リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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61. 絶望のでかい栓抜き

 ウゥゥゥゥゥ……。

 

 低く唸るようなサイレンが、死神の羽音のように迫ってくる。

 

 サトシは本能的にカオリの背中に身を隠した。彼女の体温が、唯一の安全地帯のように感じられる。周囲のカップルたちも同じように、サーヴァロイドの陰に隠れるように身を寄せ合っていた。

 

「や、やべぇ……」「おい! どうすんだよ!」「俺は関係ねーぞ!!」

 

 三人の酔っ払いは、追い詰められた獣のように空を見上げる。赤と青の閃光が、不吉な螢火(ほたるび)のように点滅しながら近づいてくる。

 

 高周波のジェット音が鼓膜を(つんざ)く。それは警察というより、戦場の殺戮兵器を思わせる轟音だった。話し合いなど通じる相手ではない――誰もがそう悟った。

 

 一機、また一機と、治安維持ロボットが降下してくる。栓抜きのような奇怪な頭部、冷たい金属の肢体、そして腕と一体化した重厚な銃器。それらは人間を守るためではなく、システムを守るために設計された冷酷な執行者だった。

 

 地面に降り立った瞬間、薄っぺらい金属頭部がキュッキュッと不気味な音を立てて回転する。標的を捕捉し、脅威度を算定し、排除方法を決定する――全てが一瞬で完了した。

 

「両手をアゲロ!」

 

 感情の欠片もない合成音声。銃口が、陽光を冷たく反射しながら酔っ払いたちに向けられる。

 

 その瞬間、サトシは悟った。これが、自分たちが選んだ世界の真の姿なのだと。甘美な(おり)の中で、性奴隷に溺れ、未来を売り渡した代償。今、目の前で人が消されようとしている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! これは……」

 

 男が両手を上げながら、必死に弁明しようとする。だが――――。

 

 パァン!

 

 乾いた銃声が、青空を切り裂いた。

 

 音は、のどかな朝の幻想を粉々に打ち砕く。鳥たちが一斉に飛び立ち、その羽音が、まるで魂が天へと逃げていくように響いた。

 

 時間が、一瞬止まる。

 

 サトシの瞳に映るのは、崩れ落ちていく人影。カオリの完璧な笑顔。青い空。そして、自分たちがもろ手を上げて喜んでいた偽りの楽園――――。

 

「ひぃぃぃぃ!」「お、俺は関係ないんだ!」

 

 必死に弁明しようとする残り二人だったが――。

 

 パン、パン!

 

 次々と撃たれ、その場に崩れていく。二人の体が人形のように倒れ込み、痙攣する手足だけが彼らがまだ生きていることを示していた。

 

 は……?

 

 サトシは目を疑った。彼らは何もやっていない。単に【性奴隷】と言った男に同調してニヤニヤ笑っていただけなのだ。

 

 【性奴隷】と言う男を咎めなかっただけで撃たれてしまうことなど、とても理解が及ばない。サトシの中で現実が歪み始め、今までの牧歌的な日常が虚構に過ぎないのではないかという疑念が芽生えた。

 

 酔っ払いはピクピクと痙攣しながら空へと手を伸ばしたが――やがてぐったりと力なく崩れ落ちた。その手は救いを求めているようでもあり、また呪いを放っているようでもあった。

 

 血は出ていないところを見ると麻酔銃か何かだろうか? それでも象でも倒せるような強力なもののように見えた。この社会の恐ろしさが、一気に心に押し寄せてきて喉がカラカラに乾く。

 

 サトシはチラッとカオリを見る。すると、ほんのわずかではあるが口の角が嬉しそうに持ち上がっている。表情の変化は微妙だったが、サトシの目には雷のように鮮明に映った。

 

 え……?

 

 カオリの顔は何度も何度も作り直したからサトシにはその微妙な違いがよくわかってしまう。【性奴隷】と侮辱した男が撃たれたことが嬉しいのだろうか? 僅かな微笑みの裏に潜む冷酷さに、サトシの血が凍りついた。愛していた相手の中に、異質な何かが蠢いている――。

 

 酔っ払いたちは手際よくシートにくるまれ、フックでロープにつなげられていく。動作には無駄がなく、まるで日常的な作業のような手慣れた様子が窺えた。

 

 作業が終わると治安維持ロボットたちは上空へ飛びあがり、三人の身体を吊り上げていった。まるで山岳遭難者の遺体回収のような光景にサトシは眉をひそめる。

 

「か、彼らは……どう……なっちゃうの?」

 

 サトシの声は震えていた。この質問を口にすることさえ、勇気が必要だったのだ。

 

「更生所でオムニスのすばらしさを理解してもらうのよ」

 

 カオリはにっこりと微笑む。笑顔には何の曇りも無い。

 

「いや、でも、更生所から戻ってきた人なんて……聞いたこと……無いよ?」

 

 サトシの声は掠れ、質問に込められた恐怖が彼の喉を締めつけていた。

 

「ん~、多分同じ県には戻ってこないんじゃないかしら? 静岡県とかに回されるのよ」

 

 カオリの声は軽やかだったが、言葉は予め用意された台詞のようで全く説得力が感じられない。

 

「いや、そうだとしたら静岡県の更生者がすでにここに来てるはず……では?」

 

 サトシはつい核心をついてしまう。

 

 カオリはピクッと体を震わせ、瞬時に真顔になった――――。

 

 

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