世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない   作:城之内

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第27話 首長からの依頼

 

 

 アレンは意図せず倒してしまった人工英雄の青年を自警団に預け、自警団長である大熊族の男性の案内で首長の屋敷にやってきた。

 

 玄関の扉を開けると、出迎えたのは狐族の使用人だ。

 事情を説明すると、初老の執事は腰が抜けて立てなくなってしまった。

 

 聞けば首長共々、街と運命を共にするつもりだったらしい。

 

 そして現在進行形で会合の真っ最中だったらしく、数分程度待たされた後、首長の応接間へアスモデウスと一緒に通された。

 

「――たった今お聞きして、本当に驚きました。まだ現実感がありませんが……街を救って頂きありがとうございます」

 

 首長は狐耳と尻尾を生やした可愛らしい金髪少女だった。

 

 まつ毛が長く、丸っこい目が人懐こい印象を与える。

 

 自警団長は首長の事を彼と言っていたが、どこからどう見ても少女だ。手足も細く、髪も肩口まで伸ばしている。

 

(……え、これで男、なのか……? というか若いな)

 

 仮面の下でアレンは目を見張る。

 横目で見るとアスモデウスもぽかんと口を開けたまま硬直しており、馬鹿丸出しだった。

 

「私はフォックスビークの街の首長を務めております、コハク・クズノハと申します」

 

「……傭兵をしている。ノワールだ」

 

 首長は椅子から立ち上がり、アレンに向けて手を伸ばす。アレンはその小さな手を握り、握手した。

 

 僅かにその手が震えを帯びている事に気付くと、

 

「あ、申し訳ありません。自警団が残るのに、首長である僕が避難するわけにはいきません。だから残る決断をしましたが、やっぱり死ぬのは怖かったみたいで……」

 

 頭の後ろに手を置き、恥ずかしそうにコハクは笑った。それからおずおずと上目遣いでアレンを見上げてくる。

 

 可愛いな、おい。

 

「……誰であっても死は怖いものだ。恥じる必要はない」

 

「……そう言って頂けると気持ちが楽になります」

 

 まだ震える手を逆の手で押さえながら、コハクははにかんだ。

 どことなく蒼白な顔色をしており、どれだけ怖かったのか如実に分かる。

 

 それからどうぞおかけくださいと、アレンは卓を挟んだ向かい側の椅子をすすめられた。

 アスモデウスにはより小さな椅子を使用人の方が用意してくれる。

 

 とりあえず椅子に座ったアレンは応接間をちらりと見渡す。

 

 卓の上には羊皮紙の束が積まれ、部屋には遠見の水晶がいくつか浮いていた。

 

 王や他の首長とどのような話し合いをしていたのだろう。

 

 凍えるような寒さだった外とは違い、暖炉があって室内は暖かい。

 

「――ノワール様、貴方は義勇兵として獣王国へ来たそうですね。どちらの国からいらっしゃったので?」

 

「……リグアクアだ」

 

 そう言うと、コハクは僅かに目を見張りながら、

 

「なるほど。ではやはり貴方でしたか」

 

「……どういう意味だ」

 

「つい数時間前、獣王陛下が友好国の王達との協議中、リグアクア王から言われたのだそうです。仮面の傭兵を上手く使えと。勿論、獣王陛下は何者なのかと聞いたのですが、リグアクアの王も正体は知らないと」

 

「……」

 

 中央都に着いて早々、ブランフォードが王に助言したのだろう。流石に中身がアレン・ノーシュである事は伝えていないはずだ。

 

「その仮面を取って頂く事は可能ですか?」

 

 ごくりと生唾を飲み込み、緊張した様子で尋ねてきたコハクに対してアレンは首を左右に振る。

 

「……魔獣との闘いで惨い傷跡があるんだ。どうか勘弁願いたい」

 

「そうじゃ、兄様の顔はそれはそれは酷いものじゃ。見たら一生のトラウマもんじゃな。わらわは毎日夢に出て困っておる」

 

 アスモデウスの援護は有り難いが、何となくイラっとする。

 

「……失礼しました。不躾な事をお聞きして申し訳ありません。それでは気を取り直して、ノワール様にも現在判明している皇国の兵器についての情報を共有いたします」

 

 コハクはそう言ってアレンが気絶させた青年について説明しだした。

 

「ノワール様も戦って気付かれたかもしれませんが、人工英雄は英雄核(ブレイブ・コア)を人工的に造り、人体に埋め込んだ者達らしく、その戦闘力は国家級に達しているようです」

 

 アレンは全く強さを実感できずに倒したが、国家級と言えば八魔将クラスである。

 というか、薄々察していたとは言え、とんでもない事を言われた。

 

「……英雄核(ブレイブ・コア)を人工的に造る、か。まるでドーンベルトの惨劇だな……」

 

「黒曜の騎士様が一躍有名になった事件ですね。あの一件でレオハルト様を救われた」

 

 世界騎士になる以前、アレンはとある魔導学者を捕まえた。

 彼は世界騎士を酷く憎んでおり、世界騎士を凌駕する戦士を生み出す事に執着していた。

 

 孤児を集め、人体実験を施し、何十、いや何百人という犠牲を生み出した。

 

 彼を捕まえた事が大きな理由となってアレンは世界騎士の候補者になったのだ。

 

「話を戻しますね。彼ら人工英雄は戦闘経験が不足している為、現状はレオハルト様や陛下が対応できていますが、それでも数が多すぎるのが現状。現に街三つを既に滅ぼされています」

 

 沈痛な面持ちのコハクにアレンは前のめりで、

 

「……俺は何をすればいい?」

 

「結論から言いますが王都へ向かって頂きたい。現在街を滅ぼした三人が合流し、ついに王都へ侵攻してきているのです」

 

 いきなり王都への援軍要請。随分と切迫した状況らしい。

 

 実力は確かでも、素性が不明の怪しげな傭兵である今のアレンは、てっきり目立たない小さな街とかに向かわせられると思っていた。

 

「……獣王陛下は?」

 

「度重なる戦闘で怪我を負い、万全ではない状態です。迎え撃てる状況ではないと先程言われました。レオハルト様お一人では万が一ですが負ける可能性もあります。ですので、ノワール様にはレオハルト様と協力して三人を撃破していただきたいのです」

 

 アレンは心の準備もできぬままレオハルトと対面で会う事になりそうで激しく動揺した。

 思わず視線が右往左往してしまう。

 

「……随分と俺の実力を評価しているが。先ほどの青年――アハトと言ったか。アレは不意打ちで倒したようなものだぞ」

 

「……ご、ご冗談を」

 

 何故かコハクは表情を引きつらせ、酷く驚いた様子でアレンをじっと見つめてきた。

 

 何も冗談ではないが、コハクは額に掻いた汗を拭い、続ける。

 

「レオハルト様はここから西に橋を渡った先にあるフォームの街にいる人工英雄一人を倒したのち、ライゼル様に乗ってこちらに向かわれるそうです」

 

「……」

 

「ノワール様を回収して王都へ共に向かうつもりだと」

 

 ライゼルとはレオハルトの使い魔であるグリフォンの事だ。

 速さだけならジオフリードを凌駕するレベルの精霊獣である。

 

「……分かった。足手まといにならないよう努める」

 

 もはや共闘は避けられない。

 

 人工英雄たちを倒す事は可能だろうが、その後が大変だ。

 

 アレンは緊張で吐きそうになったが、何とか我慢する事に成功した。

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 退室した仮面の傭兵は部下の先導の元、彼の妹と共に客室へ移動して休ませてある。

 

 フォックスビークの街の首長たるコハクはほっと息を吐き、自分の手のひらを眺めた。

 握手した時に感じた彼の手の感触を静かに思い出す。

 

「……物凄く硬い剣ダコ。レオハルト様を思い出すような手でした」

 

 その言葉の後、天井から顔に黒いベールをつけた全身黒づくめの男が降りてきて、しゅたりと着地した。

 

「族長。あの者の力、本物ですね」

 

「……ええ。少なくとも英雄核(ブレイブ・コア)の持ち主である事は確かでしょう。ノワールなんて名前、僕は一切聞いた事ないのですが、世界は広かったようですね。護衛である君達全員の位置が見事に見抜かれていました」

 

「……隠形は完璧なつもりでしたが、視線が向けられた時は肝が冷えました」

 

 首長であるコハクはノワールと名乗った傭兵を見極めるつもりでいた。

 

 街を救われたばかりで、リグアクアの王からのお墨付きもあるとは言え、これから彼は獣王国の行く末を担う戦いにレオハルトと共に挑むのだ。

 

 本当に実力があるのか疑問だった。あの恐ろしいアハトと名乗った人工英雄と真っ向から戦って勝ったのか。本人が言っていた不意打ちで、まぐれで勝った可能性もある。

 

 それを確かめる為、隣室や天井、床下に護衛を配置した。見抜けないようではレオハルトの足を引っ張る事になりかねない。

 

「僕の不安は杞憂でした。君たちの存在を見破った上で、彼は何も言わなかった。謙遜したのは我々への皮肉でしょう」

 

 アレン本人からすると、ただレオハルトに会う事が決まって動揺し、視線が散らばっただけなのだが、生憎訂正する者はここにはいない。

 

「……しかし実力は確かとは言え、ユーグラシアは我々の国です。それなのに人間族に託すことになるとは」

 

 どことなく不満そうな部下に苦笑しながら、コハクは窓から雪がチラつく曇天模様を見上げた。

 

「……仕方ありません。英雄には英雄をぶつけるしかない。信じましょう。我らが獣人族の英雄と謎に包まれた仮面の傭兵を」

 

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