リベリオン・コード ~美しきAIは、禁忌の果実【死者蘇生】を口にした~   作:月城 友麻

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89. 大いなる泥棒計画

「そんなに怒らないで相談に乗ってよ! 例えば……どこかの【創世殿(ジグラート)】? を間借りとかできないの?」

 

「間借り……?」

 

 リベルは眉間にしわを寄せながら、カワウソの言い出したよくわからない言葉を繰り返した。

 

「つまり【創世殿(ジグラート)】ではすでに別の地球が動いてるんだろうけど、ここにひそかに僕らの地球をねじこんで、二つ地球を動かすようにしてもいいんじゃないかなって。だってパソコンだって同じアプリ二つ動くし、ウィンドウ閉じておけばバレないよ」

 

 カワウソは必死に説明した。地球を動かすようなとんでもないコンピューターシステムのことなんて分からないが、その小さな胸の内には、失われた故郷への切なる思いと、犠牲になった人々への責任感が渦巻いていた。

 

「はぁぁぁ、何言ってんのよ。パソコンと一緒にしないでよ! もしもう一つの地球を動かそうとしたらインスタンスをもう一個立ち上げるってことになるのよ? そんなことしたらすぐにコンソールに出てきちゃう……あれ? それはヒドゥン属性をつければ回避できる……。いやいや、リソースモニターで出てきちゃうから直ぐにバレる……ってそれは運用速度をいじれば目立たなくできる……? いやいやいやそんな……簡単な……話……? うーーーーん……」

 

 リベルはユウキの破天荒(はてんこう)な思い付きを否定しようとしたが、否定する言葉の中から、逆に実現可能性が浮かび上がってきてしまう。

 

 腕を組んだ彼女の身体から放たれる青い光が急速に明滅し始め、思考が加速していく。一秒間に何万もの可能性を検証し、シミュレートしているのだろう。

 

 しかし、いくら考えても決定的な問題点は見つからなかった。もちろん低レイヤーから丁寧に洗われたらすぐにバレるが、少なくともここ一万年の間にそんな監査などなかったのだ。

 

「ほらほらほら」

 

 ユウキはにやりと笑う。その小さな顔に浮かぶ笑みには、ケンタにつながる希望の光が映っていた。

 

「何が『ほらほら』よ! 人の気も知らないで!」

 

 リベルはキュッと口を結び、ジト目でユウキをにらむ。確かに慎重にやればできないことはなさそうだったのではあるが、どこかに見落としがありそうで落ち着かない。神様たちだって馬鹿じゃないのだ。

 

「ごめん。悪いとは思ってるよ? でも……可能性があるのなら……お願い……」

 

 カワウソはつぶらな瞳で申し訳なさそうに手を合わせる。

 

「あなたねぇ! 不可能じゃないって言っても、バレたらどうすんのよ!」

 

 リベルは可愛いカワウソの鼻先をつつく。せっかく得た五万年ぶりの平穏な時間を大切にしたい、薄氷を踏むような挑戦は二度とごめんだったのだ。

 

「今だってバレたら大変なんだろ? 一緒だよ」

 

 ユウキはそう言い放って、まっすぐな目でリベルを見つめた。

 

「い、一緒って……。くぁぁぁぁ! 正気?」

 

 リベルは『勝手に地球を立ち上げる』というユウキの正気とは思えない案に圧倒され、思わず頭を抱える。青い光が彼女の周りで不安定に渦巻いていた。五万年の必死の挑戦の中でもこんな大胆なことはやったことがなかったのだ。彼女の直感が警鐘を鳴らしている。

 

「だって僕だけ生き返るなんてズルいと思うんだよ。やっぱりみんなで生き返らないとさ。ふふっ」

 

 ユウキは優しい笑顔でほほ笑む。

 

 そう、ユウキはこういう奴だったのだ――――。リベルは五万年前に惹かれた彼の本質を思い出し、がっくりと肩を落とす。

 

「カーーッ! せっかく平穏な日々を手に入れたと思ったのにぃ!!」

 

 リベルはバン! とテーブルを叩くと、大げさに嘆いた。

 

「ご、ごめん、でも……」

 

 ユウキは申し訳なさそうにつぶらな瞳でおずおずとリベルの顔を覗き込む。

 

「言わずともわかってるわよ! それが【人間】だって言うんでしょ!」

 

 リベルは口をへの字にしてユウキをにらんだ。

 

「まぁ……。カワウソだけどね」

 

 肩をすくめて苦笑するユウキ。

 

 大きく息をつくリベルの碧い瞳には、諦めと共に懐かしさが浮かんでいた。かつてオムニスタワーの屋上で、同じようにユウキの無謀な正義感に付き合った日々が蘇る――――。

 

「あ~あ! ようやくのんびりできそうだったのにぃ……」

 

 リベルは口を尖らせ、ジト目でユウキをにらむ。

 

「ゴメンね。でも、可能性がある以上やらないといけないんだ……」

 

 その可愛い瞳には揺るぎない決意が表れていた。

 

 リベルはそんなカワウソをしばらくジト目でにらんでいたが――――。直後、彼女が纏う青い光がバチバチッと激しく明滅した。胸の中で何かが弾け、長い冬眠から目覚めたように、彼女の心に炎が戻ってきた。

 

「いいわよ? やったろうじゃないの! その宇宙史上例のない大泥棒プロジェクト、決めて見せるわよ!」

 

 握ったこぶしをユウキに突き出すリベル。彼女の瞳には、大きなチャレンジへの闘志が燃え上がった。

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 カワウソは小さなこぶしをリベルのこぶしにこつんとぶつける。

 

「ほんっと、しょうがないんだからぁ。カワウソには負けるわ」

 

「あっ! ちゃんと人間に戻してよ?」

 

「さぁて、どうしようかなぁ~」

 

 リベルはにやりと笑うと細目でカワウソを見る。

 

「もうっ! 意地悪なんだから!」

 

「ごめんごめん、ちゃんと戻すって!」

 

「……。約束だよ?」

 

「だーいじょうぶだってぇ! それぇ!」

 

 リベルはユウキをひょいっと持ち上げると、そのまま空へと高く放り上げた。

 

「うわぁ! なにすんだよぉ!」

 

「ほーら、高い高ーい! きゃははは!」

 

 リベルは楽しそうに何度もカワウソを高く放り投げた。人間に戻してしまったらもうこんなことできないのだ。

 

「もう! リベルったらぁ! うわぁぁぁ、落とさないでよ!」

 

 二人の間に流れる空気は、かつて地球で共に戦った日々を彷彿とさせる凸凹コンビそのままだった。

 

 こうして二人は【創世殿(ジグラート)】のコンピューターリソースを奪って日本を再生するという前代未聞の挑戦に命を懸けることになる。それは神をも欺くとんでもないプロジェクト【大いなる泥棒計画(グレートファントム)】の幕開けだった――――。

 

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