世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
村外れの原っぱで太陽の光が照りつける中、並んだ子供達が木剣を元気に振っている。
アレンの剣技を間近で見た影響なのか、村の男児はほとんどが参加していた。
アレンはうんうんと頷きながら先生面をして見て回る。
少年達は単純で良い。
とりあえず木剣を持たせ、二、三回打ち合った後、「筋が良いな」とか「君は天才だな」なんて煽てるだけで時間は過ぎていく。
このくらいの子供達は褒めて伸ばすのが一番なので、全く才能ないなと思ってもとりあえず褒める。
現実を直視させるのはもう少し大人になってからで良いとアレンは思うのだ。
「……アレン様……さっき言ってた事ってほんとですか?」
坊主頭の少年――ロイがどこか緊張気味に問いかけてきた。
「さっき言ってた事?」
「お、俺が……天才だって……」
「あ、ああ、そうだな。いずれ俺を超えるだろう」
「……やっぱり……最強の世界騎士を超える才能が……俺に……」
坊主頭の少年は目を見開いた。
利き手で握りこぶしを作り、そのまま自分の手を真剣な表情で眺め始める。
「……いや、でも生まれた時から分かっていたような気がする……これではっきりした。俺が……俺がやるしかないんだ。俺が次の世界騎士になって、世界を平和に……」
しばらくぶつぶつと何事か呟きながらずっとその体勢のままでいるロイ少年。完全に物語の主人公の眼に変わった彼の行く末に流石に不安を覚えたアレンは、
「だが、鍛錬しなければその才能も無駄になってしまう。鍛錬こそが一番重要だ(いつまで経っても強くなれない事を知れば目も覚めるはず)」
「……鍛錬ですね! 分かりましたッ、ありがとうございます! いつか絶対、アレン様、いや師匠のような立派な世界騎士になってみせます‼」
「……ああ、頑張れ」
絶対無理だなと思いながら頭を撫でて激励すると、少年は力強く頷きながら友達の元に行って一緒に素振りを始める。
適当に剣術に関するアドバイスを言い、適当に良い感じの事を言えば少年達は真に受けて勝手に喜ぶ。
そう、男の子は楽で良い。
問題は女の子達だ。
この後に待ち受ける困難にアレンはため息を隠せない。
何でもするなんて言った手前、断れなかったのだ。
数時間後。
青空の元、剣術指導をしていた村外れの原っぱから村の中心部にあたる広場に戻ってきたアレン。
すると平和になったはずの村の中で、突如として甲高い悲鳴が響いた。
舞台の幕は突然上がる。
「きゃぁぁぁぁー、助けてぇっ! アレン様ぁッ‼」
アレンは視線を村長であるエイモンの屋敷の屋根上に固定した。
そこでは赤茶色の髪をツインテールに結んだ十二歳くらいの美少女を横抱きにした、お面をつけている声がでかい男がマントを風に靡かせ不敵に笑っている。
「フハハハハハ、ライハ姫は預かった! 返して欲しければアレンッ、我と姫をかけて勝負するのだ‼」
「きゃあああ、魔王にライハちゃ――ライハ姫が攫われてしまったわ……!」
「何という事だッ、うちの可愛い可愛い娘が……!」
「クソ、騒音の魔王ブランめ!」
「……許せない……騒音王」
エキストラ――ライハの両親やその他の村人達が屋根上にいる女児を抱えた不審者を見て嘆く。
皆、ノリノリだ。
そしてアレンの方へ視線を向ける。
次はお願いします。貴方様の番です。
どこか申し訳なさそうに、でも切実な瞳で村中の人間がアレンに台詞を促してくる。
「――良いだろう、魔王ブラン。俺が勝ったら、ライハ姫を返してもらう」
わざわざ漆黒のマント――【竜王の翼衣】を纏い、完全装備になったアレンは羞恥心を殺して勇ましく叫んだ。
魔王ブラン――ブランフォードに抱えられているライハがアレンを見て、ぽっと頬を朱に染める。
「おお! 皆見て! アレン様が来てくれたわッ」
「ありがとうございます! アレン様ッ! どうか魔王を倒してくださいッ」
歓声を上げながら村人達はアレンのために道を空ける。
この茶番は端的に言えば、魔王に攫われたお姫様ごっこである。
アレンが「俺にして欲しい事があったら、遠慮せずに何でも言ってくれ」なんて軽々しく言った結果、ライハは恥ずかしがりながらこれを提案した。
ちなみにライハ以外にも、この寸劇を望む子が十二人(村に住む十四歳以下の少女や幼女全員)いる。それぞれ設定は微妙に異なっているのも地味に大変だ。
全員分終わるまでは少なくとも村を出れない。数日かけてやるつもりだ。
閑話休題。
アレンは屋根上にふわりと飛び乗り、そのままブランフォードと斬り合う。
ブランフォードも普通の村人達からしたら充分超人である。
剣閃が幾度もぶつかり、火花が散る。
剣技の応酬に、村人達から拍手が巻き起こる。
隙を見つけたアレンが彼を優しく蹴り飛ばし、屋根上から落とす。
そしてブランフォードの腕の中から空中に放り出されたライハをアレンは優しく抱きかかえた。
「――遅くなり申し訳ありません。ライハ姫」
「……か、か、構わにゃいわ、あ、アレンしゃ、さま……」
噛み噛みのライハは目をぐるぐる回しながら顔を真っ赤に染めている。
彼女を下ろし、片膝をついてアレンは臣下の礼をとった。
「姫、もう大丈夫です。魔王は俺が成敗いたしました」
「う、うん。ありがとう、アレン様……あたしだけの騎士様……」
ライハがぎゅっと抱き着いてくる。すると再び村人達から歓声が上がった。
これにて閉幕である。
(なんじゃ、これは)
(……いや、まあ。おままごと? なんだろうね)
アスモデウスに心の中で返答しつつ、アレンは少女の抱擁を無言で受け入れていると、
「――アレン様ッ、大変です! 今すぐお隠れになって下さい!」
見張り台の方から村長のエイモンが慌てた様子で駆けてきた。
「どうかしたか?」
「リグアクアの国軍――蒼剣騎士団の一部隊がこの村に近付いてきていますッ」
「……む? 騎士団が?」
聞き返したのはお面を外したブランフォードである。
「あ、ああ。フラヴォリスの事は伝わるはずないし……もしかしたら君を連れ戻しに来たのかも。中央都で何か起こったのかな……?」
「……その可能性はあるが‼ まあ大丈夫だろう‼」
空気を読んだ精霊獣のボヨちゃんがアレンの肩の上に登り、口から変声の仮面を吐き出す。
それを受け取りながら、アレンは自分には関係ないなとあくまで他人事だった。
ただ世界情勢について、新たな情報が手に入る可能性はある。
なので再び流浪の傭兵ノワールに変装し、話の場に同席しても良いかもしれない。