世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
青白く燃える家屋が光源となって、村の惨状を伝えてくる。
広場に集められた村人達は大小様々な怪我を負っていて、近くには真っ白い髪の人物が三人並んでいた。
フォックスビークの街を滅ぼそうとしていたアハトと特徴が一致する。
彼らが人工英雄だろう。
村の周りは
魔獣は魔族達が暮らす別大陸――魔大陸に生息する怪物だ。
本来、人界大陸にはいないはずの化け物を従えている。三人のうちの誰かの能力だろうか。
「攻撃してこない。俺達を待っているのか?」
三人の人工英雄は既にライゼルに乗って降下しているアレン達に気付いているが、のんびりと眺めているだけだ。
「……正確にはオレだ。奴らの狙いはオレ一人。オレのせいで……この村の奴らも死ぬところだったッ」
レオハルトの瞳に、獣人の証たる獣耳を引きちぎられ、蹲る血だらけの猫族の男の姿が映る。
彼女は降下を続けるライゼルの背中の上に立ちながら、英雄としての力を解放した。
「――正々堂々戦って貰えると思うなよッ、死ねクズ共!
瞬間、まず村を囲む数十体のケルベロスが断末魔を上げる暇もなく潰れて肉塊になった。
一瞬の事である。
レオハルトを中心に村全域が黄金の結界に包まれ、大地に亀裂が走り沈下していく。
人工英雄達はそれぞれ片膝をつき、這いつくばる恰好になった。三人とも酷く動きづらそうにしている。
レオハルトの
星の力である重力と引力を自由自在に操る騎士。それが【星落の騎士】と謳われる獣人族の英雄の力だ。
しかし、
「――やあ、レオハルト。久しぶりだね!」
一気に魔獣が赤い染みと化しても、動揺するどころか楽しげに片手を上げる青年。
青白い炎の渦の中心に舞い降りたライゼルから降りて、レオハルトとアレンはそれぞれ人工英雄と向き合う。
ちなみにレオハルトとアレン、そして村人達は普通に動ける。
レオハルトが許可した者以外は数十倍の重力が上乗せされている状況である。
「あれ、幼馴染の顔も忘れてしまったのかい? 僕だよ、僕。第一次人工英雄創造計画、
「……覚えてねえ。思い出したくもねえ」
「酷いな。僕達は君のせいで生まれたんだよ? なあアインス」
筋骨隆々の男は顔を真っ赤にしながらレオハルトを睨む。怒っているのだろうか。
「八年前、獅子族の君がどうして博士に奴隷として買い取られたのかは分からないけれど。確かなことは君の
アレンは思い出す。ドーンベルトの惨劇。
とある魔導学者が起こした狂気の事件。
人工的に英雄を生み出そうと孤児を集め、何百人も実験の果てに殺した。
その事件の成功例が目の前にいるヌルと名乗った青年だ。
「実験体として酷い毎日を送った。全部君のせいだ。君がいなければ僕らは生まれなかった」
「……」
「来る日も来る日も投薬実験。元々凡人が人工とは言え
ヌルは壊れたように瞳から光がないまま笑う。
彼の苦しみをレオハルトも同じように抱えている事をアレンは知っている。
まだ幼い少女でしかなかったレオハルトは筋肉のつき方や内臓の位置、形などを身体にメスを入れられて観察された。
その手術痕を隠すためにレオハルトは全身甲冑姿なのである。
「アレン・ノーシュも今でこそ持て囃されているが、あの時僕達を助けてくれなかった。当時はまだ世界騎士にはなっていなかったけど。皆が彼を称賛するよね、世界を救った英雄だと。反吐が出る。実験で僕の兄弟達は皆死んだ。無能すぎる。何度も助けてと叫んだのに、薄暗い地下の研究所で涙を流しながら死んでいった。英雄は誰一人として現れなかった」
「黙れ! あの人の事を悪く言うな! あの人はオレを救ってくれた! どんな凄い奴だって、不幸な人全てを助けられるわけじゃねぇ!」
アレンが何かを言う前に、レオハルトが叫んだ。
レオハルトは救ってくれたと言ったが、アレンとしては全てが遅かった。
当時のレオハルトの身体を見て思った。
きっと死より怖い思いをさせてしまっただろうと。
アレンは獣人族の英雄と並び立ち、横目を向ける。
牢の中で、恐怖で震えながら憎悪を宿した瞳で見上げてきた少女の姿が重なって見えた。
ヌルは空を見上げながら、
「……まあ今となってはどうでもいい。そろそろお喋りはここまでにして。僕たちはレオハルト、君を倒さなくちゃならないんだ」
重力に慣れたのか、三人の人工英雄達が平然と立ち上がる。
「フィーア、君は仮面の剣士の方を頼む。僕とアインスでレオハルトを殺してみせるから」
「分かったわ」
アレンの相手は片目を髪で隠した眠そうな美少女らしい。
できれば筋骨隆々の男が良かった。傷つけても罪悪感が湧かないから。
「貴方がどこの誰で、どんな能力かなんて私の前では関係ないの」
「……お嬢さん、それは一体どういう――」
「私の英雄核は
髪を掻き上げ、彼女は右目を露出した。
魔法陣が刻まれた金の瞳は随分と綺麗だが、続く言葉に戦慄した。
「私と目が合った者を強制的に夢の世界へ送る事ができるの」
いや、何その初見殺し。そんなのズルじゃん。
ばっちり少女と目が合ってしまっている。慌てて逸らすが遅かった。
急にふらつき始め、意識が闇に染まっていく。
ヤバい。
完全に意識が落ちる前にアレンは条件反射でアスモデウスの代わりに腰に下げていた
「無駄よ。この力は強制なの。おやすみなさい。貴方の一番辛い記憶を見せ続けて心を壊してあげるわ」
金の瞳が怪しげに光る。
彼女の呟きを最後に、アレンの意識は暗黒の中に沈んで消えた。