TS貧民少女ですがサイバーパンク世界で成り上がります 作:あめざり
男に連れられ、カフェから少し離れた場所に停まっていた車へ向かった。
「まさか素直について来てくれるとはね」
「元より拒否権なんてないんでしょ?」
「まぁね」
もし私が拒否したら殴ってでも連れていくつもりだろう。
だが、ついて来た理由はそれだけではない。
恐らくこいつらは金を持ってる、それも汚れた金を。
所謂裏稼業……この世界では『サイバーシェード』と呼ばれる奴ら。
私を攫った連中も同じ、だが今回は訳が違う。
もう人気がない所まで来ている。のにも関わらず男は私に危害を加えてこないと来た。
もしコイツがハッカーだったとしても、ハックされるほど機械化しているわけでもないし、まず外部干渉を受けた瞬間にインプラントが警報を鳴らし、相手のインプラントを全て焼き払う。
つまりこの男は本当に、私に用があるらしい。
「着いたぜ、乗りな」
男がそう言うと、目の前に停まった車の後部座席側の扉が自動で開く。
車はパッと見庶民用の汎用モデルだが……インプラントを使ってスキャンをかけてみると、外装は防弾仕様で背面にレーザータレット付き、軍用ICEも積んでるようだ。
男の方を警戒しながら車に乗り込む。
運転席にはサングラスをかけたブロンド美女、私の左隣には男が乗り込む。
「連れて来たぞ。コイツが例の適合者だ」
「ふーん……こんなガキがねえ……」
運転席の女はバックミラーで私の姿を見ながらエンジンをかけ、アクセルを踏んだ。
「で、私に何の用が……」
「アタシの地元では本題に入る前に挨拶するのが基本でね。まずは自己紹介から始めようか」
少しの沈黙の後、私が最初に口を開く。
「アリシア・ホワイト。出身はローリッジの線路下」
「俺はレックス。生まれも育ちも郊外だ」
「アタシはヘイジーって言うんだ。裏社会が私の生まれさ」
私に続くように他2人も名前と出自を答える。
レックスは本名だと思うけど、ヘイジー……『hazy』か。
あまり見ない名前だし、意味が『霞んでいる』とかの曖昧さを表す単語だ。
恐らくは偽名、それかニックネームだろう。
「自己紹介は終わったよヘイジー。要件を聞こうか」
「そうだね、単刀直入に言うと……アンタに受けて欲しい仕事がある」
「私みたいな子供に任せられる仕事?オリガミでも折れば良いの?」
「とぼけるんじゃないよ」
先ほどよりも力のこもった声でヘイジーが言う。
「アンタの脳に入ってるインプラント。それさえあれば、新生児でも人を殺せるさ」
「つうか第一に、それをどこで手に入れた?少なくとも、ローリッジ出身のガキが手に届く代物とは思えないが……」
「質問は1人ずつお願いできる?」
車が赤信号で止まり、エンジン音も落ち着いたところで私は少しため息をつきながらそう返す。
「まずヘイジー、私はこのインプラントについてほとんど知らない。高いハッキング能力と謎の残像、私が知ってるのはそれくらい」
これは本当だ。
実際、身分証発行以外には使っていないのだから当然っちゃ当然と言える。
「んでレックス、これは望んで手に入れたものじゃない。変な奴らに攫われて、気がついたらこれがインストールされてた」
これは半分本当。
攫われた理由や謎の男2人の存在は私に不利な情報の可能性がある。
それこそ、コイツらと良くも悪くも深い関わりのある奴らだったら面倒なことになりかねない。
「……それが本当かはわからないけど、ひとまず置いておこうか」
何とか乗り切ったらしい。
まあここはとにかく、情報を渡さずここから逃げる。それが最優先だ。
「それじゃ、仕事の話に戻るよ」
「で、結局内容は何?」
「とある男の救出依頼だ。男が閉じ込められてる場所はセキュリティが堅くてな、誰かがハックで無効化してくれれば助かるんだが」
「もちろん、報酬は弾むさ」
謎が多い依頼だが、ハッキングだけなら問題はない……が、それは裏の世界に足を踏み込む事になる。
今後2度と、まともな生活はできないと考えた方がいい。
「一応聞いておくけど……『No』と言ったら?」
「もちろん、こうするだけさ」
どうやらカマかけは失敗だったらしい。
ヘイジーの指示と同時に、レックスが私の頭に銃口を突きつける。
私はゆっくりと両手を挙げ、無抵抗の意を示した。
「拒否権なんてあると思ってるのかい?選択肢は2つ、協力するか、ここで死ぬかさ」
車がトンネルに入り、機械的な光が車内に広がる。
拒否権も逃げ場も無しのこの状況、最悪に見えはするが、なぜレックスは最初に私を殺さなかったかと言う疑問が残る。
インプラントの力を知っていたなら、わざわざ車まで引き連れ脅すなんて工程を踏まないだろう。
それに、私を連れ去った男2人の驚愕した表情や、レックスの『適合者』と言う言葉……どうもこのインプラントを入れている事自体が珍しいことのように感じる。
つまりこの銃はただのハッタリ、私を殺す気もないし、私の代わりもいない。
なら、私の有利に乗せようではないか。
「おいヘイジー、飛ばしすぎだ」
車外の景色がどんどんと速くなっていく。
計器には100キロと表示されている。
「……」
「選択肢は2つ、ね」
さらに車は加速する。
100キロから150キロ、今やその速度は200キロに近づいている。
ヘイジーはアクセルを踏んでいないのに、だ。
「……アンタまさか」
「そのまさかだよ。この車のシステム全体をハックさせてもらった」
「軍用ICEを抜けたってのかい」
「もちろん、中々やるでしょ?」
レックスの銃を握る手が少し震え始める。
「この車は何キロまで出る?200?300?詳しくは分からないけど、追突でもしたら大惨事だね」
「……どうせハッタリだろ。んな事したら第一お嬢ちゃん、アンタもまとめてペシャンコだ、そんな度胸があるようには思えねえ」
「私は、マジだぜ」
今までにないほど冷たく、低い声で私は告げた。
「さあ、選択肢は2つだ。私の頭に突きつけられてる銃を今すぐ下ろすか、3人まとめてペシャンコか。選べ」
「……レックス」
ヘイジーが小さな声で呟く。
「レックス、下ろしな」
「……へいへい」
レックスは指示に従い銃を下ろす。
それに合わせて私は挙げていた手を下げ、無事危機を脱したのだった。
「……それで、仕事は受けてくれるのかい?」
ヘイジーの質問。だが、主導権はもはやこちらにある。
そういえば、私は今めちゃくちゃお腹が減っているのだ。
せっかくな機会だ、このまま昼飯にしよう。
「飯を奢ってくれるってんなら、考えてやらないこともないかな」
車は私の運転のまま、近くのハンバーガー店にまで向かうのだった。
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