世界を守って死んだ(事になっている)最強騎士は自分の影響力を知らない 作:城之内
重力の檻に囚われたサイクロプス達は一向に動けない。
ミシミシと骨が軋む音が鳴り、一体。また一体と重量に耐えきれず這いつくばる。
「……何故!? その力はレオハルトのもののはずッ」
驚愕を露わにして叫ぶヌルを他所に、アレンは首を垂れた単眼の巨人達の間を悠々と歩く。
だが簡単には辿り着けない。
ヌルに近付く英雄を止めるため、アインスが立ちはだかる。
「……ッ」
歯を剥き出しにして睨むアインスの両腕には手甲を装備されている。装備を見るに、
やはり接近戦に持ち込みたいのか、アインスは両腕に炎を纏わせながら駆け出した。
本来拳士核を持つ者が魔法を使う事はできない。
それを可能とするのが何よりの
足からも炎を吹き出し、より加速。重力の影響を一切受けていないように高速で拳を繰り出すアインス。
しかし、黄金の結界内に囚われた者はレオハルトの力から逃れる事はできない。
「〈星力解放・斥力〉」
炎を纏った拳はアレンに当たる直前で停止し、攻撃も受けていないのにアインスは身体をくの字に折り曲げて吹き飛んでいく。
引力と対になる斥力もまた自由自在に操れるのだ。
「――アルゴスッ」
サイクロプスの軍の中で、一体だけ動ける身体中に目を持つ巨人の名を呼ぶヌル。
その巨人の無数の眼から光速のビームが放たれた。幾体ものサイクロプスごと貫く雨のような攻撃を、
「〈星力解放・反重力〉」
アレンは身体が浮き上がらせ、空を飛ぶ事で回避する。
重力を自分だけ軽くして機動力を上げたのだ。
直前までアレンがいた場所をビームは地面ごと吹き飛ばし、盛大に爆発して大きく陥没させる。
「何故レオハルトの力を自在に使えるッ、それがお前の
「……その通りだ」
空を飛びながらアレンはヌルに向けて更なる力を行使する。
「〈星力解放・引力〉」
「ぐ、くそッ」
まるで見えない巨大な手で引き寄せられているような奇妙な感覚。
何とか踏ん張ろうとヌルは足を地面にめり込ませ、抗うが徐々に引力は強まる。
代わりに身体中から光線を放つアルゴスが引き寄せられ、アレンは長剣を突き出して心臓を刺し貫いた。
「奥の手を使うしかない……!
ヌルは自らの両脇に新たに魔法陣を展開する。その魔法陣から召喚されたのは大量の緑の霧。
緑の霧は結界内を瞬く間に満たす。
「……なるほど。召喚できるのは魔獣だけではないのか」
「そうだ。この霧は魔大陸の気候そのもの。魔族達が生息する魔大陸は年中、猛毒の霧に覆われている。結界を解除しなければ僕達も君も死ぬ」
魔族達が何故人界大陸に攻め込んでくるのか。
それは必ずしも当代の魔王の野心に寄らない。
種族の悲願として、呪われた大地からの解放を目指しているのだ。
急速に迫る毒の霧に紛れて、目を充血させ、口から血を吐きながらアインスが蹴りを放つ。
空に留まっていたアレンはその赤熱した蹴りを紙一重で躱し、引力によって引き寄せながら剣の腹でアインスの顔面を殴りつけた。
剣で殴った威力と重力、斥力を重ねた影響で物凄い速さでアインスは吹き飛び、そのまま地面に数メートル以上深く埋まって止まる。
次に迫る毒霧をアレンは引力によって引き寄せた岩盤を剣に刺し、巨大な団扇のようにして扇ぎ、ヌルの方へ押し返す。
「何でレオハルト以上にその力を使いこなしているんだッ!?」
「……違うな。レオハルトは村人達を斥力によって避難させながら戦ってきた。君達の攻撃を捌きながらでは限界があったんだ。だが、俺は違う。この力全てを君達に当てられる」
「だとしてもおかしいッ、他人の能力を何故使いこなせるッ」
普通の
しかしアレンにはそれがない。
名声力は増える一方だ。こうしている今も戦いながら増えている。勿論、能力を使えば減るが、魔王を討伐して伝説になった今。
アレンの名は歴史書に記される大英雄と同じ。
その名声はもはや留まるところを知らない。
同じ能力を持っている者同士が戦ったら、勝敗を分けるのは肉体強度や魔力量、出力といったスペックの差だ。
スペックでアレンが負ける事はない。燃料がほぼ無限なのだから。
だからこそ本人以上に使いこなしているように見えてしまう。実際はどうあれ。
閑話休題。
アレンは黄金の結界を消して、重力の檻を解除した。
地面に着地し、長剣を鞘に仕舞う。
地に埋まったアインスと毒霧を吸って動けなくなったヌルを見下ろした。
ちなみにサイクロプス達はヌルが倒れると同時に魔法陣から伸びた鎖に身体を縛られ、引きずられてそのまま陣を潜って元の場所に帰っていった。
「勝負はついた。俺は戦艦を追う」
「……ふ、ふざけるなッ、なら、殺せよ。僕達を殺せッ、さもないと、お前が行った後、レオハルトを殺してやるッ」
「……」
毒霧の影響か。
白目の部分が赤く染まり、肌に水泡がいくつも浮き上がったヌルの痛々しい惨状にアレンは顔をしかめる。
彼らもまた被害者だ。
彼らの苦しみが想像を絶する事はアレンも分かっている。
「ヌル。もう止めましょう、私達は負けたの」
「……ま、負けていないッ、フィーア、君がいるッ、戦え、もう一度彼と視線を合わせるんだッ!」
首を振るフィーアと叫ぶヌル。
平行線の二人を前に、どうしようかと悩むアレン。
そんな三人が一斉に、反射的に空に視線を向けた。
夜の空に浮かぶ赤い筋は酷く目立つ。
目を凝らして良く見ると。
「……アハト……?」
紫紺の髪の幼女を抱えて、足裏から炎を吹き出して飛行する狼族の青年が一目散に近付いてきた。