リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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126. 恵比寿で松坂牛

 ユウキは校門から出て来たケンタを見つけた――――。

 

 自分のために殺されてしまった親友が、今、目の前であくびしながら歩いている。その何気ない仕草の一つ一つが、奇跡のように眩しかった。

 

 ケンタを失ってからリベルに出会い、司佐にいいようにやられ、核の炎に焼かれ、大天使に一泡吹かせて女神を口説いた――――。五万年の悠久の時を経て、今、平凡な日常へと戻ってきたのだ。

 

 ユウキは胸の底から込み上げてくる熱いものに耐えきれず、しばらくうつむいた。涙が零れ落ちそうになるのを、何度か大きく息をついて堪える。そして、震える足で駆け出した――――。

 

「よっ!」

 

 ユウキは久しぶりの親友の肩を叩いた。その感触が、夢ではないことを教えてくれる。

 

「おっ!? お前! 今まで、どこ行ってたんだ? 探したんだぞ?」

 

 ケンタは怪訝そうな顔でユウキを見る。いつもと変わらない、少し心配そうな表情。それがたまらなく愛おしかった。

 

「ちょっと……、海王星……にね」

 

 懐かしい気の置けない友とのやり取りに、ユウキは目頭が熱くなる。声が震えないように必死で堪えた。

 

「海王星? なんだそりゃ? パチンコ屋か?」

 

 ケンタが首を傾げる。その仕草も、記憶の中と寸分違わない。

 

「ま、そんなことは置いといて、どうだ、松坂牛食いたくねーか?」

 

 ユウキは話題を変えた。そう、これからパーティなのだ。このパーティにはぜひケンタも来てほしい。

 

「ま、松坂牛!? 何だよ、どうしたんだよ? そんなん食いたいに決まってるじゃないか!」

 

 ケンタの目が子供のように輝く。食い意地の張った親友は、やっぱり食いついてきた。

 

「よーし、じゃあ目をつぶって!」

 

「な、何だよ、何すんだよ?!」

 

「いいから、早く! 松坂牛が逃げるぞ!」

 

「しょうがねーな。これでいいか?」

 

 ケンタは半信半疑ながらも、素直に目を閉じた。

 

「おっけー! 目は絶対開けるなよ? 食えなくなるからな」

 

 ユウキは空間を裂くと、ケンタの手を引いた。温かい手のひらの感触に、また涙が込み上げてくる。

 

「おいっ! ユウキ、いったいどこに行くんだ?」

 

「いいから、もうちょいだ」

 

 ユウキは楽しそうに、でも声を震わせないように答えた。

 

 

         ◇

 

 

 果たして、たどり着いたのは東京にある恵比寿の荒廃した商店街――――。

 

 多くの廃墟の中に一軒だけ、木造二階建てのこじゃれた建物が温かい灯りをともして客を待っている。まるで、荒野に咲いた一輪の花のようだった。

 

「よーし、いいぞ。ここだ」

 

 ユウキはその店を見上げた。シアンのセンスが光る、素敵な佇まいだった。

 

「え? いったいここは……?」

 

 ケンタは突然の場所移動に目を白黒させている。

 

「いいから入るぞ!」

 

 ユウキは木製のドアをギギギと開き、ケンタを引っ張って入っていく。

 

「来ましたよー!」

 

「おう! 遅かったな。二階じゃ!」

 

 厨房では、エプロン姿のレヴィアが忙しそうに料理の支度をしている。ちびっこながらその姿は、まるでベテランの料理人のようだった。

 

「なかなかいい店じゃないですか」

 

 ユウキはリノベーションした古民家の趣のある店内を見回す。木の温もりが心地よい。

 

「シアン様がどうしてもこの店でやれって……。ここまで再生するのにどれだけ大変だったか……。ふぅ……」

 

 レヴィアは渋い顔で肩をすくめる。シアンにいいようにこき使われてウンザリではあるが、おとりつぶしに遭うことを考えたら安い物ではあった。

 

 と、その時、二階からシアンの声が響く。

 

「レヴィア! ビールまだなの!? 干上がっちゃうよー!!」

 

 まるで駄々っ子のような声に、レヴィアの額に青筋が浮かぶ。

 

「はいはい! 今すぐー! ほれ、これ持ってって!」

 

 レヴィアはカウンターに並べた大量のピッチャーを指さした。金色の液体が泡を立てて輝いている。

 

「うわっ! すごい量……」

 

「何言っとるんじゃ。このくらい一瞬で消えるわ。はよ行け! うわばみがうるさいから」

 

「ん? レヴィア、なんか言ったー?」

 

 シアンの声が再び降ってくる。

 

「いえいえ、今ピッチャーお持ちしますぅぅ! ほら、はよ行け!」

 

 レヴィアは営業スマイルを浮かべながら、二人を急かす。

 

 こうして二人はピッチャーを両手に抱えたまま、ギシギシと音を立てる階段を昇って行った。

 

 

 

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