世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
苦しかった呼吸が戻り、レオハルトは咳をしながら喉を押さえた。
倒れ込んだ衝撃で、兜が外れる。
焦土と化した大地にうつ伏せのまま、レオハルトは視線だけを上げた。
広がった視界に、朧げに仮面の剣士の背中が見えた。
彼の背が漆黒のマントを靡かせて立つ黒衣の騎士と重なる。ライゼルが安堵したように大きく鳴いた。
それからゆっくりと仮面を外した彼の横顔にレオハルトは目を大きく見張る。
「――よく頑張った。後は俺に任せろ」
ああ、その言葉は。
「ここからは俺一人で十分だ」
遥か天空にある魔王の城で。
動けなくなった世界騎士の仲間達を逃した際に発した言葉。
儚げに口角を上げた彼の横顔は、あの時と一緒。
またなのか。
またオレはあの人に助けられるのか。
「……アレン……」
今度はちゃんと、帰ってきて。
言う気力はもう残されていなかった。
瞳から涙が溢れ、それを最後にレオハルトの意識は闇の中に消えた。
* * *
蹴り飛ばした衝撃で何度も地を跳ねながらヌルが転がっていく。
レオハルトが気絶した事を確認し、アレンは対峙する二人の人工英雄を油断なく見据えた。
仮面は外してある。
ヌルは随分とアレンを恨んでいるようだった。
この顔を見れば、標的はレオハルトから自分に移るはずだ。
「……フィーア、何をしている!? 何故コイツを殺していないッ」
遠くの方で土砂に塗れながらよたよたと起き上がったヌルは、側頭部から流れる血によって視界が塞がれているらしい。
アレンの顔をまだ認識できていない。
「ヌル。その人の顔をよく見て」
フィーアから敵意はない。
何故かはよく分からないが、女の子は傷つけたくないので都合が良い。
ヌルは血を腕で拭い、アレンと視線を通わせた。瞬間、眼を見開き、唇を震わせる。
「……まさか……生きていたとは……!」
「久しぶりだな。あの時の孤児達が大きく成長したものだ」
「……黒曜の騎士。何故、何故ここにいる……!?」
「弟子の危機に駆けつけない師匠はいない」
簡潔に言いながらアレンは黒の長剣を鞘から抜いた。
「逆恨みも甚だしい。レオハルトは君達と同じ被害者だ。恨むべきは皇国とシェディム。そして――」
「お前だろう、アレン・ノーシュ……辛い実験を乗り越え、皇国に保護という名目で拘束された僕達のその後を知りたいか?」
フィーアが目を伏せた。アインスが身体を震わせる。
「……実験は終わらなかった。僕達は能力を使いこなす為に多くの戦闘経験を積まされた。仲間同士で、殺し合いをさせられた」
「……」
「どれだけ強い力を得ようと、十全に使いこなせなければ意味がない。使えない兵器は処分される」
「……そうか」
アレンは理解した。
あの日、ヘルミスに引き渡さなければもっと違う未来があったかもしれない。
五人全員がレオハルトと笑い合い、自分と関係を築いた可能性もある。
「君の想いは理解した。だが、俺にも譲れないものはある。俺はレオハルトを助けたい」
「なら戦うしかない。僕とアインスは彼女を殺すつもりだ」
「……残念だ。俺は戦いたくないんだが」
アレンは目を閉じて深呼吸を挟む。
(……使うしかないか。
目を開け、ボロボロになった地形を見渡す。
村人達の姿がないが、レオハルトが死なせるはずがない。
恐らく能力を使って避難させたのだ。振り返ると、遠目の丘の上に豆粒大の人影が複数確認できた。
「余裕だな、アレン」
「ああ、余裕だ。本来、君達にレオハルトが負けるはずないんだ。彼女は疲れていたし、何より村人を庇いながらでは全力を出せない」
「……これを見てもそんな事が言えるかな?」
パチンとヌルが指を鳴らす。同時に地面に無数の漆黒の魔法陣が展開された。その上から緑の霧が吹き出し、巨人族以上の巨人が次々に出現した。
一つ目の怪物サイクロプスの軍。
それを身体中に目を持つ巨人アルゴスが率いている。
「ああ、言えるな」
アレンは躊躇いなく頷いた。
アレンの
能力はまさに騎士の中の騎士に相応しい力。
「
模倣出来る数に制限はないが、複数を同時に行使はできない。
今回使うのはアレンの弟子である今代の獣人族の英雄の力。彼女の力を使って、彼女が本来勝つことを知らしめる。
「〈星落の騎士レオハルト〉」
その瞬間、アレンを中心に黄金の結界が展開される。
内部は重力が数十倍になり、一斉に巨人たちが膝を折った。
ヌルとアインスが瞠目する。
この力は魔力を消費せず、アレンの身体を纏う黄金のオーラが代わりに消費される。
アレンはこのオーラを名声力と呼んでいる。
名声が上がれば上がるほど、このオーラはどんどん増え、今では天にも昇る程の量に達した。
だからこそそう名付けたが、合っているかは自分でも分からない。
ちなみにこのオーラはアレン以外には視えない。
「――では始めようか」
帰還した最強の英雄が不敵に笑った。