リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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40. 鋼鉄の暴力

「GO! GO! GO!」

 

 葛城の掛け声が、ガラスの谷間に反響する。搬入口まで、あと僅か。隊員たちの軍靴がアスファルトを激しく打ち、その音が戦いのリズムを刻んでいく。

 

 慣れない短距離走ダッシュでユウキの足はもう限界に達していた。のどが焼けるように痛む。

 

(もう少し……もう少しだ)

 

 その時だった――――。

 

「九時方向! 敵影!」

 

 鋭い警告が、空気を切り裂いた。

 

 見上げれば、紅蓮の機体が太陽を背に浮かび上がる。一機、二機、三機――次々と現れる戦闘アンドロイドたち。赤く輝く装甲が、まるで血に飢えた猛禽のように、ビルの壁面に不吉な影を落としていく。

 

「ちっ! もう少しだってのに……」

 

 葛城の舌打ちには、苛立ちと焦りが滲んでいた。確実に全機倒さないと奴らを連れたままタワーへは行けない。

 

「総員、目標アンドロイド! 狙え!」

 

 号令一下、隊員たちの動きが変わる。流れるような動作でカチャカチャッと自動小銃の安全装置を解除。

 

「てーーーー!」

 

 一斉に火を噴いた。

 

 耳を劈く銃声が、ビルの谷間で増幅される。マズルフラッシュが瞬き、熱い薬莢が踊るように宙を舞う。真鍮の雨がアスファルトに降り注ぎ、カランカランと澄んだ音を立てていく。

 

 タタタタタタ――――。

 

 さすが精鋭部隊である。命中したアンドロイドが次々と火を噴き、黒煙を引きながら螺旋を描いて落下していった。

 

 ドォン!

 

 地面に激突した機体が、オレンジ色の炎柱を噴き上げる。熱風がユウキの頬を打ち、焦げた金属の匂いが鼻を突いた。

 

「ヨシッ! いいぞお前ら!」

 

 葛城が拳を振り上げた、まさにその時――――。

 

 キュルキュルキュル……。

 

 不吉な音が、遠くから忍び寄ってくる。

 

 空気が変わった。歴戦の戦士たちの背筋に、冷たい汗が伝う。

 

(何だ……この音は)

 

 ユウキが恐る恐る振り返ると、漆黒の巨体が、ゆっくりと姿を現した。

 

 十式戦車――――。

 

 黒煙を吐き上げながら、砲塔が優雅に旋回する。百二十ミリ滑腔砲が、獲物を品定めするように、ゆっくりと、確実にユウキたちを捉えていく。

 

「へっ……?」

 

 ユウキの声が掠れる。

 

「せ、戦車!?」

 

 圧倒的な質量。鋼鉄の暴力。それは、小銃など児戯に等しいと嘲笑うかのように、静かに、そして確実に死を運んでくる。

 

「マ、マジかよ……」

 

 喉がカラカラに渇く。膝が震え始める。

 

(これが……本物の戦争なのか)

 

 戦車砲の黒い口が、まるで深淵を覗き込むように、彼らを見つめていた。

 

「くっ! 十式だと!? シャレにならねぇぞ!」

 

 葛城の顔が青ざめる。戦車を止める方法などもはやないのだ。

 

「ダッシュだ! GO! GO!」

 

 号令と共に、一行は搬入口へと疾走する。アスファルトを蹴る音が、まるで死への行進曲のように響いた。

 

 背後から聞こえてくる履帯(りたい)の軋み――キュロキュロという不気味な音が、獲物を追い詰める肉食獣の唸り声のように迫ってくる。鋼鉄の巨獣が、ゆっくりと、しかし確実に距離を詰めていた。

 

 うひぃぃ!

 

 ユウキは涙目になりながら、必死に足を動かす。肺が焼けるように熱く、足は今にももつれそうだった。日頃の運動不足を呪いながら、ただひたすらに前を行く戦士たちの背中を追う。

 

 不意に、戦車の砲塔から白い煙がポッと立ち上った。

 

 それは、死神が静かに息を吐いたような、不吉な予兆――――。

 

 ズン!

 

 百二十ミリ滑腔弾が大爆発を起こす。轟音が鼓膜を破らんばかりに響き渡り、衝撃波が大気を引き裂いた。

 アスファルトが、まるで巨人に殴られたかのように砕け散る。破片が悪意ある雨となって降り注いだ。

 

「ぐはっ!」

 

 衝撃波の直撃を受けたユウキは、糸の切れた人形のように吹き飛ばされる。世界が回転し、次の瞬間、容赦なくアスファルトに叩きつけられた。

 

 全身を貫く鈍い痛み。口の中に、血の味が広がる。

 

「マ、マズい……」

 

 キーンという激しい耳鳴り――――。視界が霞み、手足から力が抜けていく。打ち所が悪かったのか、身体がまるで自分のものではないかのように動かない。

 

「何やってんだ小僧! 急げ!」

 

 遠くから聞こえる葛城の叫び声。だが、それはまるで水中から聞こえてくるかのように不明瞭だった。

 

 立ち上がらなければ。そう思えば思うほど、身体は硬直し、恐怖が全身を縛り付ける。悪夢の中でもがいているような、底なしの絶望感。

 

 くぅぅぅ……。

 

 視界の端で、戦車の砲塔が揺れ、死の宣告として照準を合わせなおしたのが見えた。

 

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