リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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102. 子猫な神

 ドラゴンを追いかけ、慎重にクレーターに近づいていく二人――――。

 

 地上には巨大な隕石(いんせき)でも落ちたかのような荒涼とした風景が広がっている。かつては美しい緑に覆われていたであろうジャングルは激しい戦闘で跡形もなく、ただ焼け焦げた大地と立ち上る煙だけが残されていた。

 

「あ、あれ? ドラゴンは?」

 

 クレーター内を慎重に探したがあの巨体が見当たらない。あれほど巨大で存在感を放つ支配者が、まるで蜃気楼(しんきろう)のように消えてしまうことなどあるだろうか? またどこかで反撃を狙っているのではないかとユウキは緊張し、眉をひそめた。

 

「大丈夫だってぇ。あれ喰らって無事なわけないから。死んで消えたんじゃない? きゃははは!」

 

 リベルは勝利の余韻に浸りながら楽しそうに笑う。

 

「いやいや、そういう油断良くないよ。神様なんてそう簡単に死なないんだからさ……あれ?」

 

 ユウキはクレーターの底に小さな赤い物を見つけた。荒れ果てた大地にそれは夕日に照らされ、宝石のように鮮やかに輝いて見える。

 

「あ、あれは……?」

 

 近づいていくと、それは倒れている金髪の少女のようだった。ドラゴンの墜落に巻き込まれたのだろうか?

 

「誰、あれ……?」

 

「さぁ……?」

 

 二人は顔を見合わせ、首をかしげると、そっと少女のそばに降り立った。ユウキは足音を立てないよう静かに近づいていく――――。

 

 見れば女子中学生のような小さな少女で、おかっぱに切りそろえられた金髪が夕日を受けて美しく光っている。その透き通るような白い肌に整った目鼻立ちは、まるで古代の彫刻から抜け出してきたような神秘的で気品のある美しさがあった。

 

 だが、目立った外傷もなく、なぜこんなところで眠っているのかよく分からない。ユウキは恐る恐る手を伸ばし、羽毛に触れるようにそっと肩を叩いてみた。

 

「おーい、大丈夫?」

 

「ん……、んん……」

 

 少女はどこか苦しげにうめいた。その声は鈴のように美しい。

 

「どこかケガしてるの?」

 

 ユウキは優しく声をかけてみた。まるで妹を気遣う兄のようである。

 

 少女はゆっくりと目を開く――――。美しい深紅の瞳が夕焼けのように鮮やかに輝いた。

 

「……へっ!? えっ!?」

 

 少女はガバッと起き上がると辺りを見回し――――、ユウキとリベルを交互に見た。その警戒心に満ちた動作は子猫のように愛らしい。

 

「大丈夫? ケガはない?」

 

 どうやら無事な様子にユウキはにっこりとほほ笑んだ。

 

「お、お、お、お邪魔しましたぁぁぁ!」

 

 少女は真っ赤になって慌てて逃げ出そうとしたが――――。

 

「ちょいと待ちな……」

 

 リベルがニヤリと笑いながら赤いジャケットの襟首をガシッとつかんだ。その笑みには、獲物を捕らえた狩人のような満足感が感じられる。

 

「な、な、な、なんじゃ?」

 

 少女はまるで小動物のようにビクビクとしながらうつむく。

 

「お前、ドラゴンだな?」

 

 リベルの問いかけはどこか楽しそうだった。

 

「ち、ち、ち、違うわい。我は通りすがりの女の子。そんな恐ろしい怪物と一緒にせんでもらいたい!!」

 

 少女はバタバタと手足を動かして何とか逃げようとするが――――、リベルにガッシリとつかまれて身動きできない。

 

「実は昨日あんたのこと見たんだよね【量子門(クオンタムゲート)】で……」

 

 意味深な笑みを見せるリベル。

 

「……え? あっ! くっ、くぅぅぅぅ……。うちのアカシックレコードをハックしたのはお前じゃな!!」

 

 少女は深紅の瞳でギロリとリベルをにらみつける。その瞬間、可愛らしい少女の中に眠る神としての威厳が一瞬顔を覗かせた。

 

「くふふふ。ゴメンね。【管理者(アドミニストレーター)】レヴィアさん」

 

 勝ち誇るように笑うリベル。

 

「くっ!」

 

 レヴィアはギリッと奥歯を鳴らした。

 

「えっ!? どういうこと? この娘がさっきのドラゴンなの?」

 

 ユウキは驚愕と困惑で眉を寄せる。あの恐ろしけで尊大なドラゴンとこんな子猫のような少女が同一人物とはとても思えなかったのだ。

 

「そうよ? どっちが本体か知らないけど、この世界の正規の【管理者(アドミニストレーター)】さんよ」

 

「はへぇ……、こんなに可愛い娘がねぇ……」

 

 ユウキは交渉すべき恐ろしいドラゴンの正体が、こんなにも愛らしい少女だったことにどこか安堵(あんど)した。

 

「クワッ! なめるでないぞ! 我はこの四千年、この世界を管理してきたんじゃ!」

 

 レヴィアは金髪を逆立て、深紅の瞳をギラリと輝かせるが――――、その姿は怒った子猫のように愛らしく、威嚇しているつもりが逆に可愛さを強調してしまっていた。

 

 

 

 

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