世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第8話 古代遺跡

 

 

 

 アレンは任務で様々な地域、国々を巡ってきた。

 

 だからこそ人界大陸にあるほとんどの国々の植生や気候は大体、把握している。

 

 しかし、現在地は記憶にあるどこの場所にも引っかからない。

 

「……いや、マジでここどこ?」

 

 変装を済ませ、辺りの探索に入ってしばらく。

 

 アレンとアスモデウスの目の前には黒い巨木が立ちはだかっていた。

 葉っぱは一枚もついてないくせに、実だけがなっている。

 

 その茶色の実はまるで人の顔面のような模様と形をしており、酷く気色悪い。

 

 その他にも人の背丈を超えるキノコから触手が生えていたり、毒々しい煙を放ち続ける花が咲いていたりと、とにかく奇怪な植物ばかりがある森だ。

 

 辺りをしげしげと観察しながらアスモデウスが呟いた。

 

「恐らくここは禁足域じゃな。見覚えのない、名前すら分からん植物ばかりじゃからな」

 

「……なるほど。随分と遠くに吹き飛ばされたもんだ」

 

 禁足域とはその名の通り立ち入り禁止区域だ。

 

 どこの国の領土でもない場所が、人界大陸の端にある。

 果ての山脈と呼ばれる山々を超えた先にある地域だ。

 

 立ち入り禁止と定めたのは神聖皇国である。

 理由としてはシンプルに危険だから。

 

 何がどう危険なのかは明かされていないが、見る限りでは森の中に魔獣がいるようには見えない。

 

 人里から離れた大自然豊かな地域に生息している精霊獣もいない。

 

 そもそもこの森にある植物を食べて、生き物が生活できるのかも定かではない。

 

 とにかく森を出て、禁足域から出なければならない。この場所に人里などあるわけがないのだ。

 

 じっとしていても仕方ないので、とりあえず二人は当てもなく歩く。

 ぶくぶくと音を立てる紫色の毒の沼を迂回しながら進んだ先で、アレンは一度立ち止まった。

 

「……これは邪眼城の破片かな?」

 

 地面にバカでかい瓦礫が突き刺さっていた。

 

 周囲一帯の植物が地面ごと抉られている。

 

 遙か天空にあった邪眼城が盛大に爆発して、その破片がアレンのようにここまで飛んで墜落したのだ。

 被害も大きい。

 

「アレン、何か下にあるのじゃ」

 

 瓦礫が落ちた衝撃で穴ができている。傍に歩み寄り、クレーターとなっている部分に足を踏み入れたアスモデウスが瓦礫の下を覗き込みながら告げた。

 

「……ノワールね、ノワール。今、俺はしがない傭兵のノワールだから――」

 

「アレン、面白そうじゃ。降りてみようぞ」

 

「……もしかしてノワールって名前気に入らない?」

 

 無視するアスモデウスを他所に、アレンもまた瓦礫が墜落した衝撃で空いた穴を覗き込む。

 

 その穴の先に奇妙な事に階段が見えた。

 地下に通路があるのだ。

 

「禁足域に謎めいた地下通路。お宝の匂いがするね」

 

「そうじゃろう?」

 

 英雄にもはや憧れはなくなったが、男心をくすぐる冒険心はアレンにも残されている。

 

 ただ瓦礫が邪魔で中に入れない。

 アレンは邪魔になっている瓦礫をどかす為に戦技(スキル)を発動した。

 

「――戦技(スキル)〈剛筋〉」

 

 アレンの胸部の中央にある魔力核(マナ・コア)から、血液を通って全身に魔力が供給される。

 

 魔力核のタイプが騎士か拳士――騎士核か拳士核の者のみが使える基本的な戦技(スキル)〈剛筋〉。

 

 効果を簡単に言えば身体能力を強化する戦技(スキル)である。

 

 アレンは他の世界騎士同様、基本五つある魔力核(マナ・コア)のどのタイプにも属さない固有の英雄核(ブレイブ・コア)保持者だが、問題なく騎士核の者が使える戦技(スキル)を使える。

 

 ただし属性魔法や属性付与(エンチャント)、治癒魔法等は一切使えない。

 

「さて、行ってみるか」

 

「……うむ」

 

 崩落している入り口にある瓦礫を全てどけたアレンはアスモデウスを先導しながら地中に続く石造りの階段へ足を踏み入れた。

 

「……何だここは」

 

 地下空間は驚くほど広大だった。

 壁一面が灰色で、白い線が無数に刻まれている。時折、その壁に刻まれた線が光を帯びる。

 

 人の気配はないが、施設としてまだ健在なのではないだろうか。

 

「――ふむふむ。恐らくここは古代の遺跡じゃな」

 

 アスモデウスが瞠目しながら小さな手で壁を撫でた。アレンは振り返り、首を捻る。

 

「……古代? いや、文明的に古代には……」

 

「今より遥かに発展をしていたのじゃ、エクシーガ帝国は」

 

 アスモデウスはまるで知っているような口調だった。

 そういえば古代遺具(アーティファクト)の全てが古代にあった大帝国で造られた代物であることをアレンも思い出す。

 

 彼女はどこか忌々しそうに、辺りを見回している。

 

「……まあお主なら大丈夫じゃろ」

 

「何か言った?」

 

「何でもないのじゃ」

 

 どこか警戒した様子のアスモデウスは誤魔化すように曖昧に笑い、アレンの背を押した。

 

「早く行くのじゃ、アレン。本当に古代遺跡だったら古代遺具(アーティファクト)があるかもしれんぞ?」

 

「……まあ興味はあるけれども」

 

 促されるままアレンが階段を降りきると、巨大な門が現れた。

 

 門も周囲の壁同様、線が刻まれており、時折光が走る。

 材質を触ってみるが、石のようで金属のようでもある不思議な感触だった。

 

 そして門の前には台座がある。台座の上には手の形にくり抜かれた石板が用意されていた。

 

「指紋認証じゃな」

 

「……何それ」

 

「アレン、試しにそこに手をくっつけてみよ」

 

「……え、こう?」

 

 アレンが石板と手を合わせると、大きな機械音が鳴り響き、

 

『――認証失敗。認証失敗。権限者との一致を認められません。後二回の失敗で侵入者と見做します』

 

 ノイズ交じりの大きな音声にアレンは仮面の下で顔をしかめる。

 

「え、何これ。なんか怖いんだけど」

 

「……やっぱりダメじゃったか」

 

「もう引き返す?」

 

「世界最強の英雄が何をビビっているのじゃ。こんな門、お主なら斬れるじゃろ。アレン、気にならんのか? 禁足域に古代遺跡があったんじゃぞ。偶然ではないはずじゃ」

 

「……まあね」

 

 幼女に説得された英雄は長剣を引き抜いた。

 

 禁足域は前人未到の地だ。邪眼城の爆発に巻き込まれ、ここまで飛ばされたからこそアレンは偶然にも足を踏み入れた。

 

 皇国が何故この地を立ち入り禁止に指定しているのか、もしかしたらこの遺跡を隠す為だったのかもしれない。

 

 その答えを知る為にアレンは漆黒の長剣に魔力を込めて一閃した。

 無音で繰り出された神速の一刀。

 

 門の中央から大きく斜めに線が入る。アレンが剣を鞘に仕舞い、アスモデウスがちょんと指で門を押すと、門の下方部のみが綺麗に寸断され後ろに倒れた。

 

『門の破壊を検知。侵入者の存在を確認いたしました。権限者優先権一位――皇帝エイゼラハム・グランスフェルト・エクシーガが設定した外敵排除プログラムを起動します』

 

「……エイゼラハム? グランスフェルト?」

 

 けたたましい警報が鳴り響く中、アレンは聞き覚えのある名前に首を傾げた。

 

「あれ、誰かそんな名前の人いたよね?」

 

「……皇国の妖怪ジジイじゃろうが」

 

 アスモデウスは呆れたようにアレンをジト目で見つめた。

 長い名前が覚えられないからいつも皇王と地位で呼んでいたのは内緒である。

 

 

 

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