世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第25話 街の人(多分)に見られてしまった

 

 

 一面、白銀の世界に包まれた雪国。

  

 獣王国ユーグラシアの南方にある街、フォックスビークの街並みは雪国ならではの工夫が施されている。

 

 家々は雪が滑り落ちやすいよう急勾配の屋根で、出入り口が塞がれないようにか高床式の木造建築が多い。

 

 住居の数自体は千に届かない程度で、住民の数は少ないが、鹿族や大熊族、狐族が力を合わせて年中雪が降り積もる厳しい土地を生き抜いてきた。

 

 五年前、邪眼王の腹心たる八魔将【断界のククルガ】率いる妖魔族と激しい戦いを繰り広げた土地でもある。

 

 戦時中、先代の獣人族の世界騎士が情けなくも失踪した事で、【黒曜の騎士】の弟子であるレオハルトが次代の世界騎士に任じられた。

 

 そしてレオハルトは師と力を合わせて【断界】の討伐に成功。

 

 獣人族の英雄の名声はユーグラシアでは天井知らずのものとなった。

 

 その彼女が今、危機に立たされている。獣人族総出で、自分達の英雄を守ろうと心を一つにしていた。

 

「悪いのは皇国だッ、レオハルト様じゃない! 魔王軍によってアレン様含め、多くの命が犠牲になった。その魔王に人類の盟主国が協力していたなんて……」

 

「レオハルト様は絶対渡さない」

 

「雪国舐めんじゃねえ。皇国の兵なんか来るもんかよ」

 

「まあ来たら来たで叩きのめしてやるさ!」

 

 モコモコの毛皮のコートを着て歩く獣人たちが市場で買い物ついでにそんな事を話し合う。

 

 この時点で、誰も皇国が攻めてくるとは思っていなかった。街を治める代官も同様。

 

 だからこそ突如として街の上空に一人の獣人が現れた時、皆が驚いた。

 

 雪が降りだした寒空の中。

 手足に枷が付けられた狼族の青年は足裏から炎を噴射しながら浮遊している。

 

『――フォックスビークの街はここだよな? 一度しか言わねえから良く聞け。俺の名はアハト。第二次人工英雄創造計画――炎の大魔法士核(パイロキャスター・コア)を持つ俺がこの街の担当になった』

 

 その声は青年が握る音の水晶と呼ばれる中心部が翡翠に輝くアイテムによって街中に拡散、響き渡って聞こえた。

 

 誰もが不気味に空に浮く一人の青年から視線を離せない。

 

『皇国からはよ、獣王国がレオハルトの身柄をこっちに引き渡すまで国民を無差別に殺せと言われてる。だが、カス共をいくら潰しても何も面白くねえ。俺はレオハルトと戦ってみたいんだ。これから五時間以内にレオハルトがこの街に来ない場合、ここを更地にする』

 

 瞬間、曇天の空に太陽が昇った。

 

 否、それは青年が作りだした魔法――獄炎の球体だった。

 

 瞬く間に、家々の屋根に積もった雪が解けていく。

 たった数十秒で蒸発して水蒸気にまでなる。

 

 獣人族は基本五つある魔力核(マナ・コア)の中で、唯一魔法士核が生まれない種族だ。

 

 獣人族であるにも関わらず魔法を使えるその異常性が何より目を惹く。

 

 街の者達は言葉を失い、圧倒されて身体を震わせた。

 

『実際、俺には街を滅ぼせるだけの力がある事を教えてやる。本物の英雄を超える為に造られた俺の力を。特別にな』

 

 男はそう言って片手を振り下ろした。

 獄炎の球体から極太の熱線が放たれた。

 

 熱線は街から数キロ先にある山を貫き、丸ごと消滅させた。

 

 一拍置いて、ようやく信じられない現実を認識できたのだろう。

 

 悲鳴が飛び交う。子供達は泣き喚く。精強と名高い自警団の中には憎々し気に見上げる者もいるにはいるが、その瞳には明確な恐れが宿っていた。

 

 それぞれの様子を見下ろし、アハトは両手を広げて叫んだ。

 

『――さあ、王都に伝えろ。このままじゃあ皆殺しだと。レオハルトを呼べ。造られた英雄と本物の英雄、どっちが真に強い獣人か勝負しようじゃねえか!?』

 

 時間になったら来てやる。そう言い残して、アハトは街の上空から姿を消した。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 ログ村を発ったアレンは現在、雲の上にいた。

 

 超高速で飛行する漆黒の竜の背に乗り、獣王国ユーグラシアへ急ぐ。

 

 雲の上ならば人目につく事もない。

 万が一、認識できても黒い点が空に浮かんでいるようにしか見えないだろう。

 

 黒竜ジオフリードは久しぶりの飛行にテンションが上がっているのか、何度も旋回する。

 

 その度に人型に戻ったアスモデウスがジオフリードの背中から振り落とされてしまう。

 

「ぬわぁぁぁぁッ、黒蜥蜴の馬鹿者ーッ!?」

 

「グルル」

 

 ふっ、いい気味だと言わんばかりに笑うジオフリード。

 地上に落下する途中でアスモデウスは光の粒子になり、アレンの腰に剣の状態で戻ってくる。

 

「……空飛んでる時は人型になるの諦めた方がいいよ」

 

「……何だか負けたみたいで嫌じゃ」

 

 がしっとアレンの背にしがみつく幼女。

 必死の形相で風圧に耐える彼女に僅かに苦笑しながら、アレンは雲の隙間から物凄い速さで流れていく地上の光景を眺める。

 

 獣王国は大陸の北方、雪国だ。

 

 道中の植生の変化も著しい。

 数時間もすると、木々は広葉樹から針葉樹に変わっていく。

 

 そして針葉樹から木がない――短い草がほとんどのツンドラの大地へ。

 

 雪がちらつき始め、やがて辺り一面白銀の世界。獣王国領に入った。

 

(――レオハルト……久しぶりに会うとなると、とんでもなく緊張するんだけど……)

 

 アレンは考えすぎて胃が痛くなってきた。

 

 討伐隊が差し向けられているという事は当然、軍が獣王国領に侵入しているはず。レオハルトはそう簡単にやられはしないはずだが、討伐隊を率いるヘルミスは英雄核(ブレイブ・コア)を宿す英雄。

 

 アレンとしては心配な状況である。

 

「――アレンッ、一旦、近くの街に降りて詳しい情報を集めた方が良いではないか!?」

 

「詳しい情報?」

 

「皇国がどの程度の兵力で、まずどこに進軍しているかといった情報じゃ。あの血気盛んな獣娘が獣王の城に匿われたままでいると思うか? 絶対、戦場におるじゃろうッ」

 

 確かにアスモデウスの言う通りだ。まずはレオハルトの居場所を掴むべきか。

 

 アレンはジオフリードの脇腹を足で軽く蹴りながら、 

 

「――ジオ。良い感じの街があったら降りてくれ。ただし、街に近すぎないように」

 

 人目についたら元も子もないのでそう指示する。

 

「グルルルルッ」

 

 そんなアレンの意思を汲んだジオフリードが速度を緩め、緩やかに下降していく。

 

 雲を突っ切って抜けると、天候は生憎猛吹雪だった。獣王国では珍しくもない天気である。

 

 急勾配の屋根がほとんどの家で構成されたのどかな街が薄ら視界に映る。

 その街から数キロ離れた雪山にアレン達は着陸した。

 

 天候も天候だし、僻地である事も鑑みて近くに人がいるわけないとアレンは思っていた。だからこそ、

 

「――なッ、黒い竜だと!?」

 

 吹雪の中、アレンは背後から聞こえた声に驚いた。

 

 振り返ると、青年が雪景色を背に突っ立っていた。

 辺りには野営の跡があるが、視界が雪で遮られアレンも気付かなかった。

 

 というか何でこの人、こんな所にいるのか。

 

(いや、そんな事よりマズイ……!)

 

「傲慢で人嫌いの竜の精霊獣を使い魔にしている奴なんて一人しかいねぇ……! まさか……まさかてめえは【黒曜の――」

 

 いやまだ間に合う。

 

 アレンは刹那、アスモデウスとアイコンタクトで通じ合う。紫電を身体に纏い、雷速で青年に肉薄した。

 

 目を見張る青年の背後に回り、首に手刀を叩き込んで鮮やかに気絶させる。

 

「……獣王国に来て早々、正体ばれちゃったんだけど。もうこの人埋める? 証拠隠滅する?」

 

「……早まるな、アレン。一応お主は英雄なんじゃぞ」

 

「今は傭兵ノワールだから。ノワールは後ろ暗い人生を歩んできたんだ。人を殺す事も一度や二度じゃない。という設定にしよう」

 

「今は現実逃避している場合ではないのじゃ」

 

 アレンは仮面を押さえ、ため息を吐く。吐く息がそのまま凍りそうな程寒い。

 

「……こんなところでキャンプする変人だけど、多分街の人だよね。()()ついてるし。手足の枷は……ファッションかな?」

 

「……どうでもいいが。では此奴を街に届けるのか?」

 

「……そうだね。もし目覚めて、ジオフリードの事聞かれたら良い感じに誤魔化そう。街の人には遭難して倒れてたから保護したとでも言えば信じて貰えるかな?」

 

 幸先が悪いとはこの事だ。

 

 アレンは雪山でキャンプしていた変な街人を肩に背負い、そのまま街を目指した。

 

 

 




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