世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第18話 雷殲剣

 

 

 

 

 月を覆い隠した黒雲から、天高く掲げた雷殲剣の剣先に紫電が降り注ぐ。

 

 当たった瞬間、凄まじいまでの発光と同時に轟音が鳴り響く。

 光が収まり、アレンの片手にある燐光を纏う刀身を見て、フラヴォリスはうわ言のように繰り返す。

 

『あり得ない……死んだはずよ……アレン・ノーシュは……魔王様と相打ちになったはず……』

 

 それは世界を救った光。遥か天空に浮かんだ紫の極光。

 魔王が討たれたその日に、全ての国々の空で確認された。

 

 雷撃が落ちた余波でアレンがつけていた仮面が外れる。

 

 露になったのは、夜を凝縮したような黒髪に紫水晶(アメジスト)のような美しい瞳。

 そして見る者を魅了する甘い顔立ち。

 

「……まさか本当に、アレン様……」

 

 傍ではブランフォードが呆然とした表情で立ち尽くしている。

 

 アレンは紫電を纏い、バチバチと帯電する雷殲剣を片手にゆっくりと歩きながらフラヴォリスの元へ向かう。

 

「……さて、最期に言い残す言葉はあるか?」 

 

 近付いてくる黒髪の青年に対して、我に返ったフラヴォリスは頭部を掻きむしりながら慌てて距離を取る。

 

『過去の亡霊が……! 今更何をしに来たのよッ』

 

「……そう、だな。弟子の尻ぬぐいに来ただけだ」

 

『くッ、あたしはまだ死ねないッ! 舐めるなよ、アレンッ! 暗黒呪法〈呪毒爪〉』

 

 フラヴォリスの両手、それと背中の突起六つにそれぞれ黒い魔法陣が貼り付く。

 両手の爪が恐ろしく伸び、その爪や突起から緑色の液体が吹き出てきた。

 

 その液体が垂れると、ジュッと焼けるような音と共に大地に抵抗なく穴が空く。

 

 超強力な酸のようなものか。

 

「……それがどうした」

 

 英雄は微塵も臆さない。

 

 燐光を放つ剣身から、自然体のまま立つアレンの身体にも紫電が纏わりついていく。

 

 アレンは魔法や属性付与(エンチャント)は使えないが、アスモデウスの力によってそれを疑似的に再現できるのだ。

 

『さあ、毒で苦しみ抜いて死ね、亡霊ッ‼』

 

 向かってくる八魔将。対するアレンも戦技(スキル)を放つ。

 

「……戦技(スキル)〈千八十八刀連断〉」

 

 アレンの剣を握る腕がブレた。

 

 瞬間、悪寒がフラヴォリスの全身を貫く。

 彼、または彼女がアレンに向けて突き出した毒爪。

 

 その腕が空間を進むごとに、アレンに近付く程にどんどん細切れになっていく。

 

 いや、腕だけではない。身体もだ。背にある突起も。

 

 限界まで集中した影響か、体感時間が恐ろしく延びたフラヴォリスは視た。視えてしまった。

 

 村全域の空中を無数の紫紺の線が網目状に覆っている。

 その一線一線が斬撃なのだと気付く。まるで斬撃の結界だ。

 

 周りを囲む村人たちは当たってもすり抜けているのに、フラヴォリスだけが線に触れた傍から斬り裂かれる。

 

 どこにも逃げられない。

 

『あ、あああ、そ、そんな……⁉』

 

 視界が黒く染まった。

 

 気付けば、フラヴォリスは頭部だけになっていた。

 腕も足も胴体も等しく全てみじん切りのように細かく斬り刻まれ、内臓をぶちまけながら大地を汚す。

 

「……あ、呆気ない……い、いや、というか今千いくつと言ったのだ……?」

 

 英雄の絶技を見て、〈八刀連断〉が限界のブランフォードが頬を引きつらせる。

 

『い、いや、いやぁ‼ あたしの美しい身体が……⁉』

 

 斬られた部位は白煙を上げながら消滅していく。

 

 自慢の甲殻も全く意味をなさなかった。

 

 もはや勝負はついた。

 ただ上位魔族だけあって、頭部だけになっても喚く元気はあるらしい。

 

「……流石は八魔将。素晴らしい生命力だ」

 

 賞賛を送りながらアレンが近付いてくる。

 

『……何故、あたしがこんな目に……クソ、来るなッ‼』

 

 フラヴォリスは絶望の真っ只中にいるが、彼、または彼女としての人格が失われるだけで、八魔将【寄喰】は死なない。

 寄殻族は死に絶えない。

 

 ひし形の口を開き、必死に言葉を重ねた。

 

『……ア、アレン……ここであたしの命を奪っても、村人達は救えないわよ?』

 

「……」

 

 その言葉に静かにアレンは足を止めた。

 

『……村人全員にあたしの子供達を寄生させている。彼らはもはや体内の奥深くに潜んでいる。身体と魔力を食い尽くすまで、体外に出る事はない……我々寄殻族は個にして群……誰か一体が成体になれば……再び八魔将【寄喰】となるの。アレン、あんたに村人を斬殺できるかしら? できないわよね、英雄だもの。でもしないと、村人達の身体を糧に我々は再び――』 

 

「残念ながらさっきの戦技(スキル)で、村人の身体の中にいる小さな寄生虫は全て斬り伏せ、消滅させている」

 

 アレンは帯電させたアスモデウスの刀身を撫でてみせた。

 

「……は?」

 

「周りを見てみろ」

 

 促され、フラヴォリスは全方位見れる複眼で辺りを見渡すと、村人達は確かに意識を取り戻していた。

 

「な、なんだ……急に体が自由に……」

 

「……ほ、本当にアレン様、なのか……」

 

「……間違いないわ……肖像画にそっくりだもの……」

 

 愕然とする。どうやって村人達を一切傷つけずに幼体だけを斬り殺したのか。

 

『な、何で……まさかそれがあんたの英雄戦技(ブレイブ・スキル)なの⁉』

 

 英雄核(ブレイブ・コア)をその身に宿す者は特別な力を操れる。

 その力は英雄戦技(ブレイブ・スキル)と呼ばれ、普通の戦技(スキル)とは一線を画す英雄だけに許された強力無比な能力なのだ。

 

 アレンの場合、斬りたいものだけを任意で選んで斬るという効果なのかと思ったが、

 

「……いや、これは単に技術だ。まだ俺は英雄戦技(ブレイブ・スキル)は使っていない」

 

『……ぎ、技術……!? 技術って何だっけ!?』

 

 理解不能過ぎて技術の意味が分からなくなるフラヴォリス。

 

 再び歩みを再開したアレンが目と鼻の先にきた。

 雷殲剣を振り上げる。

 

「……これで、大陸から寄殻族は消える」

 

 頭上にある紫紺の輝きを複眼に映しながら、最期に想う。

 

『……嗚呼、申し訳、ありません……アデル、マリア、様……』

 

 フラヴォリスは唯一、自分と同等の美貌を持つと考えている魔王の愛娘の姿を脳裏に思い出す。

 

 魔王軍再興を夢見る彼女の野望に貢献できない事を悔やみながら、そこで意識は永久に途切れた。

 

 

 

 




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