最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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平穏で安寧の日常:①

 

──6日目。

 

「お買い物、ですか?」

 

「そうぴょん!」

 

いつも通り、悪の組織の親玉兼ベビーシッター兼財務係兼───諸々と色々を兼ね備えた変態兎は、その蠱惑的な服装の上にエプロンを掛けて今日の朝ごはんを作っていた。

和食、洋食、和食、洋食の交代交替で味噌汁やらスクランブルエッグやら作ってる彼女にとって、ユウカが朝から晩御飯まで居着く様になり困っている事があった。

 

「ミーは見た目通り商店街を歩ける格好じゃないし、交通機関も使えないぴょん。だから裏手に作っておいた畑からの収穫だったり、備品とネット通販で朝昼晩と食事を作ってるぴょん。けど…」

 

おたまを握り、味噌汁をユウカとアカアオクロへ配膳し、茶碗に炊き終わったご飯を詰めながら軽いため息をついて、

 

「……ここ、田舎過ぎて通販の配達が先延ばしにされまくるんだぴょん。そのせいで明日のご飯の備えが無いぴょん!」

 

「…そもそもここネット繋がってたんですね」

 

「主が繋げてくれてるぴょん」

 

「魔法とかで出したり出来ないんですか?それかオリテアさんに作ってもらったり…」

 

「前から言ってるぴょんけど、主はそういう事に魔法は使わないし、ミーじゃ創造魔法へのイメージが不足してるから無理だぴょん」

 

「意外と不便なんですね……いただきます」

 

「よく噛んで食べるぴょん!…不便というか、ミーが悪いだけぴょん。ユウカは大気中の魔素からお味噌汁やらお米やら、食べ物を作成出来るイメージが出来るぴょん?」

 

「できませんね」

 

「主から魔法を掛けられたとして、その上から魔法を掛け直したり、解除したり出来る想像は?」

 

「……無理です」

 

「丸っきり主の力を渡されても、ミーじゃ所詮その程度って事ぴょん。だから見た目を変えて買い物にもいけないし、食べ物は作れない。実際に目にしたものですら、尋常じゃない理解をもってしても生成出来ないぴょん」

 

「────」

 

「なのでお使いをお願いするぴょん。はい、ダークちゃんの今日の食事はコレぴょん!」

 

「……ありがとう……ございます、ミーさん…」

 

これだけ苦労させられておきながら、オリテアに文句の1つも言わずに頑張っている姿を見ると涙が滲んでくる。

ドクターとはボロクソに口喧嘩してる所はよく見ているけれど、やはりドクター自身黙々とミーちゃんさんからのご飯を食べているところを見るに、何かと感謝はしているのだろうか。

 

「ミーちゃんさんって…ホントに凄いですね…」

 

「まぁ何もかもあのゲロクソファッキン主のせいぴょんけど」

 

──文句の1つくらいも別にいいか。

前言撤回、これで不満が溜まってなかったら聖母過ぎでドン引いていた所だ。

 

「でも…ミーはそれでも主に遣えるマスコットぴょんから……。アカアオクロもミーのことを嫌いになっても主の事は嫌いにならないで欲しいぴょん」

 

「なんでー?ミーちゃんの事嫌いになんかならないよー?イジワルお姉ちゃんはきらーい!!」

 

「……私もそう思う。いつもありがとうミーちゃん」

 

「ドクターにイジワルするから、あの人嫌い。ミーちゃんは好き」

 

「──」

 

無言で顔面をびしょびしょにしながら、エプロンを取り外すその姿には哀愁がたっぷりで、それと共に喜びを噛み締めているように見えた。

それから味噌汁をすすり、猛暑の中全部屋の扉を開けっ放しにしている事でリビングから見える軒下を眺めていると、草履と着物を着たドクターがのしのしと軒下に上がるとそこで横に寝そべって、

 

「……イカついぴょん」

 

「ですね」

 

「──聞こえてんぞ

 

「「……」」

 

扇子を扇ぎ、丸サングラスをデコまで上げて掛けている姿はいつもカタギに見えはしない。

 

「今日の訓練は無し!って主が言ってたぴょん。だからユウカにはダークも一緒に連れてってお使いの任務をミーから進呈するぴょん!はいコレお使いメモ」

 

「了解です。ダークちゃんは…車椅子、脱却したんですか?」

 

「いいや、ダークはまだ動ける身体じゃないぴょん……。というか体質のせいで基本的に魔法を使おうとする限りずっと寝たきりぴょん」

 

「───…」

 

「でもでも!ダークは今、魔法によって自分で自分を操って動けるぴょんから、お買い物ぐらい出来るぴょん!」

 

それはしていいものなのかと困惑するも、隣に座って毎度変わらない流動食をちゅーちゅーと吸っているダークは、ユウカに顔を向ける。

そして、食事に使っていない方の手をブラブラとさせ、操り人形の様な動きでユウカの頬に触れた。

 

「うごけ…るよ…」

 

「…ダークちゃんは、一緒に私と買い物に行きたいの?」

 

「……うん」

 

「そっかぁ…なら、一緒に行こっか」

 

「うん」

 

ほんと、目を離した隙に溶けて消えてしまいそうな子なのに、この中で一番元気なのはダークなのである。

訓練の行き帰りや、昨日の戦闘の帰りになんかは手足が取れた状態でミーちゃんさんと一緒に帰ってきた。よくもまぁそれで、今日になれば元気にご飯を食べれるものだ。

 

返事を返したダークは再び流動食を吸い続ける…モルモットの食事風景を想起させる状態へと戻る。ユウカはふと、この市販のゼリー飲料のようなミーちゃんさんのお手製流動食はどんな味がするのかと気になって、

 

「……?」

 

片手で頬杖をついて、『貸して』のジェスチャーをする。

頭の上にはてなマークを浮かべながら、手に持っていた流動食を手渡した。

 

「…(あれだけ必死に啜ってて、殆ど減ってない…!?)」

 

──本当にモルモットみたい。

動画で見た、小さな葉っぱを全力で食べるモルモットでも、少しは葉の形を無くすくらい頑張って食べていたから、ダークはそれ以外。

飲み口に唇を添えて、彼女の取り分を取りすぎないよう軽く吸う。

 

「……」

 

「……?」

 

「………??」

 

「────!?!?!?」

 

無味のぐにゃぐにゃしたゼリーが舌の上に乗ったと思えば、爽やかなグレープフルーツの味がした……かと思うと、感じる味はレモン風味へと切り替わり、次はぶどう、次は桃、次はイチゴ。

 

味覚は千変万化のゼリーに困惑しながらも、何故かどれも鮮明に感じられるオーパーツゼリー飲料に目を丸くする。

 

「な、なにこれ」

 

「ミーが魔法で作った奴ぴょん。一袋で大量のビタミン類と栄養素を補給して、しっかり飲み切れば食物繊維もたっぷりな──」

 

「…………なんでコレを作れて、食料品は作れないんですか!!?」

 

「それは…あー、これがミーの幻想と夢想を詰め込んだ、ほわっとしかイメージしてない、あったらいいなって心の底から願った……所謂『オリジナル魔法』って奴ぴょん」

 

「……おいしいです」

 

「うん!ありがとうぴょん!」

 

確かにこれは、ダークが必死に啜るだけあるなとダークに返却し、同時に魔法の使い所はこの人はこの人でイカれてると思うユウカなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『──行ってきます』

 

『気ぃつけろよ、ダークが体調崩しても俺らはワープ出来ねぇ』

 

『はい。私が何とかします』

 

『ん、頼んだ』

 

 

 

──電車の中で隣に座るダークに、視線が集まる。

 

「……」

 

黒いワンピースと麦わら帽子が、濡鴉の様な髪を持つダークにはよく似合っていた。

一見すれば、何処かの令嬢かと勘違いする程に纏まった雰囲気を持つダークに比べ、ジーパンとラフな白Tを着る自分。

不釣り合い?身長が割と高めで、175を超えながらも女と勘違いされる華奢さのせいで、どちらかというと……護衛?

 

「…………」

 

魔法少女による力場生成での集団移送、人力車バスと揶揄される魔法少女タクシーは、ダークにとって身体の負担になるとドクターから忠告を受け、電車に乗り込んだ。

 

「……気分は大丈夫?」

 

「うん」

 

電車は電車で揺れが大きい。久しぶりに乗った自分は軽く酔いかけている。

 

「田舎も田舎だったんだなぁ…」

 

小さく、周りの迷惑にならないようボヤく。

悪の組織の第一支部がここまで田舎在住だとは、しかも第一支部なら本部がある筈なのに、本部に関して誰も口にしない謎がある。

 

もしやそんなもの無いのでは?と思いながらも、正直あの家が物凄く気に入ってるので下手に移動したくないのが本音。

 

「……あと二駅」

 

「……」

 

「──」

 

──なんというべきか。

 

平穏?昨日死にかけながら戦ったからそれはないか。ほのぼの?やってる事は悪そのものだし。

 

でも、平穏でほのぼのとしている。色々都合が悪い所に目をつぶっているといえばそうだが、なんというか、以前より生きていて辛くない。

 

前は幸せな事があったとしても、すぐに不幸な思考へと切り替わってしまったり、平時脳みその機能が早く停止しないかと思っていた。

いつどんな時でも、思い出が、過去が、棘をもって突き刺さる。

 

今は───目をつぶっても、何も。

 

「…………」

 

昨日は家にすら帰らなかったな、テスト週間なのにすっぽかしてるな、そうやってちょっとは頭に思い浮かぶものがあっても、何も感じない上にすぐ霧散する。

 

「……魔法少女になって、良かったなぁ」

 

またポツリ、そう零す。

魔法少女になるという夢を諦めないでよかった、叶えられてよかった、そればかりが思い浮かんで気分を良くする。

 

幸せな時間はすぐ過ぎると言ったもので、ずっと幸せだからこそずっと毎日が早く感じる。

 

「──降りよっか」

 

「うん」

 

手を差し伸べ、電車を降り駅から出る。

木、木、木、木、何処までも木しか無かった場所から、ほんの少し人気と建物が並ぶ町へと足を踏み入れて、

 

「…それでも田舎過ぎ」

 

駅から徒歩五分以内にコンビニが無いのは流石に……と、割と都会住みのメンタリティなユウカは炎天下の中を練り歩く。

『シムーン』無毒化バージョンで涼しい風でも吹かせられないかと一瞬考えるも、ああ、暑さで頭がやられてるな。そう自覚できるくらいには馬鹿な発想だった。

 

「えーと、米の直売所と…八百屋と…スーパー…」

 

「小松菜、ミートボール?アカちゃん達のか。白ネギ白菜…豚バラに鶏団子、今日は鍋かな?味噌とみりん…塩…ほんとに全部無いじゃん」

 

「酒?……ドクター…」

 

「トイレットペーパーにティッシュ。……1人で持ちきれるかなぁ」

 

「私も、持つよ」

 

「持てるの?」

 

「うん」

 

「じゃあ……後でお願いしよっかな」

 

後ろ手を掴んでヒヨコの様に付いてくるダーク。

この暑さの中よく平然と──いや、麦わら帽子に何か細工がされてある。

きっとミーちゃんさんだろう、こうやって魔素の痕跡を感じられる様になったのも、オリテアによる自傷訓練の賜物というべきか。

 

メモの内容を逐一確認しながら、ユウカが最初に足を運んだのは米の直売所。道とは言い難い草の生えた道に佇む小さな小屋だ。

 

小さな風鈴と、お金を入れるだけの箱、そして袋詰めされた米が並ぶ無人の直売所には、田舎故の信頼を感じとれた。

 

「凄いな…こんな所来なかったら、知らなかったかも」

 

「──ん?」

 

──それでも世は常々、悪意が現れるもので。

 

「……」

 

「ダークちゃん、今の人…」

 

直売所からコメを持ち去った老人は、お代をお代箱に入れた気配が無い。

俗に言う…万引きという奴だろう。

 

「お金、払ってません」

 

「……」

 

「お金…払わないと、ダメです」

 

「んえ!?っ、ちょっとダークちゃん…!」

 

背後から魔法を使う気配を感じ取り、慌ててダークを抑止しようとする。

確かに腹が立つが、それでダークの体調が崩れれば最悪……お使い全てを捨てて帰ることに……。

 

「ユウカ」

 

「──お金。あの人は払わなくてもいいと、思いますか?私は、ユウカが止める理由が知りたい」

 

「───」

 

「…止めてごめん!やっちゃえ!」

 

「ふふ、うん」

 

──ダークの影がするりと伸びる。

それは粘液の様な、触手のような、それが伸びた先は老人のポケットで。

わざわざ目立つ尻ポケットに長財布を突っ込んでいる彼から、影の触手は財布を盗み取る。

 

「おお…!」

 

「お金…3200円…」

 

札しか入っていない長財布に、おどおどとしながら1000円札を4枚抜いて、お代箱に差し込むとダークは再び影をのばし、老人のポケットに財布を戻した。

 

「…偉いね」

 

「ちょっとだけ、多く取っちゃった…」

 

「大丈夫大丈夫、手数料って事にしとこ?」

 

「うん…!」

 

上機嫌になったダークの手を握り、ミーちゃんから託された財布を開けてお代を入れ、精米を抱え上げてから──気づいた。

 

これ、確実に買い物の最後の方が良い。絶対。

 

ダークの魔法に気を取られて、つい買ってしまったが、こんな重たいもの最初に買ってどうする。いや…最初に買いに行ったから万引きを防げたともいうが、これをずっと運ぶのは流石に──。

 

「馬鹿」

 

自分の掌をおでこに当て、覚悟を決める。この覚悟の決め方は昨日の比では無く、闘志を込めた最大級のもの。

初手のミスにより、炎天下の中5kgの米を運ぶ過酷なミッションが唐突に発生し、げんなり。

 

「はぁ………」

 

「───」

 

「やるか……!!!」

 

重い米袋はそのまま道のりの辛さに加わって、絶望を振り払い最初の1歩を踏み出す。

 

──1歩、踏み出して。

 

 

「──優花?」

 

 

「え?」

 

 

──絶対の、絶対の絶対の絶対に、絶対に聞こえてはいけない、有り得ない声。

 

それが、視線の先から聞こえてしまった。

 

 

「祐奈…!?」

 

 

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