──私には、このカオスな状況を受け止めるだけの器量は存在しなかった。
背中を押され、イロモノ集団の中へと突き出され、
「ほらほら、優花さんも挨拶して!」
「どうも…えっと…音寧優花です!」
「ぴょん」
「ん」
「……」
「そ、その…オリテアさんに勧誘されて!魔法少女になる為にここに来ました…!」
「オリテア?誰だ?」
そう言われて目を丸くする、誰だと言われても組織の先輩であるなら、この背後の魔法少女の名前くらいしっているだろうに。
ドクターの言葉を受け、振り向いて──。
拳を後頭部に当て、てへっ。としているオリテアが、スススとドクターに耳打ちをしに行った。
「…報連相すら出来てないんですか……」
「ライブ感…というか?」
「残念だが嬢ちゃん、ウチのは毎度こんな感じなんだ…──許すな、殴れ。俺の代わりにボコボコにしてくれ」
「えぇ…」
「んふふふふっ、今はどうでも良いじゃないですか!栄えある悪の組織の結成ですよ!これからいっぱい楽しい事して、魔法少女をズタボロにして、人類をしっちゃかめっちゃかにして!ひ、いひひひひ!魔法少女の輝かしい姿を目に焼き付け!人類も頑張ってもらって!」
「………」
「そんな不安そうな顔で見つめるな、安心しろ、コイツはこれが正常だから」
「……(安心出来る要素どこ?)」
実感は無いけれど、これで私も悪の組織の一員……なのだろうか?
言ってる事は悪そのものなのだが、何せドクターは本当にドクターみたいな事をしてるし、変態さんはベビーシッターだし、ダークと呼ばれていた少女は普通の女の子だし。
自分そっちのけで遊んでいる子供達の事を見ると、高校生の自分だけが逆に浮いていた。
「音寧優花……ユウカって呼ばせてもらうが、なんでコイツに着いてきたんだ?明らかにヤバい奴って分かるだろ」
「…私、魔法少女になりたいんです、私を魔法少女にしてくれるってオリテアさんが…」
「違う違う、あのなユウカ…願いを叶えたいだけならコイツに言うだけでいい。わざわざ悪の組織なんかに入る必要なんて無いんだよ…。俺は入る理由があるから入ってるけどな、ただの高校生がコイツと関わるのは流石に毒だ」
「人の事毒呼ばわりなんて、酷いですね!ぷんぷん」
「事実でしかないが?」
「………」
ふと、仲の良い()会話を見て思う。
この人達は、どうして悪の組織なんか作ろうとしているのか。今は名ばかりでも、オリテアの発言を誰1人否定していない。
つまり、本気でオリテアの言葉を受け取っているという訳だ。
「──オリテアさん」
「はいはい?」
「…悪の組織を作って、何するんですか。親玉って呼んでる人、明らかにベビーシッターだし……ホントの親玉は貴方ですよね」
「うむうむ、それは…あ、ドクターにもハッキリ話してなかったか。なら、しっかり宣言しておくね?」
この化生がどんな事を言うのか胸をドキドキさせて待ちわびる。
非登録らしき魔法少女が既にこの部屋に3人、配信でいつも見てるから分かるけど、魔法少女は簡単に人間の文明を破壊できる。
私の親友ですら、私を殺すのに小指だけで済む。
さて、どんな返事が来るのか。
やけに脳内が冷静になった私は、どんな理由だとしても『入隊』は断ろうと思う。
魔法少女にはなりたい、でも、悪の組織なんて責任は背負いたくない。
さてさて、どんな──。
「──みんなの願いを叶えたい」
「──」
それは、耳を疑うような発言だった。
よりにもよって、そんな甘い言葉を吐くのか。
「な?コイツと関わってても良い事ないぞ」
「………」
「オリテアさん。みんなの願いを叶えたい──なら、貴方達は一体何を」
「何のために、悪の組織でその願いを叶えようとしているんですか」
「ふむ」
「──何のためにでも無く、強いて言うなら私の為です。私はあらゆる願いを叶えられますが、私の願いは叶えられない」
「私は、私の願いの為に生きてるだけですよ。ユウカさん。その為に人類と魔法少女を対立させます、勿論魔法少女同士も」
「…………」
──確かに、劇毒だ。
自分にとっても、誰かにとっても、世界にとっても、この人は毒にしかならない。
この願いは、想いは理解されないまま、毒として世界に染み込む、そんな予感がした。
「私は人類を愛していると同時に、嫌悪しています。万人の願いを叶えようとはしますが、私は人間が恐ろしくて堪らない」
「元々、世界を救うだけなら私だけで良かったんですよ。私なら、誰の願いでも叶えられる」
「だというのに、人類は自ら魔法に手を伸ばそうとした。最後にはこの惑星を焼き尽くす力まで手に入れて、それでさえ不十分だと嘆く」
「おぞましく、恐ろしく、浅ましく、そしてそれ故に神へ届こうとする種族。なら、その分の試練が与えられるのも道理です」
「──この小さな世界は、人類にとって狭すぎる。私は私の願いと愛を、ただ人類に受け取って欲しいだけ」
頭の中のページがペラりと捲られる。
歴史の本だ、中学高校で学んできた歴史の授業で得た知識が、本のように開かれて──目の前の存在を特定し始める。
彼女の瞳が、表情が、指先の動きまでもが、何一つブレなく映る。甘ったるい言葉に、現実が追いつこうとしているのは何故なのか。
知っている──気がする。いや、誰でも知っている。誰もが知っている、でも有り得ない。
「──オリジン?」
「む、ユウカさんその呼び名辞めて下さい」
「……オリ…テアさん」
「はい」
「……貴方は、なら貴方は…魔法少女を、どんな存在だと思って…いるんですか…?」
「ふむ…『今』は、唯の人類としか」
私は──ついていけるだろうか。
その思考がおかしいのは分かってる、こんな事を考えている場合では無く、必要なのは『帰る』の一言。
何でもない高校生が踏み入っていい世界じゃない、だから言えばいい、帰る。と。
「───」
「……」
「ふふふ、ユウカさん!今は難しい事考えず、楽しい事を先にしませんか?」
「楽しい事…ですか…」
「はい!ちょうどダークちゃんのリハビリもしなきゃだったので、一緒に──」
「『特訓』という奴です!」
だから、結局。
今、間違えた間違えていないじゃなくて。
もう、間違えていたのだと私は気づくまで。
「──めっちゃ楽しそう」
もう暫く、かかりそうだ。
■
魔法って言葉に何をイメージする?
光り輝くビーム?ステッキで敵を叩き潰す姿?空を飛び、魔法少女それぞれの個性的な魔法で敵を打ち倒す!
「──のは、いいんですけど」
現代魔法少女はその点実につまらない。教科書通りの魔法に、型にハマった魔素の使い方、独自の魔法を使うにはある程度の勤務年数が必要……なんなんだつまらな過ぎるだろ!!
ありふれすぎなんだ、全員同じ顔して同じラインで同じモノを競ってる。最早魔法少女という主体は消えて、討伐数だの貢献度だの、そっちの方が主目的だ。
「ダークちゃんのお友達も効率厨だし、なんですかただの威力高いレーザーって」
「……でも…綺麗です…」
「エフェクト造りはそこそこと褒めておきましょう!」
「…うん」
ウチの!悪の組織の魔法少女はそんなことしない!現代魔法少女を片っ端から背景にしてやるぐらいの派手で!強い魔法を使おう!!
つまり、今からするのは──。
「さぁダークちゃん、ユウカちゃん!」
「──オリジナル魔法、作っちゃいましょ〜う!!」
「……」
「わ、わーい?」
尚、ダークちゃんは身体がまだよわよわなので、集中するのはユウカちゃんの特訓に対してですが。
「ふふふっ、ユウカさん」
「…なんですか」
「──ご親友の魔法より、良いものをここで作れると良いですね?」
「───」
「オリテアさんって…ほんっと、最低ですね」
「んふふふふふっ!!」