世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第14話 村に到着

 

 

 

 水の国とも呼ばれるリグアクア王国は人間族の王が治める中堅国家だ。

 

 海に面しており、海産物が豊富で造船技術が発達している。 

 更に国内には世界最大の湖も擁している。

 

 その国を攻めていた虫型魔獣達の長、【寄喰のフラヴォルス】という八魔将はレオハルトが早々に討ち取った為、国内の被害は他国よりは軽微だった。

 

 アレンとしては縁もゆかりもないが、その分知り合いに会う事だってないだろう。

 

 定住するには丁度良い国かもしれない。

 

「ノワール殿ッ! 我が故郷の村に定住すればいい! 世界騎士様方が魔王を討伐して下さり、魔王軍は崩壊した! それは良い事だが、思った以上に辺境に残党達が逃げているようだ! 私だけで村を守り切れるか不安になっている! 腕の立つ者がもう一人いれば皆も安心だろう‼」

 

 ブランフォードからも誘われたが、アレンは目の前の男の存在をストレスに感じるのでどうしようか迷っている。

 

 とにかく声が大きいのだ。

 

「……そもそも村の皆が受け入れてくれるかどうか分からない。村の人々の様子を見て、最終的に判断したい」

 

「そうかそうか! 私は村長のエイモンとは幼馴染なのだ! 貴殿が受け入れられるよう、微力だが尽くさせて欲しい!」

 

「……それは有り難い」

 

 悪い人では全くないのだが、一緒にいると疲れる。旅の連れになった男はそんな類の人物だった。

 

「おい、ブランフォードとやら。そんな事より、何か面白いニュースはないのか? わらわ達は長い事、都から離れていてのう。情報に乏しいのじゃ」

 

 アレンの隣を歩くアスモデウスが世界情勢について尋ねる。

 

「……うーむ、面白いニュースか。いや、特にはないな! 戦争に勝ったと言っても、アレン様がお亡くなりになったと知り、我がリグアクアでも悲しみが広がっている……」

 

 ブランフォードの声が出会ってから初めて小さくなった。

 

「そうか」

 

 アレンは見えないよう拳を握りしめる。自分の死が公に発表されている事に安堵し、静かに喜んだ。

 

 捜索隊が世界中を探し回っているなんて状況にはなっていないようだ。

 

「これは噂だが、世界騎士様方も不安定な状況にあるようだぞ! 第六席にして我が祖国を救った救国の英雄【星落の騎士】レオハルト様は塔に引き籠り、第二席たる【全能の騎士】ユーファリア様は何と失踪。他の世界騎士様方も今は任務を控えていらっしゃるようだ」

 

 愛弟子は引き篭もり、妹のように思っていた妖精姫は行方知れずという情報にアレンは衝撃を受けた。

 

 思わず足を止める程に。

 

「む、どうしたんじゃ、兄様」

 

「……いや、何でもない」

 

 再び歩き出すアレン。

 

 僅かに笑みを浮かべながら、楽しそうにアスモデウスが呟く。

 

「しっかし、なるほどのう。世界騎士団団長の死は他の世界騎士に深い心の傷を与えたんじゃな。英雄と言えども人の子か」

 

「……」

 

 仮面の内側でアレンは隣を歩く幼女にジト目を向けた。

 

「無論、その気持ちは分かる! 私も知った時は涙が流れたよ! アレン様は各国の騎士達の憧れ! 世界中の人々にとっての希望の象徴だった! だが、いつまでもウジウジしていても仕方ない! 我々を守るためにその命を投げ打ったアレン様のためにも、平和になったこの世界で精一杯生きなければッ! 稀代の英雄達である世界騎士様方もいつか受け入れ、前のように世界のため尽力して下さるだろう!」

 

「その通り。その通りだな」

 

 アレンは力強く相槌を打った。

 今度はアスモデウスが上目遣いでジト目を向けてくる。

 

「世界各国も今は復興に忙しい! 明るいニュースはないが、そういえば近々世界会議が開かれるとは聞いたな!」

 

「……ほう」

 

 世界会議とは、人界大陸にある国々の王達が様々な議題について話し合う重要な会議だ。

 

 もしかしたら第一席たるアレンの後任――人間族の新たな世界騎士の選定が行われるかもしれない。

 

「……あとは港街ロルドを突然、ガヴリール様が訪問したとか!」

 

「ガヴリール……様が?」

 

 アレンは首を捻った。

 

 港街ロルドは確かリグアクア最大の港街だ。

 巨人族の英雄たる彼が一体何の目的で訪れたのだろう。

 

 新鮮な海産物でも食べたかったのか。

 

(……きっとそうだよね。戦争が終わって、これから次第に平和になっていくはず。任務がない時は旅行でもして心身を休めたら良いと思う)

 

 ガヴリ―ルは大丈夫そうだ。

 

 心配なのは年少組であるユーファリアとレオハルトくらいか。

 それも時間が解決してくれるはずである。

 

 ブランフォードから情報を仕入れつつ、アレンは能天気にそう考えていた。

 

「――お、そうこうしている内にログ村が見えて来た!」

 

 ブランフォードが懐かしそうに眼を細めた。

 彼の言う通り、視界に木製の門が映る。

 

 その先にあるのはのどかな村だ。

 

 田畑があり、木の小屋や家々が点在している村。

 

 村近くの街道には虫型魔獣が多くいたにも関わらず、村に被害はなさそうだった。

 門の傍にある見張り台の上には片目を包帯で覆った青年が乗っていた。

 

「そ、そこで止まってくれッ! この村に何の用だッ⁉」

 

 青年の顔色は酷く悪い。

 

 彼は見張り台から身を乗り出して大声で尋ねてくる。

 ブランフォードもアレンも帯剣しているので警戒されているようだ。

 

「もしや貴殿、鍛冶師のベルナスの息子ではないか!?」

 

「……え? 父さんを知ってるのか?」

 

 見張り台を見上げながらブランフォードが大きく頷く。

 

「ああ、ベルナスとは幼馴染で共にこの村で育ったッ! 私は蒼剣騎士団に所属していたブランフォードと申す者! 都の職業斡旋組合(ワーク・ギルド)にあった衛兵募集の張り紙を見てやってきた‼」

 

「……き、騎士団……」

 

 青年は片目を見張った。

 

「……良かった! まだ神は俺達を見捨ててなかったッ! もしかしておっさん達なら魔族も倒せる――」

 

 言葉の途中で、突如として青年の顔面が不自然に引きつる。

 

 歓喜に染まっていた表情が無表情へと変わり、まるで別人のようにぎこちなく喋り始めた。

 

「……魔王が討たれてこれから平和になるんだ。村長の意向で、村の防衛費を削る事になっている。だから衛兵云々の話はなしだ」

 

「……は?」

 

 同一人物とは思えない変わりよう。

 

「立ち去るが良い。村は衛兵など必要としていない」

 

「い、いや、立ち去れって言われても……一応ここが私の故郷なんだが⁉」

 

「……立ち去るが良い」

 

 青年は見張り台の上で弓を構える。

 村に立ち入る事すら許されないらしい。

 

 アレンはブランフォードをジト目で見つめた。

 

「……もしかしてあんた。村では相当な厄介者だったんじゃないだろうな?」

 

「い、いや違うッ、村で騎士団入りした者など私くらいなものだったのだぞッ! いわば希望の星、皆の目標だったのだッ! 疎まれる覚えはないぞ!?」

 

 必死の弁明の甲斐なく、青年は無表情のまま矢をつがえた。

 

 ブランフォードの声は村中に響いていたようだ。

 

 他の村民達も家の扉を開け、幽鬼のような足取りで門付近に集まってくる。

 

「……な、なんだ、皆。どうしたんだ……?」

 

 村民達は片手がない者や、耳がない者、足がない者。身体のどこかが欠損している者がほとんどだった。

 

 見張り台の上にいる青年と同様、包帯には血が滲んでいる。

 

 彼らは農具や包丁、短剣や槍など武器になるものを握り、向けてきた。

 

「……普通ではないのじゃ。嫌われているだけでは説明がつかん」

 

「と、とにかく一度退こうッ!」

 

「……賛成だ」

 

 今にも襲い掛かってきそうな村民達に気圧され、三人は一度村から離れる事にした。

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