世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
村人全員に
村長であるエイモンの好意により、村にある空き家を貸して貰える事になったので場所を移す。
村人達は英雄であるアレンに会えて今は感謝と感動でいっぱいになっている。
ただ時が経てば、冷静になって何故生きているのか疑問に思うだろう。
生きているなら何で皇国に戻らないのかとも。
早急に言い訳を考えなくてはならない。
アレンは約一ヵ月以上ぶりのベッドの感触を喜ぶ暇もなく、アスモデウスと百三十二通りの会話パターンを考えた。
途中、ブランフォードが謝りに来た。何でもこれまで散々無礼な言動をとってしまったからだと言う。
とりあえず気にしていないと伝えると、
「流石はアレン様! 寛大なお心感謝いたします! 何かご入用な場合はすぐに私にお命じくださいッ!」
片手を胸に当て、騎士としての礼をするブランフォードの瞳からは絶大な尊敬と敬服の念が感じられる。
世界騎士の仕事に戻らないアレンへの不信感なんて欠片もない。
「じゃあとりあえず声を抑えて」
「かしこまりましたッ! 皆、アレン様は静寂をお望みだ! しばらくは騒ぐのを控えるように‼︎」
そう叫びながら村中に触れ回る。
……いや、お前だよ、お前に言ったんだよ。
ただおかげで時間はできた。
見張り塔近くにあるその空き家は一般的な木造建築の平家で、元々募集していた衛兵の職に就く人物の為に建てられたものらしい。
だから新築で、住み心地は良さそうだ。
豪華絢爛な城を何度も見てきたが、素朴で質素な家屋の中は心が落ち着く。
魔王討伐からしっかりと休む暇がなかったアレンはその日、幼女化したアスモデウスを抱き枕にして共にベッドで熟睡した。
そして迎えた次の日。
「……皆、どうしたんだ」
アレンが滞在している空き家の前に、村の子供達が集結していた。
下は三歳から上は十五、六歳までの約二十人くらい。
「あ、あの……昨日……」
「剣……その、お、教え……」
「う、うん。すぐ行っちゃう前に……」
「「……あ、あの……」」
上目遣いでこちらを見上げ、永遠にもじもじしている子供達。
アレンがちらりと周りを見渡すと、眼が合った親と思われる大人たちは遠目から皆がぺこぺこと頭を下げていた。
その中に紛れている一人の老婆は涙を流しながら祈りを捧げている。
何あれ怖い。
(アレンよ。昨日そこにいる坊主頭の小僧に剣術を教えて欲しいとせがまれていたじゃろ。多分それじゃ。木の棒持ってるし)
(……え、昨日の今日だよ? 昨日まで腕とか足とか失くしてたんだよ?)
(子供はそれだけ元気という事じゃ。百三十二通りの会話パターンを潜り抜けてくるとは。予測がつかないものじゃな)
脳内に直接アスモデウスの声が響く。彼女は剣の形態のまま腰に差してある。
アレンは片膝をついて、一番前にいる坊主頭の十歳くらいの少年と視線を合わせた。
「……もしかして剣術を教えてほしいのか?」
「……! うん! あ、はい! そ、そうです!」
パァッと少年の笑顔が弾けた。
他の子供達も前のめりで口々に叫ぶ。
「ぼ、僕もせんはちじゅうはちとうれんだん使いたい! です‼︎」
気弱そうなおかっぱ頭の少年がキラキラした瞳でせがむ。
「せんはちじゅうはちとうれんだん! どうやったら使えます!?」
「かっこよかったよな、せんはちじゅうはちとうれんだん」
あんまり連呼しないで欲しい。馬鹿にされてるようで不安になっちゃう。
「うん、視えなかったけど凄かった! 雷がぶわってなって、アレン様は一歩も動いてないのに、魔族がバラバラになっちゃってて!」
また別の子供が押しのけてアレンの衣服をぎゅっと掴んだ。
「ちょっと男子ッ! アレン様は忙しいのよ! パパとママが言ってた‼︎ アレン様、この村みたいに困ってる人達助けに行くってッ、剣なんて教えてる暇ないわ!」
勝ち気そうなつり目によく似合う赤茶色の髪をツインテールにした少女がアレンと男子達との間に割って入る。
「うるさいな、ライハ! だからその前に一回だけでも遊んで欲しいんだろうが」
「そうだぞ、こんな機会二度とねえって父ちゃんも言ってた!」
男子と女子で言い合いに発展する。当の本人、アレンは内心首を捻っていた。
(……え、困っている人たちを助けに行く? いや、何の話? 行かないよ? 何でそんな流れになった?)
ただ村で広まっているその憶測は、正直アレンにとっては都合が良いものだ。
正体がバレた今、もはやこの村には定住できない。
何がどうなって広まったのかは分からないが、勘違いしてくれているなら弁明しなくてもよくなる。
ここは話を合わせるか。
「――まさか俺の考えが見抜かれていたとは」
軽く驚くふりをしながら、アレンは達観した表情で遠くの方を眺める。
その一言に、子供達の様子をあわあわしながら見ていた大人たちはしたり顔で頷いた。
『や、やはりそうなのか……』
『ブランフォードが言ってた事は正しかった……』
『……我々だけは覚えておこう……世界騎士の立場を自ら捨てた真の英雄の存在を』
『アレン様……』
何故か親達が涙を流し始めた。更にアレンは困惑の極致に至るが、もはや後戻りはできない。
脳内でアスモデウスが腹を抱えて笑っているが無視する。
いたたまれなくなったアレンは村の外れの原っぱで子供達と遊ぶことにした。
「皆、落ち着いて」
その一言で喧嘩手前だった子供達は静かになる。
「大丈夫、俺はすぐに村を離れるわけじゃない。剣だって教えられる」
少年組が飛び上がる程喜んだ。
「そして、それ以外の事もできる」
アレンはそこで不満そうに頬を膨らませるライハと呼ばれた女の子の頭を撫でた。
優しく微笑みながら。
「俺にして欲しい事があったら、遠慮せずに何でも言ってくれ」
「……ッ」
瞬間、眼を見張り、耳まで顔を真っ赤にするライハ。
固まって動かなくなった彼女を押しのけて、他の少女たちも殺到する。
「あ、アレン様……わ、わたしの頭も撫でてくださいッ」
「アレンしゃま。メアリスは抱っこしてほちい……」
そのまま少年達に右手を、少女や幼女達に左手を引っ張られるアレンの姿を村人達は微笑ましく見守る。
戦場を行き来するだけだった世界騎士時代とはかけ離れた、和やかな時間をアレンは過ごす事になる。
極々、僅かな間だけ。