TS貧民少女ですがサイバーパンク世界で成り上がります 作:あめざり
ミッドナイトの少し東、一般的には『ミッドナイトイースト』と呼ばれる地域の人気ハンバーガーチェーンにて、私は顔の半分以上もある特大ハンバーガーに齧り付いていた。
「凄い食いっぷりだね……」
向かいの席に座っているヘイジーが少し引きながら私を見る。
なにせ今日初めての食事、その上こっちの世界でハンバーガーを食べた事が無いときた。
16年ぶりのハンバーガー、そりゃこんな食べ方にもなる。
「ほふぇで、ひほぉふひひたひこほが……」
「飲み込んでから喋りな!」
ヘイジーから至極真っ当なお叱りを受け、Lサイズのコーラを手に取ってハンバーガーを胃の中に流し込む。
「それで、一つ聞きたいことがあるんだけどさ」
「何だい?」
「このインプラントについて」
2人が突如黙り込む。
知らない、と言うわけでは無いのだろう。
だが、裏社会の人間が情報を渋る、もしくは恐れる。
そんな代物なことは確かだ。
「CXN-99A、通称『サーペント』。ジャパンの大企業『シノノメサイバネティクス』が作った最新型インプラントだ」
シノノメ……業界の最先端テックを扱っている世界3大企業。
そんなところの最新型?聞いたことも……いや、攫われた日の朝に見た新聞に確か……。
「ただ、アンタのは一般に流通してるのとは訳が違う。ただでさえ高い演算能力が数段階引き上げられてる。人1人の脳で企業のサーバー群とやりあえる……って言えばヤバさが理解できるかい?」
「もしかしてだけど、私は民間用じゃなくて『軍用インプラント』を入れられたって事?」
「その通りだね」
コーラを飲む手が止まる。
ようやく事態の深刻さが理解できてきた。
軍用インプラントはいとも容易く身体を蝕む、言うならばめちゃくちゃ強力な異物が体内に入り込んでいる状態。
侵食を抑える薬もあるにはあるが、それで止められるのは民間インプラントが限界だ。
「しかもそれは脳直結型のインプラントだ。取り外したりしたらどんな後遺症が残るか分からないね」
「ただ……嬢ちゃんみたいに不健康な人間がつけたら身体が耐えられずにすぐ死んじまうはずなんだよ。だから俺らとしても、何で生きてるのか分からないって状態だ」
私は思わず頭を抱えた。
付けてたら死ぬ、外してもダメな呪いの様なインプラント。
だが……だが、だ。
どうせ死ぬのなら、治療法のアテも無いのなら、好き勝手生きてからくたばってやるのもありなのかもしれないと思ってしまう。
「で、こっからが大事な話」
「……それを聞けば寿命が伸びたり?」
「ある意味では、ね」
少しの沈黙を作った後、ヘイジーは話し始める。
「アンタが見たって言う残像、あれは『オーバークロック』だ」
「名前だけ言われても……」
「そう急かすんじゃないよ、アリシア」
「それに関しては俺の方が詳しいんでね。説明は任されたぜ」
そう言ってレックスにバトンが渡る。
「サーペントの特徴は馬鹿げた演算能力、これは説明したな?んで、その演算能力を脳の限界度外視で稼働させるのがオーバークロックさ」
「それと残像に何の関係が?」
「あの残像は言っちまえば未来の景色だ。インプラントや筋肉の動き、脳から発せられる電波、風速や湿度まで全てを計算して、数瞬先の未来を予測してる」
確かに、それなら残像が見えた後の頭痛や疲労にも納得がいく。
一瞬で脳の稼働限界まで動かした代償とでと考えるべきか。
「そんな事したら当然、脳には馬鹿にならないダメージが入る。だから忠告だ、あれは使うな」
「……て言うか使い方分かんないんだよ」
「なら心配無用だな」
ハハっとレックスは笑って見せる。
私としてはどうせなら使ってみたいのだが、まあ大人しく忠告を聞いておくとしようか。
いや、待てよ。
現状確かに打開策は無い……が、コイツらの仕事を通じて情報を集めれば、取り外す方法や侵食を抑える方法を見つけられるんじゃ無いか?
それこそ裏社会のトップまで成り上がって、企業関連の仕事が舞い込んで来れば、シノノメの人間と関わることも可能っちゃ可能なのでは?
確かに可能性は低い、だがその低い可能性に頼って助かる事ができるのなら……乗った方がメリットが大きい。
「なあその、仕事の話なんだけどさ。受けようと思う」
「へぇ……なかなか急だね。けどまあ、そっちが乗り気なら大歓迎さ」
「前金はこのハンバーガーで良いよ」
そう言って私は手を差し出す。
ヘイジーはその手を握り返そうとする……が。
「……手を拭いてくれないかい。アタシの手も油まみれになりそうだ」
自分の手を見ると、ハンバーガーのソースや油でギトギトだ。
ウェットティッシュで手を拭き、もう一度手を差し出した。
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