「飽きた──!」
「ぴょ!?」
地球上に突如現れた異次元生命体による侵攻から早120年。人類は生き残る術をもたないまま蹂躙という蹂躙をされ尽くし、一時期は元来の生存圏の約7割を消失した。
だが、突如、唐突に。
侵略開始■■年目の大規模絶滅戦争にて『ソレ』は産まれた。
──魔法。
それは奇跡の御業。神の恩寵。人類の手に偶然舞い降りた逆転の一手。
想像を具現化する力を持った魔法は、初めに一人の少女に宿る。
「飽きた……飽きた…?」
「うん」
「飽きた!?!?」
「そう言ってるじゃん」
高次元から引き出すエネルギーによって、物質の生成、イメージの創造、異次元生命体に対する特攻を有する魔法の力は、たった一人で人類生存圏を侵略者から取り戻し、復興の礎となった。
魔法を扱う少女──魔法少女。人類の希望であると共に、人類には決して扱えない無限の力を発揮する怪物。
人類は、『扱えない』モノを許容しない。その力を、その奇跡を目の当たりにしておきながら何一つとて自由にならない等、許される筈も無く。
「飽きたって何ぴょん!?」
「色々」
「色々じゃ分かんないぴょんッ!!」
「魔法少女やーめた、君もぴょん語尾無しね。アイデンティティは他のところで確保しなよ」
人類が踏み切ったのは、奇跡の『再現』だ。
原初の魔法少女は出自故に人間性が薄く、気分で何をしでかすか分からない。そんなものに人類の存亡を任せる訳にはいかなかった。
『再現』が行われたのは、魔法少女が産まれてたったの2年。2年で人類はその禁忌へと足を踏み入れ───。
「ミーのコレはアイデンティティ確保の為にしてるんじゃないぴょ……んじゃない!君がイメージするマスコットが『コレ』だからそうなってるんでしょ!?」
「え、そうなの?ずっと素だと思ってた」
「これが素ならミーは相当センスのイカれたマスコットになるけどぴょん??」
「……『ミー』も?」
「…………それは素」
「……ふーん、あの時、人類滅亡するって時に…ミーって…」
──奇跡は再び降臨する。
方向性を持たせ、指向性を持ち、管理の出来る様に偽りのカバーストーリーを使い、2年目にして魔法少女は『兵器』へと変化した。
一度は絶滅に追い込まれかけた、人類の底力……いや、狂気が産んだその奇跡は、原初の魔法少女抜きで人類生存圏を全て取り戻す偉業と共に、異次元生命体を魔法生物として『駆除』する段階にまで至る。
次元を超えた戦争が終結し、魔法少女はその能力によって人類の復興に献身し続け、異次元生命体の侵略開始120年目にして人類は以前の姿を取り戻したのである。
「こ、こほん!それで…魔法少女辞めて何するんですか、今どき貴方みたいな人を受け入れてくれる場所なんて何処にもないぴょんよ」
「ハロワにでも行こっかな〜」
「それが魔法少女のやる事なんです??」
「辞めたって言ってるでしょ、もうイメ損の心配も無いし役所に元魔法少女が並んでても許されるっしょ」
「はぁ…そうぴょんか」
「あーうそうそ、嘘だからそんな馬鹿間抜けを見る目で見ないで?」
だがしかし、人類は一つの過ちを犯したまま、その罪業の精算を行っていない。
罪は浄化されず、未だにその形を保ったまま人類の中に根付いている。
魔法少女。
魔法少女とは、人類が辿り着いた罪の果て。理解が出来るはずの無いモノから形だけを学び取り、外殻だけで作り上げた死骸。
「やりたい事が一つあってさ」
「───」
「君が、やりたい事?」
「そうだよ。何かおかしいかい」
「それは……いや……まぁ、先にやりたい事聞くぴょんね」
魔法少女は──不滅の存在であった。
異次元生命体と魔法でしか死ぬ事は無く、魔法の代償を様々な形で支払う事になる。
感情、五感、共感、知恵、自我、肉体。魔法という0から1を生みだす奇跡を認めなかった人類は、魔法には代償が必要なのだと勘違いをしてしまう。
『再現』の途中にその勘違いは混ざり、魔法少女は不完全のままこの世に生れ堕ちて、
「──魔法少女と人間の戦争」
「…………」
「対立煽りって奴?ほら、今のままじゃ魔法少女もやりきれないでしょ」
「人間は人間同士でも恨み合う、魔法少女は魔法少女同士で恨み合う、魔法少女と人間をちゃーんと対立させて〜、いっぱいドッカンドッカンさせたいな!」
「……君は、それを本当に望んで…?」
「『望む』事が出来たなら、きっと」
「……」
──世界は未だに、歪み切ったままだ。
元通りになる為に、元の形を失った。
幸福になる為に、幸福になる理由を失った。
未来の為に、数多の希望を失った。
形も、理由も、希望も失って、残ったのは罪のみに。
「それじゃ、まずは魔法少女同士を対立させよう!」
「本当に悪い方向にはいつも積極的だぴょん……誰か君を叱ってくれないかな…」
「君が叱ればいいじゃん」
「ミーが何言ったって、空っぽの君が変わるぴょん…?」
「──変われるさ、変われなくても変われても、どっちでもいい」
「話が噛み合って無いぴょん!!これだから…はぁ……」
童話から出てきたような、箒に乗った少女は、外気圏にてその真っ白な髪の毛をハラりと舞わせる。
白、というよりは色が抜かれ白髪の様に力なく舞う髪の毛は、みるみるうちに烏髪の漆黒へと染まっていく。
少女はふわりふわり、外気圏から降りていく。
人間では到底生存出来ない場所でも、魔法少女たる彼女にとって顔色を変える程のものでは無い。
「人類の味方も、魔法生物の敵も飽きちゃった。やっぱり青春真っ盛りの子から若いエキス吸わないとね!」
「感性がババアぴょん…」
「私がババアなら君は妖怪ジジイな癖に」
「言うなぴょん」
「ぴょんぴょーん、ごめんなさいぴょんねぇ〜」
「っ、癖だから抜けないんだよ!煽らないでくれるかな!?」
魔法少女の傍にはマスコットが付き物で、うさぎの人形はオトモとして少女に付き添っている。
時には叱り、時には相棒として、親代わりとも言っていい長い時間を過ごしてきた。
「──今年で何歳になったっけなぁ…」
「それは…『アレ』抜きでの話ぴょん?」
「そう」
「ならちゃんと歴史のお勉強するぴょん!君の事はちゃんと本に乗ってるぴょんから」
「…お勉強」
人形は「あ」と失言を咎めるも、時すでに遅し。
やる気をもった少女を止める手段は無く、悲しいかな親代わりと言ってもマスコットである人形に、作成者へ反抗する力は与えられていなかった。
「ふっ……学園に侵入するぞ〜!!!」
「ぴ゛ょ゛ッ゛」
これからは、下らない日々も喜びに満ち溢れた日々も、左程変わらない。
人類は罪を抱えすぎた、人類は罪業に塗れすぎた、そして最後にはその精算すら手放して、人類は人類として背負うべき責任すら放棄した。
ならば──魔法少女の存在意義は。
魔法少女がこの世に生まれた理由すら知らない、存在意義すら知らない人類。
今一度、平和を手にした今だからこそ問おう。
「────」
「魔法少女の、存在意義とは」
「魔法少女が産まれた理由は」
「魔法少女の、その真実を知った時。 君たちは魔法少女に何を求める──?」