世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第11話 英雄は全てを見透かしていた

 

 

 

 

 アレンとアスモデウスが古代遺跡を後にした数週間後。

 

 禁足域と呼ばれる誰も近付かない大陸の端に、純白の騎士服と鎧を纏った一団が舞い降りた。

 

 空を飛ぶ精霊獣の一種、天馬(ペガサス)に騎乗した神聖皇国の国軍――皇王特任騎士団(シークレット・ガード)に所属する騎士達だ。

 

 彼らの目的はただ一つ。

 

 この地にある古代遺跡。その最深部に眠る古代遺具(アーティファクト)を回収する事だった。

 

「――ここが禁足域。薄気味悪いところっすね」

 

 ペガサスから降りて、辺りを見渡した騎士の一人が眉をひそめながら口を開いた。

 

「団長。今回の任務、ちゃちゃっと終わらせて帰りましょ」

 

 眠そうに目を擦る騎士に対して、団長と呼ばれた目付きの悪い美青年は背後を振り返って部下達を睥睨した。

 

「……貴様ら、随分と余裕そうだな。陛下からは古代の技術で造られたゴーレム達が遺跡を守っていると聞いている。油断していると死ぬぞ」

 

「……でもでも、団長がいれば楽勝でしょう。何せアレン様の後任、念願の世界騎士(ワールドナイト)の次期筆頭候補なんすから」

 

 そう言われて、皇王特任騎士団(シークレット・ガード)の団長――ヘルミス・グレンガイアは血のように紅い瞳を細めて舌打ちを放った。

 

「別に念願ではない」

  

 世界騎士の選任は各国の王達が一同に集う世界会議で、王達からの過半数の支持が集まることで決まる。

 

 五年前、先々代の世界騎士(アレンの師匠)が魔王に討たれ、急遽開催された世界会議で。

 人間族の世界騎士候補者はアレンとヘルミスの二人。

 

 投票で、アレンが満場一致で世界騎士に選出された。

 

 それ以来、ヘルミスはアレンを人一倍ライバル視していた。

 

「……あの時、各国の王達には俺に投票しないようにと自分から働きかけていた。俺は皇王陛下に拾われた身。世界騎士は一国だけのために剣を振るう事を許されていないからな。五年前は単に皇王特任騎士団(シークレット・ガード)の団長として、皇国のためだけに働きたかったのだ。もし世界騎士の地位を望んでいたら、僅差ではあるが()()勝っていただろう。この俺がな。だから俺は断じてあの男より弱いわけではないし、人気でも劣っていない。つまり俺が奴に世界騎士の地位を譲ってやったと言っても過言ではない。そこを踏まえて考えると、念願という表現は――」

 

「だ、団長、分かりました、分かりましたからッ」

 

「任務に集中します!」

 

 どこまでも続きそうな言い訳に辟易した団員達が慌てて辺りを探索しだした。

 散らばっていく騎士達に仏頂面を浮かべたヘルミスもまた周囲を調べ始める。

 

 古代遺跡は地中に埋まっているらしく、見つけ出すのは骨が折れるだろう。

 時間がかかるかに思われたが、毒の沼地付近を二人一組で探索していた騎士達が驚愕の声を上げた。

 

「……こ、これ……古代遺跡の入り口では……」

 

「ああ、し、しかし……」

 

 遥か天空で爆発四散した邪眼城の一部が飛来した影響で、周囲一帯は破壊し尽くされていた。

 そのおかげか、地下に設けられた古代遺跡へと続く石材で築かれた階段が剥き出しになっている。

 

 しかし、何より困惑するのはその階段前に設けられた立て札だった。

 

「もう見つけたのか⁉」

 

「え、ええ。ですが……」

 

「な……馬鹿なッ、これは……」

 

「だ、団長ッ、来てください! 団長ッ‼」

 

 他の場所を探し回っていた騎士達も集う。そして皆が驚愕の声を漏らした。

 呼ばれて駆けつけたヘルミスは階段前にある立て札にまず目を見張った。

 

「なんだこれは……”この遺跡に眠っていた危険な宝は頂いた、探索は無意味だ”……だと……?」     

 

 立て札は比較的新しい。最近置かれたものだ。

 

「……流浪の傭兵ノワール……と書いております。い、一体何者なんでしょうか……」

 

「古代遺跡の場所は皇国でも極めて陛下と近しい一部の者しか知らされていないはず……」

 

 今回の任務で初めて古代遺跡の存在をヘルミスも知らされた。

 

 ヘルミス達より先回りして古代遺具(アーティファクト)を回収した者。

 

 それはつまり、

 

「このノワールという者、まさか陛下の企みに気付いていたというのか?」

 

 ヘルミスは戦慄した。

 本来、この地にあるはずの古代遺具(アーティファクト)――【支配の呪脳(ブレイン・オーダー)】をとある場所に移送する事がヘルミス達の任務内容だった。

 

 そのとある場所では、古代の研究を引き継いだ魔導学者が人工的に英雄核(ブレイブ・コア)を造っている。

 

 その英雄核(ブレイブ・コア)を人間に移植する事で、皇国は【世界騎士】の代わりとなる戦力――人工英雄を生産していた。

 全ては魔大陸へ侵攻し、魔族を支配するという皇王の野望の為。

 

 その人工英雄達を意思なき人形として完全にコントロールする上で、【支配の呪脳(ブレイン・オーダー)】が必要だったのだ。

 

「遺跡の中はゴーレム達が守っているんですよね? 回収しただなんて、嘘の可能性もあります。中を調べてみますか?」

 

 生唾を飲み込んだ騎士の問いにヘルミスは重々しく頷いた。

 

 わざわざ皇王が英雄核(ブレイブ・コア)を宿すヘルミスを行かせるくらいなのだから、ゴーレム達も手強いはずだ。

 

 そう考えた騎士達はヘルミスを先頭に遺跡内部へと歩を進めた。

 階段を下り、不思議な材質の灰色の空間を抜けて。

 

 開けた大空間には足の踏み場もないくらいの数百体のゴーレム全てが真っ二つにされて壊されていた。

 

 どれも同じ部位、断面。

 下半身と上半身を恐ろしく綺麗に切断されている。

 

 遺跡に踏み入った者はほとんどのゴーレムをたった一撃で片付けたのだ。

 

「……こんな事ができるのは……アレン様くらいでは……」

 

 呆然とする部下達の中で、一人がぽつりと呟いた。

 

(……確かにアレンの太刀筋に似ている……だが……)

 

「……奴が生きているはずがない。雷殲剣の代償は聞いているだろう。他の世界騎士達も、奴の寿命が魔王戦で尽きる事を薄々察していた」

 

 言いながら、ヘルミスにも生涯のライバルに指定した男の影がチラつく。

 

 この神算鬼謀ぶり。奴が関わっているのは間違いない。

 

「……流石は我がライバルといったところか」

 

 武力だけではない。頭の方も恐ろしくキレる奴なら。

 皇王の企みに気付いた奴は自分の死後、世界がどうなるか、皇国がどういった手段に出るかを全て予想して、対抗策を設けたのだ。

 

「……では、アレン様がやったと? アレン様は生きていると?」

 

「いや、違う。恐らくノワールなる者はアレンの弟子だろう。獣人族の現世界騎士であるレオハルトも彼の弟子だったのだから、二人目がいてもおかしくない」

 

 あくまで、黒曜の騎士は魔大陸侵攻に反対のようだ。

 

(……何故陛下の思想を理解しない? 魔族を殺し尽くす事の何がダメなのだ、アレン。人工英雄にしても、真の平和を勝ち取るためには少数の犠牲が必要なのだッ)

 

 ただただ偶然禁足域に辿り着いたアレンが親切心から置いた立て札は、皇王の計画を邪魔して、自称ライバルの青年の勘違いも加速させる事になった。

 

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