世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第22話 凶報

 

 

 和やかな雰囲気は霧散し、硬質な空気が辺りを支配した。

 

 騎兵が奏でる鎧が擦れる音と蹄の音が重なる。

 村に到着した蒼の装飾が入った鎧に身を包んだ数名の騎士達。

 

 彼らは村の中央に引かれた道を通って、広場にまで乗り込んできた。

 そして村人達の目の前で見事な整列を見せる。

 

「――ログ村の皆さん、突然の訪問すみません」

 

 騎士達の中から、リーダー格の長髪の青年が馬から降りて歩み出た。

 

 物腰柔らかそうな人物だ。

 

「私は蒼剣騎士団副団長を勤めているフレイスと申します。この村に団長――いえ、ブランフォード殿はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 その言葉に村人達の視線はお面を片手に佇む壮年の男に集まった。

 

 アレンも着替えを済ませ、仮面の傭兵ノワールに扮した状態で騎士達の様子を見つめる。

 

「……団長、お久しぶりです」

 

 村人達の視線を辿って、長髪の騎士が真剣な表情で頭を下げる。

 

「フレイス! 団長はよせッ、もう私は職を辞した身だ!」

 

「……そんな事を言っている場合ではありません。とりあえず団長。緊急事態につき、中央都に帰還して下さい」

 

「……はぁ!? 突然来て何を――」

 

 フレイスは近付いて、こそこそとブランフォードに耳打ちをした。

 村人達には聞かせられない話なのだろうか。

 

 話を聞いたブランフォードは眼を剥いて驚愕し、次の瞬間アレンに視線を向けてきた。

 

(……え? 何その反応)

 

 完全に他人事だったアレンが内心首を捻る。

 

「詳しくはここでは話せません」

 

 フレイスもどこか緊張した表情で続けた。

 

「……分かった。話し合いは私の家で。同席させたい者がいるのだが」

 

「は?」

 

「……頼む」

 

「……何者ですか」

 

「……私の知り合いだ。当然信頼できる者だ。私の顔に免じて、頼む」

 

「……分かりました」

 

 ブランフォードがかつてない程の小さい声で喋っている。

 その様子に村人達も何か大きな事件が起きているのだと悟った。

 

 というか小声で話せたんだなとアレンは感心した。

 

 フレイスとの会話を終えたブランフォードはアレンの元に真っすぐ向かってくる。

 

「――ノワール殿。同席願いたい。よろしいか?」

 

 蒼白な顔色で真摯に頼まれ、アレンは頷く他ない。

 

 正直同席したいとは思っていたが、ブランフォードから頼み込まれるとは思わなかった。

 

(もしかして俺に関係ある事? まあレオハルトやユーファリアもそろそろ俺の死から立ち直って元気に任務に励んでいるか聞いてみたいとは思っていたけど)

 

 丁度良いと言えば丁度良いが、アレンは何だか胸騒ぎがした。

 

 そして、その予感は最悪な形で当たる事になる。

 

 

 

 

(え……? ()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 ブランフォードの家にやってきて早々、大前提の話としてブランフォードから聞かされた凶報にアレンは仮面の下で間抜け面を晒した。

 

 家の外ではフレイスが連れて来た部下達が警備に当たっている。

 

 机を挟んで、真向いの椅子に座ったフレイスが湯気の立っていない白湯を一口飲んで乾いた唇を舐める。

 

「……我がリグアクア王国を救った世界騎士第六席のレオハルト様は現在、獣王国ユーグラシアに逃亡。匿われている状況です」

 

 何でそんな事になっているのか。

 

 理解が追いつかない。

 粗暴な言動が目立つが、根は優しい弟子を思い出してアレンは拳を強く握る。

 

「皇国では混乱が広がっていましたが、新たな皇王の元、レオハルト様の討伐隊を結成。非常時故に緊急で開かれた世界会議でアレン様の後任として皇王特任騎士団(シークレット・ガード)の団長を勤めていたヘルミス様が任じられ、そのまま討伐隊の全権を任され、聖都ホワイトワースを離れました」

 

「……ヘルミス様……皇王の懐刀か」

 

 知らない名前が登場した。

 

(……五年前、お主と世界騎士の座を争った奴じゃ)

 

(……ああ。そういえばいたね)

 

 血のように紅い眼と髪を持つ青年を想起した。何故か彼にはいつも睨まれていたような気がする。

 

「本題はここからです。皇国は世界会議で世界各国にも獣王国に討伐隊を向けるよう要請いたしました」

 

「何だと!?」

 

「ただ、我らが王はこの要求を拒否しました。レオハルト様によってこの国は救われたのだから。恩を仇では返せないと」

 

 アレンは思わずほっとする。この期に及んで、アレンはレオハルトを責める気にはなれない。

 

 彼女は理由もなしに誰かを殺害する狂人ではない。理由があるはずなのだ。

 そもそも世界騎士は実力だけではなく人格も認められて任じられる。

 

 彼女だって認められたから選ばれたのだ。

 

「……他の国々はどのような反応なのだ?」

 

「真っ二つに割れています。大罪を犯した世界騎士を捕まえて処刑すべきだという声と、レオハルト様が理由もなく皇王を殺害するはずがないとする擁護の声と」

 

「そ、そうだ……! 肝心の理由‼ 何か分かっているのか⁉」

 

 ちらちらとアレンの方を見ながらブランフォードが尋ねる。

 その態度をフレイスは訝し気に見つめながら、

 

「……獣王国側の声明では魔王の危険度を世界級にまで押し上げ、被害を拡大させたのは皇国の助力によるものだったと」

 

「……は?」

 

(え……?)

 

 ブランフォードは呆けた表情で硬直した。

 

 アレンもまた仮面の下で目を見張る。

 思い出すのは魔王が最期にぽろりと口にした言葉。

 

(あれ本当だったの?)

 

 生贄を受け取って力を増したと魔王は言っていた。

 

「な、何故そんなことを……皇国は魔王を強化して何の得があるというのだ!?」

 

「……全てはアレン様を亡き者にする計画だったと獣王国は発表しています」

 

「はぁ!?」

 

 再びブランフォードが首をぎこちなくアレンの方に向ける。

 

 バリバリに自分に関係ある話で辟易する。

 

「人魔大戦後、神聖皇国は世界各国に多額の復興援助金を配っていました。表向きは魔王軍の被害に晒された復興の為ですが、王達の間ではそれが後日開催される世界会議で魔大陸へ逆侵攻する案に賛成しろというメッセージである事は暗黙の了解として伝わっていたそうです。しかし、戦力の要であるアレン様は魔大陸侵攻作戦へ反対を示しており、皇王は彼の存在を邪魔に思っていたと」

 

(……そういえば食事の席に呼ばれて皇王の夢を聞かされた気がする。あの時は戦争に参加して欲しいから、どうしたら協力してくれるか。望むものを何でも用意するとか言われて思わず有給と答えちゃったんだ)

 

 誤魔化そうとして必死に弁明した。必死過ぎて何を言ってしまったかは覚えていない。

 

「……平和を作ろうとした英雄を……亡き者にしようと魔王を強化したのか⁉ 人類の三割が死滅して……ルノフレイム王国なんかは滅亡したのだぞッ!?」

 

 机を叩き、身を乗り出したブランフォ―ド。

 フレイスは俯き加減で、

 

「あくまでこれは獣王国側の声明です。皇国は否定していますが……私はレオハルト様が理由もなく皇王を殺害するとは思いません。そしてアレン様を亡き者にするためにもし本当に皇国が魔王に協力していたのだとしたら、世界中の人々が皇国を許さないでしょう。私も……今尚アレン様の事を思うと……」

 

 フレイスは目元を強く抑え、瞳から涙をぽろぽろと流し始めた。外にいる騎士達からもすすり泣く声が聞こえてくる。

 

「アレン様は……平和のために命を投げうったというのに……あまりに浮かばれない……!」

 

 ブランフォードが気まずそうにアレンを横目で見た。

 

 アレンもまた気まずい思いを抱えながら覚悟を決める。

 

(俺が死を装ったせいでレオハルトは怒りに取り憑かれたのか……そこまで慕われてたなんて思わなかった……だとしたら……)

 

 夢のスローライフ生活がどんどん遠のいていく気がするが、弟子は皇国から討伐隊を差し向けられている状況。

 

 助けたい。

 ただ自分が生きている言い訳が上手い事考えつかない。

 

(……そうだ。この格好――ノワールとして会いに行こう)

 

 それしか道はない。

 

 全ては自分が死を装った事から始まったのだ。

 だからこそ、今更生きていましたなんて言い出せない。

 

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