世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第16話 生き残った八魔将

 

 

 寄殻(きかく)族とは魔族の一種。

 

 リグアクア王国の攻略を任された邪眼王の腹心――八魔将【寄喰のフラヴォリス】は寄殻族の成体である。

 かの種族は魔力さえあれば、無性生殖で無限に増える。

 

 幼体のうちは様々な生物に寄生する。

 その寄生先の身体を操り、寄生先の身体を食べながら成長していくのだ。

 

 魔力と肉をある一定量食すと、寄生先を殺して成体へ進化する。成体になれば、硬い外殻を持つ人間以上に大きな魔族となる。

 

 その戦闘力は幼体時とは一線を画す。

 

 だからこそ窓越しに寄殻族の幼体と目が合ったブランフォードに躊躇はなかった。

 

 幼体は苦しんでいるブランフォードの幼馴染、優しそうな顔つきの壮年の男性――村長であるエイモンの腕の内部へ潜り込もうとする。

 身体の内部に潜み、寄生先を操るつもりなのだ。

 

 内部に入られたら、エイモンを殺すしかなくなる。

 

(――その前に仕留めるのだ!)

 

 ブランフォードは刹那、肘で窓ガラスを割り、破片を掴んで幼体に向けて投げる。

 

「キュウッ⁉」

 

 身体能力強化の戦技(スキル)が活きた。矢の如く放たれた硝子の刃は幼体のみを捉えて床に縫い留める。

 ぱしゃっと血が弾け、幼体はぴくぴくと動いた後、ひし形の口を開きながら、

 

「キュウウウウウウウゥンッ‼」

 

 断末魔を上げて絶命した。

 

「大丈夫か、エイモンッ⁉」

 

「……あ、え……? その声、もしかして……ブランフォードかい?」

 

「ああ、そうだ!」

 

 窓から入り、エイモンの傍に駆け寄る。背中を支え、額に脂汗を掻いている血色の悪い男の顔をブランフォードは覗き込んだ。

 

 かすかに目を見開いたエイモンは、

 

「……夢、か? き、騎士団は……どうしたんだ? 何で、ここに……」

 

「辞めてきたッ、もう歳も歳だからな! そんな事より何があったッ、村で一体何が起こっている!?」

 

 その問いに、エイモンは顔をしかめながら床で絶命した寄殻族の幼体に目を向ける。

 

「……あ、ある日、傷だらけの魔族がこの村にやってきたんだ……そいつはフラヴォリスと名乗り、村の自警団をあっという間に蹴散らしてしまった……」

 

「……八魔将……やはり奴が……!」

 

 最悪だ。考えられる限り最悪な展開だ。

 

「あの魔族を知っているのかい……?」

 

「名まで伝わってはいないか! では【寄喰】と言えば分かるか!?」

 

 エイモンは目を大きく見張り、

 

「……まさか中央都を攻めていた……魔族の指揮官?」

 

「そうだ! 全くもって最悪だッ! 八魔将は国家級の危険度に認定されている魔族ッ、世界騎士様ではないと太刀打ちできん! だが、小さな村で何人犠牲者が出ようと世界騎士様は動かないッ、世界会議で王達の承認が貰えない限り!」

 

 魔獣や魔族には危険度が設定されている。

 

 その一定の危険度を超えたと判断されない限り、世界騎士は出動できない。

 

 『集落級』――戦闘経験もない村民達で討伐可能。

 『小都市級』――人口千以上の小さな街が出せる戦力で討伐可能。

『中都市級』――人口一万以上の都市が出せる戦力で討伐可能

『大都市級』――人口十万以上の都市が出せる戦力で討伐可能。

『国家級』――国を上げて取り組まなければならない災厄。【世界騎士】一名で討伐可能。

『大陸級』――【世界騎士】三名を招集して討伐可能。国がいくつか滅ぶレベル。

『世界級』――【世界騎士】を総動員するレベル。世界の終末。

 

 七段階に分かれた危険度の内、【世界騎士(ワールド・ナイト)】へ討伐任務が要請されるのは『国家級』と『大陸級』、または『世界級』の三つ。

 

 それ以外の危険度の魔獣や魔族は自国の軍や騎士団で対処するのがこの世界の常識である。

 

 中堅国家の小さな村が滅ぼされても、誰も八魔将の仕業だとは思わない。

 

 まずは自国――リグアクア王国の軍隊である蒼剣騎士団で対処しろと言われるだけだ。

 

 しかし並みの魔族ならともかく、八魔将が相手では騎士団は太刀打ちできない。

 

 それは実際に騎士団に所属し、フラヴォリス軍と戦っていたブランフォードだからこそ良く分かっている事だった。

 

(……この情報を持って中央都……いや陛下に魔将フラヴォリスが生きていた事を伝えれば世界騎士様が来てくれる可能性はある。しかし……!)

 

 その頃にはログ村は一体どうなっているのか。

 

「……他の村人も幼体に寄生されているのか⁉」

 

「ああ、全員だよ。女子供問わずにね……抵抗は許されなかった……詳しくは分からないけど、レオハルト様を激しく憎んでいる様子だった。多分だけど、村人たちに幼体を寄生させ、この村を起点に再び戦力を整えるつもりなのかも」

 

 村人の魔力と肉体を幼体に与え、成体まで成長させ軍を再編する計画か。

 近くの街道で虫型魔獣が多かったのも、この村に指揮官である魔族が潜伏していたから。

 

 そして魔獣達が村を襲った形跡がないのも、指揮官がこの村にいるから。

 

「妻に先立たれて、初めて良かったと思えたよ……こんな苦しみ、彼女にだけは味わわせたくない……!」

 

 肘から先がない腕を抑え、エイモンは震えながら瞳から涙を流した。

 彼の背中を撫でながら、ブランフォードは唇を噛み締めた。

 

 フラヴォリスは傷を負っているとエイモンは言った。レオハルトと戦い、重傷を負って命からがら逃げてきたのだ。

 

 つまり、八魔将と言えどもしかしたら自分にも勝ち目があるかもしれない。

 

『――なんて考えているわけじゃないわよねぇ⁉ 出て来なさい、あたしの可愛い赤ちゃんを殺した侵入者ッ!』

 

 その声は地響きと共に耳に届いた。幼体の断末魔を聞かれ、既にブランフォードの位置はバレている。

 

 割れた窓を覗くと、村の中心の地中から巨大な魔族が這い出て来た。

 

 甲殻に覆われた黒光りする身体は所々、大きな傷跡が見受けられる。 

 不気味な四つの複眼の一つは斬り裂かれ、ひし形に開かれた口元も牙が欠けている。

 

 二足歩行だが、背中から剣のように鋭い突起が六つ伸びており、まるで蜘蛛の脚のように地面に突き刺さっている。

 あれで地面を掘り、地中に潜伏していたのだ。

 

 女性的な口調に反して、その見た目は醜悪の一言に尽きる。

 戦場で見たその姿を忘れるはずがない。

 

 魔王軍八魔将が一体、【寄喰のフラヴォリス】が姿を現した。

 

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