「めんどくさい──!!」
「ぴょっ!?」
田舎外れのボロい一軒家で、ノースリーブのワンピースを着た少女が軒下で足をバタバタとさせている。見た目は齢10才そこらの筈が、妙に体つきが良く、纏う雰囲気は成熟しきっていた。
そんな少女が「わー!」と叫びながら、お盆に置いてあるサイダーを手に取って飲み干す。
不満、面倒、よく考えれば人類なんていつかは勝手に争い始めるから手を出す必要なくね?そんな感じの足バタバタ。
「めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさい〜、てか暑い」
「…暑すぎるぴょん」
「太陽消そうかな」
「それは辞めるぴょん!?」
対立煽りがしたい、というか魔法少女が昔みたいに必死に頑張ってる姿が見たい。
なんか今はアイドル営業してる魔法少女も居るし、対魔法少女用の薬品やら兵器やら作られてるから不滅の存在とは程遠く、簡単に死ねる。
「コレ見てよ〜…」
「なになに、『小学校生の今年なりたい職業ランキング』?……魔法少女第三位!?!?」
「なんか目を離してた隙にすんごい事なっててビックリ」
「いや……コレ…今はそういう時代なのかぴょん…?娘が将来アイドルになりたいって言ってる〜みたいな……」
ぴょんぴょんに手渡したスマホには、小学校低学年のなりたい職業をアンケートした結果が載っていた。
魔法少女、堂々たる第三位。100年前には戦争の道具としてしか見られていなかった魔法少女が現文明では随分と持て囃されたものだ。
実にけしからん!私はこういうのに対して普通に老害である。魔法少女はもっとこう、血と泥に塗れて希望の見えない明日に、ちぎれた腕と脚を魔法で形作りながら、「それでも」と前に進むべきなのである。
「今ではアイドルよりランキングが上、ですか」
「…第二位がパティシエで第一位がVTuber……魔法少女より第一位がコレな方が問題じゃないかぴょん?」
「んー……まぁ、時代の流行りがトップに立つのは不思議でも問題でもないんじゃない?」
「──この国の未来を憂うぴょん」
「VTuberになってもいいな〜、なりたーい。配信してストリーマーになりたい、スパチャで生活したい」
「ババアの癖して感性がニートの若者過ぎるぴょん!?むぎゅぅっ!?」
ババアババア煩いコイツはほっといて、まず対立煽りをしたいというのなら──現代の魔法少女に対する認識から改めさせる必要がある。
魔法少女はこんな消費型コンテンツでも、国の下の公務員みたいなものでもなく!空飛ぶ市役所でも無い!
魔法少女は!魔法少女であると!!
「もっとキラキラして、もっとギラギラのメラメラ、次のランキングは一位を取る!」
「世界がひっくり返るまで荒らし回し、魔法少女が更に輝ける世界へと変えよう!!」
「そうすれば──次の子供達のアンケートには、魔法少女しか載ってない。私が、退屈な授業で居眠りしなくてもいい世界に変えるんだ!!歴史の教科書をボーッと見つめる少年少女達よ!立ち上がれ!」
「あがが……はひゅへんだへひふといかれたひょういくねっひんのあくのおやひゃまぴょん(発言だけ聞くとイカれた教育熱心の悪の親玉ぴょん)」
「ふふふ、100年先、私の作った歴史に子供達が釘付けになってくれると嬉しいな」
「ぶへっ──こういうタイプで主目的が『教育』な事があるのかぴょん……」
──という訳で。
認識を改めさせる、それは魔法でも可能だ。
というか魔法にできないことは無い、全人類の頭の中をいじくって私が求める世界にしてもいい。
だけどそれは余りにも、あまりにもだ。
そんなことをするなら、私は自害する。魔法少女はそんな事しない、もっとキラキラとドロドロ、ついでにケミカル〇を混ぜたような自然な対立を産まなくては。
ならばどうするか。
「こうします」
「ぴょ…」
ぴょんぴょんに手をかざし、形を変化させる。
私の下僕なので幾ら乱雑に扱ってもいい、最後には元通りにするから許してね♡。
「ぴょん!?!?」
「な、何コレ!?何したぴょん!?」
「おー、やば。あざといな、あざと可愛すぎる」
対立煽りには、まず対立する相手を作らねば。
私が矢面に立ってもいいけれど、一個人に対する悪感情には限度がある。それに私は魔法少女の傍で絶望に抗う姿をじっくりと観察したいので無しだ。
なら組織だ。組織を作ろう。未来永劫魔法少女という存在に対してのアンチテーゼを持った、人類の敵対組織、悪の組織を。
「ミーの身体がぁ……」
「おぉおお…!素晴らしい、一人称ミーなのが特に」
「こんのクソババア…!!」
ぴょんぴょんにはそんな悪の組織の親玉になってもらいます。
イメージカラーは勿論黒、ぴょんぴょんは兎の人形なのでモチーフは不思議の国のアリスにしよう。なので髪は金髪、瞳は青と赤のオッドアイ、人形さんみたいに整った顔とちまっこいサイズ感!
後はバニーガールの衣装を着させて、胸は…勿論盛る!画面映りがいいからね。ダイヤの柄が入った黒ストッキングに〜、うさ耳は肉体を変化させて付けるか衣装として着せるか審議。
──脳内裁判の結果生やしまして、ついでにシッポも。最後に逆バニーの肩から腕にかけての衣装を、もう少し健全に、ぴっちりでは無くゆるふわなThe・悪い魔法少女みたいにして……。
「はい終わり、よっと…鏡で見てみなよ」
「ぴょん……ぴょん…!?こ、コレは…!!」
「どうどう?結構自信あるんだ!ぴょんぴょん審査員の点数は〜?ダラダラダラダラダラダンッ!」
「…魔法少女に夢見すぎ、君の性癖出過ぎ、お昼の放送に映せない、この姿に暴力行為は普通にクレーム」
「─────」
「審議の結果、マイナス100点ぴょん」
「─────」
「見た目で加点1000000点ぴょん」
「やったぁぁぁぁぁ!」
──採用!!
一撃でOKを貰ったのは久しぶりで、思ったよりもぴょんぴょんに刺さったらしく、頬を赤らめながら自分の身体を何度も確認している。
完璧だ、完璧なキラキラ悪の魔法少女。
親玉の設定は練らなくていいや、適当に『今の魔法少女の体制に不満がある』とかで、大衆がおおまかにイメージしやすい敵対者。
「けど…このクソ暑い日にこの衣装は馬鹿ぴょん、ミーの身体でステーキ焼きたくないなら早く戻せぴょん」
「…………えぇ」
「えぇ、じゃない」
「…………可愛いのに」
「…………可愛いくてもぴょん」
「まぁ戻さないけど」
「……」
「ぴょんぴょん……いや、ミーちゃんにはこれから大切なお願い事をします!」
組織、と言うからには人数が必要だ。
悪の魔法少女が幹部を務めていたり、部下の人間が街中で魔法生物に変身したり!そういうのが必要。
ただ…私が完全な無私の人間、私の要素が全く混ざらない人間を作って組織で働かせたとして、そこに『ドラマ』は存在しない。
私が求めてるのは……ぽっとでの悪の組織、しかしその内実は現代社会の歪みの犠牲にされた者達だった…!みたいな。
何でも出来る力があっても、何でもかんでもやりたくなるかと言われれば別の話。モチベーションを保つ為にも薄暗い過去は必須。
「ミーちゃんは、悪の組織の親玉です!能力は肉体変化、異次元生命体…魔法生物を女体化させて組織に従えさせてる設定ね。私の力をその姿だったら使えるようにしてあるから」
「──女体化」
「今の魔法生物って見た目クリーチャー過ぎてさ、敵役として映なさ過ぎなんだよね。適当に引っ捕まえて、ミーちゃんのセンスで良いから魔法少女みたいな見た目にして手駒集めといて」
「捕まえてどうするぴょん、アイツら侵略以外の思考能力が無いのに」
「人間性を持たせます。人間性、慣れ…共感性とも言うべきかな?貪欲にリソースを求め続ける奴らの本能と、人間の理性がくっついた時に……」
どんなドラマが、どんなリアリティある劇が産まれるのだろう。
──愛を送った相手が、もしも人間を模倣しただけのAIだった時、人間はどんな顔をするのかな?
それが魔法生物だったら?それが醜い願いで作られた存在だったら?人間の欲望の果ての産物だったら?
魔法少女は、どんな顔をするのだろうか。楽しみで楽しみで仕方がない。魔法少女が魔法少女である為に、あらゆるシュチュエーションは用意されておくべきなんだ。
「ひ、ひぇ…顔キモすぎるぴょん…」
「そんなドン引かれる顔してた???」
「おおよそ、その見た目でしてちゃ駄目な顔してたぴょん」
何はともあれ、ミーちゃんは悪。私は正義側で物語を始めよう。
正義として尽くす気は無いが、正義の立場だと合法的に魔法少女と接し会える。
まぁ裏でちょちょっとミーちゃんに手を貸すが、あくまでも傍観者の立場に徹しよう。
「それじゃ、クソ暑いけど解散!働け!えいっ!えいっ!おー!!」
「……えいえいおー」
「声が足りん!えいッ!えいッ!!おーッ!!!」
「……えい!えい!おー!…(セールス会社じゃないんだから…ミーは何させられてるんだぴょん…)」
「私は初期人材スカウトしてくるから、ミーちゃん管理よろしく。ついでにとっ捕まえた魔法生物もこの家に住まわせといてね〜」
瞬間移動か何かで、軒下で涼んでいた少女は風鈴すら揺らす事なくその場から消え去る。
残ったのは、この気候に相応しくない……この場所に……──相応しい場所なんて無い衣装を身に付けた可愛らしい少女のみ。
「はいはい…行ってらっしゃい」
手をひらひらと振って、いつもながらにワガママな主への不満をため息として吐き出した。
チリン、と鳴った風鈴の鈴の音が、これから始まる祝福の音であれば良いが、そうでなければ人類と魔法少女は彼女に迷惑を掛けられ続けるだろう。
近くの川のせせらぎ、青々とした木々の間を通る風、それが鳴らす風鈴の音。虫の合奏は、やった事ないけど楽曲を一つ作ってみてもいいかな、なんて、適当な感情を沸き上がらせる。
こういうものに、何かしらの感情を抱けるのであれば、どれだけ良かった事か。
主の欠陥は誰にも埋められない。彼女はこんな風情を感じる光景を見た所で、うんともすんとも言わずに、『真似』をするだけだ。
この気まぐれを通して、誰かが彼女の心を揺れ動く風鈴が如く、その音を鳴らせる事を祈っている。
「………ん?」
「スカウト?」
──スカウト。
主はスカウトと言った、その子をミーに管理を任せると。魔法生物も捕まえて、悪の組織も作って、魔法少女を悪に落として、人類の敵対者になって……。
「─────」
「スカ……ウト……」
「ミーは、悪の組織の親玉……」
「……」
「え?」
「もしかしなくても、ミーが全部やらなきゃダメなの?」
──それは、これからの人類と魔法少女よりも、圧倒的な無茶振りをされ続ける悪役が決まった瞬間だった。