりと反応したのが分かった。彼は顔色一つ変えずに演奏を続けているが、確かに何かを感じ取ったように見えた。
まずい。弾いてるフリで良いと言われたのに、まさか音を出してしまうなんて。
しかし、その小さなミスが、私の内側で何かのスイッチを押した。
たった一つの、意図せずして鳴らしてしまった音。だが、その音は私に、「セッション」という言葉をありありと思い出させた。
「(……あ)」
私の前に、今、プロのミュージシャンがいる。彼らは子供たちのために、本気で演奏している。そして、その中に、私もいる。
たとえ顔を隠していても。たとえ急ごしらえの舞台でも。
「弾いてるフリでいい」と言われたけれど、本物の音が、そこにある。
前世で、私は数えきれないほどの東方ボーカルを聴き、その「原曲」を奏でる様々なプレイヤーたちのセッションに心を躍らせていた。
自分も曲を作ってみたい。
自分で作った曲を、誰かに聞かせたい。
手がけた曲を、誰かと一緒に奏でたい。
いつか、自分も、誰かと、音楽で魂をぶつけ合いたい。
そんな叶わぬ夢を抱いていたことを、今、はっきりと思い出した。
「(東方ボーカルじゃない。それでも……)」
胸の奥で、熱いものがこみ上げてくる。
こんな場所で、こんな形で、まさか、その夢の片鱗が叶うかもしれないなんて。
顔は隠れていても、私の「音」は誰にも邪魔されない。ここなら、私は、私自身として音を奏でられる。
私の指が、自然とギターのネックをしっかりと掴んだ。
そして、呼吸をするように、次の音を紡ぎ出す。
先ほどの僅かな金属音とは、全く違う。
まるで、凍てついた湖に、春の光が差し込むかのような、暖かく、澄み切った音が、音楽に乗って流れ始めた。
それは、バックの音楽に埋もれることなく、しかし不自然なほど浮き上がることもなく、まるで最初からそこにいたかのように、自然に溶け込んでいく。
隣のベーシストが、はっきりと私の方を見た。
彼の目には、驚きと、そして明らかな高揚の色が宿っていた。
他のバンドメンバーも、ちらりとこちらに視線を寄越しているのが分かった。
彼らの表情には、困惑ではなく、純粋な好奇心と期待が浮かんでいた。
「(大丈夫…これなら、迷惑にはならない)」
彼らが、私の音を受け入れてくれた。
その確信が、私の心を軽くする。
私は、お面の奥で静かに微笑み、指先から、心を込めた音を紡ぎ続けた。
レイカのギターが加わると、それまでどこか当たり障りのないショーの音楽に、新たな色彩と深みが生まれた。まるで、眠っていたメロディが息を吹き返し、躍動し始めたかのようだ。彼女の指が紡ぐ音は、ただ正確なだけでなく、感情が宿っている。一音一音が、会場の空気を震わせ、マスコットたちの動きにまで影響を与えるかのようだった。
踊っていたペロロやピンキーパカ、アングリーアデリー、そしてビッグブラザーの動きが、一段とキレと情熱を帯び始める。彼らのステップは軽やかさを増し、ジャンプは高く、ポーズはよりダイナミックになった。着ぐるみの中の人々も、レイカのギターに引っ張られるように、自然と体が熱くなっているのを感じていた。
観客の子どもたちも、その変化を敏感に察知していた。最初は手拍子だけだったのが、次第に身体を揺らし、歌に合わせて声を出し始める。
「モモフレンズー!」
「もう一回!」
「アデリーちゃーーん!!」
「ブラザーーー!!」
「ペロロ様ーーーーーーーーーーー!!!!」
その熱狂は、純粋な喜びと興奮に満ちていた。親たちも、普段のショーとは違う、何か特別なものがそこにあることを感じ取り、目を輝かせながらステージを見つめていた。中には、思わずスマホを取り出して動画を撮り始める者もいる。
マネージャーは、ステージ袖からその光景を呆然と見ていた。彼女の顔からは、先ほどの青ざめた表情は消え失せ、代わりに驚きと感動が入り混じった表情が浮かんでいる。
「(な…なんだ、この音は…!?弾いてるフリどころじゃない…まるで、音楽全体が生き生きとしている…!)」
彼女は、レイカのギターが、他の楽器の音をより引き立て、マスコットたちのパフォーマンスを一段も二段も上のレベルに押し上げていることに気づいていた。それは、単なる技術力の高さではない。まさに、魔法のような音楽だった。
ショーは、予定されていた時間をあっという間に過ぎ、観客のアンコールの声が会場いっぱいに響き渡る。
レイカは、お面の奥で静かに息を吸い込んだ。彼女の心は、純粋な音楽の喜びで満たされていた。東方ボーカルではない、それでも、今、ここで、この音楽を奏でられることへの、深い感謝と幸福感。
「(ああ……私、今、最高に楽しい)」
彼女の指は、疲れを知らずにギターの弦の上を舞い続けた。その音は、確かに、集まった人々全員の心に、忘れられないショーの記憶を刻みつけていた。
あの後、ショーが終わった後、私は逃げるようにライブの会場を後にした。
マネージャーさんにこれでもかと褒められ、「ぜひうちで働いてみないか!!?」と勧められたものの、流石に今のままじゃできない。
それに、仮に売り出すなら「黎毬神社」と決めている。だから、粘りに粘って食い下がってくるマネージャーさんの熱意を、なんとか振り切って、その場を去ったのだ。
一応のトラブルに巻き込まれたが、これでひとまずは大丈夫か。
そう思って安堵していた私に現実を突きつけたのは、翌朝SNSのタイムラインに流れてきたニュースだった。
『【速報】モモフレンズのゲリラライブに正体不明の天才ギタリスト乱入か!?』
『ネット騒然!卓越した技巧で、ライブ大成功!「ペロロ様の着ぐるみパジャマのギタリスト」に期待高まる!』
『マネージャー「奇跡の出会い。その場で臨時的にスカウトした」とコメント。今後の動向に注目』
画面いっぱいに広がる見出しの文字が、まるで私を指差して笑っているように見えた。
ニュースサイトのサムネイルには、たしかにあのステージの遠景が映っている。小さな子どもたちの興奮した顔と、その奥で踊るモモフレンズのマスコットたち。
そして、その端に、ぼんやりとではあるが、私が身につけていたペロロの着ぐるみパジャマとドクロのお面が確認できた。
「や…やりすぎた……!!」
スマホを持つ手が見る見るうちに冷たくなっていく。
い、いくらセッションへの憧れがあったからって、本気で演奏すればこうなるに決まってるじゃないか! なんでもっとよく考えなかった!! 私のバカ!!
後悔しても、後の祭りだ。
ここまで大々的に流れてしまったら、もう消せない。そもそも、私には情報の消し方なんて分からない。
「い、いや…まだ大丈夫だ…! あそこはトリニティの近くだったし、キヴォトスは広い……顔も、服装もハッキリと映ってはいないはず……」
震える指で写真を拡大してみる。粗い画質の中に、確かに私のシルエットはある。だが、特徴的な顔は隠れているし、着ぐるみパジャマとドクロのお面なんて、誰でも着られる。
「こ、この写真なら、このギタリスト=私だってバレようがない…ないはず……ないと思う……」
声が、だんだんと小さくなっていく。一抹の希望にしがみつくように、私は独りごちた。しかし、その言葉は、すでに確信とは程遠いものとなっていた。
私の安穏な学園生活が、今、音を立てて崩れ去っていくような予感がした。
白峰レイカ
勢いに押されたとはいえ、セッションしたことを後悔している。東方ボーカルへの愛が強いが、別にそれ以外が弾けないことなどない。むしろ技巧的にも心理的にも問題なく弾ける。その中でも東方ボーカルに強いこだわりがあるだけで。
「バレたくない…バレたくないぃぃ……!!!」
阿慈谷ヒフミ
実はモモフレンズのゲリラライブに参加していた、大きなお友達。ペロロ様の着ぐるみパジャマとスカルマンの仮面のギタリストについては、「すごい上手い人がいるなー」程度には認識している。だが基本的にはペロロ様にメロメロ。
「今回のライブ、皆様の動きが一段とキレキレでした。良かったです~~~!!!!」
モモフレンズ
ブルアカのマスコットたち。レイカにとっての受けは微妙。特にペロロ様に関しては「こんなのが可愛いの…?」くらいには思っている。なお、それを口に出したら犯罪王ファウストに修正されることを知らない。
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