世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第13話 元騎士のおじさんを助ける

 

 

 茶色のマントを羽織り、顔には仮面をつけた青年は奇妙な出で立ちの幼女を肩に乗せ、安堵の息を吐いた。

 

 奇怪な植物が生えた森――禁足域を抜け、休む暇なく険しい山脈を一ヵ月かけて超えて。

 

 開けた視界には緑豊かな平原が映る。遠目には踏み固められただけの簡易的な街道も見つける事ができた。

 

 アレンは仮面の下で乾いた唇を舐めた。ついにどこかの国の領地に入ったらしい。

 

「……アスモデウス。ほら、元気出して。街道が見えたよ。あと少しで村か街に着く」

 

 「……ヨウヤク。ヨウヤク、ベッドデヤスメルノジャ」

 

「何でカタコトなんだよ」

 

 歩くのが疲れたと煩いので、アレンはアスモデウスを肩車してあげている。

 野宿生活が一ヵ月続いた事で、彼女からはもはや知性を感じない。

 

 ちなみにそんなに辛いなら剣の形態に戻れば良いと思うだろうが、雷殲剣は【世界騎士】としてのアレン・ノーシュの代名詞。

 

 豪華な装飾入りの紫紺の長剣は酷く目立つので、アレンとしても戻れとは言えない。

 

 街道に入り、二人はそのまま道なりに進んでいく。

 

 街道と言っても、魔王軍との戦争で維持する余裕がなかったのか草は生え放題だ。

 

 元々主要都市にある街道のように石畳が敷かれているわけでもない為、旅慣れていない者には酷な道かもしれない。

 

 そんな折、ふと気配を感じた。

 

 背後を振り返ると、大分遠くからだがアレンの元へ駆けてくる壮年の男がいた。

 

「――すまんッ、そこの御仁ッ!」

 

 約一ヵ月ぶりに人と出会えたが、アレンに喜びの感情は微塵もなかった。

 

 何故なら男の背後には虫型魔獣がわらわらと迫っていたのだ。

 単眼蠍(デス・スコーピオン)殺人蜂(キラービー)修羅蟷螂(オーガ・マンティス)と多種多様である。

 

 その凶悪な魔獣達を引き連れながらアレンの方へ近づいてくる。

 

 一瞬ペットのお散歩かなと思ったが、鬼気迫る表情のおじさんを見て、現実逃避している場合ではないとため息を吐く。

 

「――中々の業物を佩いている事から名のある傭兵と見受ける! 悪いが手伝ってくれッ‼」 

 

「嫌です!」

 

「すまんッ、聞こえなかった! 今何と――」

 

「……承知した。そう言ったんだ」

 

 渋々頷く。鞘から剣を引き抜くアレンに対して、耳元でアスモデウスが囁いた。

 

「……機械の人形を片付けたと思ったら、今度は魔王軍の残党の魔獣共か」

 

「そのようだね」

 

 魔王軍は魔王が討たれた事で崩壊したが、依然として人界大陸には残党が残っているようだ。

 人類側の戦力が集中している都市部から撤退した分、辺境にやってきているのかもしれない。

 

「……くれぐれも全力を出さないようにな、アレン。古代遺跡の時とは違って、人前でお主の実力を晒せば正体について疑念を抱かれる」

 

「分かってるさ。それよりもアスモデウス。人前で俺の事をアレンと呼ばないように」

 

「……分かった、分かった。というか、わらわの事は何と呼ぶのじゃ? お主ほどではないが、わらわの名も有名じゃぞ?」

 

「逆に何て呼べば良い?」

 

 しばらく黙り込んで、アスモデウスはぽつりと呟いた。

 

「……アーディ」  

 

 きゅっとアレンの肩を掴みながら懐かしそうに呟いた彼女の様子に疑念が浮かぶが、追及している場合ではない。

 

 愛称みたいなものだろうと納得し、アレンは肩に乗っているアスモデウスを地面へと下ろした。

 

「――でかいのは任せろッ! 貴殿は小ぶりの奴を頼むッ‼」

 

 おじさんは結構強さに自信があるらしい。元騎士とかだろうか。だったら全部一人で対処してほしかった。

 

 彼はアレンの近くまで来てから街道を逸れ、単眼蠍(デス・スコーピオン)修羅蟷螂(オーガ・マンティス)と戦闘を始める。

 

 アレンの相手はどうやら不快な羽音を奏でる巨大蜂らしい。

 

 黄色と黒の体色に、臀部には人体を貫ける程の巨大な毒針。羽が背から二対生えており、身体は硬そうな外殻に覆われている。

 

 殺人蜂(キラービー)と呼ばれる魔獣は全部で五体。

 高速で飛翔しながら前に立つアレンにそれぞれ毒針を突き出してくる。

 

「……ッ」

 

 毒液が垂れる針をアレンは敢えてギリギリで避ける。

 

「私が倒し終わるまで持ちこたえられるかッ⁉」

 

 おじさんは修羅蟷螂(オーガ・マンティス)の巨大な鎌と大剣で打ち合いながらちらりとアレンの方を確認した。

 

「……何とかする。気にしないでくれ」

 

 仲間達の前で、常に実力を偽っていたアレンは手加減の達人である。

 苦戦している風を装う事など容易い。

 

 とは言え、あまり弱いと舐められる可能性がある。

 それはそれでトラブルを引き起こすので、アレンは自力で魔獣を倒すつもりだ。

 

 キラービーは毒針だけに気を付ければ良いというわけではない。

 

 彼らは高速で飛翔しながら硬い外殻を頼りに体当たりしてくる。

 

 風が頬を撫で、不快な羽音が重なって耳に響く。

 アレンは彼らの攻撃を地面に転がって避けるが、当然躱してばかりではジリ貧だ。

 

戦技(スキル)〈剛筋〉」

 

 とりあえずアレンは身体能力を強化した。素の身体能力だけで十分対処できるが、使わずに倒したら不自然に思われる。

 

 それからアレンは向かってきた殺人蜂(キラービー)の羽をすれ違いざまに斬り捨てる。

 

「ギギッ」

 

 悲鳴を上げて地に落ちた一体の腹を長剣で刺し貫く。

 しかし、仕留めたと思った一体は息も絶え絶えな様子ながら鋭い脚で長剣をがっしりと掴んだ。

 

 仲間の奮闘を無駄にしないとばかりに、他の殺人蜂(キラービー)達が一斉に襲いかかってくる。

 

 アレンは剣を手放し、横に飛びながら蹴りを繰り出す。

 

 無事二体目に当たり、三体目が巻き込まれて飛行が乱れる。アレンは駆けだしながら息絶えた個体の腹から無理やり剣を引き抜き、飛んでいる二体を斬り捨てる。

 

 仲間を殺され、残った殺人蜂達は意外とアレンが手強いと見て、標的を背後にいるアスモデウスに切り替える。

 

「兄様ッ、わらわ死んじゃうッ、兄様ッ⁉」

 

 アスモデウスは瞳に涙を浮かべ、尻もちをついて助けを呼ぶ。

 迫真すぎる演技でアレンを呼ぶ設定上妹になったアスモデウス。

 

「今行く、アーディ」

 

 こちらも設定上の名前を呼び、アレンは駆けた。

 

戦技(スキル)〈斬月〉」

 

 上段からアレンは長剣を振るう。

 

 古代遺跡で使った〈冥光斬月〉の下位互換の戦技(スキル)である。

 魔力を纏った一刀は空を走り、飛ぶ斬撃となって一体を両断。

 

 斬撃は止まらず、二体目の甲殻に傷をつけてようやく止まる。

 

「ギギッ⁉」

 

「終わりだ」

 

 残った一体は天高く舞い上がる。どうやら逃げようとしているらしい。

 アレンは強化された身体能力で剣を投擲した。

 

 弾丸の速度で空を駆ける長剣は寸分違わず殺人蜂(キラービー)の頭部を刺し貫いた。

 

「ふう」

 

 どしゃっと死体が空から降ってきた横で、アレンは腰に手を当て、疲れたとばかりに息を吐いた。

 

「怖かったのじゃ、兄様ッ」

 

「あ、ああ(演技上手いなコイツ)」

 

 戦闘を終えると、アスモデウスはアレンに甘えるように抱き着いた。

 彼の腹部に顔を当て、すんすん匂いを嗅ぐ。

 

 抱きしめ返しつつ、アレンがおじさんの方へ視線を向けると、遅れて彼の方も終わったらしい。

 

戦技(スキル)<八刀連断>!」

 

 裂帛の気合と共に、八つの斬撃が二体の大型魔獣の身体を寸断した。

 

 アレンは仮面の下で瞳を細めた。

 魔法ではなく戦技――それも武器に魔力を付与して戦う事から、魔力核(マナ・コア)のタイプは騎士核だろう。

 

「――おお、貴殿の方が早かったか! やはり私の見立てに狂いはなかったッ! 助力感謝する!」

 

 男は大剣に付着した血を払いながら、笑みを浮かべて親指を立てた。

 

 というか声がでかい。

 

「いや本当に助かったぞッ! そして済まなかった! 流石に多勢に無勢でなッ、一人では無理だったのだ! 許して欲しい!」

 

 深々と頭を下げられ、快活な笑みを向けられ、強引に握手されるアレン。

 白髪交じりの壮年の男だが、随分と元気だ。

 

 天真爛漫な女の子は大好きだが、天真爛漫なおじさんは見ていて厳しいものがある。

 

「謝礼をいくらか渡そうッ! 私からの感謝の気持ちだ‼」

 

「……いや、困ったときはお互い様だ。気にするな」

 

 世界騎士時代の癖で、ついアレンは素を封印してクールな口調を意識して話す。

 

「何と高潔な御仁だッ、近年稀にみる若者である!」

 

「そんなことはない(このテンションでずっと喋り続けるの凄いな)」

 

 男は感心した様子でアレンの全身を眺め始める。

 

 アレンもアレンで目の前の男性を観察する。

 灰色のマントの下に軽鎧を纏っている。背には年季の入ったバスターソード。

 

 顔は田舎育ちっぽい野暮ったさがあるが、優しそうでどことなく熊を彷彿とさせる。

 

 眉の辺りに傷がある。腕や拳にも古傷が見受けられる。  

 戦いの経験は豊富そうだ。

 

 加えて、目の前の男の剣術からは決まった型が見受けられた。

 恐らく傭兵ではなく、元騎士とかだろう。

 

 会話が一段落してから、アレンは自己紹介に移る。

 

「……俺は旅の傭兵、ノワールだ。よろしく」

 

 ついでにアスモデウスの紹介もしておく。

 

「こちらは妹のアーディ」

 

「崇め奉るが良いぞ、モブ顔」

 

 アレンは反射的にぱしっと幼女の頭を叩く。いきなりなご挨拶だ。

 

 可愛ければ何を言っても許されるわけじゃないと後で教えておこう。

 

 肝心のおじさんは威勢の良い嬢ちゃんだななんてニコニコしている。良かった、優しい人で。

 

 それからアレンは顔につけている仮面を指差して、

 

「ある魔獣との闘いで顔に惨い傷痕が残ったんだ。仮面を外さない不作法を詫びよう」

 

「貴殿は命の恩人だ! そんな事気にしなくていい! 私の名はブランフォードと言う! この先にある村出身の元騎士だ!」

 

 自己紹介を済ませ、それぞれの立場や過去をそれとなく伝え合う。

 勿論、アレンは”ノワール”という架空の傭兵の身の上を話す。

 

 膝に矢を受けて療養できる地を探していると言うと、親身になって心配してくれた。

 ちょっと罪悪感を感じる。

 

 男――ブランフォードから知った情報は多い。

 

 まず現在地。

 ここは人界大陸の東方に位置するリグアクア王国内らしい。

 

 リグアクアは水源豊かな国だ。

 

 ブランフォードはリグアクア王国の国軍である蒼剣騎士団に所属していたが、魔王軍との戦争が終わり、年齢も年齢だったために騎士団を退職する事に決め、故郷の村に帰る途中だったらしい。

 

「衰えを感じていたし、何より魔王軍の残党共が辺境に逃げていると聞いてな! 丁度良いと思ったのだよ!」

 

 ブランフォードは懐からしわくちゃの羊皮紙を一枚取り出した。

 

 そこにはログ村、衛兵募集中! の文字がでかでかと書かれている。

 

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