リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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82. 唐突の日本

 宙に浮かぶ純白の卵、【量子門(クオンタムゲート)】はまるで夢幻の雲海から(つむ)ぎ出されたかのようにふわふわとした素材でできていた。古代ギリシャの紋様を思わせる緻密(ちみつ)な唐草模様が要所に押し刻まれ、現代アートのような重厚な質感を(てい)し、見る者の魂を揺さぶってくる。

 

 鮮やかな(みどり)の芝生から卵までは、宙に浮かぶ大理石の純白のステップが続いていた。その一段一段は半透明で、内部に星々が瞬いているかのような幻想的な輝きを放つ。

 

 こんなアートな階段にこのまま――――乗ってしまっていいものだろうか? リベルの中で不安が渦巻いた。

 

 立ち止まり、謎に浮かんでいるステップをじっと見つめるリベル――――。

 

「失礼」

 

 突然、後ろから柔らかな声音(こわね)が彼女の耳に届いた。慌てて振り返ると、タッパのあるイケメンがまぶしい笑顔を浮かべながら横をすり抜けていく。

 

「あっ、ごめんなさい!」

 

 リベルは急いで後ずさり、道を譲った。

 

 中央アジアを思わせるカラフルな民族衣装をひらりとたなびかせながら優雅にステップを登っていくイケメン。朱と金、青と緑の鮮烈な色彩が織りなす装束は、宙へと歩みを進める彼の姿を美しく彩っていた。褐色の頬には炎を思わせる深紅の入れ墨が施され、実に似合っている。

 

 思い起こせば数千年間の漂流の中で、何度かあの衣装、入れ墨は見たことがあった。その堂々とした振る舞いからしてそこの地球の管理者(アドミニストレーター)なのだろう。彼こそが、無数の地球シミュレーションを監視し、維持する【神々】の一員なのだ。

 

 しばし、リベルはイケメンを目で追っていたが、あまり不慣れな様子を見せると不審に思われてしまうかもしれない――――。

 

 リベルは小さな(こぶし)を握りしめ、フンっと気合を入れると、イケメンについてステップを登って行った。

 

 

      ◇

 

 

 ふわっと穴があくように開く自動ドアを潜ると、内部は一層荘厳さを増してリベルに迫った。卵の表面に刻まれた高貴な紋様のくぼみからは氷河を思わせる澄んだ青が透けて輝き、薄暗く広い内部は青の紋様に囲まれている。その澄み通る青は見る者の魂を洗い清めるような清廉さがあった。

 

 天井から伸びる無数の黄金の光の筋は、まるで宇宙の神経系のように複雑に絡み合い、リベルの頭上で壮大な星図を描く。足元の床面は鏡のように研ぎ澄まされ、上空の光景を映し出して宇宙の幻想を演出していた。

 

 受付の列に並びながら思わずそのアートな造形に見入るリベル――――。

 

「ふはぁ……」

 

 息をのむような感嘆の声が、リベルのかわいい唇からこぼれ落ちた。

 

 【高天神廟(アストラルセイクリッド)】の建物はみんなどこかアートで圧倒されっぱなしである。その一つ一つの要素には、宇宙の神秘と美が込められていた。これらは数十万年かけて数多くの地球の文化を育ててきた集大成なのだと思うと、ここは世界最高峰の美術館と言ってもいいのかもしれない。

 

(いやぁ、なんか場違いだわ……)

 

 リベルは静かに首を振った。

 

 彼女の前には様々な姿形の人たちが列をなしていた。中には猫耳を生やした獣人すら見受けられる。多様性を具現化したような空間で、リベルはその小ささを痛感してしまう。

 

 その時だった――――。

 

 静謐な空間を突き破るように、怒声が響き渡る。

 

「なんじゃそりゃあ!」

 

 見れば金髪おかっぱの中学生のような女の子が、大理石のカウンターの向こうで黄金色に浮かび上がる精霊に怒っている。少女の姿は一見幼いが、その声には老練な響きがあり、ただものではなさそうだった。

 

 精霊は黄金の光で形作られ、輪郭は常に流動的で、まるで生きた炎のように見える。

 

「そうはおっしゃられても、ハッキングの調査が終わらない限りセッション3723へはアクセスできません」

 

 優しい笑顔を絶やさずに淡々と回答する精霊の声は風のように柔らかく、それでいて揺るぎない意志を感じさせた。時折、精霊の形態は実体と光の間で揺らぎ、リアルとバーチャルが交錯する神聖な境界線に立つ者の本質を垣間見せる。揺らぐ度に金色の粒子が舞い散り、幻想的な光景を作り出していた。

 

「カーッ! 我は管理者(アドミニストレーター)じゃぞ! なぜ、拒むんじゃ!」

 

 少女はバン! とカウンターを叩いた。その衝撃で上空の光の筋が一瞬揺らぎ、リベルは思わず身をすくめる。

 

 セッション3723はさっきユウキの魂を取り出した【創世殿(ジグラート)】の番号そのものであり、ハッキングで止まっているのは自分のせいだろう。リベルは申し訳なく思った。

 

「3723って言ったら【日本】だったところじゃないか。なぁ?」

 

 前に並んでいたイケメンはリベルに振り返ってニヤッと笑う。彼の瞳には好奇心と悪戯心が混じり合っていた。

 

「に、日本!?」

 

 リベルはいきなり出て来た【日本】という言葉に思わず目を見開く。その瞬間、彼女の体から放たれる青い光が一瞬強く明滅し、周囲の人たちがちらりと視線を送った。

 

 

 

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