世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
アレンが獣王国に向けて飛び立つ数日前。
神聖皇国の首都、ホワイトワースにある権威の象徴たる聖城。
その玉座の間では新たな王の元、獣王国への対応を協議するために文官や武官達が集まっていた。
国の内務を担う聖霊庁の官僚たちだけではなく、貴族も遠方から会議に参加している。
広間には楕円形の水晶が無数に宙に浮いている。
これは遠見の水晶と呼ばれ、世界会議でも重宝されるいわば遠方から姿と声を届ける事ができる魔法石の一種である。
その水晶の一つ一つに豪奢な衣服を着た者達の顔が映っていた。神聖皇国内に自らの領地を持つ地方領主達だ。
その貴族達と相対するのは、玉座に座る年端もいかぬ白髪の少年である。
「――規定通り王位継承権第一位、第十一王子である俺が即位した事については異論はないな?」
宙に浮く水晶に映る貴族達に対して堂々たる態度を見せる少年。
『勿論でございます、シリウス陛下』
『……異論ありません』
『不変の忠誠を捧げます』
大領地を治める公爵位を持つ高位貴族を筆頭に、次々に貴族達が肯定していく。内心はともかく、誰も八歳の少年が即位した事に異論は唱えない。
皇国は長子が王位を相続するわけではない。
誰よりも才能に溢れる者が次の皇王に選ばれるのだ。年齢は全く関係ない。
第十一王子――前皇王の末子であるシリウスは英雄の資格たる
「――では早速許しがたい大罪を犯した世界騎士第六席を匿っている獣王国ユーグラシアへの対応を協議したい。何か意見がある者は挙手して進言せよ」
無表情のシリウスが命じると、水晶に映る貴族達の手が一斉に上がる。
『獣王国は極寒の地。前陛下の無念は重々承知しておりますが、地の利は向こうにあります。何より世界騎士を擁する国に対して軍など無意味。経済制裁をちらつかせつつ、まずは国内の安定を図るべきかと』
眼鏡をかけた理知的な貴族が真っ当な意見を述べた。
王が世界騎士に殺されるという前代未聞の事件に国民は不安を覚えている。
獣王国の声明も既に国内に伝えられ、聖城前では抗議活動なども行われていた。
当然、魔王軍によって家族を亡くした者は多い。そしてアレン・ノーシュを慕う者はもっと多い。
皇国としては魔王に協力していたとする疑惑を否定しているが、国民の一部が暴徒化して見回り中の
国内の治安は恐ろしく悪化している。
『陛下、今は諸外国との関係強化に尽力すべきかと。獣王国を孤立させるのです』
『経済面への圧力だけではありません。多くの国を味方に引き入れれば、世界会議で【星落の騎士】討伐を他の世界騎士に要請できます』
『私もその案に――』
シリウスは口々に意見を述べる貴族達を退屈そうに眺める。
貴族達の中で、獣王国との軍事衝突――つまりは戦争を提言する者は一人もいなかった。
当然だ。
もし戦争となれば、地方領主を務める貴族達にも出兵が求められる。
それが分かっているからだろう。
相手が世界騎士を擁する獣人族の国家――ユーグラシアに侵攻する事など誰も望まない。
新王であるシリウスを除いて。
「……世界騎士を二度と頼るつもりはない。皆、魔王討伐後から好き勝手動いている。唯一、ホワイトワースにいるノーゼスは再三の召喚命令を拒否。皇王の危機を知りながら、駆けつける事もなかった」
シリウスは独り言のように続けた。
「……やはり信じられるのは我が帝国の者のみか」
『……陛下、今何かおっしゃいましたか?』
「何でもない」
シリウスは浮かんでいる水晶群を見渡しながら、声変わり前の高い声で冷酷にも告げた。
「お前達の意見は分かった。王を殺されておきながら、獣王国とはあくまで対話を望むと。はっきり言って俺は失望した。お前達には何も期待していない。軍の出兵も求めない。その代わり、俺の決定にも異論を挟むな」
シリウスはそう宣言し、傍に控える
「獣王国はレオハルトの身柄引き渡しの要求を拒否し続けている。よってこのヘルミスを長とする討伐隊を結成。速やかに獣王国へ進軍を開始し、獣王国がレオハルトを差し出すまで、国民を無差別に殺す」
その冷酷過ぎる宣言に、貴族達は皆一様に騒ぎ立てた。
『な⁉ お待ちくださいッ、陛下‼ そんな事をすれば国際社会から非難が――』
『第一、獣人族は我々人間族より五感も身体能力も優れております! 更に雪の中での行軍は大変危険が伴うでしょう‼ ヘルミス様お一人がいくら強くても……』
「全て問題ない。人工英雄達を投入する。各街に一人で充分事足りる。軍など必要ない。圧倒的な力によって獣王国を叩き潰す。ヘルミス、任せたぞ」
「……はっ、かしこまりました。陛下」
片膝をついて礼をするヘルミスと視線を合わせた新王は悪辣に口角を上げた。
それからシリウスは自らの傍に侍る新たな聖霊庁長官――ローブを羽織った怪しげな魔法使いの老人に人工英雄とは何かを説明させる。
次第に貴族達の眼の色が変わっていく様にシリウスは笑みを零した。
「意に従わない者は叩き潰す。大陸統一ももはや夢ではない」
雲行きが変わった。人工英雄の存在が、リスクよりも侵攻によって得られるリターンを上回っていく。
そんな中、新王を以前から知る者達は言葉を失っていた。
「――シリウス様……虫も殺せぬ優しいお方だったはずだ。あの変わりようは一体……」
「……まるで別人じゃないか……」
聖城に勤務する文官達は激しい違和感を抱いた。
元々シリウスの一人称は僕で、とても人見知りな子だった。そして優しかった。
仲良くなった者には、お菓子を配り歩くような少年だった。
まだ二十代の若い文官二人が驚きを隠せない中、年齢を重ねた上司に当たる男は達観した表情で説明を加える。
「……
「……人格が変わる……そういえば何だか、前陛下に似ているような……」
大量虐殺を指示した八歳の少年は、どこか仄暗い前王を彷彿とさせた。