世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
魔王を討伐して平和を築いたと考えていたアレンだったが、世界情勢は随分と緊迫している事を悟る。
今回、蒼剣騎士団が元団長であるブランフォードを連れ戻そうとしたのは、リグアクア王国が皇王を殺害したレオハルトを擁護した事で、大陸の覇権を握る皇国との関係が悪化したのが所以らしい。
世界騎士であるレオハルトを擁護する声がある一方、許さない声もある。
断罪派と擁護派の国々に分かれて、世界大戦なんて事も万が一あり得るのだとか。
そんな事を言われたら復帰せざるを得ないというわけで、ブランフォードは急遽村人たちに別れを告げる事になった。
中央都に帰還し、今後の対応を王と協議するらしい。
「――アレン様は……いや、ノワール殿はこれからどうなさるのですか!?」
村外れ。
蒼剣騎士団の仲間達を遠くに待たせ、見送りに来たアレンに対してそんな事を問うブランフォード。
アレンは、
「……獣王国に行こうと思う」
変声の仮面を身に着け、盗賊王のマントを羽織り、傭兵ノワールとしての恰好で返答する。
「レオハルト様を信じていらっしゃるのですね?」
「……信じるも何も、魔王は死ぬ間際、皇国から生贄を受け取ったと俺に告げた」
「な、何と!? ではやはり獣王国側の声明は正しかったのですか!?」
「当時は俺を動揺させるための苦し紛れの嘘かと思ったがな。奴は自分を倒しても戦争は終わらないと言っていた。人間達は古代から領土の奪い合いをしてきたのだと。魔王の言葉を俺は否定したが、全て当たっていたわけだ」
自嘲するように告げるアレンに対して、ブランフォードは沈痛な面持ちで俯く。
「……アレン様、貴方様は死力を尽くして皇国の思惑を超え、魔王討伐を果たされました。そしてその後、世界騎士としての立場を捨てる事で、王達の承認を待つことなく人々を救う道を選ばれた」
「……? あ、ああ、その通りだ」
いや、何の話だよと思ったがアレンはとりあえず頷いておいた。
村人達が何か勘違いしているのもこいつが原因か。
(ただもし今後、俺が生きている事がバレても、この理由を言えば何とか体裁は保てそうだな)
世界騎士の立場を捨てる事で、世界騎士では助けられない人々を救う決断をした。かっこいいじゃないか。
実際はニートになって悠々自適に暮らしたかっただけだが。
「しかし皇王に裏切られたと知って、人間に絶望した事でしょう。それでもまだ人々を救いたいと。そう考えていらっしゃいますか?」
ブランフォードは生唾を飲み、どこか緊張した様子で疑問を口にした。
何を緊張しているのか分からないが、アレンとしては別に皇国を恨んではいない。
実際、こうして五体満足で生きているわけだし、何より魔王を強化してくれなかったら邪眼城で一人になれなかったはずだ。
誰かがレオハルトに事実を教えなかったら、アレンは今頃理想のスローライフ生活を謳歌していたわけで。
だからこそ、
「変わらないさ。俺はこれからも目の前の人々を救うだけだ」
こう言えば、
「……その言葉を聞けて、私は安心いたしました……! 人の悪意を知って尚、どこまでも人の為に行動する。貴方様こそ真の英雄でございます‼」
涙ぐむブランフォードの様子にアレンはチョロいなと思った。
ここでもう人類を救わないなんて言ったら間違いなくブランフォードに失望されただろう。
アレンは”アレン・ノーシュ”としての自分の名声を僅かにでも傷つけるような振る舞いはしない。
常にアレンは理想の英雄を演じていた。世界騎士時代は特に。
アスモデウスの本当の代償も秘密にした。
分からない事でも分かると言って乗り切ってきた。
その理由はアレンが唯一無二で使える
ブランフォード達蒼剣騎士団を見送った後、アレンもまた村を発つ準備を始めた。
急遽支度を始めたアレンに対して、村人達は事情を聞き出すような真似はしなかった。
ただ村人全員で、彼の見送りに来た。
「師匠。次に会う時まで必ず世界騎士になっておきます」
「……あ、ああ。そうだな」
坊主頭の少年、ロイが至極当然のような顔をしながら喋り出したので、アレンは目を逸らして頷く。
「アレン様……もう行っちゃうの?」
今度はツインテール娘のライハが悲し気な顔で唇を引き結ぶ。
「……アレンしゃま、さびちい」
四歳ほどの幼女、メアリスは泣いてアレンに抱きついて離れてくれない。
「……気持ちは分かるけどね。我儘を言ってはいけないよ」
村の子供達に対して村長のエイモンがやんわりと釘を刺す。
「アレン様、大してもてなしもできずに申し訳ありません。貴方様の事は我々一同の胸にだけ秘めておきます。決して口外はしません。村を救っていただき、本当にありがとうございました」
「……短い間だったが、こちらこそ世話になった」
「勿体ないお言葉です」
会話の途中、アレンの懐から飛び出したボヨちゃんも、
「ゲコッ」
じゃあなと言わんばかりに鳴き声を上げる。瞳の部分の宝石が太陽の光を浴びてきらりと輝いた。
村人達はその可愛らしさに大人も子供も笑みを溢す。
子供達は特に一度だけでも撫でようと手を伸ばし始めた。
「ところでアレン様ッ」
村人達がボヨちゃんに夢中になる中、エイモンがおずおずと小声で尋ねてくる。
「獣王国は大陸の北方。年中雪が降り積もる豪雪地帯と伺っています。この村からは随分と距離がありますが、徒歩で向かわれるので?」
馬くらいならお貸ししますがと言われ、アレンは首を左右に振る。
「気遣い痛み入るが、問題ない。もう一体、俺にはペットがいるんだ」
魔王戦で傷ついて、今はボヨちゃんの身体の中で休んでいる。
そのため、この村までの移動手段は徒歩しかなかったわけだ。
(なんじゃ。あの黒蜥蜴に頼るのか?)
(……アスモデウス 。その呼び方、本人の前でしないでね)
魔王戦から一ヵ月以上。
そろそろ傷も癒えている頃だろう。
「――頼む、ジオ。力を貸してくれ」
アレンが告げた次の瞬間、ボヨちゃんの身体が巨大化していき、慌てて村人達が離れる。
そしてボヨちゃんが苦し気に口を開けると、巨大な影が空へ飛び上がった。
大人たちは僅かに恐れが瞳に浮かぶが、子供達は――特に男児の眼は一際輝く。
「あ、あれって……黒竜ジオフリード様じゃない!?」
「……アレン様の相棒だ‼ 絵本の中だけじゃなくて、本当に実在してたんだ!?」
大空を雄大に飛翔するのは全身、黒い鱗に覆われた一体の竜。
アレンの二匹目のペット。
精霊獣の中でも特に気性が荒く、珍しい竜種。
黄金の縦長の瞳でログ村を睥睨しながら、黒竜ジオフリードは久しぶりの地上に気持ちよさそうに咆哮を上げた。