最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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平穏で安寧の日常:②

 

──有り得ない、絶対に有り得ない。

どんな偶然だとしても、どんな奇跡だとしても、こんなピンポイントな偶然と奇跡が起きてなるものか。

 

「──心配した」

 

「凄く、凄く。凄く心配した」

 

「毎日通る通学路に、優花が居なかった」

 

「毎日毎日、褒めてくれるのが…無くなって」

 

「………」

 

「詳しくは聞かない、でも、無事で良かっ────」

 

彼女は優しげに、憂う顔をしていた。

それでも私は、どうしても顔を逸らしたくて、目をつぶりながら反対方向を向く。

 

「……───」

 

──ユウナの目が大きく開かれる。

ユウカの背後、ぼうっとした表情をしている黒ワンピースの少女に見覚えがあったからだ。

 

「その子」

 

「誰」

 

「ぅ…だ、誰…って言われても…」

 

「最近、優花が顔を合わせてくれなかった。それから失踪して…──全部その子のせい?」

 

「ッ!なんでそんな事言うの!?」

 

「指名手配犯だから」

 

「は」

 

「北海道で起きた盗難事件。呼称『魔法少女アヤネ』による補給所に輸送されたNo.1のデータの盗難」

 

「なんで──犯罪者と優花が一緒にいるの?」

 

──やばい。

やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。

ここで戦っても勝てない。ユウナは本物の魔法少女で、本物の天才だ。私なんかじゃどうしようも出来ない、ダークちゃんを守れないどうしようどうする、ミーちゃんさんは呼べないドクターも来れない。

 

──詰む。

それは不味い。ダークちゃんがまさかそんな事件を起こしていたのか、それよりもなんでユウナがここに居るんだどんな確率だ有り得ないだろ。

 

──逃げろ。

逃げる?逃げろ、100000%勝てない。逆立ちしても、地球がひっくり返ってもユウナにはまだ勝てない。配信で見てきた、ずっと見てきた、生まれてからずぅっと、ユウナを見てきた。

 

「そ……れは…!」

 

──ダークちゃんを、見捨てて?

 

「……!」

 

「っ、ダークちゃん!盗んだってほんと!?」

 

「………わからないけど、私は…お兄さんを悲しませてる」

 

「ほら」

 

「待ってッ!!──ダークちゃん、分からないってどういうこと?なんで分からないか話せる?」

 

「……私は、レンカに…ソレをあげるために盗った。と、思う…」

 

「レンカ…」

 

──脳裏によぎる、あの家での会話。

 

『レンカ……銀城恋歌か…?』

 

「───」

 

考えろ、どんな嘘をつけば乗り切れるか。

この場所で、このタイミングを乗り切る為の嘘を吐き出せ。

 

「銀城、恋歌」

 

「……?」

 

「ダークちゃんは、夜中にコンビニに行った時…ボロボロになって倒れてたんだ。それを助けたのが出会いで、今色々お世話してる」

 

「どうやら銀城恋歌って魔法少女に暴行を受けてて逃げ出して来たんだって。今聞いたけど盗みもさせられたんだと思う」

 

「名前も分からないさは、真っ暗闇に真っ黒なこの子が倒れてるからダークちゃんって呼んでるんだけど……」

 

「──何というか、こんな何も知らない子がボロボロにされてるのなんて理由があると思っててさ、ダークちゃんが遠いところに行きたいって言うから…全部一旦置いといてここまで来たんだ」

 

「────」

 

「………」

 

「………優花は、その子に騙されてる」

 

「今騙されてるとしても私は身体中傷だらけで…死にかけのダークちゃんをあの時に見捨てないし、それは今も同じ。銀城恋歌って魔法少女がダークちゃんに何をして、何をさせたのか分かるまで私はダークちゃんと逃げ続けるよ」

 

「…………」

 

「………………」

 

「……はぁ」

 

「……うん。分かった、今は何もしない。優花がそういうなら少しだけ考える」

 

──通った。

誰でも分かる嘘で塗り固めたストーリーだ、隅をつつけばホコリが舞う様な作り話で、何とか納得させられた。

 

誰に嘘をついても、何にも痛まない卑劣な心は、彼女の前だけ仕事をする。

ズキリと痛む胸が、抉り出しても止まらない苦痛を訴えていた。

 

他でもない、彼女だけに、私は──。

 

「ユウカ」

 

「っ?ど、どうしたの、ダークちゃん」

 

「その人は…お友達、ですか?」

 

「…うん。親友だよ、大切な」

 

「──親友」

 

「……」

 

「ユウカの親友…お友達…なら、一緒にミーさんの任務、したいです」

 

「え」

 

「うん?」

 

「まだお使い、終わってません」

 

「「───」」

 

なんともベタな、口説き文句だ。

どうすれば嘘がバレないのか、それだけでしか思考出来なかった人間とは大違い。

あれだけ張り詰めていた敵意が、みるみるうちに萎んでいく。その場しのぎでしか無かった嘘が、途端に『妥協』の材料になった。

──何をするでもなく、自分がどんな人間であるのかを理解して貰えるなんて、

 

「………仕方ない…か」

 

「優花、私もそのお使いについて行ってもいい?」

 

「あ、ああうん。仕事は大丈夫なの?」

 

「今日ぐらい、無断で休んでも大丈夫。それにどうせこの遠征に時間を使うつもりだったから」

 

「…それならまぁ、ダークちゃんもそう望んでるし…」

 

「──警戒は解かないから、ね」

 

 

 

 

 

 

 

「アヤネ、かき氷食べる?」

 

「うん」

 

「──優花、ちょっと買ってくるからアヤネの事ちゃんと見ててね」

 

──いつの間に私とユウナはダークちゃんの親になったのかな???

 

「……」

 

ユウナの変わり様は、流石の私でも困惑する程で、1歩間違えれば首をはねとばされる関係からOLママの一人娘みたい関係になっていた。

さっきまで、道を歩く時は片手を私と繋ぎ、もう片方をユウナに繋ぐという凡そ家族関係にある人間同士しか許されない道の塞ぎ方をしていて、

 

「………なんか丸く収まったぁ……!」

 

大きなため息をつき、安心を口から吐き出した。その場限りの適当な文言は時間が経てバレる──筈なのだが、今はそんな事どうでも良さそうにダークちゃんへ貢ぎまくるユウナを見ていると、複雑な気持ちになる。

 

「良かったね、ダークちゃん」

 

「わたがしって、こんな味なんだ…!」

 

「…──(なんかこっちもこっちで餌付けされてない?)」

 

今は丁度八百屋で買い物を終え、道途中にあった駄菓子屋からユウナが大人の買い占めをしまくっている。

魔法少女としての活動で莫大なお金が入ってくるらしく、親に大部分を渡しても尚、貯金額は4ケタ万円に届こうとしているらしい。

 

とにかく、丸く収まった。一触即発の緊迫は、凌ぐだけでもゲボを吐きそうだったし。

 

「アヤネ、シロップはイチゴで良かったかな?」

 

「うん」

 

「……綿菓子、初めて食べたって聞いた時はびっくりしたけど…今までどんな食生活をしていたの?」

 

「おにぎりと、コロッケ…です」

 

「……それと?」

 

「……?」

 

「え?」

 

「──??」

 

「……1日に、おにぎりとコロッケ…だけ?」

 

「はい」

 

「──どれくらいの…間…」

 

「ずっと、です。私は、魔法少女になっても不完全だったので……ご飯は食べないと」

 

「──────」

 

ユウナが珍しくこめかみに指を当て、見た事もない顔をしていた。

そうだ、私もダークちゃんの身の上話は聞いたこと無かったなと、オリテアに拾われる前の生活を聞いてみる。

 

私とユウナの2人に捕まり、ダークはプラプラとぶら下がる形になっているというのに、重さを全く感じない。

この細い細い身体に内臓がちゃんと入っているのか、そもそも何故魔法少女になっておきながらこれだけやせ細っているのか、ユウナは更に天を仰いで頭痛が痛そう的な顔をしていた。

 

「私の…拾われる前……」

 

「えっと────」

 

 

スーパーまでの道のりで、かき氷を食べながら麗らかに話すダーク。

正反対に、私とユウナはこの世の地獄の様な話を聞いて、

 

 

 

「「………………」」

 

 

 

もう二度と、ダークの過去話はしないでおくことを心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──買い物を終えて、夕方。

 

焼き焦がす様な暑さから、ほんの少しだけマシになり、日差しに殺されない程度には落ち着いた野外で、沢山の荷物を魔法で浮かせるユウナはユウカとダークに目を合わせ、軽く涙腺が緩んでいる。

 

「──ありがとう、ダーク。今日1日…楽しかった」

 

ユウナの『アヤネ』呼びも、ダークに一度正されてからは直していた。

銀城恋歌がしてきた事が事実であるなら、そちらの呼び名の方が良いと気を使ってくれたのだろう。

 

「銀城恋歌については……結局、貴方の証言しか彼女の罪を認めさせられるものは無いし、盗んだ実行犯は貴方という事実は変わらない。だから色々と証拠を見つけるまで優花を頼っていて欲しい」

 

「──レンカなら、捕まりません。私を殺しに来てくれるって、約束してるので」

 

「……No.3に最も近いと言われてる彼女に命を狙われておきながら…──ん、ダークがそれでいいなら、私も全部に目を瞑る」

 

ユウナが持っている杖を振ると、ふよふよと浮いていた荷物がユウカの手元に落ち、大量の荷物が入ってるにしては軽すぎるミーちゃんのマイバッグにはユウナの魔法がかけられていた。

 

悠々と使用している魔法も、そこら辺の魔法少女が何十年特訓してやっとのものだ、今ならそれが分かる。

 

配信で見ていた時は『凄い』だけで終わっていた、ユウナ・バレンタインという魔法少女への賛美は一転。

 

魂を焼き尽くす嫉妬が、喉元から溢れ出しそうになった。

 

「でも、優花の事頼ってもいいけど危険には晒さないで欲しい。優花は普通の人間だから、魔法少女同士の争いに巻き込まれたら即死する」

 

「それは──……そう、だね…」

 

──ほんのちょっぴりモヤモヤする。

プライドというものは実に邪魔で仕方がない、事実を受け止めるだけでストレスを貯めては仕方がないというのに。

 

仕方ないから咳払いを挟み、ユウナへ向けて「さぁ帰った帰ったー」と、明日の仕事についても「頑張って」と慰める。

ユウナにとっても今日は楽しい休日となったと思いたい、ワーカーホリック気味のユウナは、私がユウナ自身がしている事の凄さを認めさせてあげないと、いつまでも働いてしまいそうだ。

 

「……本当に、今日は楽しかった。もう帰るけど、また一緒しても…いい?」

 

「うーん、私はいいけどダークちゃんが…」

 

「大丈夫です。ユウカの親友なら、いつでも」

 

ダークの言葉を受け、杖をステッキに変化させ、空を飛ぶ準備をし始めるユウナ。

 

本来必要無いのだろうけれど、一応法律で認定されている魔法少女は空中移動に対しての規則があるらしい。

 

帰って──ミーちゃんさんに晩御飯を作ってもらおう、沢山3時のおやつを食べまくったダークちゃんには、帰ってから吐き戻す作業をする羽目になるのかもしれないが、

 

「バイバイ、ユウナ。また今度」

 

「うん。また今度ね、ユウカ」

 

 

──互いに手を振って、互いにとっての1日を終えたのだった。

 

「……それと、ユウカ」

 

「ん?」

 

「事情は分かったから、無茶だけはしないで。私からも優花のお母さんと学校に優花が───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて」

 

 

 

 

 

 

 

 

──自分でもびっくりした。

暗く暗く、底冷えた声。拒絶がそのまま音を立てて零れ落ちた、絶叫。

 

いつもなら流していた、いつもなら右から左へと、「ありがとう」とだけ言って終わっていた。

 

ジクジクと心の臓を這い回る苛立ち、初めてユウナに見せる憎しみの目、ずっと隠してきた自分の醜さが、軽い拍子に漏れ出して、

 

 

「────」

 

 

多分、一番苦しんだの自分だと思う。

ごめん、という前に喉が詰まる。次に掛ける言葉が見当たらなくて、頭が真っ白になった。

 

楽しくない時間は遅く感じるとはよく言ったもので、一秒?一分?一時間?

引き伸ばされる体感時間が、無限とも言える後悔を腹から沸き上がらせ続ける。

どうしようも無いほどの、自分の中に潜んでいた苛立ちを晒してしまった私は、

 

 

「───お母さんには、何も言わないで」

 

 

ただ、謝る事も何もせず。

 

無言でユウナが立ち去るまで、私は無限の苦しみを味わい続けた。

 

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